爽快なのに鬱ゲー世界の敵役に憑依したからには、悲劇フラグを折って爽快無双ゲーにしなければ(使命感)   作:火星で1,000往復

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聖母様視点その2になります。


別視点:聖母様 2

 

 日を改めて再び教会を訪れたダンデライオン。

 その登場が、昨日のことが夢や勘違いでなかったことを認識させられた。

 昨日と違い、聖堂には子供たちもいる。

 日を改めて再来したダンデライオンを前に、私はとにかく子供達だけは守らなければと教会に足を踏み入れるなと警告した。

 

 しかし、ダンデライオンの方に敵意はなかった。

 敵意をむき出しにするこちらに対し、戦闘の意思はないと両手を上げこちらを落ち着かせようと言葉をかけた。

 女性に対して失礼極まりない発言につい椅子を投げつけ怪我をさせてしまったが、危害を加えるつもりはないというダンデライオンの言葉に嘘はなかった。彼の怪我はカリスタの粛清の手を恐れるあまり冷静さを欠いていた私の早とちりであったと、彼が倒れてようやく気づくこととなった。

 

 その後意識を失ったものの、救急車で病院に搬送され診察を受けた結果は脳震盪による一時的な意識障害であり、大きな怪我や後遺症などはなく無事に意識を取り戻した。

 

 軽率に暴力に訴えた私を彼は責めることはなかった。

 クリスタルスカルの会合では常に気を張っており余裕がなかった様子だが、組織の外で会う彼はまるで別人のように余裕とユーモアがあった。

 きっとこの姿が本来の彼なのだろうと、今までは言葉を交わすこともほとんどなかった裏での同僚の一面を知ることとなった。

 

 本来表では接触することはないはずの組織の幹部同士。

 その彼が私の元を訪ねてきた用件。

 日中はほとんど客足がなく他者に聞かれたくない内密な話ができる場所、友人が経営しているカフェに移動したところで、彼はその用件を私に話した。

 

 ──自らが所属する組織であるクリスタルスカルを潰し、ユグドラシルを排除する。そのために協力して欲しい。

 

 それを聞いた、私にはそこまで驚きはなかった。

 明確な目的があり組織ではカリスタしか知らない教会を訪ねてきたことと、カリスタからの刺客ではなかったことから、私は薄々彼の目的を予想していた。

 彼は知っていたのだろう。私がウォーロン・カリスタに叛意を抱き、その野望を阻止しようとしていることを。

 

 クリスタルスカルの幹部は、全員がパラディソスの保有者である。

 私のように入る前から保有者であったならばともかく、功績をあげ幹部に昇格することが決まればカリスタからパラディソスを贈られるのだ。

 

 カリスタの任意によって起爆し、持ち主の命を奪う爆弾が備えられたパラディソスを。

 

 失敗すればフォーリナーに食われる。

 適合すれば晴れて幹部となり、カリスタに生殺与奪の権を握られ命を盾に決して逆らえず逃げることもできない主従の契約を結ぶこととなる。

 

 パラディソスという強大な力を手に入れるとともに、起爆すれば命を落とし残った遺体はパラディソスとなっているフォーリナーに食われるため、幹部たちは絶対にカリスタには逆らえなくなる。

 それどころか逃げることも、失敗することも許されなくなるし、いつ命を失うのかという恐怖から嫌われることすら恐れるようになる。

 

 ダンデライオンもその1人だ。

 彼のグランシャリオにも爆弾は取り付けられている。

 一生カリスタの駒として生きることを強いられていた彼は、カリスタへの信奉を失い自由を得るために叛意を抱くようになっていた。

 

 要求も動機も、私にこの話を持ちかけ協力を依頼してきた理由も、ダンデライオンの言葉に嘘はなかった。

 私のエルキドゥの権能を知ってか知らずか。

 せっかちな彼の性格もあるのだろうが、隠すこともなく、回りくどいこともなしに、直球で要求を伝えてきた。

 

 エルキドゥは嘘を看破するが、隠し事を看破することはできない。

 かつてカリスタにこの手法で欺かれた私は、他人を信用できなくなっていた。

 

