いざ参らん、補習授業部!
あー、眠い。ほんとにそれだけしか感じない。
一点を見つめると、視界はぐるぐる回転し始めるし、ちょっとでも脱力しようもんなら即ごーとぅーどりーむですよ。
それもこれも、夜勤アルバイトを入れまくって現在五徹をキメてるせいっすね。
でも聞いて驚け、この世界なんと金がないと生きていけないのだ。
俺家が貧乏でまともに学費出せないからさぁ、無理して働いて払うしかない訳ヨ。
けどその努力によって、俺はこのギヴォトスにおける三大ビックネーム校の一つ、トリニティ総合学園に通えているのさ。
ここに来るまでに眠れぬ夜もあっただろう、最近は特に。
なんせ今百二十時間近く寝てないんだものね。
過労死が目と鼻の先でブレイクダンス状態ですのよ、おほほ。
「残り時間が、三十分を切ったことをお伝えします」
頭上から、機械音声が耳鳴りを貫通して俺の脳に飛び込んでくる。
おっとっといけねぇ、そう言えば俺は今、期末の筆記試験の真っ最中だった。
朦朧とする意識のせいでそれすらも忘れてしまっていた。危ない危ない、はやく問題を解き始めないと、赤点を取ってしまうぜ。
自慢じゃないが俺はこの期末試験、崖っぷちに立っている。あと一つでも赤点を取ってしまうと、マジで退学になりかねないくらいには、赤点を積み重ねている。
それもこれも、まともに睡眠をとれていないせいだ。俺は悪くない。
でもあれ?トリニティに通うために働いてるのに、そのせいでトリニティでの成績がヤバいことになってるのって、本末転倒では?あれ?あれあれぇ??
ま、まぁ今んなことを考えたって心労が増えるだけだよな。テストに集中よ集中!!
俺は頬に喝を入れ、机に置かれた問題用紙を睨みつけようと視界を落とした。
「ぐー...すかー...ぴー....」
_________________
「はっ!?」
飛び起きると、既に俺の周りに人気は皆無だった。
あれ?どうしてだ?テストはどうした?まさかの集団で無断欠席?
なんて不真面目な連中だ!それでいいのかトリニティ生よ!!
「...ん?待てよ?今何時だ?」
...って違う!!
もうテスト終わってる!?
「やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
痛恨のミスだ!あれだけ寝まいと気合を入れていたのに、呆気なく睡魔にノックアウトされてしまった!!
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!あろうことか赤点を取ってはいけないテストを白紙で提出してしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
え、て、てことはまさか....
額に嫌な汗が伝うのを感じながら、机に視界をまた落とす。
そこには妙に真面目な書類が存在していた。
「あ...オワタ」
絶望。その二文字がひょこっと顔を出したかと思えば、信じられないスピードで俺を飲み込んだ。
皮肉にも睡眠によって妙にスッキリした脳みそが高速で現状を処理してしまった。
「退学...ぐはっ....」
俺は血を吐いた。実際には吐いてないけど。でもそんな気分だ。脳で処理した現実を受け入れられない。そのギャップが俺の内臓に未曽有のダメージを与えている。
流そうと思えばマジで血涙くらいなら流せると思う。いやマジで。
「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
こんなの認められるかぁぁぁぁ!!青春のせの字も体験出来ず仕舞いなんて!!俺が今まで何のために頑張ってきたと思ってる!!それもこれも全て輝かしい青春を謳歌するため!!可愛い女の子に囲まれてキャッキャウフフするためなのにぃぃぃ!!!
あん???醜い欲望が駄々洩れだって!?うるせぇ!!悪いかよ!?俺だって健全な男の子なんだよくぁwせdrftgyふじこlp
...ふぅ、
「ま、落ち着こうや。まずは書類を読もう。話はそれからだぜ」
まぁね?もしかしたらね?退学処分にはならないかもね?しんないじゃん?ね?
そうだよ、そうに決まってるよ。そうだと言ってよ!!!!(血涙)
「頼む!!!!来い!!!!セーフ!!!アウト!!!よよいのよい!!!!」
いやそれは野球拳だな.....
「...えっとなになに?...補習授業部.....?」
その書類には、俺が全く想定していなかった内容が記載されていた。
「特別学力試験に合格すれば...落第を免除!?補習授業部だと!?なにそれ!?そんな部活があったのか!?」
なんにせよ朗報だ。まだ俺にもチャンスがあったんだ。
補習授業部、そこでテスト対策をして、その上でまた再度学力試験を受ける。その試験に合格すれば、これまでの赤点が帳消しになる!!!
な、何て素晴らしい制度なんだ!?まさに俺の為にあるような制度じゃないか!!!!
あぁ!!神様ありがとう!!
俺はまだ、諦めなくていいんだな!!理想を!!
