キヴォトスには灯りがある   作:こいし

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トリニティ自警団のエース

 カタカタヘルメット団を掃討して教室に戻った対策委員会のメンバーと先生は、先ほどの襲撃に対する一連の流れに対しての感想を口々に話し合っていた。

 特筆して話題に挙がったのは、やはりこの場において特異な存在である先生の戦術指揮の凄まじさだ。

 

 アビドス対策委員会のメンバーはけして弱くない……どころかこのキヴォトスにおいても上澄みの実力者揃いだ。たった五人で広大なアビドス自治区内の治安維持を行っている時点で、その実力が伺えるというもの。

 そんな彼女たちをして、先生の戦術指揮の力はまさに鬼に金棒という印象だった。

 

「いやぁ、まさかここまで圧倒的に勝てちゃうなんてね。今回はヘルメット団も大分強気に仕掛けてきてたのに」

「いや、勝てちゃうじゃありませんよホシノ先輩。勝たないと不良のアジトになっちゃうじゃないですか」

「ん、負けるつもりはなかったけど、今回は先生の指揮も良かったね。私たちだけならもう少し時間が掛かってたかも……分かってはいたけど、これが大人の力……凄い」

 

 ホシノやシロコの称賛に照れくさそうに笑う先生は、対策委員会のメンバーに好印象を持ってもらえたようで良かったなと内心で胸を撫でおろす。

 その内心を見抜いたのか、ホシノはうへと笑みを浮かべながら茶化すように口を開いた。

 

「そうだねぇ~……ノノミちゃんやユメ先輩も凄いけど……やっぱり大人の女の人は凄いものを持ってるよ」

「どこ見て言ってんのよホシノ先輩」

「ん~? やきもち焼いちゃったのセリカちゃん。おぉよしよし大丈夫だよ、いくら先生に豊かな母性の象徴があったとしてもママは傍にいるからね」

「"ホ、ホシノ!?"」

「変な冗談はやめて! 先生が困っちゃうでしょ! というか誰がママよ!」

 

 ホシノのおじさん染みたセクハラ発言に思わず胸を抱えて動揺する先生に、セリカもセリカで顔を赤らめながら反論した。

 

 だがそんな発言があったせいで、対策委員会の視線は先生の大きな胸に吸い寄せられる。

 身体のバランス的に見ればノノミやユメとそう変わらないように見えるが、先生の身長は女性にしては高い。それゆえ体格的にノノミやユメよりもその塊は大きな存在感を主張していた。

 

「こほんっ! ま、まぁ話を戻しましょうか」

「そうですね~☆ ひとまずヘルメット団を退けましたけど、戦車の導入といい武装の強化といい、何かと怪しい動きがありますから。そろそろ何か対策を打つべきかと」

「ノノミ先輩の仰る通りです。ソウ先輩の指導もあって襲撃に対しては大した問題ではないですが、このアビドス自治区内で私たち対策委員会の知らない動きがあると見て間違いないでしょう」

 

 そうして緩んだ空気を、一年生ながらオペレーターとして優秀な能力を持つアヤネが締め直す。

 カタカタヘルメット団の襲撃に対しては別段問題視はしていないものの、今回の襲撃も含め、アビドス自治区内の動きに怪しい点がある可能性が浮上したのだ。これは対策委員会としては見逃すことはできない。

 連邦生徒会長の失踪によって起こった犯罪率の上昇や違法武器の流通量が激増したことを差し引いても、今回の襲撃には彼女たちの中に不穏の種を感じさせた。

 

「"……"」

 

 そんな中、そうして会議を進める対策委員会の様子を見て、先生は内心舌を巻いていた。

 

 先生はアビドスからの生徒会代行組織認定の申請を受けて、実は事前にアビドス高校についてある程度調べてきている。借金にアビドス復興、そして昏睡状態の梔子ユメのことも。

 本来ならそんなことをする性格ではなかったが、魅旅ソウという素性の分からない大人がアビドス高校に拠点を置いているという事実が、先生にアビドスの内情を調べさせたのだ。

 とはいえ、魅旅ソウの人柄や対策委員会の様子を見て、必要はなかったかなとも思っているのだが。

 

 ともかく、現在借金返済やアビドス復興のために様々な活動に追われている対策委員会の面々の、わずかな疑惑をキャッチし様々な可能性に備える視野の広さに先生は驚きを隠せなかったである。

 

「どうしたの? 不思議そうな顔をしてるね、先生」

「"シロコ……いや、凄いなと思ってね。些細なことから様々な可能性を予見(キャッチ)する力は、常にアンテナを張る意識がないとできることじゃない"」

「……うん、これはソウ先輩とホシノ先輩から学んだことだから」

「"そうなの?"」

「ホシノ先輩はソウ先輩に教わったって言ってたけど……現状を打破するためには常に視野を広く、心はフラットに、思考を止めず、可能性を予測し、最適なタイミングで最適に動けるように備え続ける……そして信頼できる仲間を守る……そうしないと全てを失うことだってあるって」

 

 傍によってきたシロコに先生は素直に自分の感想を述べた。

 するとシロコはその要因になっていることを話す。

 

