side タンザナイト
「ずっと待っていたわよ、こ・う・は・い・くん」
まるで、いたずらっ子のような言い方で責めてきた瞬光さんに似た人物……何なんだこの人は……
『お前は……瞬光さん、なのか?』
「ふふ……そうだよ。アタシは葉瞬光、貴方の『姉弟子』その人」
『えっと……つまり、瞬光さんのもう一人の人格って……こと?』
「ま、それで理解できるって言うなら、そういうことにしてあげる。アタシは、この子が聞き分けのいい仮面の下に隠している、頑なに認めようとしない……
真実の……もうひとかけら?どういうことだ?
「この子が光なら、あたしは影。この子が高いとこに飾られた偶像なら、あたしは地べたを這いずってる付き人……この子は仲間の為でも、取るに足らない人たちのためでも……忌々しい青溟剣を振るって、滑稽な『英雄』として『皆を救う』のをためらわない。じゃあ、あたしはどうなのかって?あたしは違う―――ただ生きていたいだけだから」
『『ただ生きていたい』……だけ……』
「そうでしょ?自分ひとり救えない女の子が、どうして『皆を救える』の?なんとか自分を納得させたくて、可愛い噓ついちゃって……」
可愛い嘘……ねぇ。
『俺はそんなことは思わないな……俺は間近で見ていたが、自分を納得させる嘘とは到底思えない』
「ふーん……ずいぶんこの子の味方するじゃない。まぁいいわ。この子が妙に貴方を特別扱いするわけが……なんとなくわかったから。けど、知っておいてよね。青溟剣を継ぐ者は、皆に『英雄』であることを求められる」
『……』
「そして『みんな』は、生まれつき自己中なの。おだてて、ご機嫌を取るもっともらしい言葉の裏には、汚い本音が隠れてるんだから。英雄を欲しがってその太鼓持ちになるのは、自分の安全を自分でどうにかできないからでしょ?違う?」
……た、確かに、今のこの世の中、ホロウによる危険が人々に混乱を極めているが……
「じゃあ、その英雄が死んだら?適当に石を積んで、お花を手向け、ボロボロ泣きながらそれっぽい詩でも書くんでしょうね。でも、それでお終い。後ろめたいなんてちっとも思わないまま、次はお馬鹿さんが新しい英雄になるのを待つだけ……」
『っ……』
「『英雄』っていう殻の中で、傷ついて、震えてる……そういう生きた人間もいるってことを……だーれも気にもかけない。それである日突然、英雄が膝から崩れ落ちてこういうの……『ねぇ、もうすっごく痛いの……これ以上無理、私だって……死にたくないっ……!』――さて、どうなるでしょうか?」
瞬光さん?の悲痛な声に俺は戸惑いながらも、俺は思ったことを言う。
『……わからない。だけど、たとえ誰だって、そんなことを強制なんてできないと思う・』
「正直なところは好きよ」
すると、目の前に瞬光さん?が不意に近づき、温かい吐息が耳元を掠めた。
「けどアタシ、もう決めたの―――あの青溟剣を手にした時から、『英雄』なんかになるもんですか、って。だって……この世界より先に死ぬなんて、まっぴらだもん」
『……』
瞬光さん?の指先が頬を伝い、
「怖がらせちゃった?安心して、アタシは息抜きをしに来ただけだから……この子はもうすぐ帰ってくるわよ。それとイイコト教えてあげる。この服、アタシがこの子に選んであげたの。可愛いでしょ?じゃ、時間だから……バイバイ」
『あっ……待って!まだ聞きたいことが……!』
言葉が終わらない内に、髪が白い瞬光さんは電源が切れたロボットのように目を閉じ……しばらくして、よく見る面影が戻ってきた。
「……タンザナイト?あれ?私、何を……私……もう眠ったはずじゃ……?夢でも見てるのかな……あっ、タンザナイト?貴方もいたのね」
『えっと……瞬光さん、夢遊病ってなったことある?』
「夢遊?別にないけど……んん……眠い……」
如何やら、この様子だと白い瞬光さんについては知らないようだな……
「私、もう戻って休むね。じゃないと明日はクマができちゃう……おやすみ、タンザナイト」
『……おう』
そうして、俺は白い瞬光さんのことを考えながらも、深い眠りについた……
次の朝、外に出ると、何やら門が騒がしい……ふと、寄ってみると、意外な人物と鉢合わせする。
「はいはーい、みんな元気してた?」
『お前は……照さん!?』
オボルスや昔日の丘の件でお世話になった黒枝の人じゃねぇか。
何故ここに?
