爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
タクラマカン砂漠の大陸議会が保有する研究施設。
極秘裏にその施設に収監されているオーバードーズの保有者を巡る戦い。
オーバードーズを狙うクリスタルスカルというテロ組織と邂逅した置田中隊は、施設における攻防戦を経て、上層部から行方不明となったオーバードーズの保有者をクリスタルスカルが確保しているという情報に基づき出された命令に従い、クリスタルスカルの幹部ダンデライオンの追撃に従事することとなった。
施設における爆発事故に紛れて行方不明となったダンデライオン。
オーバードーズの保有者の名前など、情報を持っている可能性の高いこのテロリストを捕えるべく、アサヒたちは影武者などの撹乱の策に惑わされることなくその行方に関する情報を集め、天山山脈の方に向けて北上していることを把握。
偵察部隊とともにチャティルクル湖に先回りし、アサヒは空を飛びながら天山山脈を越えようとしていたダンデライオンを捉えることに成功した。
大陸議会の陸軍か、或いはクリスタルスカルの仕業によるものか。
要塞クラスのフォーリナーの死骸が沈む不気味な様相の湖にて、ダンデライオンと二度目の対峙をしたアサヒ。
一騎討ちの形となったこの戦いは、ダンデライオンが意図せず彼女を怒らせたことにより出力の上がったクラウソラスを振るうアサヒが、腕の一本を切り落として優位に進めあと一歩のところまで追い詰める形となった。
左手を切り落とされたダンデライオンは湖に逃走。
それを追いアサヒも湖に飛び込んだが、フォーリナーの死体などにより汚染された湖は視界がほとんど失われており、ダンデライオンを見失ってしまう。
高速移動を駆使するダンデライオンに、距離を取られたところで権能を駆使し一気に離されては追いつくことは困難となる。
チャティルクル湖は広く、偵察部隊しか連れて来ていない今の人員では湖岸をカバーしきることは難しい。
あと一歩のところで捕縛できたというのにと、悔しさを滲ませながらアサヒが湖面に浮上した時だった。
湖の中で爆発が起き、その後に湖からその
湖中で発生した爆発。
その爆心から浮上したのは、自らのパラディソスを纏ったダンデライオン。
沈む前と変わらぬ姿のテロ組織の幹部であり、捕えるべきオーバードーズの情報を握っている敵。
逃げられれば厄介な高速移動の権能を有するパラディソスの保有者だが、何を思ったのか逃げることなく湖の中から姿を現した。
見失ったと思っていたアサヒたちにとって、姿をくらませていたダンデライオンがわざわざ逃げることをやめて出てきたのは好都合な展開であった。
──それが本当にダンデライオンのままであったのならば、だが。
「────ッ!」
そして、アサヒは姿を現したその男が、ダンデライオンの姿をしているが既に別のものになっていたことをすぐに見抜いた。
根拠は2つ。
1つめは先ほど切り落とした腕が、すでに再生していること。
正確には切られた腕の先に、パラディソスのアーマーを纏ったものではなく、人の原型を残さないフォーリナーのような機械の腕が融合して伸びていた。
2つめは、胸に空いた穴。
見失う前にはその高速移動の権能で回避を重ねて、ついぞ捉えることを許さず傷ひとつついていなかったはずの、アサヒの刃は届いていなかったはずの胴体にぽっかりと空いていた穴があったこと。
パラディソスの保有者といえども、心臓があるべき位置に大きな穴が空いてそこから出血が止まらなくなっている状況では、流石に生きてはいられない。
それにもかかわらず、ダンデライオンはパラディソスを纏い宙に立っていた。
その外見でわかる。
先ほどの爆発、おそらくダンデライオンの心臓の部分に穴をあけた原因だろう。
そして、ダンデライオンは間違えなく人として死んでいる。
空中に立つ男は、紛れもなく死体になっている。
「まさか、パラディソスに乗っ取られた──!?」
だが、パラディソスの保有者は命を落としたとしても終わらないことがある。
その骸を保有するパラディソス──制御下に置かれているとはいえ、いまだに生きているフォーリナーに乗っ取られることがあれば、人ではなくフォーリナーとして肉体を延命させられることがある。
それが、パラディソスという強大な力の代償の一つ。
死後に眠りにつくことすら許されない、フォーリナーから人々を守るために得たはずの力で守ってきた人々を害する存在にされてしまう現象だった。
アサヒは軍人である。
太平洋条約軍の仲間が、大陸議会軍の敵が、遺体をフォーリナーに奪われ人類の脅威に堕とされる姿を戦場で幾度も見てきた。
そして、せめて同胞に手をかける前にと、幾度も介錯をしてきた経験がある。
だから、理解できる。
今のダンデライオンは、すでに命を失った身体をフォーリナーに弄ばれる存在に堕ちてしまったことを。
「くっ──!」
ダンデライオンが──否、グランシャリオが機械となった腕を向ける。
