爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
今回は“中ボス”に憑依する方の主人公の視点になります。
気がついたら知らない部屋でゲームのキャラクターに憑依していた(これ2度目だぞ)
気がつくと、目に入ったのは知らない天井だった。
白塗りに赤いシミが飛び散っている、まるで殺人現場みたいな部屋の天井と壁。姉貴の胸部装甲と比較してなお、垂直で平坦な壁である。
見覚えのない部屋だ。
こういう時に発するセリフは、お約束のアレしかない。
「ここはどこ? ……いやこの展開2度目だぞ!?」
そして、声を発したところそんなツッコミが喉から出てきた。
……今回はむせなかった。
まあ、今回は絶叫じゃなくてツッコミだからな。前回みたいに絶叫していたら、また咽せていた可能性が高かった。
今回は石造の部屋ではなかった。
つまりたんぽぽ野郎のねぐらではない。帰った記憶ないし──というか無えだろうと思っていた爆弾ボカンされた記憶が最後だし。
ユグドラシルの野郎、ダンデライオンの爆弾を爆発させやがった。マジでふざけんじゃねえぞ、あのクソ野郎。予告通り呪ってやるから覚悟しろゴラァ!
しかし、不思議なこともあるものだ。
ダンデライオンに憑依していた俺は、ラスボスに会いに向かう道中の天山山脈で主人公様に撃ち落とされて、あの人の話を聞かないバーサーカーに「パッとしない中ボスの分際で私の可愛い義弟に近寄るな!」って(存在しない記憶)ガチギレされ、左手ぶった斬られて湖に落とされた。
そしてセカンドステージという死亡フラグは折れることなく回収され、俺はユグドラシルの野郎が起爆した爆弾にやられてくたばる羽目になった。
つまり、憑依先が死んだのである。南無。
ところがどっこい、気がついたらこの部屋にいた。
そして自分の姿を確認したところ、いつのまにか俺はダンデライオンからユグドラシルの野郎のパチモンであるボールサムになっていたのである。
すなわちセカンドライフならぬサードライフの到来である。
……ふざけんなよ! 大人しく成仏できなかったのは良いとして、予期せぬサードライフの憑依先がなんでユグドラシル様ラブ勢なんだよ! よりにもよってなんで公式が認める最弱の中ボスなんだよ! たんぽぽ野郎より弱いんだけど!?
もう頭を抱えるしかねえ。
状況をまだ噛み砕けていない。俺も混乱している。だって死んだと思っていたら中ボスになっていて、その中ボス人生でも死んだかと思っていたら今度は別の中ボスになっていたのだ。混乱するなという方が無理である。満場一致でOK? OKなら返事をしろ!
「マジでどうなってんだよコレ……」
いわゆる残機みたいなもんか?
ダンデライオンの次にボールサムになったということは、ストーリーにおけるクリスタルスカルの幹部の脱落順になっている可能性が高いと推測できる。ダンデライオンがトップバッターで脱落したパッとしねえ中ボスなら、ボールサムはクリスタルスカルの幹部で2番目に脱落した弱っこちぃ中ボスだった。四天王の法則により、2番手は1番手よりも弱いのだよ。数があってない、幹部は7人だぞ。
とりあえず、サードライフが始まってしまったのは仕方ない。ラッキーが重なったと考えて、現状──というか、今回の憑依先についての設定を整理しよう。
クリスタルスカルの最弱幹部ことボールサム。本名はゴドラック・ハーウェン。
ユグドラシル様ガチ勢なホモ疑惑の立つパチモン野郎。ユグドラシルのためならなんでもするイヌだ。
ストライプ柄の高級黒スーツに身を包み、髪型はオールバックにしてるアラサーで、ダンデライオンより頭一つ背が高い。たしかテュルク人って設定だった。
声は姉貴の同期でいっとき恋人関係にあった声優さんが勤めていた。2年で破局したけどな。俺も生前面識あったけど、物静かな人だったぞ。
こいつが保有するパラディソスはアスカロン。
紙装甲のダンデライオンと違い、どちらかと言うと防御重視の性能をしている。硬さに関しては他の追随を許さない聖母様と比べると全然ペラッペラだけど。
グランシャリオの権能が高速移動という弱いけど便利だったのに対して、アスカロンの権能は洗脳である。悪役らしいねちっこい代物であり、スリフトの記憶がいじくりまわされて娘すら忘れさせられているのも、こいつのパラディソスによるものだ。
クリスタルスカルの広報担当ということもあり、この権能を駆使してポンポン信者を増やしまくってきた。
もちろんもれなくユグドラシルの取り付けた爆弾付きのパラディソスである。
うーん……普通にクソ野郎だな。たんぽぽ野郎から進展してねえ。むしろユグドラシルの野郎の忠実なわんわんってこともあり、現時点ですらアスカロン使ってスリフトの件筆頭にかなりやりたい放題やっている鬱フラグの元凶の一角でもある。主人公はじめ主要キャラからのイメージがさらに酷い立ち位置にいる奴だ。
今だってこの部屋の赤いシミの原因である、パックリ切られた信者の死体が3つほど転がっているし。多分二大勢力のスパイだったんだろ。
高級スーツ汚してまで始末した直後のようだが、同じようなスーツがクローゼットに何セットもあった。どんだけユグドラシル好きなんだよ。
場所はクリスタルスカルのアジトの一つか?