すると、照さんは瞬光さんを見つめた。
「君が、雲嶽山期待の星、葉瞬光ちゃんだね?そして、青溟剣の現剣主……せっかく衛非地区にいたのに、今までちゃんとお話しする機会がなかったよねぇ」
「えっと、そうよ……はじめまして。私は葉瞬光、黒枝の……照さんね、会えて嬉しいわ」
「こちらこそ~。ウワサの瞬光ちゃんに会えて光栄だよお。知ってる?君が次の『虚狩り』になるんじゃないか……って、こっそり賭けてる人もいるみたい。『葉瞬光なら、雲嶽山にかつての栄光を取り戻せる』ってね」
へー……瞬光さんが虚狩りにね……凄いことだな。
「『虚狩り』……?わ、私、そんな凄い人じゃ……」
「ふふ、謙遜しなくてもいいのに~瞬光ちゃんは、ちゃあんと才能のあるコなんだから。世の中のちっとも注目されない人達からしたら、イヤミになっちゃうかもしれないもん」
「えっ?い、今のはそういうつもりじゃなくて……」
「冗談だよぉ、照ちゃんの悪いクセ。でも、君が『選ばれた人』っていうのは……本当だもんね?―――さてと、それにタンザナイト君!」
『よっ、久しぶり……でもないか』
「また会えたねえ、ザオちゃんはうれしいよお!」
にしても……なんか照の雰囲気、いつもより違うような……気のせいか?
「そうだ!今日は皆の為に、たくさんお土産を持ってきたんだあ。君達が、絶対に興味を持ってくれる『プレゼント』もね」
『プレゼント?』
「なんと……あの『葉釈淵』の最新情報もあったりして!」
『なっ……!』
「兄ちゃんの……!?」
「そうだよお。だから、ザオちゃんのことは、素敵なゲストだと思ってね!」
まさか……照さんが直々に情報を持ってくるとは……
「最新情報……まさか、お兄ちゃんの居場所を知ってるの?」
「落ち着いてよお、瞬光ちゃん。出来立てあつあつのお豆腐だからって、急いで食べたら火傷しちゃうんだから。まあでもだいたいそんな感じかなあ。君のお兄ちゃんを目撃したって情報があって……」
「お兄ちゃんはどこにいるの!?お願い照さん、教えて!」
『ステイ、瞬光さんステイ……釈淵のことが心配なのはわかるが落ち着け。それに、こういうのってタダじゃないんだろ?』
「およ?さっすが『ラピス研究社』の建設社長さん。こういうのによく知ってるね。そうビジネスの基本は『等価交換』……ザオちゃんが君の欲しいものをあげるから、君はザオちゃんが欲しいものをくれる……それがいちばんフェアで、スムーズなやり方だよねえ?」
その言い方だと、照さんが欲しいものがあるんだよな?
『じゃあ照さんが欲しいものって……?』
「今日ここに来たのはね?ラマニアンホロウで、新しく未知のエリアが見つかったから、ザオちゃん、それを調べに行きたいなあって思ってるの」
「未知のエリア……?」
「うん。もういっこの情報も、手付金だと思って前払いしちゃうけど……君達とストラスの戦いが終わった直後に、ミアズマの異変と一緒に、ラマニアンホロウが約0.002%拡張したのが観測されたの。だから、このタイミングで見つかった未知のエリアに異常なミアズマがあって、それが拡張の原因じゃないかなって、ザオちゃんは睨んでて……雲嶽山にも調査に手を貸してほしいんだあ」
確か、『Fairy』もそれらしいことも言っていたな……
「でも……どうして私?プロキシ達の協力が必要なのはわかるけど……修行者が役に立てることなんて、あるの……?」
「それはね、君が青溟剣の現剣主だから。ダイアちゃんから面白い話を聞いたんだあ。その青溟剣、ホロウの奥深くに入ると不思議な反応をするんだってね?それに、あの『始まりの主』を持ったストラスを倒したのは、剣の力だったみたいだし……衛非地区に現れた白いお花にも、おかしな反応を示したんじゃない?まるで
『そうだけど……何故それを?』
いなかったよな……照さん、あの場に……
「今ある情報を基に推測しただけ。だから、青溟剣の力と、この新しいエリア……というより、ラマニアンホロウそのものには、まだ誰も知らない、秘密の関係があると思うんだよね。」
確かに……そう来ると、白い花とホロウ拡張の繋がりもありそうだな……
「というわけで、ここにいる凄腕のプロキシ達と一緒に。瞬光ちゃんも来て欲しいっていうのはそういうわけ!」
