Sビリー楽しみだぜ!
side タンザナイト
瞬光さんと飲茶仙を離れ、適当観に戻ろうとした時、松涛先輩たちが居た。
なにか進展があったのかと思い近づいてみることにした。
「タンザナイトくん、光ちゃん!」
「二人ともお帰り!みんな大丈夫だった?それと調査は進んだの?」
「安心しろ!全員無事だよ。途中で少し手間取ったけど、それなりに成果はあった」
「みんな、本当にお疲れ様」
「なに....適当観の修行者たるもの、これも責任だ。光ちゃんのほうは顔色もよくなったみたいだし、ひと安心だな。タンザナイトくんに任せて良かったよ」
と、松涛先輩が感謝する。
『これもみんなのおかげさ。ところで話変わるけど、瞬光さんがみんなにお礼がしたいらしくて....今夜、適当観で瞬光さんの手料理をちょっとした宴会をする予定なんだ。二人もどう?』
「おお、光ちゃんの手料理か...!」
「うん...別に、そんな期待してもらうほどじゃないんだけど....来てくれたら嬉しいなって」
「そうね...せっかくのお誘いなのに申し訳ないんだけど、今夜はちょっと参加はできないの」
と、断られてしまった。
あれま、残念。
「ああ、勘違いしないでくれ。行きたいのは山々なんだが、我々にはまだすべきことがあるんだ。君達がくれた情報のお陰で、ミアズマの異常にとって鍵となりそうな地点がいくつか特定できた。それに、例の古い陣についても手がかりが見つかってね....鉱区跡地はいま、弟子を数人残して警戒にあたらせてる」
「詳しい状況は師匠にも報告済みだから、きっとすぐこちらに駆け付けてくれるでしょう。みんなの安全の為にも、見張り弟子たちで交代しながらやることになったの。他にもおかしなことが起きないか注意しておかないと」
成程、見張りに手が回っているから、参加できないんだな....
「けど光ちゃん、青溟剣の使い手として....あなたに万が一のことがあってはいけないから。師匠が来るまでは窮屈だろうけど適当観で持ちこたえてね。外のことはわたしたちに任せて....だから今夜くらいは肩の力を抜いて楽しむといいわ。全部終わったら、あとで私たちともお祝いしましょ」
「けど....」
「大丈夫。あなたが重荷を感じる必要もないわ。私達にはみんな、それぞれ守りたいものがある。衛非地区の平和や、弟子達との絆.....そのためにもあなたには無事でいてほしいの。あなたを守ることは、みんなの未来を守ることでもある。だから、そんな顔しないで」
「うん、分かった.....」
「じゃあ俺たちとシシオは交代に行ってくるから、またな!」
そうして松涛先輩たちはシシオを連れて、意気揚々と去って行った。
未だにうつ向いてる瞬光さんを安心させる。
『きっと大丈夫だよ、瞬光さん。どんどん状況は良くなってきてる...いい流れなんじゃないかな』
「うん、そうよね。じゃあそろそろ戻りましょ。さーて今夜は何を作ろうかな...えへへ、じつはまだ考え中なのよね!」
瞬光さんが先に歩き出し、背筋をまっすぐに伸ばし、適当観の方へと足を向けた。それでも夕陽が引き延ばした真っ黒な影は、その複雑な胸の内を映し出しているようでもあった。
そして、時間が経ち、衛非地区にひとつ、またひとつ明かりがついていく。適当観の小さな中庭にも火がともされ、あたたかな料理の香りが空気に広がっていった。盤岳先生やダイアリンたちも到着し、瞬光さんの思いが込めた晩餐が、今まさに始まろうとしてた。
『おおー!これはすごい!』
大きな円卓の真ん中、小さな炉の上で暖かなオレンジ色の炭火が揺らめく。果実やナッツがじゅう....と音をたてながら炙られ、香ばしい香りと共に、その表面に黄金色の焦げ目がつき始めていた。
急須からお茶の香りがふわりと広がり、ふっくらとした白いチャーシューまんからは、琥珀色の脂がにじみ出ている。
その中でも―――お皿に丁寧に盛りつけられた金木犀のケーキは、静かに込められた想いのようで、特別、目を惹かれるものだった。
そんな中、盤岳先生に呼び止められる。
「こちらに来られよ」
『?』
「実は...おぬしに、折り入って相談したきことがあるのだが」
『相談?』
「瞬光のことだ。何やら思い悩んでいるようだったが...このような宴を設けたいということは、覚悟が決めたであろう。とはいえ、此度の異変はただごとではない。危険が待ち受けていると知りながら、あの子を生かせるのは...あまりに忍びないのだ」
『......』
「故に、おぬしと瞬光の絆を見込んで頼みがある。どうか適当観に残るよう、あの子を説得してはくれぬだろうか」
確かに、青溟剣の力もあるだろうが....本当にそれでいいのか?
