「お前は王都送りになる、身元不明のヤバいヤツを野放しにはできんからな……すまんが従ってもらうぞ、拒否されても力ずくだからな」
「拒否しませんけど……いまいち俺にそんな力があるなんて話が実感湧かなくて……(だって使えないし……)」
確かに神様のような存在に要望はしたしチート無双わっしょいって気分でいたユキムラなのだが、持った力が力だけに確かめようのない物なので、持って振り回せるならまだしも使い方が分からない本末転倒な状態なのである。
「ま、まぁーそのうち思い出すだろ……そうしょげるなよ?」
記憶がなくて悲しんでるものと慰められる始末だった。
「んで、話の続きだがお前の能力がレベル300オーバーである可能性がある為、鑑定水晶の製作者直々にお前を見てみたいという話が上がっている。どうだ? 見てもらうか? 記憶を取り戻すきっかけくらいにはなるんじゃないか?」
「そうですね、自分のことはよく知っておきたいので見てもらいたいです。で、その人ってこの前言ってた変態魔具師の人なんですか?」
「いやいや、その人はあくまで製作者でな、設計と理論構築したのは変態の方だ。製作者もその領域の変態だがめちゃくちゃ常識的だから話は通じるしなんなら凄いお方なんだよ。
誰かみたいに酒からモンスター作ったり石ころで無限に遊んでたりしないからな」
「その言い方だと設計者のほうは話が通じない行動がやべー人って事になりません?」
「だからその通りだよ」
「うわぁ……」
そこまで言わせる変態魔具師とは一体何だろう、もう頭にパンツ被って謎のじゅもんを日常的に唱えているとかそのレベルじゃないのかと強めの誇大妄想を付け加え、それがそのままイメージとして定着してしまった。ユキムラは今後どこかでまかり間違っても出会いたくないと強く思った。
「心配すんなよ、そいつなら隠居してて滅多な事で家から出ないからこの数年顔を見てない、安心していいぞ」
「ホッ……」
“というか、隠居する前まではそんなことしてたのか……”
ユキムラの中で勝手に出来上がっていく変態魔具師の人物像がヤバい変なおっさん魔法使いとかいうキメラになっていく、もうパンツが頭から離れない。
と、脱線に脱線が重なった話から戻ってきて王都へ行くために必要なことをユキムラは監視長カルレアからきっちり教え込まれた。王都ともなれば貴族が集まり、そうでなくとも平民がおいそれと立ち入れる場所は少ない、常に礼儀作法を気にしていなければ意図せず虎の尾を踏むことになりかねないのだ。
「良いか、ちゃんと頭を下げる、頭を下げるときは腰もちゃんと曲げる、ポケットに手を突っ込んだまま歩くなよ? 常に見えるようにしとけ、品がない振る舞いは厳禁、これは絶対だからな。王都は上流階級の塊みたいなもんだ、貴族かそうじゃないか違いが分からなかったらとりあえず丁寧に対応しとけ! 下手すりゃ首が飛ぶからよく肝に命じておけ」
「ウス!」
礼儀もバッチリ覚えた所でいざ王都へ、服装は監視長カルレアの好意でこの世界の平民の礼装を貰ったのでそれを着ていく、スーツのような構造だが素材がクモ系魔物の糸を使って編まれている為、とても軽い、伸縮性が高く可動域が広い、更に火魔法耐性があるので、火で炙って汚れも匂いも全部燃やせるお手軽仕様。とても異世界っぽいとユキムラは興奮しまくりである。
王都まではこの国境街から定期的に馬車が出ているのでそれを使う、意外にも公共交通機関が充実しているので異世界感がちょいと薄れる気もした。
「うし、王都までは私も同行するからな」
「すいません監視長さん……」
「謝んなよ、これも仕事だ。あと私のことはカルレアと呼んでいいぞ、いつまでも監視長だと気を使うだろ?」
「それは助かります、カルレアさん。だったら俺のこともユキムラと呼んでください」
「っぱ何度聞いてもユキムラってなぁ珍しい名前だよなぁ、東方の国とかそっちの出身かもな」
「そうですかね……? 記憶がないので、なんとも……」
「ま、出身地じゃなくとも観光にでも行って来い。スッゲーぞ」
東にも国がある、異世界の東の国は大体和風なのは相場だが、この世界だとどうなのだろうか、旅行に行く余裕が出たら行く事を心に決めたユキムラ。
