爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感)   作:火星で1,000往復

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シスターに説明しようの回

 

 シスターは嘘と隠し事が大嫌いである。

 心優しい聖母様は人に騙され裏切られを繰り返し、ユグドラシルの話術に騙されたことが決定打となって、今ではすっかり他人を信用できなくなってしまった。

 

 他人を疑うのは立派な自己防衛である。

 明日を生きるのすら精一杯なこの世界は、余裕がないから他人を利用して生き延びようとするものが溢れている。疑い深いのは、用心深いと同義だからな。

 

 なので、嘘をつき隠し事をしていた俺は、聖母様の信用を大きく損なってしまったのだ。

 土下座でも許してもらえず、長々と説教されてから、何一つ隠すことなく説明することを要求されることとなった。

 

 信じてもらえないだろうからと勝手に諦めて隠していたが、聖母様の信用を取り戻すためにここは包み隠さず話すべきだろう。

 聞かれたくない内容なので、アスカロンの権能で眠らせた店内の人たちは起こさないでおいて、土下座したまま()の隠していることを説明することにした。

 

「もう隠し事もしない。俺の素性に関すること、ボールサムになっている経緯、ユグドラシルの退場を望んでいる動機、ダンデライオンがどうなったのかについて、全て話す。荒唐無稽と切り捨ててもらっても構わないが、エルキドゥの権能は絶対だから嘘偽りのない話であることはわかってもらえるはずだ」

 

「……わかりました。席に戻り、とにかくマスターたちにかけている洗脳を解除してください」

 

「ユグドラシルの野郎の信者の影はいついかなる場所にもあることを警戒しなければいけない、これは必要な措置だ。そして土下座は俺の謝罪の意思によるものだ。悪いがどちらも解除するつもりはない」

 

「私は許すと言っています! そしてマスターたちに何かあったらどうするつもりなんですか!?」

 

「眠っているだけだ。後遺症を残すようなヘマもしない、信者どもで人体実験して加減を知ったからな。気にするな」

 

「気にします! 何をしているんですかあなたは!」

 

「誤解があるようだが、ボールサムの駒でも、スパイや死体の始末を行うような同情の余地のない悪党どもだ。ユグドラシルの手駒だろうと、流石に殺しは選びます」

 

「嘘ですね。ユグドラシルの信者ならばほとんど無差別に生死を問わない扱いをするつもりですよね?」

 

「……流石に無関係な民間人は考慮します。死んでもいい認識も、信者本人のみで家族まで無条件で含むことはしません! もちろん聖母様に危害を加えるつもりもないです!」

 

「……これは本当のようですね。それから私を聖母様と呼ばないように」

 

「うす」

 

 また嘘をついてしまい、聖母様からの信用ポイントがマイナスされてしまった。

 既に我ながら冷酷な考えに染まっており、ユグドラシルの信者=敵って認識になっていて、敵ならいくらやられてもいいだろって思考になってしまってるのだ。

 2回も死ぬわ、変な中ボスにさせられるわと、こんな事態に見舞われて俺に余裕がないからかもしれないが、もうすでに平和な現代日本人の感性が消えかかってるんだわ。

 失態が重なっている。やはりこの肉体に問題があるんだろうよ。言いがかりである。

 

 マスターたちの洗脳に関しては、解除したくない。

 信者がどこに紛れ込んでいるか分からない状況だ。下手したら、マスターが信者の可能性も捨てきれてないくらいクリスタルスカルはどこにでもいるからな。

 ボールサムの中身が別人になっていることを知られて肉体を殺されることがあれば、フォーリナーに乗っ取られて聖母様や無関係な人々に危害を加える可能性があるし、スリフトの洗脳が解かれてしまう可能性もある。スリフトが次の憑依先になるかもしれないし、それ以前に次の憑依先がある保証もないので。

 どっちにしろそんなことになれば、カトレヤがゲームのストーリーでは死に際の短い時間とはいえ親子の再会を果たしたのにこっちではその短い再会すらできずに終わってしまうことになりかねない。流石にそれは可哀想すぎる。

 

「最悪の可能性は想定しなければいけない。俺の話が終わるまでは、マスターたちには眠ってもらう。それでも気に入らないというなら俺の頭でも背中でも踏みつけるがいい」

 

