爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
東南アジアの熱帯林が広がる島にて、黒髪の女性軍人と、銀髪のテロリストが対峙している。
お互いフォーリナーの脅威に対抗する人類の武器であるパラディソスを保有する者だが、2人の手にあるその武器は今同じ人類に向けられていた。
「オーバードーズを引き渡せ、ダンデライオン。それは人の手に負える力では無い」
「そんなこと知るか! あれを手に入れてボスに……そうしないと、俺は殺される……! テメエらの事情なんざ知らねえんだよ!」
フォーリナーを超える脅威ともなる存在オーバードーズ。
それをめぐる争いで、お互い譲れない理由から敵対することとなった者同士。
力なき人々を守るために持った力を行使し、軍人の務めとしてオーバードーズの引き渡しを要求するアサヒ。
それに対し、ダンデライオンを名乗るテロリストは自己の命を盾に従わせる存在からの命令を遂行するため、達成しなければ殺されることとなるために、自分が生き残るためにオーバードーズの引き渡しを拒否する。
引き渡せば殺される。だから引き渡すことはできない。
ダンデライオンの言葉に、交渉は不可能と判断したアサヒは、しかし多くの民間人の安全を守るためにダンデライオンを倒してでも任務を遂行することを優先する。
言葉が通らなければ、力を持って通すのみ。その手に持つバスターの刃を銀髪のテロリストに向けた。
「……言葉が通じぬなら、力を持って通すのみ。構えろテロリスト」
「ちっ、アイツのこと何も知らねえくせに……何が英雄だ、お前らなんかどこまで行ってもろくでもねえ人殺しだろうが! ぶっ殺してやる!」
死にたくない。
生きとし生けるもの全てが持っている当然の感情から、ダンデライオンは抵抗の道を選ぶ。
グランシャリオのバスターを展開し、アサヒへと向かっていった。
──やめとけ、紙装甲の手に負える相手じゃ無いぞ。
その中ボスの性能を知ってから、セカンドステージで主人公を操作し相対したパッとしねえ中ボスには、ゲーム画面の向こう側からよく忠告という名のツッコミをしたものである。
パラディソスに爆弾仕掛けられて、従わなければ爆破させられて死体がフォーリナーに喰われるから人間として死ぬことすら許されないっていう立場に怯えていたからという背景を知っても、まあ中身が小物だったしパッとしねえしで特に哀れみとか感じなかったけどな。
昨日までダンデライオンに憑依していたためか、ゲームにおいての主人公とやりとりしたところのシーンを思い出した。
セカンドステージでダンデライオンと対峙した時に挟まれるイベントシーンで、この後中ボス戦が始まる。
どうやら俺は飛行機の中で結構な時間、寝落ちしていたらしい。
目を覚ました時、窓の外に広がっていたのは太平洋に広がる空の上ではなく、ニュージーランドの空港だった。
なんか、改めて思い出すとダンデライオンの対応が俺の知る主人公様との邂逅とだいぶ違う気がするんだけど……なんで俺にはあんなバトルジャンキーの対応しておいて、俺と違い中身まで歪み捻じ曲がっていたモノホンのダンデライオンにはちゃんと話し合いを試みていたんだよ。
キクミミモタズに取り憑かれたアサヒに追いかけ回された件を思い返し、言葉が通じないのはこっちじゃねえ、あんたの方だよ! と主人公にツッコみたくなった。
まあ、説得しようにもゲームの方でもダンデライオンはココの確保に失敗しており、渡せるものもなかったから話し合いなんてできなかったんだけどな!
目的のものがないのだから、戦う理由はないと突っぱねておけば主人公の方もあんなパッとしねえ中ボスに時間を割く必要はなくなるし、話し合いの余地はあったのではないかと思うが。
主人公の方だって、上からの命令で動いていただけであり、ダンデライオンとスリフトの件を経てクリスタルスカルに対し敵愾心を抱く形になったし。
「断る!」
「ならば実力行使しかないな。覚悟しろ!」
「慈悲など要らぬ! 死ね!」
……主人公様との邂逅を思い出したら、やっぱり戦いは避けられなかったのかもしれないと思えてきた。
ゲームだともっと理性的だったはずなのに。
ひょっとして、アサヒも別の人間が憑依しているパターンでは?
