爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
クリスタルスカルと大陸議会。
どちらも施設の攻防を巡る戦いに集中しており、そこに参戦してきた第三勢力の太平洋条約軍に気付くのが遅かった。
「アーツ展開──英雄様の通り道、派手に作るぜ! オラ吹っ飛びなぁ!」
英雄の率いる陸戦軍精鋭中隊──通常“置田中隊”所属、砲兵部隊小隊長“
彼は現在の太平洋条約の軍人及び軍属およそ250万人のうち、3500人程しかいないパラディソスの保有者の1人であり、中隊長のアサヒとは訓練兵で同期だった頃から最も長く轡を並べてきた戦友でもある。
太平洋条約軍の参戦を知らしめる初撃は、オーバードーズの保有者を狙い施設への突入を試みる中隊長の道を切り開き雑兵を吹き飛ばすために放たれた、彼のパラディソス“ハイペリオン”による砲撃の雨だった。
ハイペリオンのアーツが放つ砲撃の雨。
それがアサヒたち突撃部隊のルート上に広がる、施設に攻め入るクリスタルスカルの大軍とそれを阻もうとする大陸議会の守備隊が最も大規模にぶつかり合う正面ゲート前の広場に降り注いだ。
突然の奇襲攻撃。
それもパラディソスを用いた遠距離からの大規模攻撃。
砲撃に晒された両軍は吹き飛ばされ、広場を埋め尽くしていた人の群れはおよそ半数がハルトの砲撃によって戦闘不能に追い込まれた。
これによりアサヒたちの道を塞ぐ敵兵の数は減少、突入のための道が形成される。
加えて隊長に続けと言わんばかりに次々と砲兵部隊が発射する支援砲撃が、ハルトが撃ちこぼした広場に残る敵軍に陣営関係なく降り注いできた。
パラディソスは単騎で数百の敵を一方的に葬ることも容易な、個人で戦場を変えられる力を持つ。
その猛威にさらされた一般兵など数を揃えようともまともな障害にすらならない。
フォーリナーの侵略によって人類が獲得することとなった、異界の生命を用いた超兵器。
それに適合し、そして制御して己の力と変えた彼らは、一騎当千の強さを持つ。
「あれは──太平洋条約軍!? な、なんでここに──」
「──邪魔だ!」
そして、一騎当千の強者は中隊において1人ではない。
自らのパラディソスのバスターを握って先頭を走り突撃してきたアサヒもまた、強力なパラディソスの保有者である。
施設に突入しようと砲撃が降り注ぐ広場に到着。
大陸議会の統治下の只中にあるこの施設に、突如として現れた太平洋条約軍は両陣営に動揺を走らせた。
クラウソラスのバスター片手に広場に飛び込んだアサヒは、先ほどの意表をついた攻撃──太平洋条約軍の参戦と攻撃に混乱している敵に対しバスターを振るう。
その一振りで明らかにバスターの間合いが届かないはずの位置にいる大陸議会側の守兵の残党を含め、100人近い敵兵が蹴散らされた。
パラディソスの保有者の前では、ただの人間の兵士など足止め役にすらならない。
支援砲撃とクラウソラスの一撃により広場で先ほどまで殺し合いを演じていた軍勢はほとんどが倒され、施設の正面ゲートへの道が開かれた。
「このまま突入するぞ!」
「了解!」
開いた道をアサヒは躊躇うことなく駆け抜け、オーバードーズを捕らえているという施設に部下を率いて足を踏み入れた。
オーバードーズをクリスタルスカルに接触させるわけにも、大陸議会が拘束し続けることも、災いをもたらす。
その時1番の犠牲になるのは決まって力なき人々──民間人である。
(必ず止めるから……)
アサヒの脳裏に浮かぶのは、本気で人々の幸福と平等を目指し、フォーリナーの脅威なき世界を取り戻すためにテロリストの汚名を被り多くの血を流しながらも、人生も名誉も捨てて、犠牲を踏み台に太平洋を牛耳る支配者たちに挑んだ婚約者の姿。
今でも、あの日に戻ることができたらと過去を顧みては、生き残るべきは私ではなく彼の方だったと己を責めている。
けれど、それは最後に自身を犠牲にして愛し合い殺し合った人を救った彼の意思を踏み躙る行為。何度も自ら命を絶とうとして、決別がなければ家族になっていたはずの相手に仇だと命を狙われて、それでも生き抗い続けた。
当初は復讐のためにフォーリナーと戦い続けた少女は、望まぬ形で英雄となり、そして今では愛した人が志した力無き民間人を守ることが戦いの理由になっていた。
だから、躊躇わない。
オーバードーズの悪用は、世界を危険に晒す。
それを阻止するためなら、力なき人々を守るためなら。
何が待ち受けているかわからない敵国の施設にも飛び込むし、どんな障害が立ち塞がろうとクラウソラスで道を切り開く──!
