爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
客船の沈没事故に遭い、死んだ。
そして気がついたら、無双系アクションゲーム“Foreigners”の世界に、前世で声優を務めていたココというキャラクターに転生していました。
そんな衝撃的な体験から1週間。
私はすっかりココに転生したことに慣れていた。
捕まっていた施設からゲームではラスボスでもあった私の恩人のハクノに助けられ、大陸議会の追手から逃げる生活。
ゲームだとココとハクノは施設を脱出した直後に別れたけど、今世の私には頼れる相手がいないのでハクノと一緒にいます。
施設から脱出した後、私たちは5日ほどかけて砂漠を越えて、その先にあった街から鉄道を使い、ここヤルカンドという街に到達。
正体を隠して宿に泊まり一晩を過ごし、朝を迎えて今に至ります。
「…………」
隣では、この1週間お世話になりっぱなしになっているハクノが枕に顔を埋めてまだ眠っている。
これまでの旅路は夜の見張りまで含めてずっと彼に負担をかけており、ゲームでも倒された姿は見たけどこうしてぐっすりと眠っている姿を見たのは初めてかもしれない。
1と2でラスボスを務め、ゲームでは何度も主人公と殺し合いを演じる、公式が認めるこの世界の最強のキャラの1人。
そして、私が声優を志す原点にもなった憧れの人が声を担当し、夢だった共演を叶えてくれた存在。
今まで画面の向こうでしか見てこなかった存在が現実にいる。
そしてこの1週間、ゲームでは見ることのなかった表情を見ることになった。
転生してこの世界の住人になったということもあるけど、もう私は隣で眠る彼のことをゲームのキャラではなく、生きた1人の人間にしか見えなくなっていた。
「こうしてみると、普通の人なんだけどね……」
オーバードーズの副作用により、兄弟と異なり色素を失い真っ白になった髪を撫でる。
髪色に関しては今の私もほぼ同じ色だけど。
肩甲骨に触れると生きていることを教えてくれる人肌の温もりを感じることができた。
背中に耳を当てると、規則正しい心臓の鼓動が聞こえる。
無双している姿はラスボスらしく人間辞めた化物だけど、それは今の私も同じだし、こうして寝ている姿や温もりのある肌、心臓の音を見て感じると、やっぱり普通の人にしか見えない。
「うっ……」
体力を使い果たしてぐったりと眠っていたけど、流石にここまでちょっかいをかけると覚めるらしい。
二日酔い明けに出すようなうめき声を漏らしつつ、頭痛に苛まれているのか頭を抑えながら身体を起こした。
「おはよ。疲れは取れた?」
「…………」
起き抜けの不機嫌そうに見える表情のハクノにそう尋ねると、無言だけど何を訴えているのかは伝わる表情で返事が来た。
ハクノは口数も表情も乏しい。良く言えば静かで悪く言えば分かりにくい。
こんな風に疲れが残っているのが分かる表情を見せるのも初めてだし、いかにも“なんでそっちはもう起きられるんだ”という感情が伝わってくる表情を見るのも初めてだった。
「……もう少し寝ておく?」
「否定。其方が動けるならば、次の街に向かう」
疲れが残っているなら移動はもう少し休んでからにするか尋ねると、ハクノは私の方が動けるならすぐにも街を立つと自分の疲労には目を背けた。
大陸議会の追手を考えれば動ける限り動くべきだろうけど、焦って荒野で倒れるのもまずいと思うけど。
「本当に大丈夫?」
「心配無用。この程度の疲労、支障はない」
「そう? まあ、君がそう言うなら出発しようか」
本人が必要ないというなら大丈夫なんでしょう。彼は無茶こそするけど自己管理を怠るような人物じゃない。
その彼が休むよりも動くことを優先したならば、そうするべきのはず。
私もハクノの判断に従い、なるべく早くこの町を出ることになった。
チュートリアルとファーストステージの舞台になる、ココが幽閉されていた施設。
それがタクラマカン砂漠の只中にあったのを知ったのは、2日前にたどり着いたマラルベシという街で住む人に話を聞いた時のこと。
そこから鉄道でヤルカンドまで移動して、一晩過ごして今日に至る。
ハクノは大陸議会の追手を避けるために、砂漠を長距離にわたって踏破するルートを選択してマラルベシに移動し、そして鉄道にて南西に向かうヤルカンドに来た。
けれどもこれも大陸議会の追手を振り切るための移動とのことで、南下すると見せかけてここからはまた徒歩で北西に向かうとのこと。
ハクノが目指しているのはキルギスで、そこに私の存在を教えてくれたという協力者がおり匿ってくれる手筈になっているとのことだった。
しかし私はお世辞にも地理が得意ではない。
タクラマカン砂漠が中国にあることくらいは知っているけど、それがどのあたりにあって、目的地のキルギスという場所がどこにあるかはわからなかった。
「キルギスって……どこ?」
「目的地。ルートは把握している、ココは此方の案内に従えばいい」
「わ、わかったよ……」
ハクノにとっては自分がルートを把握していれば良いとのことらしく、詳しい場所は教えてもらえませんでした。
ヤルカンドを出発した私達は、ハクノが先導するかたちで空気の薄い乾燥した大地を北に向かって歩いていく。
パラディソスを保有し人間を辞めて無双キャラになった私たちだから徒歩で踏破できているけど、ハクノの選ぶ道は人が歩いていけるような道じゃなかった。
見渡す限り、山・砂漠・たまに川。植物なんて水辺でもなければほとんどいない。
1日の寒暖差も激しいし、蠍とかヘビとか出てくるし、砂の大地が広がっていると思いきやいつのまにか岩の大地になるしと、自然の過酷さを物語るようなルート。
転生前の人生ではテレビの画面越しにしか見てこなかった世界を歩くのは過酷だったけど、どこまでも広がるその景色は雄大で、夜空は綺麗だったし、遅れそうになるとハクノがお姫様抱っこで運んでくれるので楽しめることもあった。
「ごめんね、何度も運んでもらって……」
「さしたる負担ではない。心配無用」
「……ありがと」
口数は少ないし、表情は乏しいけど、どれだけ負担をかけても気にしない彼は紳士だし優しい。
Foreignersの世界だとオーバードーズの保有者というだけで制御に成功しているにも関わらず迫害されて、主人公と兄以外には人間として受け入れられない人生を歩んできたという。
前世の弟も同じこと言っていたけど、このゲームのストーリー考えた人はこの世界の善い人に対して厳しすぎないかな?