「しませんから!」

 

「蹴ってもいいぞ、俺にとってはむしろご褒美だ。いっそ踏みつけてくれ」

 

「これも嘘じゃないなんて……一体どういう趣味をしているのですか!? 暴力を受けて喜ぶなんておかしいです! 絶対にしませんから!」

 

 床に地面をつけながら、聖母様に眠っているだけで本当にマスター達にこれ以上の危害を加えることはないと説明し、それでも気に食わなければ俺に八つ当たりしろと言うと、怒られた。

 聖母様にはエルキドゥの権能にて、本当にユグドラシルを警戒しての処置であることと、マスターたちは眠らせているだけであり後遺症は残さないし危害も加えないという点について嘘ではないことを看破してもらい、なんとか信用を得ることができた。

 ちなみに八つ当たりに関しては聖母様の気質もあり全力で拒否されてしまった。

 

「理解は得られたようで何よりだ。踏んでもらえないのは残念だが、まあ床に這いつくばって見下されているだけでも興奮するからそれでいいか」

 

「やはり席についてください!」

 

「断る!」

 

 別の意味で聖母様の俺に対する評価がダダ下がりしているが、隠し事はしないと誓ったので後悔はない。むしろその方向の軽蔑は望むところだからな。

 

 マスターたちを眠らせたことについては説明し理解を得られた。

 ならばと土下座に関する攻防は早々に切り上げて、本題である俺の正体とこれまでの経緯、そしてユグドラシル退場計画案のプレゼンに話を戻す。

 

「話を戻すぞ」

 

「戻さないでください」

 

「4日前、俺は確かにダンデライオンだった。肉体の話だがな。そして今はボールサムになっている。だが、中身の俺はダンデライオンでもなければ、ボールサムでもない。こいつらと俺は赤の他人であり、血縁も何もない。そしてこいつらの元からあった意識はどうなっているか、眠っているのか消えてしまったのか、その行方を俺は知らない」

 

「その姿勢をやめてください、話が入ってきません」

 

「俺にわかっているのは、本来の俺は自身の死とともに終わるはずだったのに、気づいたら別の肉体に宿っていた。どういう力が働きこうなってしまったのか、俺は知らん。超常現象ならばフォーリナーどものいるこの世界では当たり前に溢れているが、本来の俺はパラディソスの保有者ではない普通の人間だった。それは確かだ」

 

「原因はパラディソスではないと?」

 

「俺の認識の上では、だな」

 

 今はボールサムの中身になってしまっている俺。

 ボールサムになってしまった現状に至る経緯について、わかっている範囲で説明する。

 

 死んだ人間が他人に憑依するなど、にわかには信じられない話だが、この世界にはフォーリナーという人知の理解に及ばぬ超常現象を扱う存在がある。

 しかし俺はそのフォーリナーがいない世界の住人だった。グランシャリオの権能にもそんなものはないし、なぜ他人の肉体に憑依したのかは俺もわかっていない。

 

 エルキドゥの権能で俺の言葉に嘘がないことを認識している聖母様は、憑依の話を信じてくれたようである。

 

「初めて教会を訪れた日だ。あの日に俺は気づいたらいつの間にかダンデライオンになっていた。その前の最後の記憶は姉と豪華客船で船旅をしていたときに遭った事故で、水没する船内に沈んだというものだ。おそらく、本来の俺はそこで溺死したんだろう」

 

「あの日ですか……」

 

 初めて教会を訪れた日。

 それはシスターに教会から追い返された日のことである。

 それ以前のダンデライオンは知らないし、俺はダンデライオンの本名も知らなかった。無理があるダンデライオンが本名というのは、認識によって嘘看破を通った特例である。

 

 その日を思い出し、シスターもあの時から俺に対する印象がクリスタルスカルで会うダンデライオンとは大きく異なっていたと感じていたようである。

 もっとも、その時はユグドラシルの粛清の可能性を恐れたため、冷静さを失い思わず追い返してしまったのだとか。

 

「……待ってください。あなたの言葉に嘘がないことはわかりますが、一つ矛盾があります。どうしてあなたはダンデライオンの本名を知らないのですか? そしてなぜ私を知っていたのですか? あなたにダンデライオンの記憶はないのですか?」

