爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感)   作:火星で1,000往復

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本名がダンデライオンなんだよ。(流石に無理がある)

 

 ヘリアンサスに案内されたのは、病院から少し離れたところにあるモダンカフェだった。

 エレガントな雰囲気漂う、落ち着いた大人のための喫茶店といった感じのおしゃれな内装のカフェである。フレンチモダンというやつだろう。

 ただしランチタイムにも関わらず客がいない。カウンターにマスターが1人いるのみである。

 経営状態が心配になるが、個室を使わずとも人の目がほとんどないので密談にはもってこいの場所である。

 このような場所を知っているとは、ヘリアンサスの案内に従って正解だったな。

 

「いらっしゃい、シスター。連れがいるとは珍しいね、里帰りしてきた教え子かな?」

 

「いいえ、彼は同僚です。紅茶とコーヒーをお願いします」

 

「かしこまりました。ごゆっくり」

 

 白髪と顔に刻まれた皺が年齢を感じさせるダンディな初老のマスターとは知り合いのようである。

 マスターと軽く言葉を交わし注文を済ませたヘリアンサスは、常連らしくマスターの案内を必要とせず迷うことなく窓際の奥の2人用の席に向かった。

 

 彼女とテーブルを挟む形で向かい合い席に着く。

 ここに案内したということは、マスターは聞かれても構わない程度には信頼関係のある相手だろうと判断し、他の客が来たりする前に早速話を切り出そうとした。

 

「改めてヘリ──」

 

「待ってください。この場では私のことはシスター、もしくはロインと呼んでもらえないでしょうか」

 

 しかし、話を切り出そうとしたところでヘリアンサスから待ったをかけられる。

 思わずコードネームを口にするところだったが、マスターの耳があるところでそれは不味かったようで、呼び方を変えるよう言われた。

 

 そういえば幹部同士は本名を知らない設定だった。

 俺は最後まで名前が出てこなかったこのパッとしねえ中ボス以外のクリスタルスカルの主要メンバーの名前を全員分知っている。

 聖母様の本名がパメラ・ロインということも、彼女が保有するパラディソスの副作用というか権能のおかげで不老であり見た目20代後半から30歳くらいだが実年齢は70代であることも。作中で数少ない半世紀以上前のフォーリナーと無縁だった世界を生きていた年長者であることもな。

 

「何か変なことを考えていませんか?」

 

「いや別に」

 

「……そうですか」

 

 なんだ? また一瞬周囲の気温が10度くらい下がった気がするのだが。

 まあ一瞬のことだし気のせいだろう。良い加減懲りろよお前は。

 

 呼称に関することだったな。

 まあ、ひまわりよりはシスターとか聖母様とかの呼び名の方がしっくりくるし、了解したぜ。

 

「では聖母様──」

 

「シスターか、ロインと呼んでください」

 

「こだわりがあるんだな、了解したぜ。では、シスターと」

 

 くせで聖母様と呼ぼうとしたところ、強めの口調で訂正させられた。

 呼ばれ方にこだわりがあるようだ。ゲームでは明かされなかった聖母様の一面が見られたのが嬉しい。最推しではないが、俺も聖母様は好きなキャラだからな。

 聖母様はファンがつけた呼称だし、作中でそう呼ばれたことはない。聖母様と呼ばれるのが苦手という隠れた一面はついぞプレイヤーには明かされなかった情報である。

 

 でも聖母様がしっくりくるから勿体無いぜ。

 ……それともあれか? 実年齢70代なんだし、聖母様というのはちょっと若いというか、お婆ちゃんくらいがちょうど良いと感じる歳──って、なんかまた寒気がしてきたんだけど!? この馬鹿、懲りずにまたもや踏み抜いたようだ。

 

「ダンデライオン、あなたは今何を思ったのですか?」

 

「…………」

 

 何故だろう? 