施設に突入すると、内部でも戦闘が勃発していた。
大陸議会の守備隊は数の劣勢もあり、装甲車すら通れる正面ゲートの防衛に戦力を割いたことで他の入り口から数で勝るテロリストの侵入を許したようである。
バリケードを組んでなんとか押し留めようとしているが、しかし次々に侵入してくるクリスタルスカルの数の力に押され、突破を許しているところがあった。
「侵入者め、これ以上は──」
「──邪魔!」
そして、大陸議会にとってはクリスタルスカルだろうと太平洋条約軍だろうと敵対勢力。
施設の奥に進もうとするアサヒたちを止めようと、障害物に身を隠しながら通路に組み上げた簡易バリケードより銃撃を仕掛けてくる。
しかし机やロッカーなどを積み上げた簡易バリケードと小銃程度の貧相な守りでは、クラウソラスは止められない。
道を塞ぐバリケードに向かってクラウソラスを一閃。
直後にはバリケードもろとも守備隊は吹き飛ばされた。
バリケードを突破したアサヒは、鉢合わせになったクリスタルスカルの部隊を一撃で薙ぎ払い、その奥の通路を曲がる。
曲がった先の部屋で待ち伏せていた大陸議会の兵士たちがいたが、これも一瞬で片付けて部屋を突破。
その先に伸びる長い通路に到達する。
「これは……」
100メートルはある長い通路。
そこはすでに何者かが守備隊と激しい交戦を繰り広げてかのように、壁や床に破壊の跡と血痕が飛び散り、通路の隅には人だった黒焦げの残骸が転がっていた。
大陸議会の守備隊の姿はここにはない。
背後からクリスタルスカルが近づく音が聞こえる。
「オーバードーズはあの通路の先だ! 急げ、逃げられる前に抑えるぞ!」
近づいてくるクリスタルスカルの戦闘員たちの声が聞こえる。
奴らの狙いはやはりオーバードーズのようであり、施設の内情を知っているらしくこの通路の先にオーバードーズが収容されているという情報が聞こえてきた。
「中隊長、テロリストは我々が防ぎます。オーバードーズを!」
オーバードーズをテロリストの手に渡すわけにはいかない。
ここまで追随してきた突撃部隊の隊員たちが、アサヒをオーバードーズの元に行かせてテロリストたちを足止めするために通路に残ることを申し出る。
随伴する突撃部隊を率いる小隊長もまた、一騎当千の力を持つパラディソスの保有者だが、クリスタルスカルには同じくパラディソスの保有者であるダンデライオンがいる。
そしてクリスタルスカルがここに集めてきた数は施設を守る大陸議会の守備隊を圧倒するほどの戦力がある。
足止めするだけでも困難な圧倒的な戦力差だが、班長の言葉に全員が迷うことなく従い近くの瓦礫などに身を隠して待ち伏せる構えをとった。
テロリスト共がオーバードーズを手に入れることを阻止する。
その為に、オーバードーズの討伐に最も適した中隊の最高戦力を送る。
人類の脅威を相手にすることに比べれば、数ばかり多いテロリストの足止め程度、困難とも呼べない。
足止め役を買って出たもの達に迷いはなかった。
「まだ命令は──」
「行ってください隊長!」
「……ッ!」
一瞬、私も残るべきではないかと迷いの生じたアサヒだが、通路に現れたクリスタルスカルの戦闘員たちとの銃撃戦によって彼女の声はかき消される。
この場でクリスタルスカルと潰し合いをして時間を浪費すれば、それこそ大陸議会にオーバードーズを持ち去られる可能性が高い。
迷っている時間はない。
「死ぬなよ!」
「「「了解!」」」
アサヒは足止め役を買って出た部下たちに“死ぬな”とだけ命令して、1人通路の先へと走り去った。
「よし! ここが正念場だ、英雄様の背中守り抜くぞ!」
「了解、小隊長!」
「起動! ──シールド展開!」
残った彼らは、隊長の背を追わんとするテロリストたちの足止めのために、ここを死守すると奮起する。
足止め部隊を率いる突撃部隊の小隊長は、己のパラディソスを起動しシールドを展開して敵の銃撃を防ぐ。
ここは絶対に通さない。
その意思を体現するように展開したシールドが通路を塞ぎ、銃撃から味方を守る。
そしてシールドに守られながら彼の部下たちは反撃し、テロリストたちを次々に撃ち倒していく。
「──先を越されるとはな」
「……来やがったか」
しかし、その一方的な展開も長くは続かない。
一騎当千の強者は中隊だけではなく、テロリストたちの側にもいた。
褐色肌に銀髪の男──ダンデライオンが、自らのパラディソスであるグランシャリオのアーマーを纏った姿で通路に現れた。
登場人物
五十嵐 ハルト
Foreigners1〜2に登場するプレイアブルキャラの1人。環太平洋条約機構陸戦軍所属。主人公のアサヒとは同期であり、訓練兵時代からの長い付き合いの戦友。保有するパラディソスは“ハイペリオン”。1では同じ舞台に所属する同僚、2では中隊に所属する部下。