爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
異世界のゲートが出現し、フォーリナーという脅威が襲来するようになって半世紀。
人類が二大勢力にまとまり、愚かで醜い動機から再び人間同士の血で血を洗う戦争を始めておよそ40年。
草の一本も残されていない死の大陸となったアフリカが、かつて多くの生命に溢れ他の世界と同様に青空が広がっていた平和な時があったことを知らない世代がはるかに多くなった。
世界全てが平和とはまではいかずとも、人類を滅亡の瀬戸際に立たせるほどの惨劇をもたらす侵略者たちはいなかった、少なくとも故郷であるこの国の人々には確かな幸福と平和が広がっていた日々はすでに遠い記憶の中に残るのみ。
同じ時を過ごしてきた同世代の友人たちは皆先立ち、平和の時を壊した異界の無機質な獣をこの身に宿した時より老いることがなくなったことで、1人取り残された。
多くの悲劇を見てきた。
フォーリナーの侵略で、人間の欲望で、犠牲を強いる者たちの欲望により見捨てられ戦場に駆り出され消耗され、尊い命を失う罪なき人々を襲う悲劇を。繰り返される惨劇を。増え続ける涙を。大切な人との永遠の別れを。
もう、目を背けることはできなかった。
たとえ悪人であろうと、異なる世界から飛来する理不尽な侵略者であろうと、全ては尊ばれる一つ一つの命。殺めることはあってはならない。奪うことはあってはならない。
犠牲となる罪なき人々を救済するため、次代の子供達にフォーリナーの脅威がない世界を届けるため、教えに反し罪を背負い命を消費する世界に自ら飛び込む決意をした。
故郷の島国を統治する環太平洋条約機構は信用できなかった。
彼らは無辜の民の犠牲を許容し、力を手にするためフォーリナーの侵入を許し、悲劇に見舞われた人々を言葉巧みに復讐に駆り立て使い捨ての兵器に転用し消耗品として戦場に送り続け、その犠牲の上に成り立つ利権を貪る者たちだった。
フォーリナーの脅威をなくすため、あの巨大なゲートを封印する。
その選択を取らない組織の下には従えない。彼らの掲げる旗の下で戦っても、本当の意味で人々を救済することはできないから。
ユーラシア大陸議会も同じく信用できなかった。
太平洋条約が騙して人を兵器に変える組織ならば、彼らは議会の制定する法の名の下の弾圧で人々の意思を縛り有無を言わさず人を兵器に変える組織だった。
彼らは自分たちが絶対的支配者になる世界秩序の構築のみを目指す独裁者たちだった。彼らの意に従えないならば、同胞であろうと刃を向ける圧政者だった。
彼らもまた、パラディソスという力に固執してフォーリナーの侵略を許容し、守るべき民衆を踏み躙って作り上げる栄華に縋る組織だった。
二大勢力の下では、フォーリナーの脅威に終止符を打ち平和を取り戻すための戦いはできない。
今の世界の人類をまとめるこの二つの勢力には従えない。
二大勢力を見限った私が選んだのは、その二大勢力に対して反旗を翻し、テロリストの汚名を被せられながらもゲートの封印を目的に掲げて戦う“クリスタルスカル”という組織だった。
「貴女の協力があれば、我が悲願は叶う。共に戦おう、異界の侵略者の脅威に怯えることがない日常を取り戻すために」
私をクリスタルスカルの幹部として迎え入れた時、ユグドラシル──クリスタルスカルの首領、ウォーロン・カリスタが手を差し伸べて告げたあの言葉に嘘はなかった。
彼の元でならば、私の願いである勝手の平和な日々を取り戻すための戦いができる。
異界の侵略者がもたらす破壊と殺戮にも、支配者となった人類がもたらす強欲と圧政にも、その犠牲にならずに罪なき人々が与えられた人生を清く正しく真っ当に謳歌できる世界を取り戻せると。
そう、信じることができた。
……そうだと、信じていた。
信じたかった。
あの時、カリスタの発した“我が悲願”という言葉。
嘘を看破できるが、隠した本音を暴くことはできない。
カリスタは私の保有するパラディソスの有する権能を知っていたのだろう。
二大勢力を扇動し争わせ力を削り、大陸議会が保有するオーバードーズの保有者を確保する。
その後自身の保有するパラディソス“バルバトス”の権能を用い、オーバードーズを生贄としゲート諸共一度この世界を破壊する。
もう一つの権能を使用し再構築した世界で、ただ1人のパラディソスの保有者となり、全てを己の意のままに作り直した、ゲートが消失しフォーリナーが消えた新たな世界で全てを支配する神になる。
カリスタの悲願とは、大陸議会の議員たちを上回る圧政、己の秩序だけで構築された世界を手にすること。
自分以外の全てを滅ぼし、世界の創造主となり、神にならんとする、傲慢極まる願望だった。
教えに反し戦いに身を投じる選択をし、同じ人が人を人とすら見なさず欲望のままに振る舞う様に一時だけであると自身に言い聞かせてその人の組織とも戦う選択をした。
彼の組織ならば救済を果たせると信じて力を振るうために入り、同胞とも矛を交えてまで戦った。
今のひとときだけ、この先にあるゲートの封印という目的を果たせば、フォーリナーの脅威にも怯えることはなく、パラディソスなどという力に振り回されることもない、本当の平和を取り戻せると信じて戦ってきた。
