爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
Foreignersシリーズとココというキャラは、私にとってとても大きな存在。
デビューして間もない新人だったころから、10年にわたってシリーズ4作全てに登場するプレイアブルキャラの1人を担当した、1番多くの声を吹き込んだ仕事だった。
弟も私が出ているからという理由で買って、一作目からずっと一緒に楽しんできた作品。
何度も見てきた、何度もやった、2の最初のバトルフィールド。
ゲームの画面でしか見てこなかった施設が、立ち塞がる多数の敵が、今目の前の現実として存在している。
ゲームではハクノを操作して挑むことになるステージだけど、いつもその隣で戦いそして最後にボスになって立ち塞がるココが、今の私だった。
「バスター展開!」
戦いへの恐怖はもうない。
この身体が戦いを求めている。理性を上回り、立ち塞がる敵全てを薙ぎ倒せと叫んでいる。
その高揚感に身を任せて、この身体が教えてくれたパラディソスを起動し、パーツを展開する。
本来は5つのパーツからなるパラディソスだが、アジダハークは特別なパラディソスであるオーバードーズ。
その最大の特徴は、6億という他のパラディソスを圧倒する数のパーツで構成されているというもの。
その無限とも思える大量のパーツの中からバスターの一つである大鎌を展開。
銃撃の中を掻い潜り間合いを詰めて、ココの身長に匹敵する黒く禍々しい死神が振るうようなその大鎌を振り回した。
一振りで数人の人間がまとめて切り裂かれ、吹き飛ばされる光景。
それはゲーム画面の先に広がる戦場が現実に飛び出した景色であり、けれどもゲーム画面では容量の節約や対象年齢に合わせたことで描かれなかった倒された敵が上げる血飛沫や骨が折れる音、吹き飛ばされて転がり残る死体があった。
さっきまでの私なら卒倒していただろう、視覚だけでなく嗅覚も聴覚もリアルで感じられるR-18確定の惨状。
けれどそれを見ても吐き気を覚えたりすることはなく、むしろもっと敵を薙ぎ倒したいという高揚感が湧き上がってきた。
ウラノメトリアの特徴的なシールドを展開したハクノが隣に立つ。
アジダハークのアーマーが自動で銃撃を認識してシールドを展開するから私を守る必要なんてないのに、バスターを振り回して暴れる私の邪魔にならないように器用に、そして的確に動いて銃撃からシールドで守ってくれている。
戦いやすい。
アジダハークもウラノメトリアも仲間と戦うよりも1人で戦う方が適しているパラディソスだけど、自身のオーバードーズを使いこなすハクノはとても立ち回りが巧かった。
「出口は──」
「知ってるよ! 指図するな、オマエがついてこい!」
「了解」
ハクノが出口を案内しようと呼びかけるけど、このフィールドは何度も攻略した。
私に案内はいらないむしろオマエがついてこいと、記憶の中にあるゲーム画面で見てきた光景を思い出しながら、ハクノの前を走る。
声という形でこの子に命を吹き込んだのは私。
戦闘中の高揚感はココのものだろうけど、ハクノのことを“オマエ”呼ばわりすることといい、女の子らしくない乱暴な言葉遣いといい、口調は自然と私の演じたココのものになっていた。
「バスター
鎌の次は槍。
マジックミラーの先の部屋を出て、少し進んだ角を曲がった先に伸びる長い通路。
その先から続々と来る兵隊たちに向かって、槍を投げ飛ばす。
ハクノだったらアーツのパーツを展開して近づかれる前に蹴散らすこの場所。
投げられた槍は一直線に通路の先に飛んでいき、集まってきた兵隊たちに当たった瞬間に爆発してその群れを1発で吹き飛ばした。
「クゥ〜! 爽快だな、さすがは無双アクション!」
「無双……言い得て妙と評価」
「そいつはどうも! ほら遅れんな、行くぞ!」
ストーリーは憂鬱だけど、アクションは爽快。
この敵の群れを1発で薙ぎ払う時が最も感じられる爽快感を得ながら、敵を吹き飛ばして道が開いた長い通路を走りだす。
「……でもこういうところはリアル」
そして先ほど投げ槍爆弾で吹き飛ばした通路には、兵隊たちの残骸とゲームでは特定のオブジェクト以外は何をしても傷つかなかったはずの床や壁が破壊された惨状が残されていた。
ゲームだと省かれていたこういうところを見るとやっぱりリアルなんだなって、ボコボコになった通路を飛び越え、改めて転生してここがゲームではなく現実なんだということを認識する。
錆びた鉄の──人の血の匂いがする。
抉れた肉が、剥き出しになった腑の残骸が床に飛び散っている。
簡単に人が殺せる力。
それを振り回してこの残酷な光景を作ったというのに、私の中に満たされるのは殺人に対する罪悪感ではなく戦いに対する高揚感だった。
ハクノと並びForeignersシリーズに登場するプレイアブルキャラでは最強格に数えられるココ──私が声を当てて、弟が推してくれたキャラ。
