爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
妖怪キクミミモタズというのを知っているか?
人に取り憑き、他人の話に聞く耳を持たなくさせてしまうという恐ろしい妖怪である。
なぜそのようなマイナー妖怪の話をするのか。
それは、俺が今まさにその妖怪に取り憑かれてしまった主人公に襲われているからだ。
「ちょこまかと……ハエとは言い得て妙だな!」
「回避に徹する俺を捉えるのは至難の業だぞ! だから話を聞け、この場において俺たちが矛を交えることは最優先事項ではないはずだ」
「抵抗しなければ命まで取るつもりはない。大人しく拘束を受け入れろ!」
「テロリストと交渉しないという志は軍人として立派なものだ。だが、今この時もクリスタルスカルの兵隊とお前の中隊の兵士は銃を撃ち合っている。軍人ならば、無用な戦闘を避け味方の損害を出さない、不要な戦闘を避ける決断も重要だぞ!」
「私の中隊は陸戦軍の精鋭、素人に毛が生えた数だけの連中如きに撃ち負ける柔な鍛え方はしていない!」
「いやこっちだって軍役持ってるプロの信者も多数いるし、戦闘員に銃撃と体力作りの訓練はしてるし、毛が生えたよりかは使えるぞ! パラディソスを前にすれば雑魚だけどな!」
「軍人の責務に殉ずることを恐れる者に精鋭の席など無い! 私も含めて!」
「強情な小娘だな! 職務に殉ずるというならば、俺なんぞに構うよりオーバードーズを追うことに注力しろよ! ここは矛を収めて逃げたオーバードーズの争奪レースに切り替えようではないか! 何なら俺が持つ情報を渡すし、クリスタルスカルはレースを降りても良い! だからまずは矛を収めて話を聞け!」
「要らん、テロリストは全て駆逐する! 叶えもできない妄言で、民心を惑わし混乱を世界に撒く貴様等は、必ず潰す!」
「あながち妄言でもないかもしれないぞ! 平和な世界の可能性に賭けてみる価値はある! 詳細を話すから先ずは矛を収めろ!」
「戯言をほざくな! どうしてもというならば貴様の足を切り落としてからだ! その上で生きていたならば話を聞いてやる!」
「物騒なこと言うなよ! 話をするだけなら足を切り落とす必要はない!」
「話をするだけならば首から上があれば事足りるだろ! 足の二本落としたところで話すだけならば支障はない!」
「あるわ! めちゃくちゃ痛くて集中できねえし、そのあと車椅子生活になるじゃねえかよ!」
「心配無用だ、聞き出す情報を得たならば苦痛と無縁の世界に送ってやる!」
「慈悲はないの!?」
「慈悲など要らぬ! 死ね!」
「うわ、ついに直球で来やがった!? 聞く耳くらい持ってくれねえかなぁ!」
……と、このように主人公は妖怪キクミミモタズに取り憑かれてしまったらしく、俺の話を一切聞いてくれないのである。
主人公のアサヒは、幼い頃に故郷をフォーリナーに襲われて家族を殺されている。
そして環太平洋条約機構の軍人として、今を生きる犠牲者を出さないために、職務を全うするために、恋人と血で血を洗う争いを繰り広げ、最終的に自身が命を助けられる形で失った。
フォーリナーには激しい憎悪を抱き、サバイバーズギルト──PTSDからある程度回復したこの2では恋人の願いを愚弄することを忌み嫌い、ユグドラシルの野郎が掲げるクリスタルスカルの理想を嫌悪している。
2においてアサヒが聞く耳持たずの対応をするとしたら、フォーリナーか、恋人と決別する原因となった太平洋条約の腐った上層部か、同格の大陸議会の連中か、恋人の理想を汚すテロ組織とかである。……意外と多いな。
俺はクリスタルスカルの幹部だが、このファーストステージの時点ではまだアサヒにクリスタルスカルを敵視する理由はなく、テロリストに対する敵意も市民を守る仕事としての排除対象程度なもののはず。このフォーリナー絶対殺すウーマンの主人公様からこんなに話を聞かず殺意むき出しにされるようなことに心当たりはない。
俺はユグドラシル嫌いだし、叛逆する予定だし、フォーリナーというわけでもないし。主人公様が俺を嫌う理由は何? 聖母様の時と同じで、コイツまた何かやらかしたんじゃないだろうか。
