爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
ファーストステージは施設に用があった。そしてまだクリスタルスカルに決定的な悪感情までは抱いていない段階の主人公と、できることなら密かに協力関係を結びたかった。故に危険を承知の上でユグドラシルの野郎からの命令を受け、無駄な徒労に終わるとしても大陸議会の施設を襲撃したのだ。
その結果だが。
ココはすでに脱出済み。まあ、これは想定内だ。ラスボスが先に逃がしていたので、姉貴が転生したとみているココとは会えなかった。
主人公と接敵したら、普通に敵認定された。しかもクリスタルスカルはすでにフォーリナーと同レベルの大っ嫌いの部類に入れられていた。そのため対話してくれなかった。協力はできたら良かったな程度だから、わりかしショックだったけどまだ想定内だった。妖怪キクミミモタズは想定外だった。
ユグドラシルの野郎には「とっくに施設は空っぽだったぞおいこら調査不足のテメェのせいであって俺のせいじゃねえぞ!」と文句を連ねたレポートを送った。少なくとも今回は俺のせいじゃないし、いきなり爆弾ドカンはないはず。されたらあのクソ野郎を呪うまで。
そして施設に残されただろう姉貴の行方の手がかりは……脳筋主人公ではなくムス化したタンポポ野郎のせいで施設は大爆発。PCも吹き飛び、手掛かりなし。マジで無駄な徒労に終わった。1番欲しかった情報を手に入れられなかったので、ファーストステージに乗り込むべきではなかったと今更後悔している。何の成果も得られませんでしたァ!
挙句、太平洋条約の上層部には俺がココを確保していると疑われ、大陸議会だけでなく太平洋の連中──具体的には主人公の率いる中隊からまでも追われる身となってしまったのだ。成果なしで損害大と言えるだろう。マジぴえんというやつだ。
まあ、過ぎたことは仕方がない。
主人公には人の話を聞けとお前が言うな小1時間ほど説教してやりたかったけど、姉貴の捜索が優先だし、セカンドステージという死亡フラグを立てたくはなかったので、今回は見逃してもらうやることにした。
そして姉貴捜索の手がかりを求め、移動することに。
行き先は天山山脈を越えた先にあるキルギス──ラスボスが隠れ家の一つと協力者を持っている場所である。
ココを施設から救出したのに襲撃されるという不幸に見舞われたラスボスは、最後にココに接触した人物。行き先に関する手がかりを得られるかもしれない。そしてユグドラシル打倒の協力者候補にもなる人物だ。戦力的にも申し分ない。
主人公を騙すために影武者を東南アジアに向かわせ、グランシャリオならばひとっ飛びだと高速移動で北上。
天山山脈に登りキルギスに入り、チャティルクル湖を眼下に目的地に飛行していた。
ところがどっこい、中隊率いて東南アジア旅行をしているはずの主人公が、部下のパラディソスの権能で瞬間移動して、俺が飛行していたことから影武者に惑わされず先回りして待ち伏せしていやがったのだ。
飛行中のテロリストを撃ち落とすという軍人として正しくとも主人公としてはやってはならない非人道的行為に及んだ脳筋主人公は、東南アジアではなくキルギスの地にて巨大なミミズのフォーリナーの死骸をオブジェクトにしている戦場をセカンドステージに変えてくれたのである。
そんな気遣いは結構だ! 変なオブジェクト拵えてゲームで出てきそうな戦場を勝手に作るんじゃない!
そもそもチャティルクル湖はラムサール条約で保護されている渡り鳥の憩いの場なんだぞ! 何を小汚い機械ミミズの死体を沈めているんだよ、環境破壊だろ!
良い子のみんなは真似しちゃいけないことやりまくるなこの主人公様は! 人の話も聞かねえしよ!