 シスターは笑顔だ。聖母様のあだ名に相応しい穏やかな笑みを浮かべている。

 それなのに、何故かわからないけど笑顔のすぐ下でめちゃくちゃ怒っているように感じるし、空調壊れたんじゃねえのかとツッコミたくなるくらいに気温が低下しているように感じる。絶対に正直に答えてはいけないと本能が生命の危険を感じる警鐘を鳴らしている気がする! 

 

 お、おおお落ち着け! 

 シスターは俺が何を思ったのかを尋ねているだけだ。なんでそんなことを気にしたのかは分からないが、とにかく俺の考えていることを知りたがっているようなのだ。

 

 えーと、呼称だったよな。シスターかロインと呼んで欲しいと言われて、こだわりがあるんだろうと受け取りそれを了承した。

 おかしなことはないはず。これを正直に答えればなんとかなるという確信がある。

 ただしその後の実年齢云々に触れてしまうと即デッドエンドに直行するような気がする。鬱ゲーとはいえこんな死亡フラグはゲームでダンデライオン含め全キャラ誰にも立ったことはないはずなのに、フラグが立っている予感がバンバンするのだ。

 

「……呼称にこだわりがあるのか、とな。聖母様は好かないんだろ?」

 

「……嘘はついていないようですね。普段周りの方からそう呼ばれているのと、私のような若輩者に聖母様は相応しくないので」

 

「そんなこと──あ、あああるな! ありますよね! シスターお若いですもんね!」

 

「はい。良い子です」

 

 死亡フラグの回避には成功したようである。

 気温も元に戻り、聖母様──じゃなかった! シスターも背後で地震が起きていたように見えていたようすが無くなり、よく知る穏やかで慈悲に満ちた柔らかい笑顔になった。

 

 2もかなりやりこんだつもりだったのだが、まだ隠れた死亡フラグがあったとは驚いたぜ。お前が勝手に立ててんだよ。

 まあ、ダンデライオン(こいつ)はNPCだし、余分な要素として排除されたんだろ。

 

 これからはクリスタルスカルでは“ヘリアンサス”、聖母様として対面している時は“シスター”と呼ぶことにしよう。

 

 よし。呼称で時間を食ったが、まだ客の姿はない。

 先ほど遮られた本題に戻そう。

 

「ではシスター、用件だが──」

 

「待ってください。流石に不自然な呼び方ですし、あなたの呼び名も教えて頂きたいのですが」

 

「そうか?」

 

 本題に戻ろうとしたら、またシスターに遮られた。

 今度は俺の方の呼び方を決めたいようである。

 別にたんぽぽ呼ばわりでも構わないんだが。だいたい、俺ダンデライオン(こいつ)の本名知らねえし。

 

「別にそのままでいい」

 

「一方的に素性を知られているのは心地よくないのですが……」

 

「本名がダンデライオンなんだよ」(流石に無理がある)

 

 やかましい、本名知らねえんだから良いだろ別に。

 

「では本題を──」

 

「流石に無理があるのでは?」

 

「本名がダンデライオンなんだよ! たんぽぽで悪いか!」

 

「嘘ではない、ようですね」

 

 だって本名知らないし、ゲーム中も明かされなかったし、死んだ後もダンデライオンとしか呼ばれてなかったんだもん。もんとかいうな気持ち悪い。

 もはや俺含めプレイヤーたちの中でのこいつの本名=ダンデライオンって認識になってるぞ。だから嘘じゃない。

 

「納得していただけたようで何より」

 

「何度も遮ってしまい申し訳ありませんでした。ご用件を伺います」

 

 シスターが気にしている呼称問題がようやくクリアした。

 まさかマスターまで引っ張ることはないよな? ……ないみたいだな、よし。

 

 ふう、やっとこれで本題に入れるぜ。

 ……なんでこんなに時間かかってるんだ? お前のせいだよ馬鹿野郎。




次こそ話が進みます。
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