"かれら"の目的は、人間になること 作:覆面道化師
「あなたは女の子になったのよ」
「???」
あの、お母様。
話が見えなさすぎて叫びそうなんだけど、どうすればいいですか?
TS病。それは突如として流行り始めた不治の病である。
原因不明、きっかけ不明、対処法・治療法すら不明。そもそも名前からしてエ○ゲなんかの世界にだけ出てくるご都合能力だと思われてたソレそのものである、うん。
ちなみにこれ、女の子が男の子になることはありません、よかったね。よくねぇよ。
事実は小説よりも奇なりとは言うけど、この場合事実は小説よりも残酷だと思う、だって男に生まれただけで"そう"なるリスクを抱えながら生きなきゃいけない訳なんだし。
「ちょっと待ってちょっと待って、なんで? いやどうして」
「なんでって、そうなったからよ」
「母さんはそれで良いの?」
「息子が娘になったって、することはあんまり変わらないし、愛する子供よ」
やだ、我が母ながらイケメンすぎ。かっこいい……じゃなくてね?
「昨日、あなたが寝ている間に父さんが診てくれたから、病院に行く必要はないわ」
「えっ」
「必要そうなものも、私がさっき買って来たからあなたが特別しなきゃいけないこともない」
「ちょっ」
「はいこれ、下着類とか、その他必要そうなもの」
「うぇ、いやちょっと待ってぇ!?」
順応しすぎだよお母様? じゃなくて母さん。
「どうかしたの?」
「いや、えっとね?」
「ああ、下着に抵抗があるとか、着方がわからないのなら、その都度言ってちょうだい、私が教えてあげるから」
「それも……と、言うかちょっと考えさせて!」
考えを整理しよう、うんそうしよう。
Q.俺ないし私、は女の子になった、なんで?
A.流行りのTS病にかかったから。
Q.母さんの適応が早いのは何故?
A.元々の性格と1日時間を置いていたから。
Q.なんで寝ていた?
A.……なんで?
「この病気にかかった人は、例外なく意識を失うらしいわよ」
「そうなんだ……」
「個人差はあるらしいけどね」
A.だそうです。
……え、俺、本当に女の子になっちゃった訳?
「……」
♪ ♪ ♪
「……さむっ」
まあ当然か、今は冬。
俺の服装も、シャツにパーカーとジーンズ、とそこまで暖かそうな服装でもない。仕方ないじゃん他のは袖余るんだし。
「うー……」
いや、嘘ついた。今の俺でも着られる暖かそうな服は"あった"。用意されていた。
ただその……どっちかって言うと女の子の服でして……覚悟なんてまだありません、はい。
「……人、多いなー……」
都会とも田舎とも言い切れないこの街とは言え、一年に一度のイベントともなれば人はごった返すものなのだと、毎度思わされる。
「とりあえず、友人には会わない、うん。そうするべき」
今が冬休みでよかった。理由がないと会う必要もないからな。
にしても寒い、人がこれだけいても寒さは遮れないのか、視界は遮られまくってるのに。
近くにショッピングモールがあるから尚更見えない、思っていたより背が縮んでいるらしい。
「……なんでお……私が……」
言ってても仕方がないことなのは、頭では理解してる、うん。TS被害者へのインタビューとか言う、マスコミ特有のノンデリ番組で理解させられた。
……寒い、どこかに座ろう。
ショッピングモール内の、大きなツリー。その近くに設置されてるベンチに腰を降ろす。人はまだまだ多いけど、ここなら考え事だってできそうだ。
「はぁ……」
運命って残酷だなぁ。パッとしない、男友達しかいない男をTSさせるなんて。どうなるか目に見えてるってのに。
「今更友達作りなんてできないし……男だし……」
うちの学校にTS病被害者がいないのもあるけど、女の子にはまず間違いなく腫れ物扱いされる、うん間違いない。
んで男には……。
「なぁ、お姉ちゃん綺麗だよねー、俺らと遊ばない?」
まぁ、ああなる。うちの男、ってか俺の周辺のはチャラいかモブいのしかいない(友人談)。
「ふん。結構よ、アンタみたいな軽薄そうなのに付き合ってらんないわ」
「おお、はっきり言った」
ああ言えたら良いんだろうけどなー、どうなるかなー……。どうあっても友人なんだよなーあいつら……うーん。
ちなみにチャラい男達はすごすごと引き下がっていった、うん、やっぱりああ言うのが最適なんだろうね、引き下がってくれるなら。
気の強そうな女の子は……もういなくなってる、どこ行ったんだろ。
