スキル「絶対対価」で無双しよう   作:テムテムLvMAX

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第1話

「お前死んでっから」

「は?」

 

 真白い空間にテーブル一つと椅子が二脚、そこに対面する形で座る二人がいた。一人はスーツ姿の瘦せた男。もう一人はトーガ(半分布がない半袖のようなもの)を着たムキムキの男。そのムキムキ男が言うにはスーツ男は既に死んで転生を待つ身、輪廻が巡り新しい命になる前の段階でこうして話しているのだという。

 スーツ男は事情を飲み込むことが出来ず悩みに悩んで一旦現状のまま受け入れる事に、ムキムキ男はなるようになればいいと言ってそれで良しとした。

 冒頭の会話は初対面の第一声ということもあり相当のインパクトをスーツ男に与えたが、ムキムキ男によればまだここから巻き返せるという。

 

「いいかよく聞け現代人、世界ってのはいくつもあるもんじゃ無い、表と裏の二つだ。お前が居たのは表、俺が手を加えなくてもいいように作った物理法則がある世界、今更俺が介入してお前を戻すと世界の理が乱れるので、記憶を持ったまま生き返らせるとするなら裏の世界、魔法や神秘の存在が生きる世界だ」

 

 まるでおとぎ話だな、スーツ男は率直に思った。同時にムキムキ男は極めて誠実に対応してくれていることも感じた、こんなバカみたいな話、役でやってるとしても笑ってしまうだろう。

 

「わかった、ムキムキなアンタの話は理解したよ。んで俺はなんで生き返れるんだ?」

「それはな、裏の世界に新しい風を送り込むためさ、台風のような物と考えてくれると助かる」

「俺に台風になれって?」

「そうだ、お前だけでなく何人かは送り込んでいる、望むならそのも者達と行動するといい」

「転生してる人は何人いるんだ?」

「さぁな8人程度は居る、お前で九人目だったはず。お前で最後だ」

「そりゃ運の良いことで、運が良いついでにやるとするさ」

 

 急な話、急な展開、それでもムキムキ男の口調や態度が意外にすんなり情報をスーツ男に飲み込ませ、快諾した。

 それを聞いたムキムキ男は指を弾き音を鳴らす、それを合図に真白い空間は音もなく色を変え形を変えた、一転してどこかの会社の事務室のような酷く味気ない空間に変わった、ムキムキ男はトーガから品の良い仕立てられたスーツへ着替えてソファへ座り込んでいる。

 

「もう見れないだろうから最後にサービスで生前見ていた景色を再現してやった、ここで最後の問いをしよう」

「お前趣味悪いな……俺が死んだ部屋じゃないか」

「強く生を実感できるだろう?」

「もう良い、話を進めろ」

「わかった」

 

 ムキムキ男が手を叩くと扉が開いて場違いなメイド衣装の女性が入ってきた、その手には茶色の封筒、スーツ男に一瞥してからそれを差し出し、また扉から出ていった。

 

「あの人は?」

「神の従僕といえば?」

「天使にメイドさせてるのか?」

「ここ冥土だからな」

「洒落にしては古臭い、で……この封筒はなんだ?」

「君の要望を書き給え、望むすべてを叶えてやるさ、向こうでな」

「そこ選べるんだな、なら……」

 

 スーツ男は手慣れた動きで封筒から折り込まれた紙を取り出し、ムキムキ男から渡されたボールペンで望む物を書き記す、迷う素振りを何度か行い、腕を組んでじっくり悩んだ末に、3つ書き込んだ。

 

「よし、これでいい」

「なら拝借。えーなになに……ずっと健康な体、冴えた頭、対価を支払ったら絶対に利益が返ってくる能力、ふーん……控えめだな」

「マジ? ならもう少し書き足「もう締切でーす」ぐぬぬ……ケチめ」

「ケチも全能の内だよ、さぁてこれをこうしてっと」

 

 ムキムキ男は書き込んだ内容を確認した後その紙をクシャクシャに丸めてライターで火をつけて一瞬にして燃えカスも残さず燃やした、手品でも見せられている気分だとスーツ男の関心はそちらには向いていた。

 

「これで願いは受理したから、あとはもう向こうに行くだけだよ、向こうは表とは違う事がいっぱいあるが、気にせずやりたいことをやったらいい、俺が許す」

「まだ俺はふわふわした感じで夢でもいている気分だよ」

「そのうち嫌でも現実だと思うさ、困ったら同じ転生者にコンタクトを取ると良い、では良き二度目の人生を期待しているよ」

「あぁ」

 

 最後に、ムキムキ男の手拍子が部屋に鳴り響くとスーツ男はその姿を消した、ムキムキ男はソファにふんぞり返って溜息を一つついた。

 

