side タンザナイト
次の日、寧謙がみんなに新たな知らせを持ってきた。
如何やら、骨董屋のジンジャーって言う人があの赤い服の女に覚えがあるらしい。その人は古ぼけた本の修理をお願いされたとか....
とにかく損傷がひどいので古書マニア―――『掘り出し上手の標さん』って言う人に仕事を回したらしい....ただ、最近トラブルに巻き込まれて機嫌が悪いらしい。
大丈夫か?と不安を抱かせ、いざその人のところへ向かうのだが....何か言い争っているな.....
「これが最終通告です――――物件の所有者は書類にハッキリ書かれています。3日のうちに、必ず明け渡すこと.....TOPSの新規事業計画は、あなたをまってなどいられませんので」
「親子三代に渡って受け継いだ俺の家だぞ!それがあんたらのだと...?この書類だって偽モンに決まっとろうが!」
「時代は論より証拠です。いいですか?3日以内にこのガラクタをどこかにやってください。さもないと――――私たちがお手伝いすることになりますよ。そうなれば今ほど穏やかにはすまないでしょうね...ここはブルドーザーで更地にします、あなたの大切なカビた本の山ごと」
「こっ...この....盗っ人どもが!」
そう言い残し、傲慢な女性はこの場を後にした。
「標(ビャオ)....おじさん?だ、大丈夫...?」
「大丈夫だと!?ああ、絶好調だとも!!こちとらたったの3日ぽっちで何十年と集めたお宝をどっかにやらにゃあならんのだ!」
『えーっと....すみませんこんな時に....少しだけ聞きたいんですけど、骨董屋さんが、古書修理のお客さんをこっちに紹介したって....』
「なくなった、全部なくなった!どいつもこいつも本目当てだったんだ、全部持ってかれちまったんだよ!」
マジか...なら、内容はどうだ?
「その本にどんなことが書かれてたか...知りたいんです!どんな些細なことでも!」
「それか...取りに来た人がいたんなら、どんな人で、どこに行ったか...とか....」
「どこへ行ったか、だと?何処へ行こうと、じき本たちにゃ帰る場所もなくなるんじゃい!知ったことか!出てけ!...全員、出てけ!!」
「す、すみません!お邪魔しましたっ....!」
そうして俺たちは一旦この場から離れ、これからどうするか話し合った。
「ついてないな...標さんはそうとう頭に来てるぞ。今は何を言っても聞いてくれないだろうな」
「わたしが二人きりで話してみるわ。少しでも落ち着いてくれたらいいけど....ちょっと時間がかかるかもしれないから、みんな待っててくれる?」
「おやおや?奇遇ですねぇ!また人生の分岐点で迷子になっちゃってる感じですかぁ?」
そのとき、ぬっとダイアリンが現れ話に加わってきた。
『ダイアリン!どうしてここに?』
「あたしがここにいる理由といったら、クレーム対応に決まってます。『TOPS部署横断型カスタマーサポート』は誠心誠意、理不尽な言いがかりに対応させていただくために存在しますからね!――――それに....
いや、面白いことって....
「黒枝で働くってのはそりゃ大変なんです。なんでもいいんらとにかく成績を出さないと、すーぐビリっけつですからね。フリーランスり皆さんには分からないと思いますけど~....職場内競争ってやつは本当に熾烈なんですから」
「な、なんか大変そうね....?」
「それはそうと....なにやらみなさん、顔色が芳しくありませんね?一体全体、なんだってそんなに憂鬱そうなんですか?」
『ああ...実は―――』
そうして俺は、先程のことをダイアリンに話した。
「なーんということでしょう!皆さん、今日も今日とて運がいいですね!実はこのダイアリン、まったく同じ件のために派遣されてきたんです!そうと決まれば、えーと、どうしましょうかねー?うーん...ちょっとお時間もらっても?」
「無論だ。すぐに答えがでる道理もあるまい」
「ああ、違いますよ。アイスでも食べててください!遠くに行かないでくださいね?」
そう言い、ダイアリンはどこかへ行く....