 

 ここまでの説明で、聖母様は今はボールサムになっている俺が何者でどういう経緯でダンデライオンになっていたのかを知ったが、同時に前回の会合の内容を踏まえて俺という存在に対し浮かんだ疑問を投げかけてきた。

 

 本名が分からなかったからダンデライオンを名乗り、俺の認識ではそれ以外の候補がなく本名と思い込んでいたからエルキドゥの嘘看破に引っ掛からなかった。

 そうなると、憑依した俺にはダンデライオンの記憶が欠如しているかあるいは残らなかったということになる。

 そして、たとえダンデライオンの記憶を継承していたとしても聖母様のシスターとして過ごしている表の素性は知らないはずである。

 

 にもかかわらず、俺は聖母様の存在を知っており憑依した日にいきなりその表の素性の彼女に接触してきた。

 ダンデライオンの記憶を継いでいるなら覚えているべきものが覚えておらず、ダンデライオンの記憶を継いでいたとしても知らないはずのものを知っている。

 シスターはそこに矛盾がある、まだ隠していることがあると気付いたようだ。

 

 さすが、人生経験が長い分頭も回る。早いことはいいことだ。

 無論、それも説明するつもりだったので問題はない。

 前回はその矛盾について説明すると、嘘ではないが嘘としか思えない内容になるので逆に信用を失うかもしれないと判断したから隠していたことである。

 

「信じられない内容かもしれないが──」

 

「今更です。それに、荒唐無稽な内容だとしても、真実ならばエルキドゥが教えてくれます」

 

「それならば。聖母様のことを知っていたのは、俺がこことは異なる世界の住人であり、そこではこの世界がゲームとして出ていたからだ。聖母様のことを知っていたのは、そのゲームを通じて得た知識によるものだ」

 

「別の、世界……? いえ、嘘は言っていませんね」

 

 俺の正体。

 すなわち異世界人であること、そしてその世界でゲームになっているのがこの世界であり、プレイヤーの視点で進めた物語の内容からユグドラシルに爆弾を仕掛けられていることと、協力できる存在がシスターであることも話した。

 

 エルキドゥの権能で俺の話に嘘がないことを確認する聖母様。

 俺が本来は別世界の人間であること、そして自分たちが生きる世界がその別世界ではゲームの舞台になっていることも認識してくれた。

 

「にわかには信じられませんが、あなたは嘘を言っていない」

 

「隠し事も全て明かすよ。これがシスターの感じた矛盾の解答になる。俺はダンデライオンの記憶を継承していないが、ゲームにおけるこの世界の物語を知っている。プレイヤーの視点ではダンデライオンの所属、ユグドラシルの目的、クリスタルスカル幹部にくくりつけられた爆弾の存在、それに縛られていない聖母様とその素性……ダンデライオンの記憶がないのに知っていたことは、この世界を舞台としているゲームを通じて知ったことだ」

 

「この世界が、ゲームの舞台……」

 

 聖母様の気付いた矛盾点に対する説明。

 それを聞いて聖母様は噛み砕くのに時間がかかっている様子。

 まあ、いきなりお前たちの世界は別の世界で娯楽の舞台にされているんだよって言われて、はいそうですかって納得できるわけないわな。それが事実だとしてもだ。

 

「ちなみに、どのような作品なのですか……?」

 

「タイトルは“Foreigners”。いわゆる無双系アクションゲームで、パラディソスの保有者であるキャラクターを操作し、立ち塞がる敵対勢力の人間の兵隊やフォーリナーの雑兵を一騎当千のアクションで蹴散らすゲームだ。世界観はフォーリナーの侵略に抗う人類、その中で人類同士の陰謀も張り巡らされ、それに主人公たちが翻弄されながらも人々を守るために戦いぬくっていうストーリーだ」

 

「私たちは、そんなものに……」

 

「聖母様もプレイアブルキャラの1人だ。70代とは思えんくらい可愛い──はウゥン!」

 

「私の素性も、そこで晒されているということですか……」

 

 後頭部を思いっきり踏みつけられて、つい声が出てしまった。

 聖母様はショックを受けており、反射的に俺を踏みつけたことにも気づいていない様子。グリグリされるの癖になるゥ! 