高原を突っ切ったりしながら北上する旅路は1週間ほどかかり、その間はこの過酷な環境には近づかないからというのもあってうまく大陸議会の目を掻い潜り追手に遭遇することなく、妨害も特になく順調に進み、そして目的地であるキルギスという場所が近づいてきた。
特にこの1週間はほとんど山越えばっかり。日本にいた時には見られなかった木々のない乾燥したすっごく高い山が多くて、慣れない道に何度もハクノに運んでもらいながら越えて来た。
ここ数日は乾燥した空気の薄い世界をずっと渡り続けており、この日は雪を被った山が見える場所に大きな湖がある場所に出た。
湖と山を見たハクノは、ここが目印になっている湖とのことで、このペースなら明日には目的地のキルギスに到着すると言う。
「この湖が目印みたいなものなの?」
「チャティルクル湖。正確にはすでにキルギスに入っているが、目的地はこの湖のさらに北に進んだ先にある」
「…………」
険しい山を越えて越えて、その先に出てきた巨大な湖。
さらに湖の向こうにも山々が見えるし、雲の中にいるみたいに霧が立ちこめてるし、綺麗な水がながれている大きな湖なのにあまり動物の気配がなくて静かだしと……なんというか、天国が近いどこか神秘的に感じる湖にみえた。
チャティルクル湖……聞いたこともない名前の湖だった。そもそも私はキルギスという場所も知らないので、キルギスにある湖と言われてもわからない。
多分、中国のずっと内陸側の、それこそシルクロードとかいう道が伸びている方向かな? くらいしかわからないです。
でも生き物の気配が少ない中に広がる湖って、霧も相成りこの世の景色と思えない不気味だけど神秘的な光景になっている。
スマホがあったら写真を撮りたい景色だった。
「陽が沈む。明日、目的地に向かう」
「今夜はここ?」
「夜は気温が大きく下がる。アーマーを展開しておくように」
「分かった──うわわ!? な、何!?」
ハクノから今夜はこの湖のほとりで夜を明かして、日が上ってから動く方針を伝えられ、夜は冷えるからパラディソスのアーマーを展開しておくようにと注意も受けたので、パラディソスを起動しようとした時だった。
突然地面が揺れて、地震かと思った直後に目の前に広がる巨大な湖から怪獣映画を見ているかのような、ものすごい大きさのミミズみたいな巨大ロボットが出てきたのである。
「あれって、ひょっとして要塞クラス……?」
「ワーム形態と認識」
前世で散々やりこんだForeignersに、湖から出てきたのと同じロボットが登場したステージがあった事を思い出す。
異世界から飛来してくる侵略者。
パラディソスの元ともなっている、この世界の人類共通の敵。
フォーリナー。
その中でも要塞クラスと呼ばれる、単体で数千単位の規模の軍勢を抱える巨大な個体である。
ミミズみたいな要塞クラスは私たちを認識しているらしく、こちらに狙いを定めておりその巨体を開いて次々に雑兵のフォーリナーを繰り出してきている。
戦闘は避けられそうにない。
「ロックオンされてるけど……」
「無論、駆除する」
「だよね!」
要塞クラスのフォーリナーは無双ゲームに出てきた怪獣みたいな存在だけど、ゲームでは図体デカくて体力が大きいだけで、遅いし攻撃力なら普通にオーバードーズのキャラたちの方が強いしで、見た目の割にそこまで強い敵ではない。
なので、喧嘩を売られたというならばココもそれを選ぶだろうしと、私もハクノも相手になってやるよとパラディソスを起動した。
「「接続──起動」」
「バスター展開! 援護しろ、ハクノ!」
「アーツ展開。了承、群れを引き受ける」
私は
私が要塞クラスの大物狩りを、ハクノは出てきた雑兵狩りを担当することを一瞬のやり取りで決めて、それぞれ野営前の掃除に取り掛かった。