爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
シスターの協力を得ることに成功した翌日のこと。
生憎の曇天の中、パッとしねえ中ボスのたんぽぽ野郎に憑依した俺は、今の職場でありいずれぶっ壊す気満々であるテロ組織“クリスタルスカル”の幹部会が行われるアジトに来ていた。
やることがいくつかあるため、2度目の教会訪問から4日──今日から数えると3日後にシスターと再びマスターのカフェで会う約束を交わしてる。
本格的にユグドラシルの野郎を退場させるための計画を始めるのはその日から。今は怪しまれないようにテロリストの幹部として働く。さもないと爆死させられるからな。自爆テロなんかする気ねえんだよ俺は。
ストーリーを網羅している俺は、成功率100%を誇る実際は40%といったところなユグドラシル退場計画をこの天才の頭脳で組み立てあるぜ。
シスターには次の秘密の逢引き会合でプレゼンし、この素晴らしい計画を組み上げた頭脳を賞賛させるつもりだ。
我が計画に穴はあるけど死角無し!
まあ、今日はクリスタルスカルの幹部大集合会があるので、そっちに出席するけど。
ユグドラシルの野郎は寂しがり屋なところがありそんなことない、こうして月に1〜2回くらいの頻度で幹部に招集をかける。
内容は色々あるが、だいたい次の目標の発表とそのための仕事を割り振る、或いは殉職した幹部の入れ替わりと紹介のためである。
今回は多分仕事だな。昨日のうちに日付を確認したら、そろそろストーリーでクリスタルスカルが動き出す時期だし。
俺はすでにユグドラシルの次の狙いを知っているから今回の幹部会の内容も大体想像ついている。今回振られるだろう仕事がこのパッとしねえ中ボス宛なので、欠席するわけにはいかねえのだ。
内容知ってるってのに、他に悲劇フラグ折るなどやることたくさんあるのに、くだらねえ会合に参加させられる身にもなってみろ。しかもクソ野郎な上司の呼び出しで。やる気起きないね、仕事だから大人しく出席してやるけどよ。態度でかいなこいつ。
というわけで、グランシャリオの高速移動でねぐらからこのアジトまで飛んできたわけだが。
会合まであと1時間くらいしかないというのに、アジトには1人しか幹部が来てなかった。
「開けろ! デトロイト市警だ!」
「来てるのまだボクらだけだよ」
アジトの入り口で偶然出会ったクリスタルスカルの幹部であり俺と同じ中ボスの1人であるメープルを従えて単に行き先が同じなだけだ会合の部屋に来た俺は、誰もいない部屋のドアを殴りつける。
反応はない。
そんなことをしている間にメープルがさっさとドアを開けて部屋へと足を踏み入れた。
「生意気なドアめ、俺が殴りつけて凹みもしねえとは……なんたる屈辱!」
「君そんなキャラだった?」
「お前こそ少しはツッコもうと思わないのかボクっ娘カナダ」
「せめてコードネームで呼んでほしいかな」
先ほどアジトに入る前に遭遇し、そして今さっさと席に着いたカフェオレカラーのショートヘアの人物。
一人称がボクなのと、コードネームから“ボクっ娘カナダ”と呼ばれているお前だけだよそう呼ぶのはこの女は、クリスタルスカルの幹部の1人──つまり俺の同僚である。
本名はキルリア・ロンド。
パッとしねえ中ボスのたんぽぽと違い、しっかりとキャラクターの名前が与えられており、中ボスなので敵専用のNPCだがストーリーの登場時間もたんぽぽよりずっと多く与えられている優遇された中ボスである。
ちなみにこいつもシスター同様にユグドラシルの野郎の野望を知っているが、破滅願望持ったあたおかなのでこいつにだけはあたおか呼ばわりされたくない退場計画への協力要請をしても無駄な人物である。
なんだよスポーティー美人の見た目にボクっ娘キャラだというのに破滅願望持ちの性格破綻者って……やっぱり制作スタッフの歪みっぷりは俺には理解できないね。お前も大差ない変人だからな。
「文句はユグドラシルに言え。メープルとか名付けたのはあいつだ」
「うん、だからメープルって呼んで欲しいんだけど。ボクっ娘カナダはやめて」
「お前はボクっ娘、そしてメープルといえばカナダ。極めて合理的な呼び方だろボクっ娘カナダ。やめてほしければユグドラシルに文句を言うかカナダの国旗をオーストラリアのパチモンだった古いのに戻せ」
「普通そこは一人称を変えるよう言うところだよね?」
「ボクっ娘は同じ重さの黄金より価値がある!」
「君ホントに何があったの? 今日帰ったほうがいいよ、ボクからユグドラシルに言っておくから」
「ほな帰りましょうか」
「帰るな馬鹿者」
メープルとボクっ娘カナダという呼称について議論していたらそんな大層なものじゃない体調を心配された。
こちらは五体満足だが、他者から見れば顔色が悪く映っているのかもしれない。ダンデライオンの肌ってメープルの髪色より濃い褐色だしな。
しかしメープルがユグドラシルの野郎に伝えておくから休むよう提案してきたので、ユグドラシルの野郎に会わずに済むなら喜んでと帰ろうとしたところで、話題のクリスタルスカルの首領が到着した。
ユグドラシル。
本名はウォーロン・カリスタ。
テロ組織クリスタルスカルのボスであり、俺を含めた幹部のパラディソスに爆弾を埋め込んで命を盾に脅しつけるクソ野郎である。
保有するパラディソスはあたおか野望を叶える権能を持つ“バルバトス”。
