爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
気がついたら知らない部屋でゲームのキャラクターに憑依していた(そして咽せる)
気がつくと、目に入ったのは知らない天井だった。
薄暗い、無骨な石造りの寒々しい天井と壁。姉貴の胸部装甲と比較してなお、垂直で平坦な壁である。
見覚えのない部屋だ。
こういう時に発するセリフは、お約束のアレしかない。
「ここはどこ? ……なんじゃこりゃあああぁぁぁ!?」
そして、声を発したところそんな絶叫が喉から出てきた。
ゲホッゲホッ、オエ……あかんむせた。
石造の部屋に絶叫が響き渡り喧しいが、そんなこと気にしていられない。むしろ咽せただけで落ち着いた俺のメンタルを褒めるべきだ(落ち着いてない)。絶叫のせいで喉と耳が痛くなったが、必要な犠牲だ甘んじて受けるべきである(必要ない犠牲だった)。
しかし待って欲しい。
なんじゃこりゃあああぁぁぁ!? などというテンプレな絶叫を響かせた俺は悪くない。だって俺の声じゃなかったんだもん。もんとか言うな気持ち悪い。
そう、先ほどのここはどこ発言と、その後の絶叫。
その声は俺が確かに発したはずなのに、俺の声ではなかったのである。
意味わからないって? 俺もわからん。だから絶叫した(する必要なかった)。
俺はもっとダンディな男らしい低い声だった。ただし汚い。
しかし俺の喉から出てきたここはどこ発言の声は、絶壁輝く我が姉貴の同業者の声とそっくりの、俺のダンディなだが汚い声より一段高い、あどけなさが残るようなこのうるさいやつの100倍綺麗な声だったのである。
なぜか他人の声が出る喉をさすりながら、俺は意識を取り戻す前の記憶を掘り起こしていた。
──ポワワわぁぁん──要らん効果音
俺の名前は
職業は親父が社長をしているとある金属加工会社に勤務する未来の工場長とかほざく新米の職人である。
ゆくゆくは会社を継ぐべく精進する、その道半ばなのだ。
家族は両親と祖母、姉の5人。
両親は俺の勤める会社の経営陣、胸部装甲がほぼ平らな我が姉は声優をしている。
そしてこの部屋で目覚める前の最後の記憶は、我が姉貴が声優として出演しているあるゲームの最新作がいよいよ発売されることとなり、それがシリーズの完結作だったこともあり、アフレコが終わった記念にと姉弟で豪華客船で海外旅行を楽しむことになった矢先に、沈没事故に遭い夜の海に沈んだという思い出しただけでゾッとする体験をしたというものなのである。
以上、説明終わり。
──ポワワわぁぁん──無駄でしかない効果音
……こうして思い出して、自分の声なのに自分の声じゃない俺の今の声を聞いて、そして今の俺の姿を見て、気づいたことがある。
この姿、そしてこの声。
それが示すのは、俺がそのゲームの世界のキャラクターに転生、あるいは憑依したというものである。
姉貴がシリーズ通して出てくるキャラの声優を担当したゲームだぞ! これはシスコン。
姉弟揃って未発売の最新作をのぞいてやり込んだゲームだぞ! 普通にシスコン。
格好と声、そして知らない部屋だけどゲーム画面越しなら見たことがある部屋だということに気づいたこの部屋! このキャラの住処になっているこの部屋!
これだけの情報があれば、俺がゲームの知っているキャラクターになってしまったということは分かるわ! これはファン。
「俺、2のダンデライオンになってるじゃねえかあああぁぁぁ!!」
どうやら俺は豪華客船の沈没事故で死んだらしく。
生前に姉が出演していたゲーム“Foreigners”シリーズの第二作に登場する中ボスの“ダンデライオン”というキャラに憑依してしまったようである。
……ちなみにまた咽せた(要らん情報)。
登場人物
周防 イツキ
主人公。ボンボン。海外旅行にて豪華客船の沈没事故に遭い、気がつくと姉が声優として出演している無双系アクションゲーム“Foreigners”シリーズの第二作“Foreigners 2”に登場する中ボスのキャラクター“ダンデライオン”に憑依していた。叫ぶと咽せる。
ダンデライオン
イツキが憑依した中ボスキャラ。つまり敵キャラ。爽快なのに鬱ゲーなどと呼ばれている無双系アクションゲーム“Foreigners”シリーズの第二作“Foreigners 2”に登場するテロ組織の幹部。褐色の肌に銀髪、空色の瞳が目を引く青年。ダンデライオンは本名ではなく組織内のコードネームだが、作中では本名が判明しなかったため不明。全面石造りの寒々しい廃墟をねぐらにしている。ダンディだと思い違いをしているイツキの声より一段高い、あどけなさが残る声をしている。咽せるのはイツキであり、彼は咽せない。