そうなりゃ、急いては事を仕損じるだ!!急がば回れだっけ?善は急げ?
まぁどれでもいいや!!!!
「待ってろよ補習授業部!!いぃぃぃぃぃぃやぁっっっっっっふぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
俺は奇声を上げながら、廊下を駆けていった。
途中で救護騎士団の生徒に見つかり、危うく精神異常で救護されそうになったが、なんとか逃げ切れたので良しとしよう。
_______________
「補習授業部に新しい生徒...ですか?」
「それほんとなのハナコ!!」
「つまり、私達の後輩と言うわけだな...」
「まぁ~、まだ確定ではないようですけどね」
期末試験も終わり、彼女たち四人は再び集った。
阿慈谷ヒフミ、白洲アズサ、浦和ハナコ、下江コハル。
相も変わらぬその面々に、コハルから思わず苦言が呈される。
「って、またなんで私達は当然のように
「あはは...どうしても外せないペロロ様のライブがありまして...」
「私も、ヒフミとそのライブに行っていた。テストは受けられなかった、全ては虚しい」
「私はスク水で歩いていたら何故か拘束されてしまって...そのせいでテストが受けられなかったんです...まったく、遺憾極まれりですね」
「当たり前に捕まるに決まってるでしょ!!ハナコのエッチ!!そんなの死刑なんだから!!」
「そういうコハルちゃんはどうしてまた?体調が悪かったんですか?」
ハナコにぽこぽこ拳をぶつけるコハルに、ヒフミは疑問符を投げた。
コハルは少し苦い顔をして、言葉を返す。
「そ、その...今度こそと思って二年生の飛び級テストを受けたら....」
「またですか!?」
「しょ、しょうがないでしょ!?いけるような気がしたんだから!!」
「と言って、実はまたこの四人で集まりたかったからわざと赤点を取った...とかではありませんか?」
ハナコが悪い笑みを浮かべながらコハルに言う。
「は、はぁ!?そんなわけないでしょ!!私は正義実現委員会のエリートなんだから!!」
「コハルは素直じゃない」
「私はまたこの四人で集まれて嬉しいです!...喜んでいいのかは分かりませんけど、あはは...」
「当然、私もとっても嬉しいですよ...コハルちゃんだけ、どうやら嬉しくないみたいですね」
「え?」
「そうなのか?コハル」
「や、え...」
「悲しいですね...しくしく」
「う、嬉しいわよ私だって!!!」
顔を真っ赤にして叫ぶコハルを、四人が抱きしめた。
コハルは「なんなのよもう!」と満更でもない表情を浮かべる。
「でも今回、私達の他に、もう一人赤点を大量に取った生徒がいるのよね」
「私も噂程度に聞いただけですし、確証はないですけどねぇ」
「その人もペロロ様が好きだといいですね!」
「そう思ってるのはアンタだけよ....」
「好きだといいな!!!」
「もう一人いたわ....」
和やかな空気が流れる。華やかで、耳をすませば小鳥のさえずりが聞こえてきそうなほど。
しかしそんな空気を切り裂くような爆音が、教室の角の方から響き渡った。
「ここは補習授業部ですかぁぁぁぁぁぁぁ????」
「っ!?」
四人の視線が、一斉に扉の方向へと向けられる。
そこには、「ぜーはー」と整わない荒い呼吸で酸素を貪る、超絶血色の悪い、ゾンビのような男が立っていた。
「ヒッ!?」
「助けてくれるんですよねぇぇぇぇぇぇぇぇ???俺を!!!助けてくれるんですよね??????」
「下がれみんな、こいつは危険だ!生気を全く感じない!!」
まるで猛獣の唸り声と聞き違えるような、地の底から響く低いガラガラの声。
真っ先に反応したアズサが銃を構え、その男に飛び掛かった。
「あ、アズサちゃん!?」
「私が時間を稼ぐ!その間に逃げるんだ!!!」
「う、うばぁっ!?誰、だぁ?何をするぅぅ!!」
「き、危険よアズサ!!アンタも逃げないと!!」
「いいんだコハル。私を置いていけ!!必ずあとで駆け付ける!」
「そ、そんな...アズサちゃん....!」
「ちょ、あぁ!?いた、痛い!?関節極めないで!?お、折れる折れる折れるぅぅぅ!?!?」
「...あのぉ」
男に飛び掛かったアズサが流れるように関節を極め、身動きを封じる。男は地面をダンダンと叩いて叫ぶ。「ギブギブギブ!!!」っと。
そんな光景に一人冷静だったハナコは、静かに口を開いた。
「その方は多分...私がさっき言った、補習授業部の新しい生徒だと思いますよ?」
「「「...え?」」」
「だ、だから痛いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
唖然とする三人をよそに、男は締め付けられた関節の痛みにただただ悶えていた.....