東南アジアで主人公と戦うことではなく、セカンドステージで主人公と戦うことがたんぽぽ野郎の死亡フラグである。
つまり今まさに俺の死亡フラグが立てられたということ。
妖怪キクミミモタズに取り憑かれている主人公は俺の説得をガン無視してオーバードーズを確保していると決めつけ、一方的に切り掛かってきた。
おまえさんはとりあえず人の話を聞けって。
問答無用のキクミミモタズはバスターを展開し切り掛かってくる。
自慢の高速移動で回避するも、そこは主人公。こちらに反撃の隙など与えてくれない。回避だけで精一杯。振り切るために全力ダッシュに移行する余裕さえ与えてくれない。
「ちょこまかと……逃げるな、テロリスト!」
「しょうがねえだろお前より優ってるの速さだけなんだから! 俺だって死にたくない! だから話を聞け!」
「聞く耳持たん! 人々を傷つける外道が、死を持って償え!」
「俺ってそんな大罪人かなぁ!?」
刀身など所詮は見せかけ。
クラウソラスのバスターは、振るった先に間合いを持たない斬撃を作り出す。
空間もろともぶった斬る斬撃なので、どんな物理防御も意味をなさない。
ゲームだとアーツより威力高くて射程は互角という初心者から玄人まで安定した戦いができる扱いやすい主人公のバスターによる攻撃は、現実でも容赦なくその牙を剥いてきた。
「オーバードーズをどこに隠した!?」
「いやだからこちらもオーバードーズは逃げられて──って、危ねぇ!? おい、俺の前髪切るなよ!」
紙装甲のハエにとって、まともに当たれば一撃で2割、コンボを叩き込めば最大6割は体力ゲージを持っていく斬撃が襲い掛かり、前髪を掠める。
高速移動の権能を持って回避に徹することで凌ぐも、打ちどころによっては普通に1発で致命傷は避けられないだろう攻撃の嵐に、汗が止まらない。
「吐け! 吐かねばその首切り落とす! 前髪だけでは済まないぞ!」
「物騒だな! 首よこせって、価値観中世かなぁ!?」
「テロリストが何をほざくか!」
「ユグドラシル! お前、主人公様のことこんなに怒らせるとか、俺の知らないところで何しやがった!?」
回避に徹しているのでなんとか攻撃をギリギリ回避しているが、いつまで持つかわからない。
テロリストが大嫌いで、ストーリーの時系列を考えればまだクリスタルスカルに絶対コロスモードを発動させるほどに因縁みたいなのがあるわけでもない。
にもかかわらず、たんぽぽ野郎にとっての死神はすでに殺意満タンだった。
俺は関係ない。アサヒの怒りの矛先はユグドラシルに向けられるべきだ。
なのに主人公に命狙われているのは幹部にすぎない俺である。
この世界は悲劇に満ちるだけでは飽き足らず、理不尽にも塗れているようである。
「誰が主人公だ!」
「お前だよ“英雄様”!」
「────ッ!」
俺の主人公呼ばわりが気になったのか、Foreignersのプレイヤーにしか分からない呼称に対してアサヒが突っかかってくる。
それに対して思わず皮肉混じりにこちらの世界において彼女を示す呼称を使ったところ、アサヒの顔色が変わった。
英雄。
それは無印版のストーリーにおいて、ラスボスの兄が結成したテロ組織“サザンクロス”を鎮圧した彼女の功績を讃える呼び名。
そしてアサヒにとっては、テロリストの汚名を着せられ例え成功しようとも世間から決してその功績を認められず歴史に悪名だけを残すこととなるとしても、本気でフォーリナーの脅威に終止符を打ち平和な世界を取り戻そうと戦った最愛の婚約者と敵対し、そして失うこととなった事件から呼ばれるようになった渾名。
平和よりも保身と利権を求める腐った上層部のプロパガンダに利用され押し付けられた、彼女にとっては敵から向けられれば逆鱗となる呼称だった。
本気で激怒した主人公が振るう斬撃。
それは先ほどまでの苛立ちながら振るわれる物とは比較にならない鋭さがあった。
ぶっちゃけ、その一撃はスピードに関してだけはトップであるたんぽぽ野郎の目を持っても見極められなかった。
英雄呼ばわりされて顔色が変わった直後に左腕の肘から先が宙を舞い、一瞬遅れる形で血が吹いた。
「ありゃ? ……ぎゃあああああぁぁぁぁ!?」
いつぶった斬られたの!?
血が吹くことに遅れて激痛が走り、違和感が日々薄れていく前世より高い声での悲鳴が上がる。
動揺した俺は足元もお粗末になって、フォーリナーの死体に躓きコケてしまった。
「うわわわわ──アウチッ!?」
ハエの高速移動の状態でコケて仕舞えば、止まるのも一苦労。
ゴロゴロとボーリング球みたく戦車サイズのフォーリナーの死骸にぶつかるまで転がり、機械生物の死体に背中と後頭部を強打してようやく停止となる。
イッテェェ……一瞬目に星が舞ったぞ。今の衝突の方が切られた左手より痛かったぜ。……いや、普通に切られた手の方が痛えわやっぱ!