「これほどの聞く耳持たず……ひょっとして前にどこかでお会いしましたか?」
「初対面だ。貴様のような薄汚い男など知らん!」
「肌の色のことかね!? それは差別だ!」
「性根のことを言っている! 市民への被害を顧みない外道、所業はフォーリナーと大差ない!」
「俺フォーリナーと同一視されてんの!?」
衝撃と事実が発覚。
仕事として排除対象とみなしていると思われていたテロリストだが、市民への被害を顧みないことからアサヒには家族と故郷の仇であるフォーリナーと同格レベルで嫌われていました。
そりゃ話し合いなど受け付けないわけだ。
ぐぬぬ……あわよくば彼女を説得してクリスタルスカルを潰すための協力関係を取り付けられたら良いな〜、などと思っていたがこれでは不可能である。
スリフトとカトレヤの親娘を襲う悲劇フラグ対応を経て、クリスタルスカルという組織とユグドラシルの身勝手ぶりを知って、テロリストだからと一括りにしない見方をするようになる成長を果たすので、アサヒとの接触はそれからの方がいいかもしれない。
少なくとも今の彼女は妖怪キクミミモタズである。
平和的な話し合いが無理、ココはラスボスが脱獄させた後、テロリストとしての仕事も俺個人の目的も果たせないんじゃここに用はない。
ここはグランシャリオの高速移動で主人公様を振り切り、退却するに限る。
というわけで、このテロリストも殺してやるウーマンになってる主人公様から逃げ切るために、まずは隙を作ることにした。
ふふふ、策はある!
「あ、UFO!」
「そんな古典的な手に誰が引っ掛かるか!」
「ではその背中を遠慮なく撃ち抜くのみ!」
「シールド展開!」
まずは超古典的な方法である「あ、UFO!」を発動するも空振り。
もちろんそれは想定内で、第二の策として後ろに伏兵がいると思い込ませ、視線をそらせることには失敗したがシールドを展開させることに成功した。
彼女のパラディソスであるクラウソラスのシールドは触れたものを蒸発させる光の壁。自身を起点に自由な方向に展開可能で、自身を囲むように出すこともできるのだが、展開できるのは一枚だけという制約がある。
これぞやり込んだプレイヤー視点の記憶持ちの特権というものよ。情報戦で俺に勝てると思うなよ。
アサヒがシールドを背中側に展開したところで、そこに目眩し用の小麦粉たっぷり粉塵煙玉を投げ込めば、アサヒはそれをバスターで切り伏せるからドロンと目眩しになるのだ。
「これでもくらえ──うわぁああ!? 目が、目がぁああ!」
「そんなもの──何ッ!?」
そして予想通り、投げつけた煙玉をアサヒはバスターで切り捨てた。
これにより煙玉より小麦粉をふんだんに使った粉塵目眩しが舞い散り、アサヒの視界を塞ぐ。
この隙に俺は華麗にスピードを活かして逃げるつもりだったのだが、想定外の事態が二つ発生した。
一つは、アサヒのシールドによって俺もムス化目眩しを食らったこと。ハエだしな。
この俺に目眩し返しをするとは、さすが主人公。名を聞こう。
そしてもう一つは、煙玉の粉がアサヒのシールドの放つ熱で着火し粉塵爆発を起こしたことであった。
──結果、施設は爆発でこの檻の部屋周辺が吹き飛ばされて崩壊。
集めたクリスタルスカルの信者共と大陸議会の連中に大きな被害が出ることとなり、この爆発で物理的に吹っ飛ばされて規制がかかるだろう変わり果てた姿になる者も多数出た。
ちなみに太平洋条約の部隊の方だけど、突入部隊はパラディソスの保有者が守ったことで死者はゼロだった。
俺の方はパラディソスの保有者ということもあり粉塵爆発だろうとあの程度の破壊力では致命傷にはならず、空も飛べる紙装甲らしく物理的に爆風に吹っ飛ばされたことで結果的にはアサヒから逃げることに成功した。
結果的には、な! 結構ダメージくらったから!
「PCも吹き飛んだじゃねえか、姉貴捜索の手がかりだったのに!」
姉貴の捜索の手掛かりになるPCも吹き飛んだだろうし、主人公様には殺されそうになるしで、散々な目にあっただけのファーストステージだった。