爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感)   作:火星で1,000往復

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別視点:転生者 1

 

 私の名前は周防(すおう)アリサ。

 職業は声優。代表作はForeignersという無双系アクションゲーム。シリーズ4作品全てにプレイアブルキャラとして登場する“ココ”というキャラクターの声を担当しているよ。年齢はサバ読んで28歳30歳。

 家族は両親と祖母、そして私のことが大好きな弟の5人。

 父は祖父の代から続く金属加工会社の社長、母はその会社の専務、弟も大学を卒業後に社員として働いてる。この弟が会社を継ぐからと、アニメとゲームが大好きだった私は夢だった声優の道を選ぶことができた。

 

 そうして家族に支えられて夢を追うことができた私は、Foreignersの最新作であり完結編となるシリーズ4作目“Foreigners 4”の制作が終わった記念に、重度のシスコン弟と一緒に豪華客船で船旅に出たんだけど……その先で客船が沈没するという事故に見舞われて、私自身も弟共々水に沈むことになって──

 

 

 

「覚醒確認。拘束を解除する」

 

 目が覚めると、壁も天井も白一面で埋め尽くされた部屋で、Foreignersシリーズに1と2ではラスボスとして、3では主人公の仲間として登場する、シリーズの裏の主人公とも言える重要キャラであり、私にとっては声を演じる先輩の声優さん共々大好きなキャラ“霧前(きりさき)ハクノ”が目の前に立っていた。

 

「え? ハ、ハクノ! リアルハクノ何で!? てかここどこ? いやそれ以前に、今更ながら私なんで椅子に縛り付けられてるの!?」

 

 待って待って、情報量が多すぎる! 

 

 目の前にはゲーム画面から飛び出たかのようなリアルハクノが先輩さんの超良い声発して立っていて、一面白一色の知らない部屋にいて、しかもなぜか私椅子に縛り付けられている状態になっていて、なんか日焼けを通り越してペンキ被ったみたいな肌色になっていて、何故か周りよりほんの少しだけささやかな大きさだった胸が私の知るそれより膨らんでいて、髪の毛なんか銀髪になってるしで、もう情報量が多すぎて処理しきれてない! 

 

 確か私は客船の沈没事故に遭って水に沈んだはず。

 生きているなら助け出されたんだろうけど、起きた場所は病院のベッドではなく白一面の部屋。

 そして目の前にはゲーム画面の奥から迷い出てきたリアルハクノ。

 そのリアルハクノがデビュー当時から何度もお世話になってきた先輩の声で喋っている。子供の頃から大好きな声を聞き間違えるはずない。

 でも先輩はこんな長身でもこんなイケメンでもないし、一言が足りない口調とかは完全にハクノだから、先輩がコスプレしている線はなさそう。

 

「あれ? でもここって……それに今のセリフ……」

 

 まさか私死んだんじゃないだろうかと思ったところで、先輩を思い浮かべたためかある場面を思い出した。

 

 それはForeignersシリーズの制作にゲームキャラの声優として携わったある日の収録の場面。

 初めて憧れだった先輩と並んでマイクの前に立った場面。

 

 扉とマジックミラーが一つだけの一面白い部屋。

 その中央で機械に繋がれ、身動きが取れないように椅子に縛られている()

 そこに扉を破壊して登場し、拘束を解くハクノ。

 

 ──フォーリナーという脅威によって崩壊した世界。

 その世界を建て直した人類の二大勢力の一角であるユーラシア大陸議会が保有するとある施設。

 表向きにはフォーリナーの研究機関とされるこの施設に極秘裏に封じられていたフォーリナーが脱獄するという事件が発生した。

 襲撃者は国際指名手配犯である霧前ハクノ。

 脱走したのは検体No.XXXX。

 共にオーバードーズの保有者──

 

 ハクノのセリフ含め、Foreigners2の冒頭の場面にそっくりだった。

 

 

 

 ……ここがゲーム画面ではなく、私が見ている光景がゲームのようにプレイヤー視点でもハクノ視点でもなくく、私が演じたキャラである()()の視点になっていること以外は。

 

「ひょっとして、ひょっとしてだよ……まさかと思うけど……」

 

 ゲーム画面じゃない。

 360度、上下も含めて視界がある。

 しかも拘束されていたり、機械が繋がれていたり、それを解くハクノの手まで、触れている感覚がある。

 匂いもある。音もある。

 VRでも再現できない5感全てが、本物であることを教えてくれている。

 

「これってつまり、Foreigners2の世界でココになっちゃったっていう夢──」

 

「否定、ここは現実」

 

「いーや、マジですか」

 

 夢を見ていると思ったけど、リアルハクノに否定されて、会話が成立していることとかから夢じゃなくて現実であることを突きつけられた。

 

 ……これって、いわゆる転生ってやつなのかな? 

