side タンザナイト
盤岳先生たちと共にホロウへ帰ってきた後、瞬光さんは、これまでの経緯を全て語った.....
「折角修業が一段落したのに...師匠も、お兄ちゃんも、福姐さんも、潘さんも...みーんないないなんて、もう退屈でしんじゃいそうだったのよ!それに澄輝坪には何年も戻ってなかったし、いい機会かなって思ったの。ね?先生なら分かってくれるでしょ?」
「...さようか。おぬしがここにいること、儀玄にはしばらく伏せておこう」
「本当!?」
「ただし!軽々しく危うきに近づいてはならぬ。青溟剣の力もまた、みだりに振るうことを禁ずる。釈淵の捜索には、必ずこの盤岳を伴うこと...これらが条件だ」
「約束する!やっぱり盤岳先生は頼りになるわね!」
「それで、捕まえた讃頌会の残党だけど...どうしようか?やはり防衛軍に引き渡すべきか、それとも....」
寧謙が話している時、リンが割って話に入ってきた。
「えっと....その前に、もう少しこっちで色々聞いてみよっか。瞬光....話しておきたいことがあるの」
「うん。私も、貴方たちに聞きたいことがあるんだよね。そっちが先でいいわよ」
「実は釈淵さんだけど...ここにはいないのは、師匠たちと市内にいったからじゃないの....」
そう言うと、リンは申し訳なさそうな表情でこれまでの隠し事を話し始める。
「...ふぅ....さっきあなた達が急にビクッ!てしてたから、大事なことを隠してるのかもと思ったけど...まさかお兄ちゃんのことだったなんて。わがままな私と違って、お兄ちゃんはちゃんと考えて行動できる人だから、きっと何かわけがあったんだと思うの」
『....』
「それにアナタは、そんなお兄ちゃんがどこに行ったのか探そうとしてくれたんでしょ?なら、これからは一緒に探すだけよね!」
「ふむ。釈淵は慎重だが、なにか
「瞬光、怒ってないの...?」
「あーこれなんかかくしてるな...って気づいた時は、正直ちょっとムカってきたけど...まあ、打ち明けてくれたしいいよ」
『ごめんな。俺たちもどうしたらいいか迷っててな...でも、ここまで情報が集まってきた以上は、やっぱり瞬光さんも知っておかないといけないと思った』
そう言うと、瞬光がまるで何が言いたいのか分かっているような顔をする。
「分かってる。私が衝動的に動かないか、心配してくれたんでしょ?だから約束する。絶対黙って動いたりしないって。あなたもこれから先、隠し事はもう無しだからね。わかったわね!」
『ああ、約束する!』
「うん!私も!嘘ついたら縛ってもいいよ!―――タンザナイトを」
『え?』
「約束よ!指切りげんまん!....じゃあ、もっと情報を深堀していきましょ」
瞬光さんは平静に戻ると、讃頌会の残党へと向きな直った。
「ねぇ貴方。さっき言ってた、サラとずっと一緒にいたって人....お兄ちゃ....雲嶽山の、葉釈淵であってる?」
「あ、ああ!確かそんな名前だった!よそから宗旨替えしてきたくせに、サラ様はあの男を誰よりも信頼してるみたいだった....」
「宗旨替え...そ、その理由は知ってる?」
「もちろん、『始まりの主』に謁見するために決まってるだろ!」
うーん...あいつ、本当に謁見するやつか?どちらかというと何か、力に関係してるような気がするが.....
「そう...それで、『古の陣』とやらを探してた理由は何?それ以外にもやってたことはある?」
「サラ様が、澄輝坪の市場から奇妙な本を持って戻られたあと、急に探せと命じられたんだ。始まりの主に謁見するための大切な準備だと仰ってたが....それ以外のことは、自分に分かるわけないだろう?そんな高い地位にいるように見えるか?地道にここまでやってきたつもりだったが、かつての敵にすら劣る扱いとはな...はぁ....」
と、若干口のようにこぼす残党に瞬光さんが何やら思い込むように呟く。
「お兄ちゃん...どうして讃頌会なんかと...?なんだか危ないことに手を貸してるみたいだし....」
「あるいは...讃頌会の残党を討つべく、儀玄と密かに一計を案じているのではあるまいか....?」
「うん...そうだとしたら、あの師匠が弟子達に内緒にしとくはずないもの....」
「それか、儀玄先生にも知られてはいけない理由が...あったとか?」
うーむ、師匠までも秘密となると....わかんないな....
