"かれら"の目的は、人間になること 作:覆面道化師
「……なんか疲れたなぁ」
いなくなった後に、ハンカチとか氷の代金とかについて気付くとか、本当にどこかのヒロインみたいじゃんか、辞めてくれよな。
「きつねうどんの方ー……」
「あ、はいお……私です」
「はい、どうぞ……ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
同じショッピングモール内の、フードコート。そこに並ぶお店の一つにて、俺は今、うどんを頼んでいた。
「……あんなことはあったけど。お腹は空くから、仕方なし」
空いてる席は……あ、あそこかな。
いつもよりも重いお盆を両手に、傾かないように。慎重に空いてる席まで運んで行く。
「ととと……って、席取られてる……」
座席にバックが置かれていた、ううむ、これじゃ座れないんだけど……。
「人多いし、席も空いてない……」
どうしようかな、うどんが伸びる。
んー……相席とか? いやぁ流石に気まずいなぁ。
「ねぇ」
空くのを待つ? どこでって話。
そろそろ腕が辛くなってきたし、非力すぎるぞ俺の体。女の子とは言えもう少し力があると思ってたんだけど。
「ねぇ」
「?」
「あなた」
声をかけられた……? いや、違うでしょ流石に。この姿に知り合いなんていないし。
「……聞こえてないの?」
「……」
キョロキョロと、周りを見渡してみる。
声をかけてきた……と思しき人物は、俺を見ている……? 他に当てはまりそうな人物はいなかったけれど。
「……私?」
「そう」
「えーと……?」
どちら様だろうか。
こんな可愛い知り合い、俺にはいなかった筈なんだが、悲しいことに。
「ここ」
「……?」
「席、ないんじゃないの」
「あ」
なるほど。
つまりはこの子の親切心、と。
「えと……じゃあ、良いですか?」
「構わない」
少女のご厚意に甘えて、相席させてもらう。
んー、この体だったからだろうか? ある意味幸運だったかも。いや、あまり褒められたものでもないんだけど。
この体のせいでさっきは酷い目にあいかけたんだし。
「ねぇ」
「……あ、はい、何か」
「……」
え、なにこの子。じっと見つめられてるんですけど。何もない顔ですよ?
んー……見れば見るほど、可愛い顔してるなー……女の子になった俺よりちっちゃいし。漫画とかなら抱き締めたくなるタイプの子として紹介されそうだ。
それはそれとして、うどん伸びちゃうので食べても良いですかね?
「……あなた、不思議」
「え?」
「心の音が、他の人より心地いい」
「音?」
「……いつまでも、聞きたい」
……???
どゆこと? 俺の心とか汚い男の欲望に塗れた鈍い音がしそうなもんだけど。てかこの子これで拗らせちゃんだったのか。
俺なんかより、君の方がよっぽど不思議ですよ、うん。
「……えと、麺伸びちゃうし、食べても良い?」
「……」
「返事なし……と」
いや、食べるのにこの子の許可とかいらないんだけどね。でも見られてるとなんか食べにくいし……。
「……食べるからね?」
「……」
「一応、伝えたからね」
若干伸びた麺をちゅるっとすする。おいしい。
全体的に体の能力が落ちた為、一回ですすりきれなくなっているのはちょっとだけ残念。
「あちち……」
あと若干熱い。猫舌だったっけ、俺って。
「……」
「……」
視線を感じつつも、箸を進める。
ちなみに私、おあげは最初に食べる派で……した、うん。今回は、なんとなく置いてある。
「……ふぅ、後はおあげを……」
「ねぇ」
「……どうしたの?」
「人って何?」
「人?」
「人」
あの、おあげ食べさせて……?
そもそも人は、人でしょう。
「んー……」
「……」
「……誰かを慮れる生物のこと、とか?」
「?」
「あ、いや忘れて、それは一部だったかも」
ありきたりなセリフを抜粋したはいいけど、直前に俺慮らない人の被害にあってたわ。今のなし。
「そうだなぁ」
「……」
「人、ねぇ」
いや、初対面の俺に聞く内容じゃあないでしょう。重すぎる。
それはさておき、おかなきゃならないのなんでだろう……。
「まぁ、それを探すのが人って生物じゃないかな」
「……?」
「あんまり深いことも、納得させられるようなことも言えないけどさ。己の形……在り方? を探して、作っていくのが人なんじゃない?」
「……つまり、どういうこと?」
「へ? ……えっと、その……うん、答えを追い求める生物ってこと、うん」
うまく纏められたんじゃないでしょーかっ! 凡人も凡人だし、そんな大層な生き方はしてないんだけど。
今をどうしようかって考えてるのは事実だし。間違いじゃないよね。
「……」
「納得の行く答えにはなった?」
「……ん、ありがと」
「どういたしまして」
丸く収まった、とおあげを口に入れる。
うん、甘くて美味しい。きつねうどんを食べる理由の七割がここにあると言っても過言じゃない。
……過言かも、ごめんよくわからない。
「……ん?」
あれ、目の前の少女はどちらへ? 席を立った音とかもしなかった筈なんだけど。
周りを見ても、彼女らしき人影は見当たらない。
「……あまりにも素早い行動……シンプルに見逃しちゃったかな」
相席をしてくれたお礼とか、よくよく考えたら言ってなかったんだけどなー。俺ってこんなにタイミングを逃すタイプだったっけ。
「彼共々、次に会える気がしないんだけどな」
ハンカチと、氷の代金と、お礼とお礼。今日だけで返さなきゃならないものが沢山増えたんだけど、なんでだろうか、ほんとにどうしよう。
「?」
あれ、なんか違和感……モヤっとするなぁ。調子が悪いのかも、意識を失ってたらしいし。
「……さっさと帰ろう、うん。そうしよう」
立ち上がり、お盆を返却台まで持っていく。
「あ、ありがとうございましたー」
「ごちそうさまです」
最初の店員さんに続いて、ありがとうございました、と声が響く。
……ここの店員さんも大変だよなぁ、渡す時だけじゃなくて、食べ終わったものを返却する時まで気にしてなきゃいけないんだし。
「げ」
そんなこと考えてたら嫌なこと思い出しちゃったな、やだやだ。
「アルバイト、どうしよう」
一応、高校生ですしアルバイト、してたんだけどなー。
まぁやな先輩とか、人の心のない上司とかしかいないハートレスな職場なんだけど。辞め得とか思ってた自分もいるんだけど、一応ね。
「こんな姿見せたくねー……ってか、間違いなくめんどくさい」
ほんと、この世界TSに優しくない。俺が親友と呼べる理解者に出会えなかっただけかもだけど。
……そんなこんなで、いつのまにかショッピングモールの出入り口まで、足を進めていたわけなんだけど。
「あれ、なんか外の景色おかしいような」
この場所から見える空って、こんな部分的に暗かったっけ。
……とにかく、一旦外に出てみよう。
足早に、外に出る。
「…………」
ビルが逆さになっている。
「………………」
目をこする。もう一度目に映るものを理解しようとする。
空から、ビルが、生えている。
「……………………?」
うぇあー いず まいたうん?
