爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
聖母様を訪ねたら、借金取りでもないのに関西人みたいなノリで追い返された。追い返したわけではない。
まあ、タイミングが悪かったんだと思う。
というわけで、日を改めてまた教会を訪ねた。改めてというか翌日にまたアポなしで。
──バタン
「たーのもー!」
邪魔すんで〜とか言うとまた関西人のノリで追い返されるかもしれないので、今度は道場破りのノリで教会に来てやったぜ。実際邪魔だし迷惑です。
「────ッ!」
すると中には子供達に囲まれながら、道場破りのノリで来た俺の姿を見て驚いている聖母様ことヘリアンサスさんがいた。
周りの子供達は道場破りのノリで張り上げた俺の大声に、ヘリアンサスは性懲りも無く再びやってきたことに驚いているようだ。
フォーリナーによって親を亡くした子供達を保護する孤児院の教会でシスターをしているという設定通りである。
こうして子供に囲まれているのを見ると、聖母様という呼称がしっくりくるよなぁ。最初にそう呼んだプレイヤーのセンスはなかなかだ、褒めて遣わす。何様のつもりだこいつは。
「ダンデライオン……!」
俺の再来訪を受け、聖女様は一瞬驚くもすぐに子供達を背後に庇い、警戒心むき出しの目を向けてきた。
今日はどうやら関西人のノリで追い返そうとはしないようである。
道場破りのノリでの訪問が正解だったようだな。そんなことない。
しかし……はてな? ヘリアンサスにめちゃくちゃ警戒されているが、俺ってなんかしたっけ? ヘリアンサスとダンデライオンに不仲設定みたいなの特になかったはずなんだけど。
俺、貴女の裏の職場の同僚だよ? あたおかテロ組織の幹部している、ただのしがない中ボスだよ? どう考えてもこれが理由である。
「昨日といい、貴方はどこでこの教会を知ったのですか? 用向きによっては私はあなたと戦うことを厭いません」
怯えている子供達を守るように立つヘリアンサスが、実力行使に打って出てでも追い出してやると言わんばかりの強い口調をぶつけてくる。
あれ〜? 聖母様ってこんな好戦的なキャラじゃないはずなんだけどな。子供達であったり、仲間であったり、民間人であったり、そう言った弱いものを守るためでもなければフォーリナー相手にも無用な戦闘は避けるくらい慈悲深い人のはずなんだけど。だからそれが理由だよ、お前テロリストだぞ。
何やら誤解している様子。
子供達も普段はお優しい聖母様からかけ離れた気が立っている様子に怯えているではないか。子供が怖がっているのはお前だ馬鹿。
子供を怖がらせるなんて、聖母様の名と慕っているファンが泣くぞ。
あと気迫がすごいので、俺も割と泣きそうだぞ。これはビビり。
理由は不明だが(明白である)、これでは話し合いどころではなくなりそうなので、何故かいきりたっているヘリアンサスを落ち着かせるために両手をあげて降参ポーズ危害を加える意図はないことを示して落ち着くよう呼びかけることにした。
「落ち着きたまえ、シスター。俺は喧嘩しに来たわけじゃないんだ、そういきり立つものじゃない」
「道場破りのような登場をしておいて、何を言うのですか。教会にその足を踏み入れれば、敵対行為とみなします!」
「70代にしては気が短すぎないか? ヒスBBAって呼ばれ──ブゴッ!?」
俺は両手をあげて武器など持っていないアピールをした。
確かに道場破りみたいな掛け声と共に扉を開けて驚かせてしまったが、それだってわざとじゃないんだ。
冷静に、今後ユグドラシルの野郎をぶっ倒すための協力関係を構築したいと、内容は物騒かもだが平和的な話し合いを彼女とするために来たのだ。
だから昨日も帰れと言われた際に素直に従い帰ったのだ。
ヘリアンサスは慈悲深く心優しく包容力のある、まさに聖母様の渾名に相応しい人格者のはずである。
少なくとも、喧嘩ではなく平和的な対話を望む意思をこれだけ見せた相手に対していきなり椅子を投げつけるなんて暴力行為に走る人ではなかったはずである。
しかし、だがしかしである。
なぜか最初から敵認定されていたダンデライオンは、対話を試みたというのに椅子を顔面に投げつけられてぶっ飛ばされた。
おいこらダンデライオン。お前さぁ……聖母様をこんなに怒らせるとか、一体お前は俺が憑依する前に何をしでかしてくれたんだ? 100パーセント、お前のせいだよ馬鹿野郎。
ヘリアンサスが投げつけた椅子が顔面にクリーンヒットしたことにより、ぶっ飛ばされて教会の扉の前の石畳に背中から派手に落下することになった。
一瞬目に星が光ってひよこが舞ったぞ。洒落にならん威力だったんだけど。
「痛ェ……ダンデライオン、俺の知らぬところで何の恨みを買ったんだこいつは。いきなり椅子投げるとか、何をしでかせば聖母様と呼ばれるあの人をここまで怒らせることができるんだ?」お前のせいだよ馬鹿野郎。
洒落にならん威力だった。
いくら老朽化した木製の椅子とはいえ、衝撃で砕けたぞ。パラディソスの保有者であるダンデライオンだから生きてるけど、普通の人間に投げられていたら死人が出るところだぜ。
聖母様、貴女は大事な子供達の前で死人を生み出すつもりなのか?