直後、アサヒには生前一度も向けられたことがなかったグランシャリオのアーツの攻撃である人間サイズの巨大な杭が高速で発射され、咄嗟に構えたバスターに激突した。
衝撃に踏ん張りきれず吹き飛ばされる。
地面に2度叩きつけられ、フォーリナーの残骸に背中を打ちつけた。
「隊長!?」
近場に身を伏せて待機していた偵察部隊の小隊長が声を上げる。
アサヒは即座に立ち上がったが、その時には2発目が形成されており、その命を容赦なく刈り取るべく発射されるところだった。
「舐めるな!」
それをアサヒはバスターで切り捨てる。
間合いが無いクラウソラスの斬撃は、空間もろとも軌道上の敵を切り裂く。その前に物理的な強度は意味をなさず、杭は破壊されてアサヒの体には届かない。
先ほどは奇襲ということもあって不覚をとったが、対応できれば問題はない。
「…………」
バスターを構えるアサヒ。
こうなればもはや問答無用。人類の脅威であるフォーリナーには対話など望めない。姿形は人だが、あれは既に人類の絶対的な敵対者たる異界の機械生命体だ。
保有するパラディソスに乗っ取られた場合に発生するフォーリナーは、通常の数ばかり多い雑兵とは異なり、非常に強力な戦闘能力を保有する個体となるという特徴がある。
個体としての戦闘能力に関しては、要塞クラスすら上回る大きな脅威となる。
「ダンデライオン……」
テロリストだが、先程までの奴は人間であった。
それが今や人として終わることすら許されない化物となっている。
何より、この強大な脅威を放置することは、たとえ大陸議会の領内であろうとも軍人として放置するべきではない。
介錯しフォーリナーから解放するべきである。
「隊長、援護を──」
「不要だ、貴様ら1人も手を出すな。私が仕留める!」
援護を申し出る部下を制止し、生気を失った目で見下ろすグランシャリオに向けてバスターの切先を突きつけた。
「死者を冒涜する外道が……やはり貴様らは滅ぶべき存在だ、フォーリナー!」
故郷を焼き、家族を奪った。
無力な人々を殺戮し、慈悲すら与えず必ず命を消す。
破壊と殺戮を撒き散らす、人類の脅威。
殲滅するべき敵に向け、憎悪に燃える目を向け、アサヒはバスターを振りかぶる。
グランシャリオがシールドを展開する。
振り抜いた斬撃はシールドに阻まれたが、その守りを砕き道を作る。
そこにすかさず振り下ろされる二撃目。
間合いを詰めずとも届く斬撃は、アーマーを砕き骸となったダンデライオンの胴体を袈裟状に切り裂いた。
肉が裂け、骨が絶たれ、血が飛び散る。
しかしすでに心臓を失った骸。切り裂かれた箇所にあった血を吐き出すのみで、傷の大きさに比して少なすぎる出血だけで血は止まる。
そして生きていれば明らかに致命傷となる傷を受けても、すでに骸でただの媒体になっているだけのダンデライオンの死体は止まらない。
グランシャリオは構うことなくアーツの杭を発射する。
それを横に回避し、バスターを横一文字に切り払うアサヒ。
直後にダンデライオンの首が斬られその頭部が湖に落下した。
ふらりと、ダンデライオンを乗っ取るグランシャリオが揺らぐ。
制御の要である脳との接続を切断されれば、死骸を利用しているフォーリナーは肉体の制御が不可能となる。
そして、それは致命的となる大きな隙。
介錯となる一閃。
空間もろとも切り裂く斬撃は、肉体の制御が行えなくなったグランシャリオを真っ二つに切り裂いた。
「……眠れ。その骸、もはや異界の侵略者に弄ばれることはない」
勝負は数合でついた。
ベースとなったグランシャリオがそれほど強いパラディソスではなかったため、ダンデライオンよりは強かったものの彼女にとっては倒せない敵ではなかった。
「…………」
フォーリナーから解放され、今度こそ動くことのない死体に還ったダンデライオンを見下ろし、アサヒはバスターを握る手に力が籠る。
その怒りは、ダンデライオンにも、それを弄んだグランシャリオにも向けたものではない。
テロリストという同情の余地などない極悪非道な存在だったとしても、決して許せない一線を踏み抜いた存在に対して向けたものだった。
ダンデライオンの死因は、心臓付近の爆弾の起爆。
それはパラディソスに括り付けられたものであり、この爆弾を仕掛けた存在は彼を殺害してフォーリナーに乗っ取らせるという所業を行なったのだ。
フォーリナーの脅威は人類共通の敵である。
対抗のための兵器として、パラディソスとして利用する。それは良い。
だが、意図的にフォーリナーに人の骸を差し出し新たな脅威を発生させるなど、百害あって一利なしの上に人として死を迎えることを許さない冒涜的な行いは、彼女の怒りを買うものだった。
爆弾は、クリスタルスカルという組織の所業だろうと推測される。
配下を人間扱いすらしないやり方。
こんなことをする奴らに反吐が出る。
クリスタルスカルとの戦いは、上層部からの命令によるもの。
だが、こんなことをする奴らを放置などできなかった。
「クリスタルスカル……お前たちは、必ず潰す」
上層部からの命令ではなく、アサヒ自身が明確にクリスタルスカルを許容できない敵と位置付けた刻だった。