「....なにゆえ、アイスを.....?」
「す、すごい自信だな....?」
皆がまだ戸惑ってる中、離れて行ったばかりのダイアリンが早くも戻ってきて、手に持っているものを振り上げる。
「はい、一丁上がりです。『掘り出し上手の標さん』....なかなか食えない人でしたよ。例の本はオリジナルを手放すのが惜しくて、サラには複製を渡したんだとか。彼女には気の毒ですが、あたしたちには好都合でしたね」
『ええ...すごっ。あんなに怒りの噴火出してた標さん相手にどうやってここまでゲットしたんだ....』
「そうよ!まるで術法でも使ったみたい」
「どうやって、ですか....?そうですねぇ....まぁ、それは企業秘密ということで。それよりもほら、あたしは問題を解決してあげましたよ!みなさんが欲しがってたものも手に入りましたし、ついでに標さんも御家を失わずに済みました....前回は救助に手を貸してあげましたし、そうそう....この間は『輝大侠』も届けてあげましたもんね。だいぶ貸しが大きくなってきたと思いませんか?」
「....然り。この恩、如何にして報いるべきか....」
「そっか、いつの間にけっこう助けてもらっちゃってたんだね....それじゃ....私達、何したらいいかな?」
「ふふん....ではでは、こちらのコードを読み込んで、あたしにちょっとした『お気持ち』を送ってもらってもいいですか?...なーんて、真に受けないでくださいってば!あたしが人の弱みにつけこんでお小遣いを稼いでるとか....そんな風に思われたら心外ですからね」
『は、はぁ....』
「つまり『気持ち』だけでいいですよってことです。それで気が引けるようなら、これからしようとしてる面白いこと――――それか面倒なことに、あたしを混ぜてくれませんか?」
「たったそれだけでいいの?」
「はい、それだけです!今日ここにいる親切な小市民があたしでよかったですねぇ。これが照ちゃん先輩だったら...コホン。とにかく、交渉成立ですかね?」
まぁ、戦闘ができる人だから、何人かいても安心だからな。願ったりかなったりだ!
『ああ、いいぜ。交渉成立だ』
「ありがとうダイアリン。あなたったら、本当にいい人ね!」
「おや?ちょっと『良い人』認定が早すぎるんじゃないですか。別に悪い気はしませんけど」
「ううん、他の目的はあるかもしれないけど....それでも別にいいの。今日助けてくれたのは本当だし、今は同じ道を歩いて゜くれるんだから....それ以上を望むのは、贅沢ってものでしょ?」
「ふーむ、不思議ですね....天真爛漫な女の子かと思ったら、何もかも見透かしてるような目をしたりするんですから。まぁいいです。雑談はこのくらいにして、次の一手を考えましょう」
そうして、ダイアリンも加わり、これからどうするか話し合うことにした。
「標さんがいうには、この古書はたいへん珍しいものだそうです。『神聖なる浄化』に関すること、ミアズマをは吸収して災いや邪気を払う陣法なんかが記されています。まぁ、それがじっさいに機能するかどうかについては、現時点で何とも言えないですけどねぇ」
その言葉を聞いた瞬光さんは、少し表情を変えたように見えた。
「ダイアリン殿、手間をかけた。かくなる上は適当観に戻り、紐解いてみるとしようぞ」
(さっき、瞬光さんの顔が思い当たるような感じだったな....後で聞いてみるべきか?)