憑依直後に出した俺の声が外にまで響いたのか、しばらくして信者たちが部屋にやってきた。
「ボールサム様、何かありましたか?」
「似たような展開に頭を抱えただけだ。そこに転がってるゴミを処分しておけ」
「了解しました」
駆けつけた信者にそれっぽいこと言って誤魔化し、死体を処分するように命じておく。
慣れた様子で死体を処分する信者たちに、ここはボールサムがスパイとか始末するための場所で駆けつけた信者たちはそれらの仕事を請け負っているんだろうなと推測した。
クリスタルスカルには二大勢力のスパイも紛れ込んでいるし、二大勢力にもユグドラシルの信者はいる。
主人公様の上官にもユグドラシルの野郎を信仰する変態がいるし、こういう裏でコソコソやり合っているのも多いのだろう。
「…………」
ダンデライオンがやられた件は……まあ、過ぎたことは仕方がない。どうせザコスケだったから、遅かれ早かれやられていただろう。退場の早さは1番だしなアイツ。
問題は……聖母様との約束だ。どうしようか、これ。
エルキドゥの権能を使って貰えば、見てくれ変わったとしても中身はダンデライオンの時と同じ俺だってことは説明できる。嘘の看破は絶対だからな。
でも驚かれそう。そして信じてもらえなさそう。
だって中身は同じでも外見はまるで別物なんだもん。中身は俺だということを説明したとして、嘘ではないことは証明できるだろうけど、にしても不思議現象すぎて信じてもらえない可能性あるぞ。
とはいえ、不幸フラグを折るという目的を変えるつもりはない。
ユグドラシルの野郎を退場させるという目的は変わらない。アイツ排除しないと姉貴のこと捜せないし、ココが狙われ続けることになるし。憑依先ボールサムになってもこのパラディソスに爆弾くくりつけられているという状態は変わってねえんだから。
信者に日時を尋ねると、約束の日の前日だった。たんぽぽ野郎が脱落することとなって、すぐにこちらへ憑依したみたいだ。
現在地を尋ねると、ハワイだった。どこを処刑場にしてるんだよこのザコは。
ダンデライオンの時と違い、あっちこっち飛び回れるわけではない。
今日のうちにニュージーランドに行っておいたほうがいいだろう。下手したら待ち合わせに間に合わないかもしれないので。
とりあえず信者を呼びつけて、ニュージーランド行きの飛行機を手配させた。
戸惑い理由を尋ねてくる野暮なやつは洗脳を用いて黙れ仕事しろと強制的に従わせておいた。
高速移動とは違うが、結構便利な権能だなこれ。
「スリフトは……今すぐ解放するのは逆にやべえな」
スリフトの洗脳を解除してやろうかと思ったけど、やめておくべきと判断。
カトレヤのことがあるし、あいつをユグドラシルの野郎から引き剥がして真実を教えてからじゃないと、普通に人質にされそうだし。というか、爆弾くくりつけられてるんだから、記憶なんぞ取り戻したらその前にスリフトがボカンされる可能性もある。
ストーリーだとこのザコ幹部が脱落してようやく洗脳から解き放たれて娘と再会するのだが、ユグドラシルの野郎に粛清という名のボカンされて、死体はフォーリナーに乗っ取られるという悲惨な最期になるからな。ちょっと流石にアレはカトレヤたちが可哀想すぎるから阻止したい。
ダンデライオンからボールサムになったのは、好都合か不都合か。
スリフトの件も一度聖母様に相談するとしよう。
ユグドラシル退場計画に関しては聖母様に頼るところが大きいし、正直なところダンデライオンじゃなくても実行可能な形で立ててたので一応問題ないが、でもこの最弱野郎だし見直しておいた方がいいかもしれない。
ちなみに死体を片して戻ってきた信者がどこのスパイか訊いてきたので、こちらも洗脳をしかけて記憶をいじくりまわし黙らせた。だって知らねえもん、俺憑依したばっかだし、憑依したキャラの記憶を覗けるわけじゃねえんだから。
びっくりして焦って弄ったせいでぶっ壊れて廃人になったけど、どうせコイツらもユグドラシル信者だろうし、クリスタルスカルの捨て駒信者どもなんぞいくら壊れたところで大した問題ないだろ。
……面倒くさくなったので、廃人化したやつらは2階から飛び降り自殺させて別の信者に片付けさせることにした。これでヨシ。よくない。
こうしてダンデライオン改めボールサムになってしまった俺は、それでも予定通り聖母様を訪ねるために、ニュージーランドに向かって旅立つことにした。
たんぽぽ野郎が退場したくらいで終わるとでも?
いいえ、悲劇フラグを折る旅路は一度死ぬくらいでは終わりません。
というわけで、ここからは第二章になります。