 こうなった原因、豪華客船の沈没事故で私も水没したっていうすごい心当たりのある記憶があるんです。死んだとしても全然おかしくない、むしろ納得できる記憶が。

 

 しかし、まさか自分が演じたキャラに転生するなんて……。

 

 Foreignersシリーズの最新作は収録も制作も終わったし、発売を待っている皆さんには私が演じたココを届けられるから良いんだけど、遺作になっちゃったのかぁ……。

 

 現実を知り沈む私をよそに、ハクノは椅子に縛りつける機器を全て解除して、手を差し伸べてきた。

 

「今は脱出が最優先。行くぞ」

 

 ここもゲームのセリフと同じ。

 画面の向こうでしか見られなかったハクノが目の前にいて作中の場面を見せてくれる感動が半分、転生したら平和が遠いForeignersの世界という絶望が半分といった心境です今の私。

 

 ゲームだとこの後最初のバトル、フィールドを駆け回りワラワラ出てくる敵を片っ端から薙ぎ倒していく爽快な無双アクションが始まるのだけど……あれが現実になるとしたら私は生き残れる自信がない。

 

 このココというキャラは、ゲームの中ではプレイアブルキャラということもあって無双アクションの無双する側、しかもトップクラスの強キャラだ。

 けど中身の私はココの声優というだけで、ココじゃない。ゲームみたいに戦えないし、そもそも無双アクションの源となるパラディソスっていうものの使い方とか全くわからない。

 

 ゲーム中だと、この場面はハクノがプレイアブルキャラ。

 ココを助けてから施設脱出を目指し一緒に施設内を進み、ワラワラ出てくる大陸議会の兵隊たちを薙ぎ倒して出口まで進んで、そこで自由になれたらもう用済みだと敵になったボスのココを撃退して終了というステージになる。

 

 でも私戦えないし、このラスボスキャラと戦いになんてなったら一瞬で返り討ちにあって2度目の人生終了になる自信あるんですけど! 

 

 ここにいると大陸議会の兵隊に囲まれて、もう一度捕まればココのことを実験動物にする研究者たちのモルモットにされバッドエンド。

 ハクノについていくと私が戦えなくても1人でも十分すぎるほど強いから施設からは出られるだろうけど、出た後で喧嘩を売るとバトルとなりデッドエンド。

 

 バッドかデッドの結末しかない。

 ──作中のココのように、ハクノにケンカを売らなければ。

 

 1のストーリーが関わってくるけど、この施設にハクノはココを助けるために来た。

 その後もストーリーを通じてハクノはココと何度か戦うけど、どの場面も一方的にココがハクノを襲う形であり、ハクノは一貫してココを敵として見なかった。

 

 声優として、ココになってしまったからにはゲーム中の彼女をしっかり演じなければという使命感が湧くけど、一度死んだとしても流石に私は私が大事。

 なので監督はじめ製作陣のみんなには本当に申し訳ないんだけど、私はバトルジャンキーではなくハクノに喧嘩を売らずついて行くことを選びます! だってもう2度と死にたくないから。

 

 まだまだ整理しきれてないけど、今はハクノの言う通り彼についていってこの施設を出るのが最優先。

 考えごとはそれからだと、私はハクノの手をとって立ち上がった。

 

「ありがと。案内よろしくハクノ!」

 

「……了解した、異邦人」

 

「……え?」

 

 ハクノの手を取り立ち上がって案内よろしくとお願いすると、ハクノは私のことを何故か“異邦人”って呼んだ。

 あれ? 確かハクノってココのことを最初はパラディソスの名前である“アジダハーク”って呼んでいたはずなんだけど……。

 私はついハクノって呼んじゃったけど、ココの方も最初は同じくパラディソスの名前である“ウラノメトリア”って呼んでたし……でもなんで異邦人? 

 

「い、異邦人?」

 

「自己紹介も後回しだ。自己防衛のみ考慮しろ、逸れずついてこい」

 

「わ、わかった!」

 

 なぜ異邦人と呼ぶのか気になるけど、警報が鳴り出したのでとにかく今は脱出が優先、気になることは施設から出てから尋ねれば良いと、ハクノの先導に従い部屋を出る。

 

「いたぞ!」

「奴らはオーバードーズ、人類の敵だ! 構わん、撃ち殺せ!」

 

 そして部屋を出るなり、早速ワラワラと出てくる兵隊たち。

 ゲームではザコだったけど、リアルでガタイのいい銃を向けてくる多数の兵隊たちってめっちゃ怖いんだけど! 

