爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感) 作:火星で1,000往復
シスターのこだわりに付き合っていたら予想以上に無駄な時間を食ってしまった。
まあ、客は来ていないから良いけど。
プロパガンダはまともなこと喧伝しているクリスタルスカルの支持者は多い。どこに組織の息のかかった人間がいるかわからないので、警戒するに越したことはない。
幹部同士は表の素性を知らないから、クリスタルスカルの外で接触することはないと判断しているユグドラシルは、基本的に表の素性で過ごしている時に幹部にストーカーつけて監視するということはしていないからな。
表向きには部下のプライベートを尊重しているのだから、マジで性根が腐っているやつだよ。命を人質にしているくせによ。
だからこうして聞かれたくない話をすることもできるのだがね。
「さて、シスターを訪ねた用件だが……俺はまどろっこしいのは嫌いでね、単刀直入に言う」
聖母様の保有するパラディソス“エルキドゥ”には、他者の嘘を看破する権能がある。なので聖母様との会話では、隠し事をすることはできるが嘘をつくことはできない。
なんだそれなら騙せるじゃん? とか思うなよ。人間隠し事をしながら会話しているとその隠し事を隠し通すために無意識に嘘をついてしまうことがある。嘘をつかずに隠し通すというのはかなり難易度が高いのだ。
少なくとも、俺には聖母様相手に隠し事しながら嘘をつかずに会話をして信用を勝ち取り協力関係を作るという自信はない。
なのでまどろっこしいことはなし。
もうストレートにこちらの用件を伝えて協力を仰ぐことにした。
「俺はユグドラシルに退場してもらいたい。そのためにシスター、貴女にもクリスタルスカルを潰すことに協力して欲しい」
「…………」
自分たちの組織に反旗を翻す。
それを聞いた聖母様は、俺が訪ねてきた時のような驚愕を表情に浮かべることはなく、紅茶を一口飲みただ静かに受け止めた。
そのパラディソスの権能は嘘を見破る。ゆえに、俺がユグドラシルに叛逆したいという言葉が本心であることは看破しているだろう。
……喉が渇く。俺もコーヒー飲むか。
俺がコーヒーを一口飲んだタイミングで、シスターは口を開いた。
「……幹部同士は表の素性を知らない。故に組織の外で接触があるときは、偶然か粛清が殆どとなります」
「今回はどちらでもねえな。それを警戒しているのにこうして対話に応じてくれてるが?」
「貴方は来訪しただけで危害を加えたわけではないので」
「甘いな、このコーヒーのように甘い。……ブラックじゃねえのかよ」
マスターのコーヒー、ミルクに加えて砂糖入りだった。
美味いけど甘すぎる。俺の舌には合わない。
「昨日、貴方が教会を訪ねた時、私は粛清の可能性を想像しました。実力で劣るとしても、貴方のグランシャリオには高速移動の権能がある。教会という舞台において、粛清を完遂するのに適した人員だったからです」
「ないね、普通に俺ってシスターより弱ぇぞ。ハエみたいに飛び回っても、狭い屋内ならなおのことシスターには勝てねえよ」
「そういうことではないのですが……嘘は言っていないですね」
追い返された初訪問から1日経って考える時間があったからか、シスターは落ち着いていた。
初日の訪問の時、シスターは俺がユグドラシルの送り込んできた刺客だと思っていたらしい。
あの時はシスターから帰れって言われたから一度帰ったけど、彼女は子供達を守るためなら鬼にもなれる強い母親でもある。子供達を守るためにと、俺に問答無用で攻撃を仕掛けてデッドエンドだった可能性もあったのだ。
いやいや、シスターの方はすごい過大評価してくれているけど、俺じゃ聖母様相手には力不足甚だしいぞ。
ダンデライオンのパラディソスであるグランシャリオって、縦横無尽に飛び回るスピード特化だが紙装甲、本人は突撃バカなのに遠距離攻撃が最大火力というチグハグなタイプだぞ。つまりハエ。屋内戦闘はさらに苦手。
