俺の朝は早い。
なんせ寝てないからな。
早いとかの次元は超越してると言っても過言じゃないと思う。
ってことで六徹目のシンタロウです!!
「いやはや、夜勤後の朝日は目に染み入るねぇ...何故か涙が出てきたぜ」
手の平を、淡い陽の光に充ててみる。
するとほら、こんな土気色の肌もみるみるうちに神秘的に!
これが朝日だ!!!
「朝日凄い、やっぱかっこいい、俺も朝日みたいにみんなを照らしたいっす!!!」
あさひすごい、いひ、いひひ....
...ひ?
ん?
「なんで俺朝日に憧れを抱いて??」
やばいな、我に返った。自分がどれだけおかしなことを言っていたのかやっと理解できた。
何が朝日だ、やっぱり時代は月明かりだろぉ??
「って違う!!!やっべぇぇぇ、頭が死ぬほど回んねぇぇ」
俺は今度こそ我に返った。
どうやら俺の体は、脳みそはもはや限界を超えた状態で稼働しているらしい。
もういつ停止してもおかしくない。
「ふぅぅ...気絶する前に、早いとこアイツに会って学校行かねぇと....」
そうして俺は、少しずつ顔を出し始めた太陽を睨みつけて、歩調を速めた。
誰がお前なんかに憧れるかよばーか!!!
・・・
「おはようございます。藤巻シンタロウです。妹の見舞いに来ました」
「あら、おはようございます。お見舞いですね、かしこまりました」
デカい入り口をくぐって直進し、受付の女性に俺は用事を伝えた。
「こんな朝早くからお疲れ様です」
「いえいえ、私なんかよりもシンタロウさんの方が大変でしょう?今日も、いつにも増して顔色が...貴方が患者なら、今すぐにでも点滴を打ってあげるのに....」
「ご心配ありがとうございます」
点滴か、そんなに顔色ヤバいんだな、俺。
そんな言うならタダで点滴打たせてくれよなぁ...同情するなら金をくれ。
まぁ、そんなことは胸の中にしまっておくのだ。
俺は受付嬢に礼を言って、視界の端にあったエレベーターに向かい、七階を選ぶ。
ここはギヴォトスでもそこそこデカい病院なので、二十階も階が存在する。
その分設備は最新鋭の物で、こんなに頼れるものは他にはないだろう。
費用は掛かるが...んなこと言ってらんねぇよな!!
ともかく俺の妹、藤巻カナエはこの病院の、七〇五号室にいる。
「っし、今日も兄貴全開で行くぜぇ」
パンっと頬を叩く。
思ったより痛くて涙が滲んだ。
「よっすカナエ!!早朝から兄ちゃん登場だぜ!!」
俺はテンション爆上げぴーぽーで病室の扉を開ける。
すると窓際のベッドで憂い気に外の青く茂る木々を見つめていた少女が、上半身を捻った。
「お兄ちゃん!!来てくれたんだ!!!」
「おうともよカナエ!!来たんだぜ兄ちゃんは!!!」
可愛い奴だ。
まるで待望してましたよと言わんばかりの満面の笑みの妹が、俺を出迎えてくれた。
思わず、素で顔が綻ぶ。
「今日も一杯お土産話持ってきてくれた???」
「勿の論よぉ!!今日も心行くまで聞かせてやるぜ、兄ちゃんの華々しい学園生活をな!!!」
「わーい!!!やったぁ!!!」
どこまでも純粋な眼差しで、瞳をキラキラと輝かせて、カナエは早く早くと俺を催促する。
やはり可愛い。俺の唯一の癒しだ!!!
「そう言えばお兄ちゃん、今日はメイクが一段と濃いね」
「...え?」
「ほら、お兄ちゃんのそのモテモテメイクだよ。正直私はそのメイクの何が良いのか分かんないけど...そこまで念入りにしてくるってことは、やっぱりみんなかっこいいと思ってるんだね!!」
「そうとも、俺のこのメイクに、女の子はみんなメロメロさ!」
「やっぱりお兄ちゃんは凄いね!!!」
「おうおう、お兄ちゃんは凄いんだ」
そうして俺は、カナエに語り出した。
ありもしない、たった今作り上げた
存在しない幻想を。
ただただ楽し気に、本当に体験したみたいに、手振り羽振りで大袈裟に。
聞けば聞くほど、カナエの瞳の輝きは増していく。
希望に満ち満ちていく。
それが俺は...嬉しかった。
「やっぱり、学校ってとっても楽しいところなんだね!!」
「あぁそうさ、すんげぇ楽しいところだ。毎日が毎日輝いて、思い出で、青春。それが学校だよ」
俺が話し終えると、カナエは感嘆の息を零して呟いた。
「私も早く元気になって...学校行きたいなぁ...」
少し寂しげだったカナエの頭を、俺は思いっきり撫でる。
「行けるさ、すぐだよ。すぐ元気になって、俺と同じくらい、いやもっともっとずっと楽しい学校生活を送れるさ」
「うん!!」
カナエは期待に胸を膨らませているような、そんな表情で頷く。
そうさ...すぐ元気になれる。
...すぐに、元気にしてやる。
「...シンタロウ君」
「え?」
その瞬間、背後の、扉の所から渋い声が俺を呼んだ。
「あ、主治医の先生!おはようございます!いつも妹がお世話になってます!!」
「あー、そのことなんだがね...少し、あっちの方で話をしないかい?」
「...話、です?」
うーむ、まだカナエと話したりないんだが...