『確かに盤岳先生の言うことは一理ある....だけどな、盤岳先生。みんな瞬光さんのことをガラスでできた置物みたいに扱うだろ?それは...本当にいいことだろうか?本当は瞬光さんの力になってあげなきゃいけないのに、それが返ってあの人を縛り付けているだけに思えてな....』
「....すべては青溟剣が異常ならざる剣であるがゆえのこと。おぬしにしか頼めぬのも、そのためだ」
「おやおや、なんだか真面目な場面に出くわしちゃいましたね」
と、盤岳先生が頼み込んでいると、ダイアリンが話に加わってきた。
...なんだかどこか棘を含んだ言い方だな....
「『盤岳先生』、ちょっと興味があるので伺っても?かつてミアズマに含まれていく大勢を、『取るに足らない』と判断したアルゴリズムが...いまさら、その生き残りである瞬光ちゃんを気に掛けるようになったのは、どういうロジックですか?」
『...!?』
「おっと、まだまだご存知ないんでしたっけ?では、ド派手にご紹介しちゃいますね...こちらの盤岳先生、あらため、『パージユニット・ゼロ』は、かつてTOPSがミアズマを鎮圧するために造り上げた、秘密兵器です」
『パージユニット・ゼロ』....それが、盤岳先生の過去....
「では一番効率的な『鎮圧』とは?そう。何もかも見境なくぶっ壊しちゃうことですね。こうして無害な善人の仮面をつける前は、TOPSが運用できる、最も致命的で無慈悲な掃除やでした。とある任務でヘマをしたので、TOPSは彼をホロウへ廃棄したんですが....
『.....』
「にもかかわらず.....10年前に鉱区跡地を大量のミアズマが襲った時、彼は自分が受け入れてくれた人たちに対して、
だから、あの時泅瓏囲の人達の盤岳先生に対する態度がおかしかったのか.....
『...なあ、盤岳先生、これは....』
「....我輩は、今もこの背に過去を負っている。消えることなどけしてない」
「消えないのは過去だけですか?あのとき人々に手を差し伸べられなかったのは、あんたのアルゴリズムがそれを合理的だと判断したからですよね?『いかなる代償を払ってでもミアズマを鎮圧せよ』.....それは今でも、あんたのコアに絶対的な使命として君臨したままなんじゃ?そうやって善人ぶってるのも、これまでの『業』からそらすためじゃないって...言い切れますか?」
「.....」
盤岳先生は一言も話さず、沈黙する.....
「はあ....『だんまり』が一番嫌いなんですよねぇ。後悔から贖罪の念に駆られた人を問い詰めてるつもりだったんですが....『禁断の果実』テストをパスできなかった機械に独り言をぶつけてるだけだったのかもしれません」
押しつぶれそうな重苦しい静寂が訪れかけたとき、瞬光さんの明るい声が、空気を変えてくれた。
「あ、いたいた....盤岳先生!古いかまどがちっとも言うこと聞いてくれなくて―――」
「...いま、ゆこう」
背を向けた盤岳先生の姿は、相変わらず山のようにどっしりとしていて、その歩みに迷いはないように見えた。
「安心してください、瞬光ちゃんにはチクったりしませんよ。とんでもないことになるのは目に見えてますから....まあ、ほんとはそうすべきなんですけどね.....」
『.....』
「黒枝としては、『パージユニット・ゼロ』が持ってるとあるものが欲しいんです。そのためには、このまま彼をいい感じで孤立させて、『鍵』になってもらうのが一番手っ取り早いですから」
鍵....?なんだそれ、何かのキーアイテムか?
