キヴォトスには灯りがある   作:こいし

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アビドス対策委員会

 ―――先生がキヴォトスにやってきてから少しの時間が流れた。

 

 アビドス高校では相変わらず借金返済のための会議をはじめ、校舎の清掃管理やバイト、賞金稼ぎなどの出稼ぎが行われる日々を送っている。

 とはいえ、ホシノは後輩たちに黙っているものの、定期的にソウからの支援金がアビドスへ送られているので、正直な話、毎月の借金返済に関してはかなりのゆとりがあるのだ。

 

 故に、アビドス高校廃校対策委員会の生徒たちの心境としては、それほど借金返済に焦ってはいない。毎月の利子返済は余裕をもって行えるとして、残る借金の残額をどれだけ早く減らせるかを考えているくらいだ。

 

「ホシノ先輩は?」

「また屋上とかでお昼寝してるんじゃないかな」

「そっか」

 

 そんな中、現在対策委員会の部室にはアヤネ、セリカ、ノノミの三名がいた。

 ホシノのカバンが室内に置かれているのを見たセリカの問いに、アヤネが返事を返す。特に気になっただけだったのか、セリカもその予想に短く返事を返すだけだった。

 シロコに関してはまだ登校してきていないが、時間を見ればもうじき姿を見せるだろうと三人とも思っている。

 

「今日はソウ先輩はくるって?」

「今日は不在みたいですよ☆ どうやらまたお仕事であちこち飛び回ってるみたいですね~」

「ああ……だから昨日これ持ってきてくれてたのね」

 

 次のセリカの問いにノノミが答えると、セリカは得心がいったというように部屋の隅に置かれた段ボールに近づき、ごそごそと中を漁る。中には弾薬や整備用の部品などの物資がいっぱいに詰まっていた。

 

 改めて、アビドス高校の懐状況は、借金返済という問題を抱えながらも別段余裕がないわけではない。毎月の返済を行ってなお、各々が各々のために使えるお金を貯金できる程度にはゆとりがある。

 なんなら、対策委員会全員のアイデアで毎月いざという時のための積立金を貯金しているほどだ。

 

 なので、必要に応じて積立金から必要物資を購入したり、各自の装備点検をしたりすることも十分可能なのである。

 

「別に私たちも余裕がないわけじゃないですが、こうして支援物資をいただけるのはありがたいですね」

「そうですね~……その分積立金も他のことに使えますし、使えるお金に余裕があると人は心の余裕を得られますからね☆」

「そうね。それに最近は妙にヘルメット団の襲撃も激しくなってきてるから、特に弾薬に余裕がある状態を保てるのはありがたいわ」

「じゃあ今のうちに弾薬の仕分けをしちゃいましょうか」

 

 ノノミはダンボールに近づいてひょいとそれを持ち上げると、テーブルの上にそれを置く。

 ぎっしり詰まった弾薬や部品類はそれなりに重量があるはずだが、普段超重量級のガトリングを扱うノノミの筋力はその重みをモノともしていない。

 

 ノノミの言葉に頷いたセリカとアヤネが傍に近づき、箱の中身を取り出して仕分けしていく。武器の種類によって使える弾丸も変わってくるので、いざという時に各々がすぐに補充できるよう仕分けしておくのだ。

 アヤネのドローン操作によって戦場に物資を補給することも多いので、ドローンに搭載するためのカバンにいれる用に、弾薬をマガジンに詰める作業も同時進行で行う。

 

 もはやその作業には慣れたものなのか、三人いればスムーズにその作業は進んだ。

 

 すると、そこへ扉を開く音がした。

 

「ん、おはよう」

「あ、おはようシロコ先輩……と……だ、誰!?」

「シロコ先輩が見知らぬ大人の女性を拐ってきたー!?」

「おおお落ちついて! まずは証拠隠滅を……!」

「ん、違う」

 

 やってきたのはシロコ。

 だがその背中には、ぐったりとした様子の大人の女性が背負われていた。普段の言動や行動が相当アウトローな印象を持つシロコが相手のため、まさかよからぬ問題を拾ってきたのかと慌てる一同。

 