そして知ることとなったのは、救世主の大義の元の聖戦に身を投じていたのではなく、悪魔に騙されその矛として戦い、自らもまた救おうと志していたはずの人々を苦しめる一翼を担っていた真実だった。
──もう、誰も信用できなくなった。
だから、私は誰にも従うことなく、誰も信じることなく、救済の悲願は私自身の手で達成することにした。
クリスタルスカルを内側から崩壊させ、カリスタの野望を阻止するために戦うことにした。
カリスタの手先となり、悪魔を宿した男と契約しその野望のために組織を利すること、罪なき人々を苦しめる一端を担った事は、消えることのない私の罪。
消える事なき罪の精算のため、カリスタの野望を潰す。
このテロ組織の表に掲げるプロパガンダを本気で信じ支持してくれる人々の幻想に縋る希望を打ち砕いてでも。
表向き二大勢力の悪行に立ち向かう英雄として振る舞っている男の首を取り、救済をもたらすと信じられている英雄を殺したという大罪人の汚名を背負うこととなろうとも。
賞賛は求めない。栄光は求めない。
人類から爪弾きものの扱いを受けようともかまわない。ゲートの封印を果たした先で報われることがなくとも構わない。
救済を果たした先の世界で、私が全てを失ったとしても、その世界を生きる人々に平和と幸福が約束された人生が広がっているならば。
それが、ヘリアンサスのコードネームを与えられた私──パメラ・ロインの本当の意味で得た、戦う理由となった。
クリスタルスカルの幹部たちは、互いの表の素性は本名すらも知らない。
知るのはカリスタの掲げる表の目的を支持する同志であることと、パラディソスの保有者であること。
幹部たちの表の素性を知っているのはカリスタだけである。
そして、カリスタに従い戦う上で、それは知る必要のないことだった。
私が普段は故郷でフォーリナーに親を殺された子供達を太平洋条約の兵器にされる前に保護している、孤児院を兼ねた教会を運営しているシスターであることも知らない
そして私も、他の幹部たちの素性は知らない。
普段はどこで暮らしているのか、何をしているのか、本当の名前はなんであるか。それらを何一つ知らなかった。
だから、この教会をクリスタルスカルの幹部が訪れることはないはずだった。
「邪魔するぜ」
その来訪は、あまりにも突然だった。
クリスタルスカルの幹部達による会合。
今までその時しか会ったことがなかったはずの、クリスタルスカルの幹部の1人であるダンデライオンが、突然教会に現れたのである。
何故? いつ? どうやって私がこの教会のシスターであることを知った?
まさかカリスタが私の裏切りを勘付いたのか? 粛清のために幹部を差し向けたのか?
表向きは奴の意に従ってきたはず。気付かれる素振りは見せてこなかったし、怪しまれている様子もなかったはずだ。
だが、現にクリスタルスカルの幹部が教会に訪れた。
幹部同士は知らないはずの、カリスタだけが把握しているはずの、表の素性で過ごしているこの教会に。
最悪の想像が頭をよぎる。
もしも粛清のために来たというなら、パラディソスの保有者同士の殺し合いになる。そうなれば子供達が巻き込まれる危険がある。
加えて現れた幹部が最悪の相手だった。
ダンデライオンのパラディソスには高速移動の権能がある。私を出しぬき子供達を捕まえて人質に取ることは容易だろうし、子供達を避難させるために逃したらそちらに標的を移されることも考えられる。
純粋な一対一の戦いであれば私の方が上手だが、この場を戦場にされた時には最も戦いたくない相手だった。
追い詰められた私は、咄嗟に帰って欲しいと告げた。
粛清に来たとするならば、なんの意味もない無駄な抵抗でしかなかった。
そんなことをするくらいならば、一撃必殺にかけて問答無用で襲い掛かるべきだった。
「邪魔するならお帰りください」
「あいよー」
ところが、ダンデライオンは素直に従い帰ってしまったのである。
「……な、何をしにきたのですかあの方は……?」
突然の来訪と、とんぼ返り。
何をしに来たのかさっぱりだったが、最悪の事態にはならなかった。
緊張から解き放たれた安堵と、来訪の目的が全くわからない困惑から、私は腰が抜けてしまいその場に崩れてしまう。
心臓の鼓動が落ち着かない。
修道服の下には一瞬の出来事だったにも関わらず、子供達に犠牲が出るかもしれなかったという恐怖と緊張からものすごい量の汗が流れていた。
もしや悪い夢でも見ていたのだろうか。
鼓動と呼吸が落ち着くと、体感では長い時間に感じたが実際には20秒もなかった一瞬の出来事だったために、どこか現実味がなかったように思えてしまう。
しかし、それが夢ではなかったことを私は翌日に再認識させられる。
「たーのもー!」
「────ッ!」
ダンデライオンは再び教会を訪れた。
会合で顔を合わせる時に見せている常に怯えていたような張り詰めた雰囲気は無く、能天気という言葉が似合う明るい気を纏って。
……むしろ別人ではないだろうか?
そんな疑いすら抱くくらいに、彼の纏う雰囲気が違っていた。