一部からは人間要塞なんて呼ばれたりした、耐久特化で機動力削ぎ落とすデバフを駆使し、強烈なカウンターで一気に薙ぎ払うタイプである聖母様との相性はむしろ最悪である。屋内ならなおのことである。
……ユグドラシルだったら、聖母様を粛清するとしても俺だけは絶対選ばねえと思うけどな。こいつは馬鹿なので人質作戦など思いつきすらしない。
「昨日、貴方は素直に私の願いを聞き入れてくださいました。わざわざ僻地にまで足を運んだにも関わらず、他の来客などがなかったにも関わらず、教会に足を運び救いを求めていたかもしれない方を一方的に拒絶するというシスターにあるまじき応対をしたというのに、ご自身の都合を後回しにしてくれたのです」
「来た奴を受け入れるか追い返すか決めるのは家主の正当な権利だからな」
「嘘はない……きっと、これがあなたの本来の心根なのでしょう」
聖母様は俺が自分の粛清を行う上で適役だと評価してくれているのが謎だが、ともかく初日の接触で素直に帰ったことが功を奏したようだ。
おかげでシスターは俺がユグドラシルからの刺客でないことを確信したらしい。
そして毎回毎回嘘かどうか判断されてるところを見るに、嘘発見器は常時発動している権能だとしても本当にダンデライオンが信用されてないんだなということを認識させられるんだけど。
マジでこいつは何してくれたんだよ。聖母様に嫌われすぎてねえか?
「誤解は解けたらしいな」
「申し訳ありません。神に仕える身としては恥ずべきことですが、私は誰かを信じるということが出来ず、パラディソスの権能に頼ってしまうのです」
「マスター、コーヒーをもう一杯。今度はブラックにしてくれ。美味しいが砂糖入りは俺の舌が受け付けねえんだ」
「よくこの流れで注文ができますね」
いきなり聖母様が重い話を口にするから、思わずマスターに逃げてしまった。
だが俺は悪くない。
だって聖母様の散々裏切られてきた過去を知った上でこの他人を信じられない発言聞くと重いんだもん! もんとかいうな気持ち悪い。
「他人を信じられないのは自己防衛の一種だ、何も恥じることじゃないだろ。このご時世、人の心につけ込んで悪知恵働かせる奴なんて掃いて捨てるほどいるからな」
「…………」
「それに俺はシスターの信用を得るために来たんじゃない。協力を得るために来たんだ。疑われようが手を組んでくれるならそれで良い」
「協力するのに信用はいらないとは、おかしな事を……フフ」
シスターが笑った。
たしかに協力してくれ、けど信用しなくて良いって、なかなかおかしな話だったわ。
でもまあ、聖母様のこと考えると“信じてくれ”は1番信用されないワードだからな。本音は信じ合う関係築きたいけど、ユグドラシルを退場させることさえ達成できれば最悪ずっと疑われたままでも良いわ。
あの野郎だけは排除しないと、姉貴捜しに集中することもできねえから。
……そして聖母様の無邪気な笑顔、初めて画面越しではなく直接見たけどまじで可愛い。やべえ、これは破壊力絶大だわ。
せっかく真面目な話している中で下心なんて出すわけにはいかねえからコーヒーを飲む。
「……美味いけど、やっぱり砂糖とミルク入れたコーヒーは舌に合わねえな」
「一口飲んでわかっていたことでは?」
「やかましい、自分が1番そう思ってるっての」
話が脱線し始めた。
結構真面目な話をしているんだ、逸らすんじゃねえ。勝手に脱線したのはお前だ馬鹿野郎。
マスターが注文したコーヒーを淹れてくれている間に、まだ返事が聞けていないとシスターに回答を要求する。
「答えを聞かせてくれ、シスター。ユグドラシル打倒のため、協力──いや、共犯の裏切り者になるか否かを」
話の切り出したかも直球なら、求める答えもシンプルに。
乗るか去るかの二者択一。
ユグドラシルを倒そうとしているのはシスターも同じだから、協力はできるはず。なんだったら利用し合う関係でも良いから、受けて欲しいところ。
「…………」
答えを求められ、シスターは目を閉じ再び紅茶を一口飲む。
「……一つだけ。動機を教えてください。ユグドラシルに叛意を抱く決意をした、あなたの動機を」
