助けて補習授業部!!!   作: 俺は人間をやめるぞぉ!

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反転

「ではおやすみなさい、シンタロウさん。何かあれば、ナースコールで教えてくださいね」

 

 

陽が沈み、下界は等しく闇に覆われる。

今しがた目を覚まし、以前追いかけっこを繰り広げた救護騎士団の子に診察をして貰った俺は、再びベッドで横になった。

 

 

「うん、了解。色々ありがとね...えっと」

 

 

「セリナです。鷲見セリナ」

 

 

「ありがとう、セリナっち」

 

 

「せ、セリナっち...?」

 

 

「冗談だよ。ありがとねセリナ」

 

 

「え、えっと、はい」

 

 

苦笑いを浮かべるセリナの背を見送って、俺は起き上がる。

 

 

さてさて、待ちに待った夜がやって参りました。

ふふ、軽い、軽いぞ体が!!

なんて軽さだ!!まるで葉っぱ、いや綿毛のようだ!!

これなら羽の無い俺でも空を飛んでいけるような気さえしてくる。

いや天に登って行くって意味じゃないからな?

 

 

「んふふ~、色々良くしてくれたセリナには悪いけど、抜け出させて貰うヨン」

 

 

何せこれから...俺はドデカイ仕事をしに行くのだからな。

もはや、日下で行われているバイトに俺は限界を感じていた。だからこそ、日の当たらぬ影の、そういう仕事をすることにした。

 

 

その仕事とは、そう。

裏バイト!!

 

 

まさに俺は暗き闇に身を投じようとしているのだ。

なんてアウトロー、なんてハードボイルドなんだ!!

 

 

これも実質青春みたいなもんだよな。多分。

 

 

「まずはブラックマーケットに行って、アタッシュケースを貰って...それからトリニティ自治区の郊外にある古い小屋に置いておくんだったよな」

 

 

超物騒!!

危険な香ばしい臭いがする!!

 

 

だがしかし、その分報酬は素晴らしいの一言。

一般のバイトでちまちま稼ぐよりも圧倒的に効率が良い。

 

 

どうせ、これまで通りバイトに励んでいればいずれ体を壊すのは目に見えてる。

ならいっそ、危険な仕事で稼いだ方が良いだろうと言うのがIQ114514の俺の頭脳が出力した結論だ。

 

 

「さぁ行こう、すぐ行こう、今すぐ行こう!!」

 

 

そうして俺は月明かりの差し込む窓を静かに開けて、そこから身を乗り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

トリニティ学園校内を抜け出して、夜目が効くようになってから俺はいそいそ歩き出した。

月明かりの照らす庭園は、妖しい印象を俺に与えている。

噴水から溢れ出す水が青白い光を乱反射させて、その周辺はまるで別世界のようだった。

思わず足を踏み入れたくなる。

...けど、

 

 

「......」

 

 

そこに、一つの影の輪郭が長く伸びていた。

まさか、この時間に見回りがいたとは....

 

 

俺は物陰に身を潜めつつ、その人物を観察する。

 

 

「...流石に、と言いますか。この時間のこの周辺に救護が必要な方はいませんね」

 

 

そこにいたのはそう、救護騎士団団長の蒼森ミネだった。

 

 

(うわぁ...)

 

 

正直、今イッチャン会いたくないのが彼女だ。

【ミネが壊して騎士団が直す】とはよく言ったもので、彼女は救護のためならば手段を選ばないところがあるらしい。

 

 

例えばそう、AちゃんとBちゃんが喧嘩をしていたとしよう。

そこに偶然、彼女、ミネ団長が通り掛かったとしよう。

さてこの場合どうなるだろうか。

 

 

正解は、AB共々入院コースである。

 

 

意味が分からないだろう?

俺も理解できないから仕方ないよな。

 

 

なんでも怪我人が出るような争いが起ころうとしているのなら、怪我をする前に両者を戦闘不能にしてしまおう、なんて思考回路らしいよ。

 

 

意味分からないよな。

俺も理解できないよ。

 

 

ともかく、そんな無差別破壊女(クラッシャーガール)に見つかれば、俺はどうなるだろう。

全身の骨をボキボキにされて強制入院コースだろうな。

 

 

それは嫌だ!!

バックグラウンド諸々を差し引いても普通に嫌だ!!

 

 

なら、どうするか。

彼女に見つからないよう、静かに通るのさ。

 

 

パキッ

 

 

「ッ!?そこに誰かいるのですか!!」

 

 

「あ、やべ」

 

 

言った側から枝を踏んじまった!!

 

 

瞬時に、ミネ団長の視線がこちらに向く。

場所は今の音で完璧に特定されたらしい。

 

 

「そこですね、動かないでください!」

 

 

ヒィッ!?殺される!?

マズイマズイマズイ、どうにか逃げなきゃ!?

 

 

血の気が引いていく。頭が真っ白になっていく。

 

 

そこで問題だ!

ミネ団長が迫ってくるこの状況で、俺はどうやって逃げ去る?

 

 

答え①ハンサムシンタロウは突如逃走のアイデアが浮かぶ。

答え②実は場所を特定されておらず、ミネ団長は通り過ぎる。

答え③逃げられない、現実は非情である。

 

 

②だ、②であってくれ!!

 

 

俺は心中で叫んだが、悲しきかな。ミネ団長は真っすぐ俺へと向かってきている。

やはり①しかないようだ!!

