平成に取り残された男のハイスクール 作:平成残存おじさん
平成最後の日、2019年の4月19日に俺は有給を使って旅行へと来ていた。薄給なので移動費をケチり、バスにしたのだがこれが間違いだっのだ。濃霧の中でバスはかなりの速度で走っていたのだが、突如大きな揺れに襲われる。
気が付けばバスは崖から飛び出し、宙を舞っていた。
そう、バスはあろう事か空を飛んでいたのだ。若干斜め下を向きながら。窓から見える景色から推測しても、バスは下に生える木よりも高い位置にあるのが分かる。どう足掻いても助かる事は無さそうだ。
だけど、不思議と死というものを感じる事はなかった。バスが下に落ちていき、周りの乗客からは悲鳴があがる中でただ脳裏には走馬灯とも言える光景が流れる。
家族や友達、会社の同僚などはあっという間に通り過ぎていき残ったのはヒーローの姿だった。ヒーローが実在したならこういう時に助けてくれるのが常だ。けど、この世界にはヒーローはいない。
じゃあヒーローがいたなら、ヒーローがいた世界の俺ならどうしただろうか? せめて隣の人くらいには手を伸ばせるか。いや、出来てヒーローが現れることを祈るくらいだろう。
まぁ、残す家族もいないので思い残すことも無いが、どうせなら大枚をはたいて買った大人向けのベルトを手にしたかったなと思う。
あぁ、あとは──
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「はい、おはよう」
──目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。人生で初めての出来事に驚きを隠せない。しかも目の前には有り得ないほど光り輝く人型の何かがいた。
「はは、
バスの中で走馬灯を最後に、意識が戻るとそこには自称神の光り輝く生物がいる。タチの悪い夢ならどれほど良かっただろうか。何でか少なくとも体が夢では無いとハッキリと伝えてきていた。
「さて、時間もない事だし単刀直入に聞こうか。キミは死んだことを覚えているかい?」
ここでわかったことがある。口があるのに声が発せられない。まるで空気に蓋をされ、音だけが伝わらないようだ。
仕方がないので、質問には身振り手振りのジェスチャーで答えるとする。
「どうやら覚えているようだね。君の魂は比較的頑丈なようだ。よし、早速だが君には2つの選択肢がある」
ピカピカの自称神はそう言うと、手のひらに色の違う球を出してみせる。両方とも青い、ミニチュアサイズの地球に見えなくもない。
「1つは今いる世界に再び生を受けるという選択肢。まぁ、これがいわゆる輪廻転生。その代わりに、キミの記憶は消去され新しい器へと注がれる
」
右手をこちらに見せると、勝手知ったる世界がピックアップされ映されていた。そこには、つい数時間後に迫っていた改元の瞬間が流れている。映像にはまだ知らぬ未来さえも描かれ、大小様々な出来事が起きていく。
「もう1つは別の世界へ生まれ変わるという択だ。容姿も年齢も好きにいじれるし、なんなら多少餞別も渡そう。その代わり、別の世界はキミの知る世界より、人間が脆い。もちろんその分だけ脆さを補う装置も存在している。そう、
左手に映された世界には、様々な出来事が映し出される。
例えば人型の巨大ロボと宇宙に存在するコロニーが地球へと落下していったり、地球に現れた巨大怪獣とそれに立ち向かう人間と宇宙人のバディ、魔法と科学が両立されている世界、超常の力を使うヒーローが仕事になっている世界、そして仮面を付けたヒーローが身を挺して人々を守る世界。
フィクションの中で見てきた世界がそこには広がっていた。文字通り夢のような世界だ。
「まぁ、これはひとえに魂が強いから選べるんだけどね。この場で記憶を無くしている者が大多数の中で、稀有な存在だよキミは。後悔、執着を超えた何かが残っている人に多く見られる現象だ」
そう言われても、大したことは思いつかない。せっかく買ったものを一目見たいとか、物語の続きが気になるとか、友達は悲しんでくれたのだろうかなんて些細な事ばかりだ。
「という訳だが、キミはどちらを選ぶかね。時間は無いから、今スグ決めて欲しい」
そう言うことなら、もう決まっているようなものだ。俺が選ぶのは、別世界への転生だ。なぜなら俺はこういう展開を知っている。テンプレ通りならチートなり、特別な武器や能力をくれるってのがお決まりだ。前に、深夜帰宅した時に消し忘れたテレビで流れているのを見たことがある。仕事が忙しすぎて、アニメも漫画も読んでいなかったから詳しくは知らないけど。
どうせなら某ライダー俳優のようにイケメンにしてもらい、これまた某ライダー俳優のような運動能力の高いようにしてもらいたいところ。
というわけで、左手にある異世界の地球へと指を指す。
「そうと決まれば、早速転生を始めようか。悪いが行先は決まっていてね。前までは別の神が管理していた世界なんだがね、彼は過労で死んでしまった。そこで、新たな者が出てくるまで私が引き継いでいる。と言っても、キミのいた世界も大概忙しいから余程の事が無いと干渉しなきけどね」
神様も過労で死ぬし、こう見えてウルトラ世界やとある世界と比べても比較的忙しいほうらしい。他世界では類を見ないほど平和であるが故に、些細な事までも調整しないといけないシビアな環境とのこと。さらには引き継いだ世界では最近人口の減少量が上がっているので、その調整にも追われているらしい。
「この世界は結構厳しくてね。キミにはいくつかの特典を与えておいた。現地で目が覚めたら確認でもしてくれたまえ。さてさて、名残惜しいこの世界ともお別れの時間だ」
すると、自称神の光がより強くなっていく。眩しさで目を閉じると一瞬だけ全ての感覚が途絶える。すぐに感覚は戻ってきて一瞬の浮遊感の後、閉じた目の裏で光が収まっていくのだけが感じ取れた。
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光が収まって目を開けるとそこは、見知らぬ天井だった──
体感10分でまさか見知らぬ天井を天丼をすることになるとは思わなかったが、どうやら異世界へと転生したらしい。というのも、元の世界では4月だったはずだが、目の前には雪が降って来ているのが見える。
今いるのはフローリングの1部屋10畳程でキッチン付きのリビングらしき部屋だ。床には1枚の紙があるだけで、他には家財含めて一切として存在しない引越し前のような状態。
「はてさて、何が書かれているのやら」
1枚の紙には自称神からの餞別一覧が記されていた。
1つはこの部屋。どうやらマンションの一角で、神パワーにより自ら捨てない限り解約されることの無い契約になっている。しかも敷金礼金無しの家賃も公共料金も無し。
2つ目は銀行口座。国家予算の1部かなと思うほどの額が入ったものがあるとの事。これは読み終えた紙から通帳等が出てくるらしい。
3つ目は、身分証と保険証も上記の要領で貰えるらしい。1から作るのは中々に難しいので助かる。
そして4つ目、スーパーなパワーを授けたと書かれている。名前は"
「よーし、決めた。まずはコタツ買うか」
だがまずは家財だ。なにより、真冬にシャツ1枚はさすがに限界だった。