そして静かにカップを置くと、俺の目をまっすぐと見て理由を尋ねてきた。
動機か。そういえば用件だけで、中身はまだなんも話してなかった。
2の悲劇フラグを解消する上で多くの原因になっているあのクソ野郎を潰してフラグを立てないようにするというのも大きな動機だが、それ以上に大きいのはやはり姉貴捜索をする上で自由に動けなくしていることだな。こちらの命を一方的に握っていることが邪魔で仕方がない。
「小綺麗な理想を語ろうが、配下の命に爆弾くくりつけて脅しつけて従わせる奴の下では自由がない。シンプルに俺にとってあいつは邪魔なんだよ」
ここも正直に答えることにした。
シスターみたいに神になるという意味不明で大それた野望を阻止するためなんて三の次、姉貴の捜索という極めて個人的な理由だが家族との再会を望むという当たり前の権利を制限してくるのが邪魔くさいのだ。
つまりすごい個人的な理由である。
「…………」
シスターは美人だし優しいし、人柄も信頼できる。
だが今欲しいのは彼女の信頼ではなく、ユグドラシル打倒のための協力関係だ。信頼なんてそのあと築けばいいだろ。
「こちらの動機は答えた。パラディソスの権能でこれが嘘ではないこともわかっているだろ。シスターの番だ、答えを聞こう」
「…………」
答えを促されたシスター、またも無言で紅茶を一口含む。
この人何か言う前に紅茶飲むのくせなのか? ……そんなことないか。
「……何故、私に話を持ちかけたのですか?」
答えてくれるかと思いきや、また質問。
さっき一つ聞かせてくれって言ったじゃねえか、これ二つ目じゃねえか。
まあいいや。シスターからすればそれも聞きたいことだろうし、同じく正直に答える。
「シスターにというより、シスターしかというのが正解だな。所詮俺はテロリスト、外はユグドラシル信者か信用できない二大勢力の支配下だけ。フォーリナーなんぞ言葉も通じねえから論外。クリスタルスカルの中であいつに爆弾括り付けられてないパラディソスの保有者はシスターだけだ」
「私もまたユグドラシルの理想に賛同し手を貸す1人ですよ?」
「今は違うだろ。貴女はあいつのやろうとしている本当のことを知っている」
ゲームのストーリーを網羅しているアドバンテージ舐めるんじゃねえよ。
シスターはとっくにクリスタルスカルの首領──ウォーロン・カリスタの本当の野望を知っており、既にそれを止める決意をしているはずだ。
俺の言葉にシスターは目を見開き驚く様子を見せたが、それは一瞬のこと。
この対話に応じてこんな話を持ちかけられた時点で薄々勘づいていたのか、すぐに表情を戻した。
「……貴方も、彼の本性を知っていたのですね」
「組むか退けるかさっさと答えてくれ」
「せっかちですね……」
やかましい。聖母様の協力を得られるか否かでできることが大きく変わるんだよ。だから早く聞かせてくれよ返答を。さもなきゃ安心できない。
ユグドラシルに反旗を翻す話を持ちかけたんだ。真意を誰にも話しておらず表向きには組織に忠実な幹部であるシスターは、裏切り者としてこっちを売るという選択もある。
ユグドラシルに叛意を持っていたとしても、いきなり表では初対面の同僚なんか信用できるわけないだろうし。
なので返答してくれ。
敵になるか味方になるかを。
瀬戸際なんで、早く答えてほしい。
返答を急かす俺に、紅茶を飲むワンアクションを今度は入れずにシスターは答えた。
「……分かりました。貴方に協力しましょう、ダンデライオン」
「それを聞いて安心したぜ」
答えは、諾。
シスターは打倒ユグドラシルに手を貸してくれることとなった。
表には出さずついぞ冷静な表情で(本当に表情だけ)いたけれど、めっちゃ緊張していたので、その答えを聞けてすげー安心したわ。
喉が渇いたのでコーヒーを飲む。
「むぐっ!? ──甘っ!?」
「少しは学習しようとは思わないのですか?」
やかましい、そっちが焦らしまくるせいで喉が渇いて乾いて仕方なかったんだよ! やはり咽せた。
次話は聖女様の視点になります。