 しかし彼はあの男とは違う。

 隠し事はなく、嘘をつくこともなく、曝け出した本音で来てくれた。

 

 協力してくれるなら疑おうとかまわないとか、協力を呼びかける相手にそんなこと普通は言わないだろう。矛盾している。

 彼の言が面白くて笑うと、私の実年齢を知るはずなのに思春期の少年のように褐色肌の顔を赤くしてわかりやすく照れた。

 それが彼より一回り下の世代の子供たちの姿と重なり、私は彼の手を払いのけたくなくなったのだ。

 

 信じ切ることは難しい。

 でも、命を他人に握られたくないと、自由になりたいと、彼は渇望している。

 人が持って当たり前の権利を取り戻したいと嘆く。

 子供たちと姿が重なった彼の求める助けを振り払うことは、したくなかった。

 

 私は彼の要求に応じることにした。

 共にカリスタの野望を阻止し、人々の平和への願いを利用する英雄の皮を被ったテロリストの組織を倒すため、協力することを。

 

「……分かりました。貴方に協力しましょう、ダンデライオン」

 

 信じたものに裏切られ孤独に追い落とされる経験をするのは、私のような年長者だけで十分。

 

 まだ若い彼は、すでにカリスタに裏切られた。

 あの男の語る理想を実現するために、命を盾にする契約を受け入れ幹部となった。

 そして、口先だけの理想からはかけ離れた野望を知り、自分がただの使い捨てのコマでしかなかったことを知ったのだろう。

 だから命を握られているにもかかわらず、信じていたカリスタを敵とみなし敵対する決意をした。

 

 その決断は簡単にできるものではない。騙されたことに気づいたとしても、それを認めず幻想に浸っていたいと思うのは逃避ではなくショックを受け入れられないことに対する自己防衛だ。

 それでも彼は戦う決意をした。

 私が手を取らずとも、1人でも戦うかもしれない。

 

 これ以上誰かに利用されたり騙されたりしてこの若者の心を磨耗させ孤独にさせたくはなかった。

 

 利害は一致している。

 打倒するべき敵も一致している。

 そしてその敵は私1人では倒せるかどうかわからない強大な存在である。

 彼が味方になってくれるのであれば、非常に心強い。

 

 頷いたのはこの若者の為でもあるし、私自身のためでもある。

 互いにメリットのある協力関係として手を組む形にすれば、彼の方も受け入れやすいだろう。

 

「それを聞いて安心したぜ」

 

 協力関係を築くことに賛同する私の返事を聞いた彼は、表情こそ取り繕っていたが、嘘のない声にはそれほど親しくない私にもわかるほどの安堵があった。

 

「4日後の正午、もう一度この店に来る」

 

 店主が出したブラックコーヒーを一息に飲み干して立ち上がったダンデライオンは、コーヒー二杯と紅茶一杯分よりかなり多い額のコインをテーブルに置くと、次に落ち合う日取りを伝えて店を後にする。

 

「待ってください、このお金は──」

 

「怖がらせた詫びだ、孤児たちに何か買ってあげてくれ」

 

 彼が置いていった金銭は、気遣いと優しさの証であった。

 

 用件を終えるなり店を後にした彼の姿はすでにない。

 店を出た後、グランシャリオを用いてニュージーランドを後にしたのだろう。

 

「……紳士なのですね」

 

 世間ではテロリストとされているが、その心根はやはり善人。

 故にクリスタルスカルに参加し、そして今はカリスタに反旗を翻そうとしている。

 

 彼は生きてフォーリナーの脅威が去った世界を迎えるべき人間だ。

 だから、彼の望み通り私がカリスタを討つ役目を受けよう。

 この命と引き換えにしても、彼が生きて自由を手にできるように戦おう。

 

 裏切られ続けて、エルキドゥがあってもなお長らく人を信じることができなくなっていた。

 そんな私にとって、今日の出会いは久しぶりに信じられる人ができたものとなった。




次話はまた別の新キャラの視点に変わります。
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