 それはいつかユメが倒れて折れそうになっていた一年生の頃のホシノが、ソウから教えられたことだった。

 そしてその意識は今、三年生になったホシノから後輩たちへとしっかり受け継がれている。故に対策委員会のメンバーは全員が高い次元(レベル)での思考を共有し、強力な個でもあり、連帯感をもった組織にもなれる強さがあるのだ。

 

「"なるほどね……ますます魅旅ソウさんと話をしてみたくなったよ。君たちはいい大人に巡り合えたんだね、シロコ"」

「うん……私たちはソウ先輩がいたからここまで強くなれた。ホシノ先輩を筆頭に、みんながソウ先輩を慕ってる」

 

 そうして先生は、隣で柔らかに笑みを浮かべながらそう言うシロコの表情を見て、これは先生(わたし)が手を差し伸べなくとも大丈夫かなと思う。

 元々は対策委員会が生徒会組織として認可を受けるに値するかを査定するために来たのだが、その内情から必要なら何か助けになれればいいなとも考えていたのだ。

 

 しかしその必要はない。

 

 彼女たちには魅旅ソウという大人がついており、彼女たち自身もこの逆境を跳ねのけられるだけの強さを持っている。ならば、ここは元々の目的に準じるのみに務め、生徒たちの成長を見守るだけでいいだろうと、そう思った。

 

「―――というわけで、おじさんは一つ計画を練ってみたよ」

 

 そんなことを考えていると、不意にヘルメット団についての話がまとまったのかホシノがスッと手を挙げて提案を提示する。

 

「私たちは今先生もいる上に物資は十分なことだし、対するヘルメット団も戦車を失ってしばらくは襲撃もできない状態……だからここらで一発、ヘルメット団の拠点を襲撃しにいこう」

「……なるほど、拠点を抑えていけば妙な武装の強化や兵器の流れに関しても何かしらの情報を得られるかもしれませんしね」

「そうそう~、一石二鳥ってやつだよ」

 

 ホシノの提案に対しての反対意見は出なかった。

 客観的に判断して、アビドス高校の戦力や物資状況とヘルメット団の現状を鑑みれば、ここで追撃の一手に出ない手はない。ましてやその裏に奇妙で怪しい動きが垣間見えるとなれば、手をこまねいた分だけ手痛いしっぺ返しを食らう可能性だってある。

 

 彼女たちは全員、その事実をしっかり理解しているのだ。

 

「どうかな? 先生」

「"うん、良いと思うよ。私も力になれるよう頑張るね"」

「うへ、じゃあ先生の許可も下りたことだし……はりきっていこ~!」

 

 対策委員会はホシノの号令を受け、気合いを入れて出発するのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 そうしてホシノたち対策委員会と先生がヘルメット団の拠点襲撃を行っている最中、ソウはといえば、ゲヘナ学園を発って次なる場所へとやってきていた。

 アコとヒナにも告げたことではあるが、次に訪れたのはトリニティ総合学園である。

 

 要件としては、風紀委員会に伝えたのと同じ内容をティーパーティーへと伝えるため。生徒会組織であるティーパーティに面会するにはそれなりの手順を踏まないといけないのだが、風紀委員会同様事前にアポを入れていたため、スムーズに学園内へと入ることが出来た。

 

 トリニティの自治区の中はゲヘナとは違ってどこかオシャレな雰囲気があり、道行く生徒たちもどこか気品のある者が多い印象である。

 

「おや!? そこにいるのはソウさんじゃないですか!! こんにちはぁ!!!」

「おお、今日も元気みたいでなによりだ。パトロール中か? 宇沢」

「はい! この宇沢レイサ! 今日もトリニティ自警団のエースとして頑張っていますよ!!」

「はっはっは! それはいいことだ。俺みたいなヘイローのない身としては、そうして治安を守ってくれる子がいると安心するよ」

 

 すると、そこに現れたのは薄紫と水色の入り混じった髪を二つ結びにした少女。気品漂う自治区の中において、その声の大きさと挙動の熱量はどこか浮いた存在感を放っていた。

 彼女の名前は宇沢レイサ。

 このトリニティにおいて存在する公的な治安維持組織である正義実現委員会とは別に、もう一つ存在する治安維持組織であるトリニティ自警団に所属する生徒だ。

 

 特徴的な髪色や距離感がバグっているかのような声量は、一度会えば忘れないようなインパクトがある。

 

「えへへ! そう言っていただけると自警団冥利に尽きるというものですね!」

 

 抵抗することなくぐりぐりと揺らすように頭を撫でられるレイサは、ソウの言葉に嬉しそうにそう返す。むしろぐりぐりと自分の頭をソウの手に擦り付けるようにするほどだ。

 ソウはそんなレイサに対して、どうにも小型犬に懐かれているような印象を受け、カラカラと笑う。

 

「っと、そういえば本日はどのような用事でトリニティへ?」

「ああ、今日はティーパーティーに話があってな。予定を空けてもらったんだよ」

「そうでしたか! では良ければこのトリニティ自警団のエース宇沢レイサが、執務室までご案内しますよ!!」

「はっはっは! それはありがたいな、じゃあ護衛を頼むよ」

「えへへ! お任せください!!」

 