「前で幻でね、釈淵さんは誰かを『救いたい』って言ってたの。それが
「悪夢....お兄ちゃん、また悪い夢を見たの....?――やっぱり、私が....」
「えっと....わたしも小耳にはさんだ程度だし、どこまでが本当かは分からないから...もっと確実な手掛かりを折ってこ。サラが輝磁市場に行ったんなら、そこから初めて見るのがいいと思う」
「それなら明日の詳しい調査には、僕も同行していいだろうか?ぜひ今日の恩返しをさせてほしい」
『ん?そうか、それはありがたいな。人数が増えれば探す時間も減るからな....取り敢えず、残党の方が後で俺の社員に送らせておくよ』
「なら、その間の見張りは責任をもって自分がやっときます!」
「ふむ...まぁよかろう」
『そう?なら、頼んだよ寧謙!』
後のことは寧謙に任せ、俺たちは適当観へ戻っていったのだった....
NOside
「あなたの、その『本性』...まわりの人間は誰一人気がつかなかったの?」
『ふむ....まるで『獣』だな.....睨んだ獲物は誰一人取りこぼさない。ここまでの気がありながら、今の今まで何事もなかったのは取り繕い方が完璧だったのだろう....』
サラとストラスの視線を受け、釈淵は静かな眼差しだ、影の中から姿を現す。
「この力のことを、彼らに隠すつもりもありませんでした。ただ、
『それは当然だろう...なぜなら、今の君の姿こそが『本当の姿』だからな....』
「『本当の姿』...!どういうことですか」
「私の権威は始まりの主に由来するもの...だから当然、物事を本来あるべき『真理』へと遺していくの。とっくに証明してみせたとおもっていたけれど。あのサクリファイスたちを、最も純粋な形に戻して見せたでしょう。たとえ彼らが、記憶や目的さえ持たない平凡で哀れな放浪者だったとしても....ね」
「.....」
「そろそろわかってほしいわね。私の目的は、意味もなく何もかも壊して回ることじゃないって。始まりの主が為し得るのは、秩序の再創と、真実を明らかにすること。主はあなたの苦しみを尻、あなたの才を哀れんだ。あなたたち兄妹の力は....あなたが思っている以上に
「『近い』、ですか....あの剣に選ばれたのが、僕であればどれほどよかったか」
そう釈淵が呟くと、ストラスは嬉しいのか貶しているのか分からぬ笑みを浮かべる。
『ククク...美しき兄妹愛だ...だが、あの剣に選ばれたからには、彼女もまた『本当の姿』を抑え込んでいるのだろう?そして剣は彼女を蝕み続け、いずれ彼女は――――』
「っ....!」
「けど、始まりの主は違うわ。その力は奪うものではなく、与えるもの。必ずあの剣と妹さんとの繋がりを断って、真の自由を取り戻してくれるでしょう。そしてあなたも.....永遠に悪夢と決別できるはず」
「本当に瞬光を救えるのなら...あなたの言う、『始まりの主』を呼び覚ます手助けをしますよ。ですが、僕を助ける理由はなんですか?....こう言い換えましょうか、あなた達の『望み』は?」
「もう何度も答えたでしょう。真なる『安息の地』のため.....そして永劫に揺らぐことなく、不変の秩序を取り戻すためよ。ずいぶん前に読んだ、始まりの主の御言葉は....今でも、一言一句をそらんじることができる」
『『人間は己のいる檻に秩序と誇るが、彼らは法は砂の城である。潮が満ちれば崩れ、溶けてゆくものにすぎない....彼らの道理は風吹けば散る蜘蛛の巣に似て、彼らの存続は蛍火のごとく、触れれば消えるほどにもろい....しかし始まりの主がひとたび呼びかければ、もはや市はなく、争いの種は土の中に消える....もはや衰退はなく、時間の矢は歩みを止める。もはや悲しみはなく、心の振り子は位置を定める。その御降誕の時、言い争う者の舌は固まり、剣を振るう者の腕は宙を浮き、貪欲な者の心は水晶のごとく透き通る――――絶対と、永遠と、不動、全ては澄澈のうちに凝集する』...だったかな?』
「あら...?知っていたの?」
『私の思考は生まれる前にインプットされていたからな....そして、この世にはホロウが無くとも、混乱と無秩序は掘るを喰らうウジのようにいる。始まりの主という『答え』によって、その全てを終わらせるのだ』
その言葉に、釈淵は疑問を抱く。
「答え....そう願いたいものです。ときに、陣法の所在は既に伝えたはず、何故次の段階に移らないのですか?」
「もうすぐよ...しばらくは待ってなさい。あのサクリファイス....完璧なる傾聴者がこの一帯をまもっているのがわかる?始まりの主を呼び覚ます浄化の儀式は、万全でなければならないわ。私達には力がいる...この悲しき隔たりを打ち砕くための力が....」
『その力は着々と近づいているのがわかる....ククク、さてさてどうなるか、見ものだな....』
夜の帳が下り、ラマニアンホロウの深層でなにか道の存在が闇の中で蠢いている....
そして、ひときわ異質な気配を持つボンプが、巨大な影の下にぽつんと立ち尽くしていた。両手を重ね、祈りを捧げるかのように。
「もう少し我慢だ、もう少しだけ....もうすぐ....もうすぐ救済の時が来るから....」