 ハクノが前に出てきた直後、ゲームで聞くのとは桁違いの大きな音を鳴らしながら、兵隊たちから無数の銃撃が襲ってきた。

 

 怖い怖い怖い怖い! リアルの銃声と飛び交う銃撃、ものすごく怖い! 

 

 頭を抱えて耳を塞ぎその場にうずくまり怯えることしかできない私の前で、襲ってくる銃撃を1人で受けるハクノ。

 怖かったけど、私を守るためにその銃撃に晒されているハクノが心配で、うっすら目を開ける。

 

「接続、起動」

 

 銃弾の嵐をものともせず立つハクノは、その身体に融合したパラディソス──ウラノメトリアを展開する。

 

 直後、ハクノの身体を内側から湧き出てきた黒いガスが覆い──そして1秒ほどで消えると、その中からいかにも黒騎士って感じの頭から足先まで全身を覆う真っ黒なフルプレートアーマーに身を包む、プレイヤーたちにとってお馴染みの姿のハクノが現れた。

 

「────ッ!」

 

 そして、ハクノがパラディソスを展開した光景を目の前で見た瞬間。

 私は知らないはずなのに、まるで今まで忘れていたことを思い出すように、頭の中にココの保有するパラディソス“アジダハーク”の使い方が浮かんできた。

 

「アーツ展開」

 

 あれだけ恐ろしかった銃撃は、まるで水鉄砲のように見える。

 あれだけ怖かった大陸議会の兵隊は、まるでチワワが必死に虎に向かって吠えているような姿に見える。

 

 それがきっと、バトルでは無双しまくるココというキャラが見る、本来の景色なのだろう。

 

 展開したパーツを用いて兵隊を1発で蹴散らしたハクノの姿を見て、“私だってこれくらいできる”という、転生前の私は絶対に思わなかっただろう感情が湧き上がった。

 

「これってココの感覚……?」

 

 その強さと喧嘩っ早さ、助けた恩人相手にも襲いかかる姿から、演じた私すらバトルジャンキーと思ったココの闘争本能。

 この身体に宿るその本能が、目の前の戦いを見て“オレも混ぜろ”と激しく訴えている。

 

「……起動」

 

「……アジダハーク」

 

 自然と私はその訴えに従って立ち上がり、体のほうが思い出してくれたやり方に従ってパラディソスを起動する。

 

「“オレも混ぜろ、ウラノメトリア”」

 

「了承、アジダハーク」

 

 新手の兵隊を前に、ハクノの横に並ぶ。

 自然と、同じ場面で収録したココのセリフが口から出てきた。

 

 そして隣に立つハクノの返事も、ゲームで出てきたものと全く一緒。

 

 もう戦いに怯えるアリサの感情は、ココの闘争本能に塗りつぶされていた。

 

 

 

 

 

 楽しみだ。

 立ち塞がる敵の群れを薙ぎ払う爽快なバトルが。

 一騎当千の力を振るい、雑魚の群れを一方的に蹂躙するのが。

 隣に立つ男のような強い敵と命を削って力をぶつけ合うのが。

 

 宿る魂が変わろうとも、器の肉体に刻まれた本能は、武器として融合したもう一つの生命が持つ蹂躙への渇望は、消えることはない。

 

 フォーリナーの怨念によって生まれた4つのパラディソス、オーバードーズの一角を起動した時。

 転生した魂とこの世界で生きてきた肉体は一つとなり、ココとしての自己を確立することとなった。





登場人物

周防 アリサ
転生者。イツキの姉。海外旅行にて豪華客船の沈没事故に遭い、目を覚ますと自身が声優を担当している無双系アクションゲーム“Foreigners”シリーズに登場するキャラクター“ココ”に転生していた。ハクノの担当声優のファン。

ココ
アリサが声優を務めており、転生先になったキャラクター。爽快なのに鬱ゲーなどと呼ばれている無双系アクションゲーム“Foreigners”シリーズに登場するプレイアブルキャラの1人。恩人相手だろうと襲いかかるほど戦いが好きなバトルジャンキー。人類の武器にされてきたフォーリナーの怨念によって生まれた特殊なパラディソスであるオーバードーズの一角であるアジダハークを保有しており、大陸議会に囚われ実験動物として幽閉される日々を過ごしてきた。ゲームではその過程で心が壊れ、やがて怨念により命も失いアジダハークに肉体を乗っ取られることとなる。しかし幼少の頃すでにアリサの魂が宿っていてその記憶を垣間見て自由になる日が来ること知り、2つの魂で怨念に耐えてアジダハークに飲まれることなく20歳を迎えることができた。自由になる日を迎えるまで生きながらえることが出来た恩を返すためにアリサに肉体を譲り、ココの魂は眠りについている。
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