「私のことは気にしないで、行ってきてよ、お兄ちゃん」
「え?あ、あぁ。ありがと」
どうやら悩んでいる俺を察してくれたらしく、妹のゴーサインが出た。
「じゃあ、ちょっと着いてきてね」
「はい」
俺はゆったりと先行する先生の背後を着いて進む。
「.....」
病室を出た瞬間、俺の顔から笑みが失せた。
先生の背中は、楽しく希望ある未来について語ろう!!なんて前向きな感じじゃなかった。
どっちかっていうと、悲しく絶望しかない真っ暗闇なお先を悲観し合おうって感じだ。
嫌すぎる。
「...さて、ここら辺でいいかね」
突然、先生が立ち止まった。
「単刀直入に言うよ」
「...は、はい」
「カナエさんの病状が悪化した」
・・・
「ぐー...すかー...ぴー....」
「...ちょっとちょっと、なんでアイツは
「疲れてるんじゃないでしょうか?昨日よりも更に顔色が悪いようですし」
「そしてどうしてアンタはまた
「...??」
「何が分かんないのよ今の問いの」
昨日と同じ時間、同じ場所に、再び五人は集まっていた。
特別学力試験は、これから数週間後に行われる。
それまでにテストの範囲を対策するのだ。
「...やっぱり、シンタロウ君の顔色の悪さは異常じゃないですか?」
心配そうに、眠るシンタロウの髪を掻き揚げて、ヒフミはその真っ黒な隈を見る。
「栄養が足りてないんじゃないでしょうか...救護騎士団の方に診て貰った方が......」
「そうだな、この血色は相当まずい。それに、見てみろ...ヘイローが少し、砕けてる。放っておいたら死ぬぞ」
アズサの何気ない言葉に、全員が凍り付いた。
「まずいなんてもんじゃないじゃないですか!!今すぐ連れて行きましょう!!!」
「あぁ、手を貸す」
「わ、私も何か...え、えっと...」
「私達がシンタロウ君を運ぶよりも、救護騎士団の方を呼んだ方が早いのではないでしょうか?」
「そ、そうですね!!!私が走ってきますので、みんなはシンタロウ君が逃げないようお願いします!!!」
その言葉を叫びながら、ヒフミの後姿は死角に消えていった。
しかしヒフミの心配は杞憂だった。
肉体の限界を迎えていたシンタロウは多少のことでは目を覚まさず、ただただ回復に努めていたのだ。
・・・
「...むむむぅ?なんだここ。どこだ?」
知らない天井だ...目を開けると、俺はフカフカのベッドの上で腕に何かを取り付けられた状態にあった。
これは...えっと....
「...点滴ですよ」
ムスッとした声が、隣から聞こえた。
首だけを動かしてみると、頬を一杯に膨らませたペロロ狂もとい、阿慈谷ヒフミが椅子に腰を掛けて俺を見下ろしていた。
「おかしいなぁ...俺は部室で仮眠を取ってた筈なんだが?」
「顔色が尋常じゃないほど悪かったので、救護騎士団の方に診て貰ったんです...そしたら重度の睡眠不足と栄養失調と...このまま放置していたら、死んでいたかもしれない。そう言われましたよ」
「......」
マジかぁ、そんなやばかったのかぁ。
深夜テンションのせいかな?アドレナリンが出てると、どうも身体の不調を感じにくくなっちまう。
「あちゃ~、ねぇヒフミ。俺どんくらい寝てた?」
「えっと...あれからまだ三時間ほどですが」
「そか、んじゃしょうがない。今日は休むとしましょうかね」
「そ、そうです、それがいいです。ゆっくり休んでください!というか、少なくとも数日は入院することを勧められてましたよ!」
救護騎士団、ありがてぇなぁ。なんせこの点滴はただなんだもの。
点滴のお陰か知らないが、随分体が軽く感じる。
「これなら、放課後までしっかり休めば、問題なくバイトに行けそうだな」
「...へ?」
「...うん?」
どういたんだろう。ヒフミが固まった。
っと思えば、途端に早口で捲し立て始める。
「だめ、駄目に決まってるじゃないですか!聞いてなかったんですか!?死ぬかもしれないって状態なんですよ!?ここ数日は安静にしておかないとって、シンタロウ君を診察した方も言ってました!ヘイローだって少し砕けていたんですよ!?」
「もぉ、ヒフミは大袈裟だねぇ。そんなのあと数時間寝ればばっちり回復よ!何を隠そう、徹夜のしーちゃんとは俺のことなのさ!!」
「ふざけないでください!!!」
ひえぇ、怒られちゃった...
「もう少し...自分の体を大切にしてください。私だって心配してるんです」
「心配してくれるんだ」
「と、当然です!なんせ私達は補習授業部の仲間なんですから」
「ふーんそっかぁ。ありがとねヒフミ」
「え?あ、い、いえいえ。そんな....」
うん、しょうがない。