 そうして連れだって歩き出す二人。

 レイサはどこか楽しそうに口元を綻ばせており、度々その小さな肩がソウの腕に触れるような距離感で隣を歩いていた。

 

「そういえば聞いてくださいソウさん! 最近自警団の活動で私大活躍したんですよ! スズミさんからも褒めていただけました!」

「おお、凄いじゃないか。また腕を上げたんだなぁ」

「はい!」

「えらいえらい」

「えへへ! ソウさんに褒めてもらえるとより気合が入ります!」

 

 ソウに褒めてもらいたいとばかりに自分の活動の近況を語るレイサに、ソウは笑いながら相槌を打つ。

 ここまでレイサに懐かれているのは、ソウが度々トリニティを訪れている中で交流を深める機会があったのが原因だ。

 

 現在のこの様子からは中々想像できないが、人間関係においてレイサはむしろ他人に嫌われないように遠慮がちになるタイプである。そんな彼女をソウがその器の大きさで受け止めたのがきっかけだった。

 レイサの性格を理解し、時にからかい、時に褒めて、時に意地悪なコミュニケーションを取ってくれるソウという人物との出会いは、自分から踏み込むことが中々出来ないレイサにとって非常に嬉しいものだったのである。

 

 どんな自分でも受け止めてくれるソウとの交流は、人見知りなレイサにとって珍しく気の置けない関係といえるものだったのだ。

 

「最近は――」

「お、いいねぇ」

「この前新しくできたカフェが―――」

「確かに一人じゃ入りにくい空気あるかもなぁ」

「杏山カズサが―――」

「はっはっは!」

 

 次から次へとマシンガンのごとく様々な話題を投げるレイサに、ソウは笑いながら聞き役に徹していた。

 心を許した相手にはどんどん距離が詰めていくタイプなのか、レイサはぐいぐいとソウに近づいてくる。話の中でスマホの画面を見せるためにくっついたり、近くを通ったお店を紹介する際に、お店を指差しながらソウの腕をひっぱったり、かなりスキンシップが激しい。

 しまいにはコアラのようにしがみついてきそうな勢いである。

 

「あっ、とすみません……!」

 

 だが時折距離の近さにハッとなると、頬を赤らめて離れたりもする。

 宇沢レイサという少女は、人見知りでありながら人懐っこくもある、個性的な少女であった。

 

「そろそろ校舎ですね! ってあれ……あそこにいるのは」

「あっ! おーい! ソウさんこっちだよー!」

 

 そうして二人並んで歩いていると、目の前に目的地であるトリニティ校舎が見えてきた。レイサがそれを確認すると同時、その入り口にとある人物が立っているのが見えた。

 桃色の長い髪は毛先に行くにつれて水色にグラデーションしており、小さい顔、白い肌、整った顔立ちはトリニティの白い制服姿も相まって、まさしくお姫様のよう。

 

 トリニティ総合学園生徒会組織《ティーパーティー》の一人、聖園ミカである。

 

「や、お姫ちゃん。お出迎えありがとうな」

「もーミカって呼んでっていつも言ってるのに。うん、今日は私がお出迎えだよ! それで、貴女は?」

「あ……う、宇沢レイサです!」

 

 ソウと挨拶を交わすミカは、傍に立つレイサを見て首を傾げながら素性を聞いた。

 彼女からすれば単純に問いかけただけだったが、生徒会組織である《ティーパーティー》の一人であるミカは、レイサにとっては目上の存在であり、人見知りも相まってどこか圧を感じてしまう。

 どもってしまいながらも名前を告げるのが精いっぱいだった。

 

「途中で会ってな。護衛も兼ねてここまで案内して貰ったんだ」

「ふーんそうなんだ、ありがとね! ここからは私が引き継ぐから、大丈夫だよ」

「あっ、は、はい……では、私はこれで……」

 

 ソウがフォローするように経緯を説明すると、ミカは納得したとばかりに礼を言い、引き継ぎを申し出る。

 ミカにそんなつもりはないのだが、レイサは人見知りから暗に下がれと言われたような気持ちになり、萎縮しながらその場を去ろうと頭を下げた。

 

「ありがとうな宇沢。次会ったときはまた話を聞かせてくれ」

「! は、はい!」

 

 だが、ソウがそんなレイサの背中をぽんと叩いて礼を言うと、レイサはミカの圧力からソウが守ってくれたような温かさを感じ、途端に元気になる。

 もう一度バッと腰から頭を下げると、ではまた! と告げてその場を去っていった。

 

「私なんかしちゃったかな?」

「人見知りな子なんだよ。目上の人間を前にしたら萎縮もするさ」

「そっか、まぁいいや。ほら行こ! ナギちゃんも待ってるからさ」

「はいはい」

 

 レイサの様子が気になったミカだったが、ソウが理由を説明するとそんなものかとすぐに切り替えた。

 そうして、ぐいっとソウの手を取ると、引っ張るようにして歩き出すのだった。

 

 




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