「前言撤回! 普通に切られた手の方が痛いっす!」
背中を打ったフォーリナーの死骸からケーブルを引っ張り出して、まだ血を吹いている左腕を急いで縛る。
それで何とかぶっシャー状態は収まったけど、痛いものは痛いぜ。
やはりたんぽぽ野郎のグランシャリオでは主人公の攻撃を受け止めきれなかった。簡単にぶった斬られるとか、アーマーが紙だわ。
「──って、やばっ!?」
そして縛った時には主人公の追撃がきており、紙一重で回避した直後にケーブルを拝借したフォーリナーの死骸が切られるというよりも抉られるような破壊で真っ二つにされた。
怖っ! 今の俺の体真っ二つにする気満々の一撃だったぞ! 直撃したら首と胴が離れるどころか右半身と左半身がサヨナラするところだったぞ! 紙装甲のたんぽぽ野郎の場合、死体すら残らないぞ!
「コロス……!」
そして主人公様はもはや無印版でのフォーリナー絶対コロスウーマンよろしく殺意大爆発モードになってる。
洒落になってねえ、マジギレしてる主人公はマジもんの死神だ。
間合いの無い斬撃は範囲攻撃を纏い出した。
アカンアカン、何が逆鱗に触れたのか知らんがあの主人公様はマジであかん! 普通に死ぬ絶対死ぬたんぽぽ野郎では掠めるだけでも確殺される!
「ひゃお!? 待って、マジで待って!」
範囲攻撃になった斬撃は、紙一重の回避では普通に抉り取られる凶悪な攻撃。
しかも間合いが無いのでさらに回避が困難に。
クラウソラスの斬撃に攻撃力アップの上範囲攻撃化したのに、より鋭く速くなるという怒りの理不尽ブーストがかかった。
「シールド展開! ──1発しか耐えられねえのかよおおぉぉぉ!?」
シールドを展開しても、やはり紙仕様。
一撃で破壊され、しかも余波でぶっ飛ばされてもう一回地面を転がるという惨事に見舞われることとなった。
今度は湖に落下する形で停止。
チャティルクル湖の冷たい水が沁みるぜ。
……フォーリナーの死骸から流出した液体で汚染されてしまった湖水は、汚い上に不味かった。
「逃がさない……!」
そして俺を逃すつもりはないと、アサヒも躊躇なく湖に飛び込んできた。
しつこいなこの人! どうあってもセカンドステージで俺を殺したいのか!?
「ガボボボババブバボ! グブブボボブボボボババブボボガボボボボブガブボバ!? (しつこいなあんたも! 水中戦に移行してまで俺を殺したいのか!?)」
Foreignersでは水中のエリアなんて存在しなかったけど、グランシャリオの高速移動は水中でも問題なく機能する。
むしろ三次元的な動きができるフィールドは有利な舞台となる。
「ゴボボボバブバボボボブバババ! ガバボボバブボボ、ガババボボバボバブボボ! (水中戦は俺の舞台だ! だが俺は逃げる、だって死にたくないもん!)」
飛び込んでまで追ってきたのだ。主人公様が水中戦をご所望しているならば、応えてやるのが礼儀というもの。
……なんだけど、今の主人公様は怖すぎるのでやっぱり逃げることにします。
フォーリナーのせいで汚くなった水は逃げるのにも有効。
グランシャリオの高速移動で湖底に消えて、そこからトンズラするのだ。
舞台がチャティルクル湖だったのが幸いしたぜ。
こうして俺は無事に死亡フラグを折ることに──
「────ッ!?」
主人公という死亡フラグから逃げることに成功したと思い込んでいた俺は油断していたことで失念していた。
セカンドステージのたんぽぽ野郎の死因は、クラウソラスではなくグランシャリオにつけられた爆弾だったことに。
信者の目がこんな僻地にもあったのか。それとも別の理由からか。
チャティルクル湖の底でグランシャリオに取り付けられた爆弾が起動し、アサヒの視界から逃れていたダンデライオンの命を散らした。