ゲームにおいてはForeigners2のボスNPCであり、2に多数存在する悲劇フラグの半数以上の原因となっているクソ野郎である。
「2週間ぶりだねボス。幹部はまだ揃ってないよ」
「構わんよメープル。まだ会合の予定までは1時間ほどある」
せっかく帰ろうとしたところを止めやがったクソ野郎は、メープルと軽く挨拶を交わすと、定位置に置かれた幹部たちの席より豪華な専用の椅子に腰を下ろした。
オーダーメイドの高級スーツ着こなしたオールバックのアラフォーが足組んで椅子に座ってんじゃねえよ、見た目だけはダンディでカッコいいじゃねえかよ。
ユグドラシルの言う通り、まだ会合まで1時間くらいある。
ボスのくせに重役出勤しないのかよこいつ。お前もだいぶ早いけどな。
「何しに来たんだよお前」
「トップが来なければ会議になるまい」
「どうせ隠れていちゃつくために早く来たんだろ。部下に手ェつけてんじゃねえよ変態オールバック野郎」
「貴様は先程からなんでそんなに喧嘩腰なんだ」
鬱展開を量産しまくるこの変態野郎のことだ、1時間早く来たのはメープルに命を盾に脅してムフフなハラスメントを仕掛けて愉しむためだったに違いない。お前の勝手な思い込みだよ。
まあ、俺も来ていたことでできなくなったけどな、ざまあみろ。
「え、ボスって部下に手をつけるタイプだったんですか……」
「違う、こいつの勝手な妄言だ」
「カトレヤとかに手出してるだろ、否定すんな」
「なんで貴様がそれを知っているんだ!?」
異性の部下に手を出すボスだと聞いてドン引きしているメープルにそんなことはないと冷静に否定するユグドラシルだが、見苦しい変態の隠し事などゲームをやり込み知識という武器を手にしている俺には通用しない。
というわけで、俺からマジで手を出しているという爆弾発言を投下。
慌てふためくことなく、あたかもそんなことはないと取り繕っているユグドラシルは、別の女幹部に手を出していたことを暴露されたことで一瞬にしてメッキを剥がされた。いや、マジで手を出していたんかい。
カトレヤというのはクリスタルスカルの幹部の1人である。
彼女も重たい設定を背負っているが、その重たい設定の一つに幹部になりパラディソスを得ることを引き換えにユグドラシルと肉体関係を持ったというのがあるのだ。
しかもカトレヤは16歳。未成年に手出しした上に爆弾をとりつけてその後も関係を継続しやがったクソ野郎である。
他の幹部には隠しているが、俺はこのことを知っているんだよ。
他にもかなりの数の部下に手を出しているので、立場を利用して好き放題している最低のセクハラ野郎なのである。
「うわ……流石にそれは最低じゃないですか」
「こいつの妄言だ、出鱈目だ!」
「見苦しいぞ変態オールバック。さっき自白しただろ“なんで知ってんだ”って。幹部昇格と引き換えにやりやがっただろ」
「なんでそこまで知ってるんだよ貴様は!?」
爆弾発言を投下したところ効果は抜群であり、他の幹部には隠していたはずと認識していたユグドラシルは驚愕して椅子から転げ落ち、よりにもよって最年少の方の女幹部に手を出していたことを知ったメープルの表情はドン引きから軽蔑になった。
その上、ボスと立場を利用し幹部昇格を条件に持った関係である。破滅願望持ちのあたおかでも見方が変わるのは当然だった。流石に擁護できない。
「ダンデライオンがいてくれたのに感謝しなきゃ」
「危ないところだったな」
「メープルに手を出すつもりはないからな。これは本当だからな!」
メープルにセクハラを仕掛けるつもりはないと弁明するユグドラシルだが、信用はもはや他に落ちている。
2人きりだったら手を出されていたと、メープルは俺がいたことに感謝する。
図らずも俺は悲劇フラグを折ることに成功したようである。俺も知らなかったフラグだったけどな。そらそうだ、ユグドラシルはこの場でメープルに手を出す意図は一切なかったのだから。
聖母様の時といい、ゲームをやりこんだ俺でもまだ知らない悲劇フラグがあるのは確かなようだ。あれはお前の自爆だろ。
「ダンデライオン、そういう貴様こそこんな早くから来てメープルを狙っていたのではないか?」
やられっぱなしでは気が済まなくなったのか、ユグドラシルが俺に反撃してきた。
奴の言い分はお前もセクハラ企んで早く来たんじゃないか、とのことだが、そんな弱っこちい反撃など俺には届かないね。
「急拵えの言いがかりだな、見苦しいぜ変態ボス。スポーティー美人でボクっ娘にもかかわらず──」
「美人って……照れちゃうな」
「28にもなってまだヴァージンなんだぞこいつ。誰がそんな事故物件──ブゴッ!?」
変態ボスとは違う、メープルには手を出すことなどない安心安全のタンポポ野郎であることを説明していたら、顔面に椅子が投げつけられた。
あれ? なんか前にもこんな展開あったような? お前が学習していないからだよ馬鹿野郎。
「……貴様は本物の馬鹿か?」
うるせえ、セクハラ野郎に馬鹿とか言われる筋合いねえよ。いや馬鹿だろ。
登場人物
ユグドラシル
本名はウォーロン・カリスタ。Foreigners2の主な敵であるテロ組織“クリスタルスカル”の首領。オールバックのアラフォー。保有するパラディソスはバルバトス。表向きは異界とのゲートを封印しフォーリナーの脅威の排除と二大勢力の糾弾を掲げているが、裏ではバルバトスを用いた世界の破壊と再生による自己の神格化を企む。2における多くの悲劇フラグの元凶。パラディソスに仕込んだ爆弾により、ヘリアンサスを除く6人の幹部の命を握っている。