俺は特大の地雷を踏み抜いた何もしてないし、最初から敵認定されていたし、やはりダンデライオンは何かしら恨みを買っている可能性がある。
しかし、そうなるとマズいぜ。
クリスタルスカルは二大勢力──つまりほぼ全ての人類から犯罪者認定を受けているテロリスト。その幹部であるダンデライオンは外に協力者を作るのが困難である。しかも爆弾のせいでユグドラシルには逆らえねえ。
なので現時点で協力関係を構築できそうな相手は、クリスタルスカルに属しておりなおかつユグドラシルの野郎に従っていないヘリアンサスだけなのだ。
そのヘリアンサスから拒絶されるとなると、だいぶ苦しいことになるぞ。
主人公と対峙した時、ヘリアンサスが仲介してくれなかったら敵認定されて即やられる自信がある。
いきなりの窮地にどうするべきかと、青空を見上げながら思案していると、起き上がらなかったことで流石に心配になったのか、恐る恐ると言った足取りで警戒しながらではあるが、ヘリアンサスが近づいてきた。
「あ、あの……生きてますか?」
「案ずるな、コブができるかもしれんが骨はやられてない。おそらくな。起き上がれないのは脳震盪だろう」
「重傷ではないですか!?」
「死んでなきゃいいんだよ!」
ブシュ!
あっ……大声あげたらなんか切れた音がして、目の前が真っ暗に……。多分、やられちゃいけない血管とかが声上げたことでやられちゃったぽいな。
「あ、意識が……」
「ダンデライオン!? 待ってください、今助けますから──」
聖母様の声が聞こえる。
駆け寄ってくる足音が聞こえる。
だがしかし、その前に視界が暗転して──
椅子を投げつけるほど嫌う相手であっても、無抵抗で攻撃を受けたことで怪我人となったならば慈悲を向ける。
聖母様の優しさに漬け込む形にはなったが、俺の冴え渡る知略が見事に彼女の同情を誘い、話を聞いてくれるくらいには心を開かせたのだ。その聖母様を怒らせたのはお前だよ。
全く、このパッとしねえ中ボスの尻拭いをする羽目になるとは。自業自得だよ。
幸い、ヘリアンサスが介抱してくれたこともあり、しばらくして意識を取り戻すことができた。
その後、俺が気絶している間にヘリアンサスが呼んでくれた救急車が到着し、搬送先のドクターに診てもらったところ、大事な血管がやられたとかはなく脳震盪による一時的な意識障害だったとのことである。
こぶはできたけど、大事に至っていないから俺は気にしないぜ。
「申し訳ありませんでした」
診察後、付き添ってくれたヘリアンサスは椅子を投げつけた時の鬼気迫る緊迫感はどこへやら、むしろこっちが恐縮したくなるほど落ち込みものすごく申し訳なさそうに謝罪してきた。
「気にしなくていい。誤解されるような来訪の仕方をした俺にも非はある。子供たちを守ろうとしたのは理解しているとも」
「……椅子の件は別の理由ですけど ……いえ、軽率な上に先に暴力に訴えたのは私です。今日の貴方の負傷の責任は私にあります」
前半ゴニョゴニョされて聞き取れなかったけど、全面的に自分の方が悪かったと(そこまでは言ってない)主張するヘリアンサス。
この辺は碌でもねえ大人が多い中で真っ当な聖母様らしいわな。
さすが70代。パラディソスの副作用で不老となったが、作中屈指の年長者。大人の対応である。
「……何か変なこと思いませんでしたか?」
「いや別に」
……はて? 一瞬だけ気温が10度くらい下がったかこような寒気を感じたんだが。
まあ、気のせいだろう。
とりあえずこれで話を聞いてくれそうな雰囲気になった。
子供たちも教会にいるので、子供達に危害を加えるなどというからぬ疑いをかけられる心配もなく、今度こそ冷静に話ができるはず。
「聖母様──じゃなかった。ヘリアンサス、話がある。内密に話したいことが、な」
「今の呼称についてお話ししたいところですが、わざわざ教会を訪ねてきた貴方のご用件を伺っていませんでしたね」
思わず聖母様呼びしてしまったけど、ただの呼び間違えだ。深く掘り下げないでくれ。
ヘリアンサスは冷静に対話に応じてくれるようである。
「場所を変えましょう」
「あいよ」
土地勘ならヘリアンサスの方があるし、内密な話をする場所も心当たりがあるだろう。
こうしてようやく最初の目的であるヘリアンサスとの接触を果たした俺は、彼女の案内に従い2人きりになれる場所へと向かうこととなった。
……どうでもいいけど、聖母様の後ろを歩くといい匂いがするな。これはシンプルに気持ち悪い。