 だが、シロコが冷静に違うと言うと、その背中からあははと苦笑する声が聞こえてきたので、一同は冷静にそちらへと視線を向けた。

 

「"あはは……驚かせてごめんね。初めまして、私は連邦捜査部シャーレの先生だよ"」

「先生……!」

 

 顔を上げた女性は、最近キヴォトスにやってきた大人―――《先生》だった。

 黒いワイシャツと白いパンツ、その上から連邦生徒会と同じような白い上着を着ている。首からは連邦生徒会認可のマークが押された社員証のようなものを下げていた。

 

 対策委員会の一同は全員、先生がやってきたその日にソウからその人物について知らされている。

 曰く善良な人物だということだったり、曰く生徒のために尽力してくれる大人だということだったりなので、その印象はあまり悪くはなかったものの、実際にその人物を目の当たりにすると……なるほどその評価は間違いではないと感じられた。

 

「シャーレってことは連邦生徒会に送っていた申請書類を見ていただけたってことですか?」

「"うん、シャーレに届いた手紙を見てね。困っているようだったから、何か助けになれればと思って来たんだ……でも、途中で遭難しちゃってね"」

 

 たはは、と頬を掻く先生。

 アビドスは砂漠に覆われた自治区故に、その気候は他自治区と比べて非常に暑いし迷いやすい。十分な準備をしていなければ遭難して熱中症になってしまってもおかしくはなかった。

 

 事実先生はここに来る最中に遭難してしまい、持っていた水も尽きて行き倒れになっていたところを運良くシロコに拾われたのだという。

 そんなどこか頼りない姿に、大丈夫かこの人と怪訝な目を向けてしまうのは仕方がないことだった。

 

「とりあえずホシノ先輩呼んでくるね」

「お願いしますね。では先生、こちらへどうぞ☆」

「"あ、うん。ありがとう"」

 

 セリカが部屋を飛び出していき、ノノミの案内で先生はソファへと座る。アヤネがスッと横からお水を出すと、ありがたいとばかりにそれをぐいっと喉へと流し込んだ。

 

「"そういえば、以前魅旅ソウさんとお話して普段はアビドス高校にいるって聞いたんだけど……今日はいないのかな?"」

「はい、今日は不在ですね。お仕事の関係で別の場所に行ってるみたいです」

「"そうなんだ。残念、タイミングが合えばゆっくりお話してみたかったんだけど"」

「ふふふ、今日は不在ですがいつもはここにいらっしゃいますから、またいつでも次の機会がありますよ☆」

「"うん、そうだね。また次の機会を楽しみにしてるよ"」

 

 先生がそう口にすると、また扉の方から声が掛かった。

 

「うへ、貴女が先生~? 初めましてだねぇ」

「"! 君がホシノかな? 初めまして、私がシャーレの先生だよ"」

 

 現れたのは桃色の髪を長く伸ばしたオッドアイの少女、小鳥遊ホシノだ。

 あくびをしながら入ってきた彼女は、先生の姿をジッと見ると、ふむと一つ頷いて片手をひらひらと振って笑みを浮かべた。

 

「うん、私はこのアビドス高校対策委員会委員長の小鳥遊ホシノだよ。よろしくねぇ~」

「ホシノ先輩も来たところで……先生、この場にいる私たちがこのアビドス高校対策委員会です。私が先生に手紙を送らせていただいた、一年生の奥空アヤネといいます」

「同じく一年生の黒見セリカよ」

「二年生の十六夜ノノミです~! よろしくお願いしますね☆」

「ん、そして先生と最初に会った私が、砂狼シロコ……あ、別にマウントとかじゃない」

 

 そうして順々に自己紹介していく対策委員会のメンバーに、先生はにっこりと笑顔を浮かべて頷いた。

 

「"うん、どうかよろしくね"」

 

 先生の浮かべる笑顔に、対策委員会の面々は毒気を抜かれるような印象を得る。

 人の良さそうな、とはよく言う言葉だが、初対面にも関わらずこの目の前にいる先生という人物からは、どこか優しい人なんだろうと思わせるような温かみがあった。

 全員がソウから訊いていた先生の情報に対して、強い納得感を抱く。

 

