side タンザナイト
あれから色々あったけど、瞬光はまだ釈淵のことが気にはしているが、だいぶ落ち着いてきたようだ……そんな瞬光は今、金木犀のケーキを作っていた。
丁度リン達も来たみたいだし、瞬光特製のケーキを頬張ることにした。
「うん。瞬光が作った金木犀のケーキ……弾力があってとっても美味しいよ」
『本当だ、うめぇ~』
「美味しいね!」
「そう?ありがとう!」
「そう言えば気になっていたんだけれど……瞬光はどうしてこまで金木犀のケーキが好きなんだい?」
あー、そういえば確かに……店の金木犀のケーキにもアドバイスしてたし、気にはなってたな。
「それは……私、金木犀の香りがするものなら何でも好きになっちゃうの」
瞬光は懐かしむ様子で話してくれた。
どうやら入門したての頃、きんしせょの街角で点心を売っているお店があって、そこで食べた金木犀のケーキが凄く美味しかったらしい。
そういうわけで、しょっちゅう釈淵にねだってたのだ。だけど、なぜか食べるたびにお腹が痛くなるからその内禁止にされたとか……
とういうわけで、自分で金木犀のケーキを作るようになったらしい。
……へーそんなことがね……
なんて、会話しつつ金木犀のケーキを食べていると、福福ツンが何やら慌てた様子で駆け寄ってきた。
「三人共、ここにいたんですねっ!」
「福姐さん!もどってきたの?」
「はい、衛非地区でまた何かあったと聞いて、大急ぎで戻ってきたんです!……といっても、いま着いたばっかりなんですけどね。とにかくっ!泅瓏囲のほうで、変な物が現れたってもっぱら噂ですっ!」
『……変な物?』
「すぐに確認しにいきますよっ!」
そうして、福福さんと一緒に泅瓏囲に駆け付けた。
着いた先には、白い大きな花が咲いていた。
な……なんじゃこりゃあ!?
「これは……」
すると瞬光さんは身をかがめ、白い花びらに指先で慎重に触れた……その顔には驚きと不安の色が見て取れる。
「……これ、前のホロウの中で見かけたあの白い花よね?どうしてホロウの外まで……」
確かに、前の依頼の時にみかけたよな……
「それに、気のせいかな……青溟剣が
「うん、何だか嫌な予感がするね……」
「私も。だってこの花……あれとまったく同じだもん。師匠がいたくれたらな……あの人の見識なら、きっと何か知ってるかもしれないのに―――」
すると、名の知らないおじさんが割って入ってきた。
「ふん。澄輝坪でこんなことが起こってしまってはな。宗主たる儀玄が直々に市長へ釈明せねばならぬのも当然……」
『誰だお前』
「……葉瞬光。その中でもおぬしの兄がしでかしたことはいっとう大きいぞ。まったく、雲嶽山の扁額に泥を塗りおって」
「陸老師!兄はただ―――」
「事実は事実。弁解は無用……そして、おぬしの道はもはや、あやつとは異なるのだ。己が果たすべき務めを忘れるでないぞ。青溟剣を継いだ以上、その全てを背負う。それがおぬしの宿命なれば」
「……」
おい、流石に言いすぎだろ。
流石にの言い草に俺はこのおっさんに少し苛立ちを込める。
『おい、あいつ誰よ?』
「あっ、ごめん。紹介しなきゃよね。この人は雲嶽山の―――」
「
「そんなことないわよ!この白い花、見覚えがあるもの。旧都陥落のとき、それに……ラマニアンホロウの深層にもたくさんあったわ。近づくと侵蝕が和らぐような、不思議な感触もあって……」
「そうなのか?であれば念のため一掃しておくべきか。葉瞬光。おぬしに任せても良いな」
「え、ええ……やってみるわ」
瞬光が剣を振り上げると、閃光が走り、目の前にあった白い花は一瞬にしては意図なって消えた……見た目よりもはるかに脆かったな……一応、役立つかもしれないし、
「陸老師、この白い花にはきっと見た目以上の何かがあるの、それこそ大きな秘密が……このまま放っておけない!」
「……おぬしがそれほどまでにこだわるとは、珍しいこともあるものだ。あの疑うことを知らぬ葉瞬光がな……ここへ来てから何かあったのか?それとも、『誰か』が……」
……今、ちらっと俺を見た?気のせいか?
「そ、そんなことないけど……ただ、放っておいちゃいけない気がして……」
「よかろう。明日の夕方、関係するものを適当観に集めさせる」
「やった……!」
「むろん、花の件だけではないぞ。おぬしの兄についても、最終的な判断を下さねばならん。情報をまとめ、雲嶽山の弟子全員に対して、責任を以て説明せねばならんのだ。分かっておるな」
「は、はい……!」
「分かっているのならよい。よいか。自分が何者であるかを片時も忘れるな。おぬしには天賦があるのだ。その手にある剣共々、無駄にしてはならん」
陸のおっさんはそう言い、立ち去る……その時、俺とすれ違う瞬間、一瞬立ち止まり、こちらにしか聞こえない声で―――
「おぬしの存在が、あの子にとって良いものとなるならば構わぬ……重荷ではなく、な」
『ああ?』
なんだコイツ……えらい偉そうな態度だな……
そう思っていると、瞬光さんが謝ってきた。
「ごめんね、変な空気にしちゃって……陸老師って、いつもあんな感じなのよね。雲嶽山の名誉を何より大切に思ってる人だから……悪気があるわけじゃないの」
『名誉……ね』
「結局何者なの、なの陸老師って……雲嶽山の大先輩的な?」
「陸老師は雲嶽山の……古株かな。師匠がいないときは、だいたいあの人が色んな事を代わりに取り仕切ってるわ」
古株……妙だな。確か師匠の話では、師匠以外の門下生はほとんどいなくなったって……
「陸老師は戦う人ではなかったから。あの人は雲嶽山の守り手……みんなが山を下りたあの時、老師は弟子達の家族を避難させる役目を任されたの。だから、惨劇を生き延びることができた。でも……あの人がここまできたっていうこと、今起きてること、雲嶽山は相当重く受け止めてるのね」
『……それにしては、瞬光さんにはだいぶ厳しくなかったか?』
あと、なんか睨んでたし……
「うん……『青溟剣の継承者』になったからには、それにふさわしくあれっていうことだからだと思う。ただ、ちょっと……期待が大きすぎるっていうか」
『……』
「はあ、このくらいにしましょ。もうこんな時間だし、明日の準備もしなきゃ……じゃあ、また明日ね!」
瞬光さんは軽やかな足取りで角を曲がっていった。
その姿はどこにでもいる普通の少女のようだったけど、小さな背中に、俺は想像もできない何かを背負っているように思えた。
……?俺今何を……
「タンザナイト?どうしたの?」
『……っ。いや、何でも……さっ、俺らも明日に備えておくか』
「?……まぁいいや、わかったよ。タンザナイト」
俺たちは約束の日までしっかりと休むことにしたのだった……