そんな憶測が浮かぶが、あの考えなしなケンカっ早い脳筋思考は温厚な現代人には合わない気がするのでアレが素なのだろうと思うことにする。
だって無双系アクションゲームの主人公だぞ? フォーリナーとかいう異世界から来る機械生命体の侵略に晒されてる世界で、バトルは爽快ストーリーは憂鬱やってる主人公様ぞ。頭バーサーカーじゃなきゃやってられないって、そんなの。
「ご搭乗ありがとうございますお客様。当機はウェリントン国際空港に到着いたしました、お忘れ物のないようお降りくださいますようお願いいたします」
「これは失礼。快適なフライトだった、感謝する」
「ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」
キクミミモタズ主人公についての考え事してたら、いつのまにか俺以外の客は全て降りており、CAさんにはよ降りろと言われてしまった。言われてない。
荷物をまとめてさっさと降りる。いつまでも機内に居座っては迷惑だからな。
前回はグランシャリオの権能で当たり前のように不法入国したが、今回はちゃんと正規の手続きを踏んでの入国だ。
ボールサムの表の顔は、アメリカにて複数の農園を運営している農業経営者だ。
違法な手段を使いまくっている裏の顔でもガッツリ稼いでいるが、それ以上にこの表の顔の経営者として大金を稼いでいる、要するに金持ちである。どうせその金で信者の女を囲ってんだろ、そのあたりまでユグドラシルのクソ野郎の真似しててもおかしくないからな。というわけでくたばれパチモン野郎。根拠なき風評被害。
格好がパチモンだったからか、空港で警備員に足止めくらってユグドラシルを疑われるなどして時間を浪費することになったが、似せてるだけで似てるわけじゃないので直ぐに別人と分かり解放されたので問題なし。
空港を出たところでタクシーを捕まえて、約束の場所である甘いコーヒーを淹れるマスターがいる店へと向かった。
マスターのモダンカフェは、前回来た時と変わらぬ場所に変わらぬ店を構えて待っていてくれていた。4日で変わるようなものじゃない。
建物が変わらないのは平和の証だ。この世界でもニュージーランドは周りを海に囲まれ、大陸議会からもフォーリナーの勢力圏からも遠いことから、戦場になることがない数少ない平和な場所だから。
……改めて考えると酷い世界だよなここ。
マスターの店に入り、前回と同じ席につく。
約束の時間まであと1時間ほどあるので、他のお客さんの姿はあったが、まだシスターは来ていない。
まあ、早いことはいいことだが早すぎるのも考えものだからな。シスターは子供たちのお世話もあるし。
「マスター、ブラックコーヒーを頼む」
「ブラックでよろしいのですか? 普段はブレンドを──」
「ブラックだ。甘いのは苦手なんでな」
「珍しいですね。わかりました」
とりあえずマスターにブラックコーヒーを頼んでおく。
マスターはブレンドを勧めたが、俺は甘いのが苦手なんだよ。確かにマスターの淹れるブレンドは美味いが、砂糖とミルクが入っているコーヒーは舌に合わない。
「……本当にブラックでよろしいのですか?」
「なかなかしつこいな。いいんだよブラックで、甘いのは苦手だって言ってるだろ」
「一応ブレンドも──」
「本当にしつこいな! ブラックだっての!」
「承知しました」
「どうしてブレンドばっかり勧めてくるんだよあのマスターは……」
ボールサムとしては初来店の客であるはずだが、ブラックコーヒーでいいのかとマスターは再三確認してきた。
そんなにブレンドにして欲しいのか? 看板メニューだから? それともこのザコな中ボス野郎がブラック飲めなさそうな顔だからか?
……なんか違う理由からブレンド勧められてたように感じたけど、その違和感はとりあえず今日は無視しておく。今日のシスターとの会談の方がよっぽど重要だからな。
シスターを待つ間、マスターが持ってきたブラックを一口。
カウンターの方から見られてるけど、何で?