「まあ関係ないよね」
TSした男に待ってるのは理解を得られないが故の孤立……うーん、生々しくてやだなー。
「あ、そうだズル休み……もダメだ」
母さんが許して……はくれるんだろうけど、いつまでも誤魔化せないだろうしなぁ。何より将来に困る。
「んー……どうしよう」
「なぁお嬢ちゃん」
「今まで通り……ってのは無理だろうし……」
「なーにボソボソ言ってんの?」
「んん? あ、いやこっちの……って、誰?」
見知らぬ男達が……って、こいつらさっきの。
「なぁ、俺らと一緒に遊ばない? イイコトしよーよ」
「ぅ……け、結構です、用事があるので」
「えー? そんなこと言わずにさぁ、ちょっとだけだから」
「あの、ほんとに結構です、話しかけないでください」
「ちょっとだけだから! な?」
し、しつこい……後ろの男達はケラケラ笑ってるだけだし……うー、邪魔だなぁ。
「ハハハ! そのくらいにしとけよー?」
「困っちゃってんじゃんその子」
「……」
「頼むって、な? 行こーぜ?」
「えっと……迷惑です、やめてください」
ありきたりな断りの文言を述べておく。けどしつこいなー。押せ押せで行けばなんとかなるとでも思われてるのかな、俺。
「ぎゃはは、言われてやんの」
「ぐ……なぁ、暇そーじゃんちょっとだけだからさぁ!?」
「用事があるので結構です、話しかけないでください」
「くそっ……!」
あ、これ頭に血が昇ってる奴だ、漫画でよく見るアレ。さっきの気の強そうな女の子にプライドでも傷付けられたのだろうか。
それ、俺でやらないでくれるとありがたいんですけど……。
「えと、もう良いですか? それじゃ」
腰を上げ、その場からさっさと立ち去ろうとして
「……待てって!」
「っ!?」
ガシッと、腕を掴まれる。
「ちょ、ちょっと……」
「な? 良いだろ?」
威圧的で、なんだか怖い。あと掴まれてる腕が痛い。
「い、いやです」
「……!」
「おいおい辞めとけって、それ以上はやばいぜー?」
「うるせえって、見てろ!」
ここで着いて行ったら、ダメだ。
……とは言え、女の子になった直後にこんなのに絡まれるとか。ついてないなー俺。
気の強そうな子がナンパされるの見てたんだし、早々に立ち去れば良かったかな? でも考え事がしたくて座ったんだし……。
と言うか、なんでこんな漫画みたいな展開の被害にあってるんだろう、現実って残酷だね。
「離してください」
「良いじゃんか、ちょっとだけだからさ!」
「いやです」
「……この……!」
あ、やばいかも、周りに人はいるし見てるけど、誰も助けてくれなさそう。まあそんなもんだよね、人間なんて
「そこまでだ」
「ああ!?」
「え」
なんて、こともなかった。
相手の男を遮る様に、俺の前に現れたのは……えっと、誰だろう。親切な第三者?
「だ、誰だよお前!」
「……この子の連れだ」
「はぁ? 邪魔しないでくれよ、その子に用があんだよ」
「警察を呼ばれても良いなら、邪魔はしないが」
「ぐ……くそっ!」
男達が、悪態を吐きながら下がって行った。
……助かった……?
「怪我はないか?」
「え、あ、うん。大丈……」
腕をさすると、針を刺したような痛みが走る。
「っぅ……」
「腕か、見せて欲しい」
……結果から言うと、腕は薄く腫れていた。
余程の力で掴まれた……んだと思う。男の人も引き下がれないって感じだったし。
「……一時的な腫れだろう。このままでも問題はないと思うが、ちょっと待っててくれ」
「う、うん」
♪ ♪ ♪
「……よし、これで一応冷やせる……と、思う」
「あ、ありがと……」
男の子……えっと、名前がわからないし便宜上、彼と呼ぼう、うん。
彼は、さっき買ってきたらしい氷とハンカチで、即席の氷嚢を作って、俺の腕に当てた。
「いや、お礼はいい」
「えっと……」
「……悪い、時間がなくてさ。俺はもう行くよ」
「え、あ、うん」
助けるだけ助けて、彼はさっさと行ってしまった。
おそらく、俺と同い年……くらいかな? しっかりしてるなー……俺なんかよりずっと。
あれはモテる、いやモテなくても多分、彼を慕ってるヒロイン的存在が数名いる。間違いない。
「……あっつい……」
この体、周りの温度に影響されすぎだと思う、うん、絶対そうだ。変なのにも絡まれちゃったし。
だから、顔が熱いのも、気のせいだと思う、絶対に。
……チョロくないからな。俺はチョロくない。
俺、男だし、そうだよな。