キヴォトスには灯りがある   作:こいし

19 / 25
正直、いまいち主人公の内面が掴めないという方は、正しい感覚だと思います。
序盤に一度あったくらいで、この前日譚のほとんどで主人公視点が描かれていないからです。


新しい季節

 それから時間は流れ―――新しい季節。

 

 肌寒さは残りながらも陽の光が温かくなってきて、キヴォトス全体が春の訪れを知る。

 アビドスでも積もった雪が解け、砂漠の景色がらしさを取り戻していた。

 

 そして、十六夜ノノミと砂狼シロコが無事にアビドス高校へと入学を果たす。

 

 ホシノやソウは新入生を迎えるべく入学式の準備したり、新入生二人にピカピカの制服を用意したり、借金問題など普段向き合っていた過去の清算すべきこととは別の、まさしく未来へと目を向けるようなことに力を注ぐ。

 今までとは少し毛色の違う事柄に向き合う自分たちを見て、なんとも得体のしれない充実感を感じていた。

 

 とはいえ、入学式の準備を迎え入れられる側のノノミやシロコも手伝っている光景は、少々奇妙でもあった。

 

「うへ、それじゃ改めて……入学おめでとう。ノノミちゃん、シロコちゃん」

「はい♪ ありがとうございます、ホシノ先輩」

「ん、ありがとうホシノ」

 

 ホシノとしては、本当にこんな廃校寸前のアビドスへ入学するなんて酔狂なことだと思ってしまうが、それでも新たに人が入ってきてくれたことは嬉しく感じる。

 自分が入ってきたときユメも同じように嬉しかったのだろうかと考えると、少しだけ先輩になったのだなとも思えた。

 

「(ユメ先輩……今年は二人、アビドスに奇跡がやってきましたよ)」

 

 ホシノは未だに目覚めない先輩を思い、ふと笑みを溢す。

 

「おーい、準備出来たぞ。新入生の二人は並べ並べ」

「ソウせんぱい」

「入学式だからな、折角なら写真の一枚くらい撮っておいた方がいいだろ?」

 

 すると、背後からホシノの信じる大人の声が掛かる。

 振り返れば、どこから持ってきたのか随分と高そうなカメラを手に持ったソウがいた。ホシノは自然と表情が緩むのを感じ、新入生二人の背を押しながらソウのもとへと歩いていく。

 

「ほらほら、二人ともいくよ」

「わ、わざわざ撮る必要ありますか?」

「ん、ホシノ、押さなくても自分で歩ける」

「シロコちゃん、ホシノ『先輩』ですよ?」

「私は自分より強い人の言葉しか聞かない」

 

 個性的な二人の後輩に、これはこれから大変そうだなぁという感想を抱くホシノ。

 実際シロコがやってきてから春を迎えて今日に至るまで、記憶喪失のシロコの非常識ぶりには中々振り回されてきた。

 借金返済のためにどこからともなく物を盗んできたり、銀行強盗を企てたり、はたまたホシノに勝負を挑んできたり、ソウの後ろにくっついていってホシノに連れ戻されたり、様々なことがあって、まるで無知な子供の教育をしている気分だった。

 

 けれど、それも悪い気分ではなかった。

 新しい風が、アビドスへと吹いてきているように思えたから。

 

「さ、二人とも笑って」

「あ、あはは」

「ん!」

 

 ホシノはソウの隣に移動すると、入学式の看板の横に並んだ二人に添う声を掛ける。

 ノノミは少し気恥ずかしいのか照れ臭そうに笑みを浮かべ、シロコはピンと獣耳を立ててカメラを見つめた。

 

 そんな二人にソウは笑みを浮かべて、シャッターを切る。

 

「うん……良い写真が撮れたよ」

「ん、次はソウとホシノも一緒に撮る」

「うへ、私はいいよ~主役は二人なんだし……」

「ダメです☆ お二人もほら!」

 

 すると、今度は四人で撮ろうと新入生二人がホシノとソウの手を引く。やんわり断ろうとするホシノだったが、強引なノノミとシロコに掴まっては逃げる術はなかった。

 ソウはどこから取り出したのか、それともこれを見越していたのか、三脚を取り出してカメラをセットし始める。高さを調整して、三人をちょうどいい画角に収めると、タイマーをセットして自分もその画角の中へと駆け寄った。

 

 ―――パシャリ

 

「撮れました?」

「ああ、いい顔してるよみんな」

「ふふふ、アビドスでの最初の思い出ですね☆」

 

 そうして撮れた写真をみんなで確認して、四人は笑みを溢した。

 

 こうしてアビドスは新たな生徒を迎え、新しい姿に変わっていく。

 目覚めない生徒会長は三年生ではあったが、出席日数的にも卒業には足りず、留年という形で未だにアビドスの生徒のままだ。そして新学期からは休学という形で籍だけは残せるような形になった。