「瞬光先生、平気か?さっきは少しだけ、顔つきが険しくなったような気がしたが....」
「ミアズマを吸収して、災いや邪気を祓う陣法....私とお兄ちゃんが小さい頃、両親から少しだけ聞いたことがあるの」
『そうえば、瞬光さんの両親はあんまり聞いたことはなかったな...』
「....」
「うん...ふたりはもういないの。私とお兄ちゃんがまだ小さかった頃に、ね」
『あ、ごめん瞬光さん....』
「別にいいわよ。この新エリー都に住んでいる以上、大切な人を失くしていない人の方が珍しいでしょ?そけに私たちの兄妹には自慢の両親だったんだから」
『そ、そうなのか?』
「うん。二人とも術法に詳しくて、お互いを愛してて、あちこち旅をしながら自由に生きてた。それで衛非地区を訪れたとき、ミアズマの恐ろしさを目の当たりにして、鉱区で働く人たちの助けになろうと決めたんだってそれから。はみんなを助け、助けられて....鉱区にある居住区に落ち着いたの。私が生まれたのはその後ね。まだ小さかったし、私はあの頃のこと、途切れ途切れにしか思い出せないけど....」
その途切れ途切れの原因は『青溟剣』のせいとかじゃないよね?
「懐かしそうに話してるお兄ちゃんをみてると、きっと....すっごく幸せな時間だったんだなってわかるから。両親は最後の最後まで、効果的にミアズマを抑え込む方法を探してたみたい....でも、あんな未曾有の大量発生に襲われるなんて誰も予想できなかった」
「10年前、鉱区跡地で記録的なミアズマの大量発生があった。つまり、瞬光先生のご両親は....」
「うん....さっきも言ってたけど、私は小さかったからよく覚えてないの。お兄ちゃんも怪我で意識がなかったみたいだけど、すごい混乱だったらしいわね。目が覚めたときにはもう救助時点で、お父さんもお母さんもいなかった....」
『....』
「それからは、色んな人に助けられてどうにか生きてた。盤岳先生みたいに優しい人たちが、私たち兄妹を訪ねてくれて....しばらくしてから、先生が私たちを雲嶽山に紹介してくれたの」
「うむ。折よく、雲嶽山が身寄りのない子らを受け入れていると聞いたのだ。根無し草であった我輩に、二人の童の世話は荷が重すぎるゆえ....儀玄に託すに至った次第である」
『ということは、盤岳先生は瞬光さんの両親とあったとあるの?』
そういうと、盤岳先生は頷いた。
「...然り。当時は我輩も、ときおり鉱区で手助けをしておったゆえに」
「先生に面倒を見てもらったこと、本当に感謝してもしきれないわね。ねぇリン、タンザナイト、お兄ちゃんが悪夢にうなされたのは知ってるでしょ」
『...ああ』
「お兄ちゃんはお父さんとお母さんを失くしたあの日から、雲嶽山に落ち着くまで...ふたりがミアズマに潜む『怪物』に襲われる夢をずっと見てた。師匠たちのおかげでそういう悪夢も次第になくなったとおもったんだけど....」
「衛非地区に戻ってきたことで、再発しちゃったんだね...?」
「なんという痛ましい過去だ。だが当時の混乱を思えば、真実が込み入っているのも無理ないな。誰かを救いたいというお兄さんの気持ち....それが悪夢の根源かもしれんだろう?人の命を奪うものが、ミアズマだけとは限らんからな...」
『ん?』
「それは...どういう?」
なんか今、寧謙の様子がヘンだったような....
その後妙な沈黙が続き、リンがその沈黙を破る。
「コホン、昔話はこれくらいにしておこっか。時間も時間だし、早く戻って次の動きを決めない?」
「あっ...そ、そうよね!ごめん、両親のことになるとつい....お兄ちゃんの居場所を突き止めるのが先だもの、行きましょ」
そう言い、俺たちは移動するのだが...盤岳先生がまだ動き出していなかった。
不思議と思い、俺は声を掛ける。
『盤岳先生?どうした?皆行っちまうけど.....』
「...さにあらず。参ろう」
『...?そうか』
若干の違和感を覚えつつ、再び適当観へ戻っていく。