「"それで……手紙で送ってくれた内容についてだけど……"」

「はい、事前にお伝えした通り……アビドス高校廃校対策委員会は現在、アビドス生徒会の役割を担っているのですが、如何せん連邦生徒会非公式の組織ですので、いざという時に必要な権限を持ちません……これを公式に連邦生徒会に認可していただきたいなと」

「"とはいえそれならシャーレじゃなくて連邦生徒会に進言すべき内容だと思うけど……"」

「はい……ただ何度も支援申請と一緒に進言を送っていたのですが、一向に返答がなかったもので」

「"なるほど……そこで自治区を超えて生徒の問題解決に助力すると言っているシャーレにってわけだね"」

 

 アヤネの説明に対して先生はなるほどと頷いた。

 

「"経緯は分かったよ。事情は手紙から事前に把握していたからね、できる限り力になるよ"」

「やった! ありがとうございます!」

 

 先生の言葉にわっと喜びに色めき立つ一同。

 実際、何度も送っていた申請に対して連邦生徒会からの返答が一切なく、途方に暮れていたところに訪れた光明なのだ。対策委員会からすれば、進展が生まれたということが何よりの成果である。

 

「"そのためにはまず、対策委員会の活動内容を実際に見て、申請に正当性があるかどうか確かめないといけないんだけど……大丈夫かな?"」

「うへ~……大丈夫だよ、元々そうする必要があるってことは分かってたからね。ソウせんぱいからも言われてたし」

「"ソウ……魅旅ソウさんだね? もしかしてこの申請に関しても彼の助言なのかな?"」

「うん、ソウせんぱいがね……今の対策委員会は、自治区内の治安維持に動く分には問題ないけれど、公式の生徒会組織ではない以上、万が一自治区外や他の学校が絡むトラブルが発生したときに対等な発言力を持っていないから、早いところ公式な認可を貰っておくべきだーって」

「"なるほど……"」

 

 ホシノの言葉を受け、先生の中で魅旅ソウという人物の印象がまた少し良い方向へと上がった。

 元々アビドス高校の生徒会長だった経歴を持っていたのであれば、アビドス高校に限らず学校運営に関してはかなりの経験値を持っているのだろう。だからこそ、今のアビドス高校が抱えている問題を解決するための案を提示し、対策委員会の良き導き手となっている。

 ソウに対して信頼を置いているのだろうということも、ホシノたちの表情を見れば簡単に理解することが出来た。

 

 そうして頭を整理していると、不意に爆発音が外から響いてきた。

 

「!」

 

 瞬間―――即座に対策委員会の全員が武器を手に取り、警戒態勢に入るのが分かった。

 あまりにも迅速な反応に舌を巻く先生を置いて、状況把握に努める一同。

 

「この音、またカタカタヘルメット団が襲撃してきたみたいですね~☆」

「はぁ!? また来たの? まったく懲りない奴らね!」

「ん……何度来ても、返り討ちにすればいい」

「うへ……あの音からして、戦車か何か用意してきたみたいだねぇ……まったくどこから調達したんだか……それじゃ行こっか」

「ドローンで確認しました! 敵は校門前に数十人、予想通りカタカタヘルメット団です! ただ、今までなかった戦車の姿が二台ほど確認できます」

 

 戦況を理解したホシノたちが、部屋を出て校門へと迎撃に向かおうとすると、それに合わせてスッと先生も立ち上がった。

 懐から《シッテムの箱》を取り出して起動させる。

 

「"私も行くよ。これでも指揮にはそれなりに自信があるからね"」

「……うへ、まぁ私たちだけでも大丈夫だけど……いつの間にかゴム弾を使わなくなったのも気になるし……折角だから、先生のお手並み拝見と行きますか~。それじゃアヤネちゃん」

「はい! 対策委員会―――出撃です!」

 

 声色は変わらないものの、どこかスッと目を細めたホシノに先生は少し首を傾げたものの、今は目の前の事態に対処しなければと意識を切り替える。

 

 そうして先生にとって、このキヴォトスにやってきて二度目の戦術指揮のタイミングがやってきたのであった。

 

 




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