爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
──電子音が聞こえる。
ピッ……ピッ……ピッ……。
途切れることなく一定のリズムで刻まれる、この体の生存を示す鼓動を検知している電子音。
鼓動を検知してリズムを刻む機械の音。
寝ても覚めても心音を刻む限り止まらず鳴り続けるその電子音が継続されている中、別の音が聞こえたことでそれに反応し目を開く。
目に入るのは、いつもの無機質な真っ白な天井。
壁も床も白一色の部屋には、こちらからは鏡にしか見えないマジックミラーの窓と部屋には出入りのための扉が一つだけ。
無機質で広い部屋の中央にはこの身体を封印している棺桶と、議会の奴らがデータを取るために身体中に取り付けたセンサーが繋がれた機械があるのみ。
部屋には誰もいない。
機械が刻む電子音とは別のその音は、部屋の外からな聞こえてきた。
人の足音が1人分。
施設の職員かと思ったが、それにしてはまともな人間の耳では拾えないほど静かな足音だった。
足音はまっすぐこの部屋に向かっている。
迷い込んだ足音ではない。明確にこの部屋を目指している足跡だった。
──ああ、そういえば今日だったか。
唯一の部屋の出入口である扉に目を向ける。
部屋の前に到達した足跡の主は、厳重に幾重にもロックされている特殊合金製の扉を外側からガタガタと開けられないか試してから、開かぬならば壊してしまえと言わんばかりに蹴り破った。
破壊した扉をくぐり、足跡の主が部屋に入ってくる。
扉を破壊した侵入者の外見は、新しい魂が教えてくれた通りの人物。
この身に宿る人類の武器としてではなく同胞殺しを強要されたフォーリナーたちの怨念によって生まれた呪われたパラディソス──オーバードーズを保有する破壊者の1人。
この世に4枠だけ存在する、この身に宿るものと同じパラディソスを得た、世界に拒絶され世界を拒絶する、4人だけの同じ境遇を強いられてきた
「……オーバードーズの一角、善の敵対者“アジダハーク”の保有者だな」
「そういうオマエは、星の敵対者“ウラノメトリア”の保有者だな」
怨念から生まれたオーバードーズの保有者同士は、相手の存在と保有する怨念を感じたら理解することができる。
名前を名乗らずとも、お互いの保有するパラディソスは認識できた。
「アリサが教えた通りだな」
「…………」
そして、封じられているオーバードーズの保有者は、この来訪を知っていた。
9年前──パラディソスを保有することになった日に、本来ならば食われて怨念に突き動かされる亡者にされたはずのこの身に宿った、別世界から来たという異邦人の魂の記憶が。
「なら、借りは返さねえとな」
この日──終わるはずだった運命が延命され、本来は辿り着けなかった20歳を迎えることができた日。
大陸議会に囚われていたこの施設を訪れるオーバードーズの保有者によって、自由を得ることになるという未来の記憶。
この日を命の灯火を切らさずたどり着くことが叶ったならば、延命の借りをその異邦人に返すことを決めていた。
「おい、ウラノメトリア。オマエは、コイツを自由にするためにきたんだろ?」
「肯定。アジダハークの保有者を解放、それが兄の残した未練故に」
「そうかよ。なら、しっかり世話してやれ」
「……了解。その身に宿る魂、当方が保護する」
ウラノメトリアの保有者は、この身に宿る異邦人の魂を認識していた。
ならば話は早い。
どの道、こっちは長くは保たないのだから。
だが、ここから出た後の宿木も必要だろう。
これで延命の借りはチャラだぞ。
「頼んだぜ……」
そして目を閉じる。
魂は入れ替わる。
6億もの怨念と同居してもなお輝きを失わなかった、同じ声のこの異邦人の魂へと。
「ぅ……ふあぁぁ……よく寝た〜──って、ここどこ!?」
次に目を開いた時──アジダハークの保有者の魂は、別世界にて声という形の命をこの肉体に与えていた人物のものへと入れ替わっていた。