 

「そんで、シナリオで主な敵になってるのがクリスタルスカル。ラスボスは別だが、まあ実質的な敵の大将についているのがユグドラシルの野郎だ。本名はウォーロン・カリスタ。バルバトスの権能を利用し、オーバードーズを生贄にこの世界を破壊し再構築して神に成り上がることを目的にしているクソ野郎。最後には主人公様たちが倒してくれるとはいえ、そんなやつに爆弾くくりつけられた身の上で汚れ仕事しながら生きて、正義のヒロイン様にぶっ殺されて終わるなんて納得できるわけもねえ。だから俺はユグドラシルを退場させるために動くことにしたんだ」

 

「私のことを知っていたのは……」

 

「聖母様がユグドラシルを信奉していないことも、パラディソスに爆弾を括り付けられていない唯一の幹部であることもゲームで明かされてたからな。協力を取り付けられるのは貴女しかいないって思ったんだ」

 

「……あなたの事情はわかりました。私に接触してきた経緯も」

 

 これがユグドラシル退場に動いた動機と、聖母様に協力を持ちかけた理由である。

 ユグドラシルを倒して自由になること。それが中ボスにされた俺の、ストーリーに干渉してでも自力でユグドラシルに刃向かうことを決めた理由だ。

 本命はその先にあるけどな。もちろんダンデライオンの末路とともに、このことも説明する。

 

「ダンデライオンは最初に主人公様にやられる中ボスだった。そして案の定、昨日主人公と交戦したさいに負けて、ユグドラシルの野郎の爆弾に殺された。ボールサムになったのは俺も予想外だが、二度目の死を迎えたと思ったらこうなってた」

 

「ダンデライオンは死んだのですか?」

 

「オーバードーズ回収任務でな。回収に失敗することはわかっていたけど、主人公の説得にも失敗して完敗よ。まあ、直接の死因はあのクソ野郎の爆弾だから、やっぱり倒すべき敵はあいつだって再認識させられたぜ」

 

「……彼の魂は、もはや誰にも縛られることはないでしょう。どうか安らかに眠られますように」

 

「フォーリナーに食われたとしても、主人公様がしっかり介錯してくれてるはずさ。仲間を何人も失っているからな、敵でも仏になった相手に無碍なことはしねえよ」

 

「人格者なのですね」

 

「いや、それはない」

 

 真っ当な心根を持った人間ではあるが、その本性はキクミミモタズに取り憑かれたバーサーカーである。人格者ではない。

 即座に否定した俺に「そこは肯定するところでは……」と困惑しながら見下ろした聖母様は、そこで俺の後頭部を踏みつけていることに気づいた。

 

「あっ、申し訳ありません! 私はなんでこんなことを──」

 

「あ、気づかれた。聖母様、申し訳ないと思ったならば俺の望みを叶えてください。さあ、もっと踏んでください!」

 

「お断りします」

 

「えぇ……」

 

 せっかくのボーナスタイム終了である。

 生理的嫌悪と軽蔑に満ちた目を向けられていることが見なくてもわかる声で即拒否された。

 

 その後、いい加減にしなさいと襟首掴まれて引っ張り上げられ椅子に強制的に座らされることとなった。

 しょうがない。姿勢も真面目にして話の続きをするか。最初から真面目にやれ。





登場人物紹介

ボールサム
本名はゴドラック・ハーウェン。Foreigners2の主な敵であるテロ組織“クリスタルスカル”の幹部の1人。保有するパラディソスはアスカロン。他者を傀儡にする精神支配の権能を有するパラディソスであり、クリスタルスカルというテロ組織の勢力拡大に大きく貢献してきた。一方戦力としては乏しく、公式が認める最弱の中ボスとされている。ユグドラシルに心酔しており、見た目も似せているためパチモンなどと揶揄されることも。普段はアメリカで複数の農園を経営しており、クリスタルスカルでは信者を募る広報、スパイや裏切り者の粛清を担当しており、カトレヤの育ての父の記憶を抹消しユグドラシルのコマにするなどの所業を行っている。
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