「ふぅーっ。これで最後か……神も楽じゃないね、しかし限定的な因果の確定を願われるとは思わなかったなぁ、これはいつもと違ったイベントが見られそうだ……ドルゥルダ、彼の事任せて良い?」

「御意」

 

 ムキムキ男の座るソファの後ろには、先程のメイドが音もなく立ち、返事を返した。

 

 

 

 

 

 一方で転生したスーツ男はというと。

 

 

 

 

 

「あぁこう言う始まりなんだな……」

 

 大自然に一人取り残されぼやくことしかすることがなく、文明の証である灰色のスーツは緑色の中でよく目立っていたが、1時間もすれば暑くて上着は脱ぎ捨てた。

 

「くそっ虫は多いし嫌な鳴き声も聞こえる……異世界転生だってのに情緒も風情もないぞこれは……」

 

 スーツ男からワイシャツ男へ変身した男は大自然から抜け出すべく森をひたすら真っ直ぐ突き進んでいた、本当は蛇行して進んでいるが、とうの本人は真っ直ぐに進んでいるつもりだ。

 まだ日が高いので今のうちにこの森を抜けてしまえると人里を見つけられるかもしれない、そんな希望を持って勇み足で数時間後。

 

「もう無理、死ぬ、生き返って2回死ぬ。俺を丁寧に殺すつもりだろあの神」

 

 などと文句たらたらの始末に負えない状態になっていた、もう目に付くモノ全てに噛みつき始めてそろそろ精神が不安定になり始めた頃。

 

「止まれ、そこから先一歩も進むなッ!」

「え? 誰だ! 姿を見せてくれ! ほら! この通り敵意はない!」

 

 突然聞こえた声は明らかに警戒の声だったが、人の声に飢えていた男からしてみれば敵でも味方でもどちらでもよかった、死ぬくらいなら捕まったほうがマシだとさえ考えている。

 男は両手を上げて敵意が無いことを示して、なんなら膝もついてその場でじっと待っていると奥の茂みからカサリ、カサリ、と音がした、そこからぬるっと現れたのは軽装の女性だった。茶色い革の胸当てに緑のインナー、染色した革の緑色のズボンには無数のナイフ、背部には矢筒と矢が見えた。そして何より特徴的なのはその耳だろう。とても、とても長かった。金髪だし、耳が長いし、弓を持ってる、まさに男の知っているエルフそのものもだった。

 

「エル……フ……?」

 

 男の思わずこぼれた言葉は女性には届いていなかったようで、弓に矢をつがえたまま男の前に現れたエルフは強い口調を崩さないで問いを投げかけた。

 

「この森をジャバヤンガ族の領域と知っての侵入か! ヒューマンの出入りは原則禁止、見つけた場合射殺も許可されている。即刻立ち去れ」

「ま、待ってくれ、俺は何も怪しいものじゃない! 遭難してここまで来たんだ! 助けてくれ! 頼む!」

 

 男は手を挙げたまま頭を下げ懇願した、2度も死んでたまるかという気概は、長命種であるエルフといえど1度目の生を生きるモノには出せない。その強い気迫を受け取ったのか、そのエルフは弓を降ろし背へしまった。

 

「……なら国境街まで行くと良い、近くまで案内する……見た所ヒューマンだが……そのおかしな服装はなんだ? ヒューマンの流行りの服なのか?」

「そう、かも? アハハ」

「行くぞ、遅れずついてこい」

「あっ待ってくれ!」

 

 エルフの案内によって森をスイスイと進み、崖を登り洞窟を抜けて行くと、木がなくなり整備された道へ出ることができた。

 

「この道を辿れば国境街だ、緩衝地帯だから、お前のような怪しい奴でも受け入れてくれるだろう、では」

「待った、名前を教えてくれないか? 案内してくれてありがとうだけじゃ、つまらないだろ?」

 

 さっさと帰ろうとしたエルフを引き止め、名前を聞こうとしたが

 

「ヒューマンに教える名前はない」

 

 簡単に突っぱねられた。

 

「俺はユキムラ、あなたは?」

 

 男には、ユキムラには関係なかった。呆れたエルフは顔を押さえて空を仰いだ。このヒューマン押しが強いので射殺すかどうか迷った末に、名前は教えることにした。

 

「……まぁ良い、これも何かの縁だ、私はエルフのジャバヤンガ族長、ルーメインが娘、ドミナ。これでいいか?」

「ありがとうなドミナ! じゃあな!」

「もう来るなよ、ユキムラ」

 

 ドミナは道なりに走っていくユキムラを見送りながら心中で「ヒューマン全員があんなやつばかりなのだろうな」と酷い偏見を持つようになった、普段ヒューマンと関わりを持たないエルフだからこその誤解なのだが……それを指摘するものがこの場にはいなかった。

 

 

 

 

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