 

 故に、生徒会長は変わらずユメのまま。

 

 そのためホシノは、新たな二人の新入生と共にアビドスのために活動していくにあたり、生徒会としてではなく、新たな名前を付けることにした。

 

 

 曰く――――アビドス廃校対策委員会、と。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ 

 

 

 

 キヴォトスが春を迎え、数千ある学園が等しく新学期を祝う中でも、いつもの日常は変わらず進んでいく。

 多くの店は変わらず営業するし、不良は不良のままいつも通り問題を起こすし、生徒は学校へと通い、いつものように友達と共に過ごす。巡るときは等しく同じだが、特別な日であっても、お祝いの日であっても、変わらずやらなければならないことは良くも悪くも消えてなくなりはしないのだ。

 

 そしてそれは、キヴォトスを運営する連邦生徒会とて同じこと。

 

「ああ、色々あったけど……まぁなんだかんだ順調に進んでいると思うよ」

 

 連邦生徒会の一室で、魅旅ソウは一人の女生徒と対面するように座っていた。

 入り口の扉の傍には薄桃色の髪をした少女が控え立っているが、この部屋の中の会話は外部に漏れないようにしているようだった。

 

「――――」

「確かに、大変なことばかりだよ。それでも、俺は俺の欲しいものの為に突き進むだけだ。それがそっちの利になるかどうかは、そっちの努力次第でもある」

 

 対面する女生徒は長い水色の髪が特徴的で、インナーカラーに桃色を差している。穏やかな笑みを浮かべているが、大人であるソウと対峙しても見劣りしない貫禄。佇まいや雰囲気にはどこかカリスマ性を感じさせる何かがあった。

 

「アビドスにも新芽が生まれて良い方向へと向かってる。それに、今までキヴォトス中に撒いてきた種が芽吹いていけば、仮にお前が動けなくなったとしても、きっと大丈夫さ……な、連邦生徒会長」

「――――」

「ああ、こちらこそ、これからもよろしく頼む」

 

 連邦生徒会長と呼ばれた女生徒とソウは握手を交わし、互いに笑みを浮かべる。

 入口の扉横に控えている薄桃色の髪をした女生徒は、どこか緊張した様子でその光景を見ていた。

 

「さて、呼び立てておいて待たせてすまないな」

「い、いえ……」

「じゃあ行こうか」

 

 そんな少女に気を遣ってか、連邦生徒会長から視線を切ったソウは、もう話は終わったとばかりに控えていた少女の方へと歩み寄ってくる。入り口の扉を開け、少女に出るように促してきた。

 連邦生徒会長も、二人の背中を見送るように別れの挨拶を一つ投げかけ、閉まる扉を見送ってきた。

 

 扉の外、ソウと二人になる少女。

 

「改めて今日は忙しい中呼び出して悪かったな」

「それは問題ないのですが……一体私に何の用でしょうか」

「うん、前の防衛室長から引き継ぎはなかったと思うし、今年から新たな防衛室長になった君にも、改めて話をしておきたかったんだよ……不知火カヤ防衛室長」

「前防衛室長から……?」

「俺と連邦生徒会長のさっきの会話は聞いていただろう? キヴォトスに撒いてきた種……これもその内の一つなんだ」

「!」

 

 ソウの言葉に驚愕したように目を見開く不知火カヤと呼ばれた少女。

 開かれた瞳は山羊のように横長の瞳孔が覗き、驚愕以上に動揺をにじませていた。

 

「貴方は……一体何をしようというのですか……?」

「はっはっは! 俺は俺の日常を守りたいだけだよ。そのためには健やかに、何気ない日常を過ごしていけるだけの平穏を守らないといけないってだけ」

「……それで、私に何をしろと?」

 

 カヤは訝し気な表情を隠さず、ソウに問いかける。

 連邦生徒会の中には幾つかの部署があり、その中でもキヴォトスの防衛能力を担当するのが防衛室。不知火カヤが今年から防衛室室長となった以上、不知火カヤを動かせるとなれば防衛室そのものを動かせるも同然なのだ。

 それを知った上で、前防衛室長の時代から協力関係にあったという事実。

 カヤが警戒するのも当然のことだ。

 

 彼女自身が『超人』と評する連邦生徒会長とも対等に話すことが出来ていた大人―――魅旅ソウ。

 

 超人と対等なのは、また超人だけだ。

 だとすればこの魅旅ソウもまた超人なのかと思うが、カヤは頭を振ってそれを否定する。超人なんて存在がそう何人もいてたまるかと。

 