命を消耗する戦場に飛び込んで、立ち塞がる敵全てを薙ぎ払い、強敵との闘争に命を燃やす戦いを好むバトルジャンキー。
ゲームでは本当のココはすでにオーバードーズに飲まれていたけど、今は私が転生する形で入っている。
そして、この湧き上がる闘争本能が、本当の彼女の魂もこの体にいるんだと訴えているように感じる。
だって、この高揚感は私──アリサとしての私にはあまりにも似合わないものだから。
この子は訴えている。オレは生きているんだって。
この子は感じている。オレの命は燃えているって。
命を消耗品にする残酷な戦場という世界だから、無双して暴れて壊して薙ぎ払って、他の多くの灯火を消し飛ばして感じているんだ。自分が生きているってことを。
「アーツ展開!」
取り出した次のパーツは三十の銃身が束ねられたガトリング砲。
直線通路を曲がった先にあるゲームでも破壊可能だった壁とその先にいる兵隊の群れに向けて、無数の弾丸を発射した。
「蜂の巣になりやがれ!」
施設にいるのはココを捕えてずっと幽閉して実験動物扱いしてきた連中だから、容赦する必要なんてない。
壁越しに集まっていた大陸議会の兵隊たちが挽肉になり、投げ槍爆弾攻撃でボロボロになっていた壁もガトリング砲の銃撃の嵐には耐えきれず崩れ落ちた。
「この先階段だったはず」
「派手に壊す」
「ハッ! 知ったことじゃねえな」
「同意」
用が済んだガトリング砲を戻して、壊した壁を越えて部屋の中へ。
ひき肉にされた兵隊たちの残骸と蜂の巣になった壁が残る部屋の奥に、出口がある上の階へと続く階段がある。
ゲームで何度も攻略してきたフィールド、最短ルートの脱出など余裕というもの。
階段を駆け上がると、ちょうど降りてこようとしてきた大陸議会の兵隊たちの一団と鉢合わせになった。
その中に1人、パラディソスの保有者がいた。
ゲームでは門番として出口付近にいた中ボスだが、彼らはデータ通りの行動しかしないゲームのモブキャラではなく生きた人間。
やっぱり、データにない行動──今回みたいに警報に反応して動くことくらいはするのだろう。
そして、パラディソスの保有者ということを見てハクノがスッと私の前に出てきた。
「お前は──!?」
「──遅い」
量産モブのグラフィックが当てられているようなザコと、ハクノとの実力差は明白。
国際指名手配されているハクノの顔を見て驚くその一瞬のうちに、すれ違いざまにハルバードを振るったハクノによって周りを固める雑兵もろともなます切りにされた。
「わーお、だるま落としみたい」
あんな長柄でどうやったらそんなふうにスライスできちゃうのか。
綺麗に1人につき5つくらいに横に輪切りにされて、だるま落としみたいにボロボロとたくさんの死体になって一団が崩れ落ちた。
「……戦闘要員は排除完了」
これが最後の敵みたいで、もう向かってくる兵隊はいなくなっていた。
ハクノに先を越されたけど、私だって分かてるからそれくらい!
今回はざっと三百ってところかな。
「調子に乗らないでよ。私の方がずっとたくさん倒したんだから!」
「…………」
さっきまでサポートに徹してくれていたのに、パラディソスの保有者が出るなり最後の美味しいところ持って行ったハクノに抗議したけど、無視された。
「出口確認」
「ちょっ、ちょっと待って!」
そしてさっさと出口に歩いて行くハクノ。
いや守る必要なくなるなりマイペースで歩き出さないでよ! 歩幅大きいって!
このガキめストーリーと同じように施設脱出後に襲ってやろうか、なんて淑女のエスコートを知らないハクノに最後に苛立ちを覚えつつ、私たちは施設の脱出に成功した。
もちろん本気じゃない。イキって最強キャラであるハクノを襲おうものなら、返り討ちにされて終わる自信がある。
ゲームだとここでハクノとはお別れになるココだけど、残念ながら転生者の私には行くあてなど無い。
この世界でオーバードーズの保有者は迫害されるし、街に降りても監視社会の大陸議会の勢力圏じゃすぐに見つかって呼んでもいないお迎えが群がってくる可能性が高い。
ならば、行先──ではなく頼る先は一つしかない。
オーバードーズの保有者同士、助けに来てくれた恩人でもあるハクノについて行くことにした。
「えーと……ついていって良い? 助けてくれたのはもちろん感謝しているけど、私頼る先がないんだよね」
「無論。保護のために救出したので」
「ありがと。私、ココっていうの。よろしくね」
「霧前ハクノ。了解、ココ」
ハクノには、アリサではなくココと名乗った。
それはそう。意識は私だけど、あの戦いのの高揚感の中で、確かにこの体にもう一つの魂があることを感じたから。
それに転生しようと、この子は私の声優としてのキャリアを代表する存在だから。
だから、私はココを名乗る。
こうして私は施設からの脱出を経て、ココとして転生した人生をスタートすることとなった。