「……えっ」
ショッピングモールの外が、異界に変わっていた件。どこここ。
「ビルが逆さなんだけど……え、地面は? 重力は?」
なんか苔生えてるし……え、あれ?
「んー……と、誰かいませんかー!!」
人もいないし、なんか世紀末みたいだなぁ。というかあれだけいた恋人達とかどこいったのか。爆発しました?
「誰かー……?」
見回して、声をあげても虚しく響くだけ。うわぁ。
「……家に帰ろ、うん、そうしよう」
案外、帰ってる途中で元に戻るかもしれないし。
♪ ♪ ♪
「あ、足が棒になる……いたたた……」
足場が悪い、先が見えない、俺の名前は方向音痴! 結論無理!
ショッピングモールから家に帰るまでの距離を体感3回は絶対に歩いたと思う……こんなに貧弱だったっけ。
TS病ってやっぱり、体の能力も低下するのかー……辛いなぁ。
「私の体、弱すぎ……!」
やだなぁもう。人並みの身体能力しか誇れる能力なんてなかったと言うのに。無慈悲なり我が世界。
「ぅー……休もう……」
近くの椅子は苔だらけ……うーん、どこが良いのかなぁ。
「……ん、そう言えばお店の中って」
俺が外の異変に気付いたのは、外に出てトンチキなビルを目にしてから。つまり少なくとも……。
「ショッピングモールには苔がない……?」
あれ、どうだったんだろ急に不安になって来た。うどんの後は考え事してて周りを見てない……というか、覚えてない。
「……そもそも、ここはどこ」
私は誰? ……って主語逆じゃんしょーもな。
見渡す限り、苔、ツタ、石、岩である、地獄だね。特段悪いことしてないのに。
「…………」
お店……の扉と思しき場所。その前には憎き宿敵、ツタがびっしりと張り巡らされていた。
お前のせいでどれだけ躓きそうになったことか……! 苔は滑るし岩は邪魔だし石のせいで歩く場所はぼこぼこしてるし散々だ。
「んー……」
TSしてから、視界に捉えるたびに綺麗だなぁって感じる俺のちっちゃくなった手、ナルシストとか言うなし。……この貧弱な手で、丈夫そうなツタを1本掴みます。
「ふー…………よし」
腰を固定気味に、腕を伸ばして、足が滑らなさそうなことを確認……うん、良さそうだ。
「……せーのっ!」
体重を乗せて、ツタ引っ張る。びくともしない。
「んー……!」
「………………むりそう」
泣きそう、2つの意味で。
非力でちっちゃい我が体では、こんなツタすら強敵になるのか……。
「あぅぁぁ……単純にもっと疲れただけ……ってこと?」
悪循環というしかない。休むための場所探しに体力を使っていてはねぇ。
「苔でびちゃびちゃ、石でゴツゴツ……逃げ場がない」
苔はまだ……と思わなくもないんだけど、それでもやっぱり気持ち悪い感触は気持ち悪いのだ。
「場所に悩み続ける1日、だなぁほんと」
うどんの時はあの彼女……拗らせちゃんが助け舟を出してくれたんだけど、こんな人っ子1人いないような環境じゃ望み薄で
「ねぇ」
「えっ?」
聞き覚えのある声がした、その方向……俺の後ろに視線を向けると……。
「……え……え?」
「……不思議、この場所にあなたがいるんだ」
拗らせちゃんが、ぽつんと1人、立っていた。
「……」
「疲れてるの?」
「ぇ、あ、うん。だから、どこか1回休もうかなーって……」
「……私の場所、空いてる」
「え?」
「休みたいんでしょ?」
「え、あいやそうなんだけど……」
この辺り、ツタだらけなんだけど。
「……ん」
彼女が指差した方向に……って結構離れてるなごめんね歩かせちゃって。それはそれとして、その場所にあるのは
とっても目立つ、ブルーシートを敷いたベンチ。
…………その手があったかぁ。