「ああ、そうだな……カヤ防衛室長、君には俺の協力者(バディ)になってもらいたい」

協力者(バディ)……?」

「そうだ……今の肩書だけ立派な連邦生徒会防衛室が、正しくキヴォトスを守る盾となり、生徒たちに平穏を齎す存在になるようにする」

「なっ……!」

 

 カヤはソウの言葉にまたも動揺した。

 防衛室に務めるのは今年からではなく、去年からだ。彼女自身が一年生だった時から彼女は防衛室にいたから、その内情については少なからず知っている。連邦生徒会と名乗ってはいても、厳密には高潔な使命感を持ってキヴォトスの運営をしているわけではない。

 彼女たちもまた生徒―――勤勉な性格な者もいれば、ものぐさな性格の者もいる。最低限の仕事をこなしていれば、その他はある程度大雑把でも構わないだろうと考えたり、仕事をこなす片手間に自分の利益になるようなズルを犯したりもする。

 

 防衛室といえど、それは同じことだ。

 むしろ、キヴォトス全域に対して権力を持って干渉できる部署だからこそ、その歪みは多大な影響を及ぼすものになりかねない。

 

 故に、

 

 

「さしあたっては―――カイザーコーポレーションと縁を切ってもらいたい」

 

 

 この大人にその歪みを見抜かれていることは、カヤにとって心臓が跳ねるような事態だった。

 

「以前から連邦生徒会防衛室とカイザーコーポレーションが裏で繋がっていることは知っていた。だから、先々代の防衛室長の時から準備を進めていたんだよ」

「先々代から……!? 知りませんでしたね」

「当然だ、防衛室はカイザーと繋がってるんだ。どこから情報が洩れてカイザーに気取られるかわかったもんじゃないからな。これは俺とここ二代の防衛室長、そして連邦生徒会長の四人だけの機密事項だった」

 

 それを聞いて、カヤは今期の防衛室のメンバーのことを思い出した。

 先代防衛室長が卒業と同時に防衛室を去り、同じく卒業を理由に抜けていったメンバーは多かった。

 思い返せば見えてくる。前期の防衛室は、カヤと同期の一年生と先代室長たちの三年生だけで構成された部署だったのだ。故に、今残っているのはカヤたち新二年生で構成された新たな連邦生徒会防衛室メンバーのみ。

 

 これが意図的なものだったとしたら?

 

「二代前の防衛室長に話を持ち掛けて協力関係を結んでから、俺はカヤ室長の代にその権力のバトンが渡されるまで待っていたんだよ……毎年連邦生徒会防衛室に入れる生徒を選別し、内部に伝達する情報も制限して、当時のメンバーが卒業して連邦生徒会を去っていき、カイザーとの癒着関係に執着しないメンバーに入れ替わるまで」

「先々代、そして先代の時代にいたメンバーには、既にカイザーコーポレーションとの癒着を知り、その恩恵を受ける者がいました……だから、時間を掛けて内部の換気を行ったわけですね」

 

 そうして換気を終えた現在、数奇な時代に室長の座に就いたのが彼女―――不知火カヤだった。

 

「まぁ、とはいえ君は相当優秀だった。歴代防衛室長と比較しても頭一つ抜けた能力を持っている……しっかり情報規制を行うように言っていたのに、君は去年たった一年の間に防衛室とカイザーの癒着関係に辿り着いた。これだけでも君の能力が先代の能力を超えていることを証明している」

「ふ……大した手間ではなかったですよ。巧妙に隠せば隠すほど、情報が『見えない』という事実が浮き彫りになります。あとは関連する情報や記録を辿っていけば、自ずと推察も出来るというものです」

 

 カヤはソウの語ったことからその事実と意図を理解し、徐々に冷静さを取り戻す。

 ソウが防衛室の膿を一掃し、カイザーコーポレーションに執着しない環境を作ったこと。そしてこれからその環境で室長の座に就いたカヤに協力関係を結び、カイザーとの癒着関係から縁を切ることを求めたこと。

 

 それらが指し示す彼の目的とは。

 

「なるほど―――アビドスの復興のためですか」

「はっはっは! 流石、本当に優秀だな。それに、俺についてもしっかり調べている」

「……ですが、今やカイザーコーポレーションが防衛室に齎している利益は大きいのです。縁を切るとなれば、それを補うだけの代替案がなければお話になりません」

「ああ……そのとおりだ。だから、それも含めて準備してきたんだよ」

 

 ソウは一枚の書類を取り出し、カヤへと差し出した。

 その内容に目を通していくと、カヤの目はゆっくりと見開かれていく。そこにあったのは、カヤの把握している情報が根底から覆されるようなものだった。

 

 

「魅旅ソウ……貴方には一体―――何が見えているのですか……!?」

 

 

 カヤの山羊のような横長の瞳孔が、ソウを捉えて震えた。

 

 

 




今回で前日譚は終わり。
ようやく本編が始められます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。