あれか、ホモだから男の視線を惹きつけるのか。そんなわけあるか。
「……うん、やはり美味い」
やはり美味い。コーヒーの好みは人それぞれだろうが、個人的にはブラックコーヒーが舌に合う。
それにマスターのコーヒーは美味しいからな。
このようにマスターのコーヒーを味わいながら待っていたら、シスターがカフェにやってきた。
今日のシスターの服装は、教会で見る修道服でも、クリスタルスカルの幹部会で見る喪服みたいな黒装束でもなく、期間限定版の追加コンテンツで出たことがある衣装で、あの世界最強のラグビーチームの黒いレプリカジャージ姿だった。
ニュージーランドだからかなって思ってたけど、まさかのシスターの私物だったのかよ! そういえば、シスターはフォーリナーが存在しなかった時代から生きてる人だったわ。まさかオールブラックスファンだったとは……
シスターはまずカウンターの方を見てマスターに会釈をすると、カウンターにある時計を確認する。
そして俺が座る席を見て、目が合うと一瞬動きが止まったものの、表情は一切変えることなくまるで知り合いなどいないかのように振る舞い別の空いている席に向かい、俺に背中を向けて座った。
あれ? シスターよ、なぜ俺を無視した。
約束の時間通り、そして約束の席に俺がいるのに、なぜかシスターはスルーした。
シスターに無視されたことにショックを受けて目線を落とすと、そこで自分の服装と手が目に入りそういえば俺は今ダンデライオンではなくボールサムになっていたことを思い出した。
うん、そりゃ無視するわ。
だって俺の今の格好、クリスタルスカルの幹部会に出ている時と全く同じユグドラシルのパチモンだもん。一目でボールサムだってわかるわ。
そしてよりにもよって1番のユグドラシルの信者であるボールサムだもん。
裏切り者の共犯のダンデライオンと約束した日にカフェを訪れたら、その席にボールサムがいた。この状況、シスターの立場だったら最悪の可能性が頭によぎるわ。
それでも冷静さを失わず、直ぐに店から出て教会に急いだり、いきなりボールサムを殺しにかかるような真似をしないあたりさすがですわ。ボールサムと目があっても表情ひとつ変えないのもさすがですわ。
多分、シスターは混乱しつつも冷静に、しかし最悪の可能性も考慮しつつ状況を把握しようとしているのだろう。
このままシスターを不安にさせるのは本意ではないので、席を移動する。
シスターの対面に席を下ろすと、彼女はこちらを一度見て、しかし直ぐに見ず知らずの人がたまたま同じ席についただけという状況を装いノーリアクションを貫いた。
さすがは聖母様だ、人生経験が違うぜ。
……なんか一瞬すごい睨まれたが、直ぐに視線は外された。
シスターの信用を得るのに1番手っ取り早くて確実なことがある。
それはエルキドゥの嘘看破の権能を使ってもらうこと。
ダンデライオンを名乗れば嘘つきになってしまうが、中身が俺であることを証明するための言い回しはあるのだよ。
「俺は4日前に約束した者だ。外見は違うが、あんたに協力を頼んだ相手だよ」
「────!?」
俺の言葉にシスターが反応する。
エルキドゥの権能で俺の言葉に嘘がない、つまり4日前に会うことを約束したダンデライオンと同一人物であることに気づいてくれたらしい。
どう見ても約束したたんぽぽ野郎じゃないのに、俺が約束した相手であることが証明されたのだ。混乱するのも無理はないだろう。変装でも無理があるからな。
「それ含めて話すから、落ち着いて聞いてくれ」
「……わかりました」
シスターは警戒を解いていない。
しかし、話は聞いてくれるらしい。
ひとまずこの唯一の協力者にいきなり手切れされるという最悪の事態を回避することに成功した俺は、信用していいかどうかを判断しかねている様子のシスターに、まずはこの姿の理由である己の本当の素性を説明することにした。
「まず、見ての通り
「……人格はダンデライオン、ということですか?」
胸に親指を向けて身体はボールサムだと言い、そして顳顬を人差し指で叩いて中身はボールサムではないと告げる。
それを聞いた聖母様ははさすが人生経験が長いだけあり、すぐに肉体はボールサムだが中身が協力関係を築いたダンデライオンの方であることを察してくれた。そしてなぜかまた一瞬睨まれた。
「そうだ」
「嘘ですね」
「間違えた。正確には4日前に訪ねた時も既に中身は俺でありダンデライオンじゃなかったんだ」
「……そういうことでしたか」
おっと、エルキドゥの嘘看破に引っかかってしまった。
正確には意識になっている俺はダンデライオンではない。なので、ダンデライオンであることを肯定したことが嘘看破に引っかかってしまったらしい。
そのあと直ぐに訂正したことでシスターには理解してもらえたが、信用は一気に失墜してしまった。
そうだった、シスターは嘘をつかれるのが地雷であり、ユグドラシルの野郎に嵌められた嘘をつかずとも本当のことを隠して騙すことも地雷だったんだ。年齢もな。
俺、この地雷を思いっきり踏み抜いてしまったじゃねえか。
流石にこの件について、嘘をついていなかったものの騙す形になっていたことは謝罪しなければいけないだろう。
誠意を込めた謝罪をするならば、これしかあるまい。
アスカロンの権能を駆使してマスター諸共店内にいる客を全員眠らせて人目を排除してから、席を立ちその場に膝と両手をついた。
「申し訳ありませんでした!」
「何をしているのですか!?」
危険なパラディソスの権能を行使したことと、いきなり土下座をしたこと。
二つの理由でシスターを驚かせてしまい、そのあと説教を受けることとなった。そりゃそうだ。