『成程……だから瞬光さんも』
「もちろん、『等価交換』だからね?こっちは、葉釈淵が目撃された正確な座標をあげる!何を隠そう、未知のエリアの端っこで君のお兄ちゃんを見かけたのは……ザオちゃんだもん!」
「……分かったわ。私、行く!」
「気持のいいお返事だね~……じゃあ、騎士君の意見も聞いてみよっか」
俺は別に構わないんだけどな……
『いいんだけど……瞬光さんの体の件で師匠に釘刺されているからな……そういう物は近づけさせるのはいけないって言っていたし……』
「タンザナイト、私なら大丈夫だから!記憶のことだって……この間テストしたばっかりじゃない。福姐さんたちも、まだお兄ちゃんの手がかりは見つけられていない……だから、これは一番のチャンスなのよ!」
うーん……焦る気持ちは分かるが……でも危ないことには変わらないし……
『なあ、照さん。瞬光さんじゃなくて、他の雲嶽山の人達で調査を手伝う、っていうのはダメか?』
「それじゃあダメかな。あのエリアと青溟剣の繋がりを探るのも、ザオちゃんのお仕事の一つだから。これは譲れないよ。まぁ、今すぐ足並みが揃いそうな感じじゃないねぇ。大丈夫だよお、ザオちゃんは気長に待ってるから。無理やりなビジネスは嫌いだし……もし、二人そろってその気になったら、ロープウェイの駅に来て欲しいな」
そう言うと、照さんの目が細くしながら言う。
「……騎士君は頭のいい子だもんね?きっと合理的な選択をしてくれるって信じてるよお。じゃあねぇ」
と、意味深なセリフを放ち、その真意を考える暇もなく、去って行った……すると、瞬光さんが焦ったように口を開いた。
「ね、ねぇ……あなたが色々考えてくれることは分かってるけど……やっと見つけたお兄ちゃんの手掛かりなの!師匠には……めちゃくちゃ怒られるかもしれないけど、責任は全部、私が取るから!だから、お願い……!私、こんなチャンスを逃せないのよ……!」
瞬光さんが若干涙目になりながらも訴える。
『別に責任とかどうとかじゃなくて……青溟剣の力は分からないことだし、万が一のことが起きちゃいけないから、無謀なことをさせたくない』
「……お兄ちゃんが、いなくなる前に言ったこと……あなたにも伝えたわよね。必ず助けるからって……みんなに黙って、裏切りみたいに思われるのも気にしないでいなくなったのが、私のためだったなら……こんな風に、私のいない所で何かが上手くいったらててな……なんて、のんきに祈ってることなんてできないわ!」
『……』
「このままずっと、守られるだけのガラスのお人形でいるのは……もういや!私だって、みんなに恩返しがしたいもの。みんなのくれた優しさや愛情を、この手で返したい!」
と、覚悟した瞳で俺を見つめる……
っ……そんな目で見つめるのは止めてほしいな~……!
『~~あーもう……!しょうがないねぇな。そこまで言うんなら仕方ない……だけど、これだけは約束してくれ―――『一人で無茶すんな』って。俺もいるんだ、ちゃんと頼ってくれ』
「……無理言ってるわよね。でも、本当にありがとう。ずっと……言わなきゃいけないと思ってて。私にとって貴方が、すっごく特別な人だってこと」
『……えっ』
「えっと、そういうことじゃなくて……!青溟剣のせいだけど、私と接するときは、どこかみんなおっかなびっくりだから。大切にしてることは、嬉しいって思ってるけど……時々、すっごく申し訳ない気持ちになるの。でもあなたは、みんなが反対しても、私の味方でいてくれるわよね。他の人がワガママって思うことでも、ちゃんと話を聞いて、私が決めたことなら、尊重してくれる……」
『あ~……』
なんだ、そっちか……勘違いした……
「ふふ……本当にありがとう」
『……どうも。あと、『守られるだけのガラスの人形』って言っていたけど……俺は別に最初から瞬光さんを守るつもりなんてなかったぜ。だって瞬光さん、すんごい強いじゃん。俺はただ隣で一緒に進みたいだけだからな。1人じゃないって思えるようにしてあげたいって思えるように……ね』
「うん!どんなときも、振り返れば……ちゃんとお互いがいる……だから、約束ね!」
そう言うと、瞬光さんは小指を差しだす。俺も小指で重ね合わせ、指切りする……この約束は誓いよりもずっと重く感じられた。