 

 

「にゃぁぁぁお」

 

 

「...ん?」

 

 

「にゃんにゃん、にゃんごろりぃ」

 

 

「...猫?」

 

 

そう、猫だ。ここにいるのは猫なのだ。断じて病室を抜け出した救護必要系男子ではない。

分かったのならさっさと回れ右をして去るんだなぁ!!!

 

 

「...流石にこのクオリティーじゃ誤魔化せませんよ」

 

 

な、なにぃ!?

渾身の鳴き真似が通用しないだと!?

 

 

絶望!突きつけられた答えは③!!

現実は非情なり!!!

 

 

「おや、貴方は....」

 

 

「あ、あばば...」

 

 

そうして俺は遂に対面してしまった。

その瞬間、確信めいた何かが走る。

 

 

あぁ俺...クラッシュされる....

 

 

「何故、要救護の貴方がここに?」

 

 

「いや、その、こ、これにはとても深い訳がございましてですね」

 

 

俺が必死に取り繕おうとするも、ミネはにこやかに笑って、

 

 

「救護が必要...ですね?」

 

 

「い、いりまへん....」

 

 

「そうですか、では救護しますね」

 

 

会話のキャッチボールが成立しない...

あぁ、俺はここまでなのか...思えば楽しい毎日だったな。

 

 

朝起きて、バイト行って、見舞いに行って、学校行って、バイト行って、帰宅or夜間バイト...その繰り返し。

何一つ思い出が出てこねぇや。なんだこれ俺の人生虚しすぎかよ。

 

 

「いやだぁぁぁ、こんなのが俺の最期だなんていやだぁぁぁ!!!」

 

 

「お、大袈裟ですよ。ただちょっと救護するだけなのに」

 

 

「こえぇよ!!救護って単語にどうしたらそんな真逆の意味を込められるんだ!?」

 

 

どうしようどうしよう、真面目にどうしよう。

このままじゃバイトに行けない...そしたら違約金が発生しちゃう...それだけはなんとしても回避しないと...

大金を稼がなきゃいけないのに逆に負債を背負うなんてどんなギャグだ。

 

 

俺は絶対に、バイトへ行く。

行くんだ。

行かなきゃ。

 

 

こいつを振り切って。

 

 

どんな手を使ってでも。

 

 

「流石に、素直に病室に戻るのなら何もしませんよ。でも貴方...抵抗する目をしていますから」

 

 

「俺はこれからバイトに行かなきゃいけないんだ」

 

 

「これ以上の無理は、命に関わりますよ?」

 

 

「別にいいよ。俺自身が生きていくために頑張ってる訳じゃないし」

 

 

「...どういう意味ですか?」

 

 

「事情を話してる時間はない」

 

 

俺はそう会話を断ち切って、悠々とミネに対して、手を伸ばす。

 

 

「なんのつもりですか?」

 

 

ミネは当然のように俺のその手をパシッと掴む。

 

 

「よし、触ったな?」

 

 

「はい?」

 

 

これだけは使いたくなかった。

でも、もう俺に残された道は、これだけだった。

 

 

俺の腕を掴むミネは、場の空気の変化に気づいたのか、警戒の表情を浮かべる。

でも、もう遅い。

 

 

次の瞬間、俺の頭上のヘイローが、妖しい光を放ちだした。

 

 

「...え?あ、れ?」

 

 

バタンッ

 

 

「...ふぅ」

 

 

何が何だか分からないままミネは、まるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 

 

ヘイローは明滅を繰り返しながら、徐々にその光を収めていく。

それが完全に収まった時、

 

 

「う...あ...おえぇ...」

 

 

ありとあらゆる負の感覚が俺に押し寄せた。

 

 

頭痛、吐き気、眩暈。

視界は極彩色に染まって、ぐるぐる回る。

自分が自分でなくなっていく感覚を、抑えるように堪える。そうしないと、本当に自分が消えてしまうような気がした。

 

 

じわじわと侵食されていくそれを押し返して、数分...やっと、気分が落ち着いていく。

 

 

手の平を覗き込み、握る。開く。

俺が俺である音を確信する。

 

 

「...ふぅ」

 

 

なんとかなった。良かった。

一先ず俺は胸を撫でおろす。

 

 

相変わらず物騒な力だなと俺は溜め息を吐く。

なんか、当然のように使っておいてあれなんだが、実は俺自身、これがなんなのか分からない。

いつの間にか使えるようになっていた、謎の力なのである。

 

 

どうやらこれは、状態を反転させる?的なことが出来るらしい。

冷たい水を、温かいお湯にとか。

今回で言うと、ミネを起きている状態から眠っている状態へ反転させた。そういう感じだ。

 

 

なかなか便利な力だと思うだろ?けど、それだけデメリットもあるんだ。

 

 

まず、一回使う度に死にかける。

それは誇張かも知れないけど、死んだほうがマシってレベルの異常が体に起こる。

それに耐える覚悟をしてからじゃないと使えない。

 

 

次に、内側から何かしらに侵食される。

これはもうマジで怖い。

この力の根源が分からない分、未知の恐怖に襲われる。

 

 

そして、不可逆的なものに対しては効果を発揮しない。

 

 

だから例えば死者を甦らせたりとかは無理。

生と死が表裏に位置してるかは知らんけどね。

 

 

「ミネさんには悪いことしたな...明日謝ろ」

 

 

コンクリートの地面に沈んだミネ団長を、俺はせめてもとベンチに移して、その場を後にした。

 

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