「『鍵』は例の陣法を起動して、ミアズマを封じ込めるには陣の中心部に絶えずエーテルエネルギーを供給し続ける必要があります。その点、彼はおあつらえ向きだと思いませんか?元々兵器として造られただけあって、化け物じみたエネルギーを内蔵してます。『禁断の果実』テストもパスしてませんから、みんなの心も痛みません。まあ、今はちょっとあれですけど....」
『まさか、盤岳先生の罪悪感を煽るためにわざわざ俺たちの前であんな話をしたのか?あの人の良心を、黒枝の計画に利用するために.....』
「良心はともかく、『心』があるかどうかはこれから彼自身がはっきりさせてくれますよ。あたしは前に言いましたね?『真実』を確かめたいって。黒枝の裁決官として、真実を明るみに引きずり出すのがあたしの仕事ですから。たとえ隠されていようと、偽られていようと、歪められていようと...
ダイアリンの瞳がただ真っ直ぐ見つめる。
「それがこの世の地獄みたいな真実だったとしても...居心地のいい泥のなかで溺れてるよりはずっとずっとマシです」
『それは....そうかもしれないけど....でもそれって黒枝のお前の感想だろ?普通のお前はどうなんだよ。ここ数日ともに行動したお前自身が見たこと、聞いたことはどうなるんだよ....!お前以外の人が明らかにした真実を伝えてるだけなら、それが捻じ曲げられたものじゃない保証はどこにもないだろ?』
「やれやれ、『蒼光の騎士』相手にお説教を垂れようなんて、ちょっと思い上がってたかもしれませんね。ひとまず『彼』については心配しなくていいですよ...最終的な評価が終わるまでは、
『.....』
今、俺の頭の中で色々な考えがグチャグチャに絡み込んで気分が悪くなっていた....取り敢えず、さっき盤岳先生が言っていた『瞬光さんの覚悟』について一回、聞いてみよう....
『瞬光さん....』
「どしたの?お腹空いちゃった?もう少しだけ待っててよね!」
『なぁ、瞬光さん....この集まりを開いたのはさ、もう瞬光さんの中で、こうしよう...って何かが決まったからだったりする?』
「....」
その瞬間、瞬間さんに数秒息をのんだ....
そしてバレたかと顔を浮かべ、口を開く。
「...えーっと...やっぱり、わかっちゃった?ほんとは、ちゃんと話すつもりだったんだ。前に約束したもんね?でも昨日の夜、みんなが寝た後....扉の隙間にこんなのがあったの」
『これは.....』
瞬光さんが取り出したのは....一度ぐしゃぐしゃに握りしめられたあとのある紙切れだった....文字が書かれているのを見るにこれは手紙か?
内容を呼んでみると、次のことが書かれていた。
『瞬光、君と青溟剣との繋がりを断つ方法をやっと見つけたんだ。始まりの主の力は、僕の想像を超えるものだった。そしてその力を呼び起こす鍵は、僕らがよく知る、あの場所に眠っている。始まりの主を呼び出すことができれば、僕の悲願は、ようやく叶うだろう。どんな代償を払うことになろうとも....必ず君を自由にして見せる』
『この手紙って...釈淵が?』
「パッと見はお兄ちゃんの書いた字に見えるよ....けど、ちょっとした癖がなかったり、それに書いてあることだって....」
『ああ、瞬光さんの方から衛非地区にいるって言ったわけでもないのに、急に手紙がくるなんて変だぞ....それに、過保護が付くほどのシスコンの釈淵がわざわざこんな不穏なこと書くか?罠の可能性が高い』
「私を誘い出したいんだろうけど....青溟剣との繋がりはそう簡単に断ち切れるものじゃないって私が一番よくわかってるもの。でも、お兄ちゃんは....私が青溟剣に選ばれたとき、まだ代償を知らなかったお兄ちゃんは、すっごく喜んでくれた。私の頭をくしゃくしゃに撫でながら、『瞬光はすごいな、これからはお兄さんにも頼らせてくれ』...って」
『....』
「きっと、私が雲嶽山っていう新しい『家』に認められて、居場所ができたことが嬉しったんだよね。それからお兄ちゃんは、青溟剣の裏にあるものや、代々の剣主たちが迎えた運命を知ってしまったけど....」
恐らく、釈淵は相当ショックを受けたろうな....実の妹があんな末路を辿ると知ったら.....
「お父さんとお母さんがもう帰ってこないって分かった時だって、私の前では、涙を見せなかったお兄ちゃんが.....あの日だけは、堪えられなかった」
『釈淵.....』
「目を赤くしながら、『きっと方法がある、見つけてみせる』って....それはわたしに言ってるみたいで、自分に言い聞かせてる風にも感じたわ。だからその『方法』を見つけることが、お兄ちゃんがの執念になった。青溟剣の代償を、
自分に移すって...代償をか!?―――正気の沙汰じゃねぇ....
「幸い、師匠がすぐ気づいてくれたからよかったけど.....あの人が本気で怒るところを初めて見たよ。禁術に触れたからじゃない、自分の犠牲と引き換えにしようとしたから....でも、罰を言いつけたりはしなかったんだ。ひとしきり怒って...ため息をついたあと、お兄ちゃんの肩を叩いただけ。それから夜が明けるまで、裏山に二人で座ってた」
『....師匠は誰かが犠牲になる痛みも、残された人の苦しみも知ってるから、釈淵の気持ちが理解できたんだろうな。その背中にのしかかってる重みも....』
「うん。その後、お兄ちゃんは師匠に約束した。私のために自分を追い詰めたり、後戻りのできない道を行ったりしないって.....青溟剣の剣棺のはね、師匠が先代を亡くした後に心血を注いで作り上げたものなの。ちゃんと修行して封印を強固なものにすれば、私も普通の人と変わりなく暮らせるって....」
師匠...これ以上、青溟剣の犠牲を出したくなかったんだな....血眼になりながらも....
「剣棺が守ってくれてても、お兄ちゃんと師匠はずっと気遣ってくれた。この封印のひとつひとつが、師匠の痛みと、お兄ちゃんの恐れを思い出させてくれる.....私もひと時だって、それを忘れたことなんてない。だから...だからこそ、今回は私、行かなきゃ」
『瞬光さん....』
「冷静に考えればわかるよ?あのときでさえ、お兄ちゃんは誰かを犠牲にするんじゃなくて自分で青溟剣の代償を一身に受けようとした.....そんなお兄ちゃんが始まりの主に寝返るなんて.....信じられない。きっと別の目的があると思ってる.....」
『ああ、信じるよ。あの釈淵が妹を置いて裏切るなんてあり得ねぇ!』
「でも...もし、違ったら?って思わずにはいられないのも本当...」
『その時は....ぶん殴って止めればいい!』
「の、脳筋!?」
と、若干引き顔に驚く。
「....ふふっなんでだろう、あなたの前だといつもみたいに『しっかりしなきゃ』ッで気を張らなくてもいい気がしちゃった....タンザナイト、お願い!あともう一回だけ、内緒にするのを手伝ってくれない?―――わたしが『観主代理』なんて名乗った時も、しっかり気遣って秘密にしてくれた...あの時みたいに」
瞬光さんは覚悟の魂が籠った目で俺を見る。
それを見た俺の答えは当然――――
『ああ!行こうぜ、瞬光さん!心配すんな....俺がちゃんとフォローしてみせるからよ!なんたって俺は、『蒼光の騎士』!どんな罠や障害でも守るのは得意分野だ』
「えへへ...どうしよう、すっごく辛い話をしてるはずなのに.....胸があったかくて、涙が出てきちゃいそう」
『ふっ...それは釈淵に会えた時にとっておけよ?今夜はみんなで宴をするんだからよ!』
「うん!じゃあ...私、料理ができあがったか見てくるわ!みんなには食べてほしいものが山ほどあるんだから!」
そう言い、瞬光さんは料理の出来上がりを見るため、その場から去って行った....