カルレアと話し込んでいる内に馬車の用意ができたので必要な物を積み込み馬車に揺られながら長い平坦な街道を進みだした。
国境街から王都までは山もなく平坦で、背の低い草が生えるばかりの平原を少し蛇行して街道が通っている、蛇行しているのは湿地や雑木林を迂回するためだ、そういう所は大抵良からぬ輩や魔物と呼ばれる人類の天敵が潜むので、入る事は極力回避し立ち入るならば最善の準備を整えるのが常識だ。
道中何事もなく街道を進み、日が落ちたので野営をすることにした。早馬を飛ばしても1日半かかる距離なのでどうしても一回の野営は必要になる、明日の夕日は王都から拝めるだろうと、カルレアはそう笑っていた。
キャンプを設営し今日はこのまま夜を過ごすことに、夜の見張りは旅慣れたカルレアと馬車の操縦士が持ち回りで行う事で話がつき、代わりにユキムラは夕飯の支度をすることになった。
「食材は贅沢出来んが、器具はある程度揃っているぞ。食えれば何でもいい、料理できるかユキムラ?」
「まぁ一応、野菜とか肉とかあります? カルレアさんは?」
「出来ん! だから頼るな! 材料は干し肉と乾燥薬草とちょっぴり香草がある、野菜は芋しかないな、あ! 水はあるぞ、そのへんに川があったからな」
「塩とか?」
「ないに決まってるだろそんな高級品、この国は海に面してない内陸国家だぞ」
「あっそうなんですか……塩ある前提だったから……よし!」
「なんか思いついたか?」
「ごちゃまぜ煮込みにします、凝ったもの作ろうとしたら失敗する未来が見えました」
「奇遇だな、私も見えたぞその未来」
鍋にあるだけの具を詰め込んで蓋をしてグツグツ煮込み、名もなき料理が完成した。香草で香りをつけてやっと食べられるレベルだった。
そして翌朝。
「行くぞ、この山を越えれば王都が見える」
「うぉ……高いなぁ」
「この山はビブロ山、大昔の大賢者ビブロが王都を守るためにその身を賭けて作り上げた神聖な山なんだぞ。この辺りには魔物が寄り付かないのがその証拠だ、覚えとけよ〜」
「益々凄いな……これを人が……」
「ちなみに大賢者ビブロは生身で神の配下になった稀有なヒューマンで、しかもエルフとのハーフさ、そりゃさぞかし強かったろうなー」
「なんか生物の強い所詰め合わせみたいな人だったんですかね」
途中にある聖なる山を越えて、夕暮れと共に王都にたどり着いた。
ここまで来た者を出迎えるのは、高く分厚い堅牢な砦と見間違えそうな城門だった。王都をぐるりと一周取り囲む壁は特に重い石材を積み重ねた上で魔法による保護を受けた頑強な壁、民にはこれ以上ない安心を与え、攻め入る敵には慈悲なき拒絶の要塞と化す。なるほど王都に相応しい、あの国境街を守る砦でさえ小さく見える……ユキムラは心の底から感心した。
「よく見とけよ、ここが王都だ。王都マルフィーヌ、女王陛下のお膝元だ」
「王都マルフィーヌ……」
「だがまだ通れないぜ、この書状を門番に見せねぇとな、ちっとばかし待っててくれよ、しばらく時間がかかるから適当に時間潰しとけ」
カルレアは懐から取り出したのは複雑に絡み合う蛇と狼の印が押された手紙、これが無ければ入れないと言うからには相当なものなのだろう。
カルレアが戻るまでユキムラは馬車から離れ、この大きすぎる王都の壁を見て回る事にした、出歩く事は馬車の操縦士には伝えて、気分上々に歩き出した。
壁の周りにはこれと言って何かある訳でもない、壁の外は魔物が住む世界なので当然と言えば当然の話だが、何も無い。ひたすら壁があるだけなのだが迫力と異世界感があると言うことでユキムラは見入ってしまう。
「デケー……見上げる首が痛くなるぜ」
「ほぉん? お前さん不思議なやつじゃな、そんなにこの壁が珍しいかな?」
「ぎゃー誰ッ?!」
「わしじゃよ」
これと言って一切全く訳がわからない。
ユキムラの一センチ横には謎の老人がまるで恋人の距離感で佇んでいた、ヒゲを蓄え、シワは深く刻まれ、体を支える足腰は少し震えていて腰が曲がっている、杖を突いている手も震えて安定感がなく、見ていると不安になるが、ハキハキと話す姿は若者と大差なく見て取れる。もれなく頭は太陽の如く煌めき、その風貌は仙人、もしくは邪悪な魔法使いだった。
「最近の若いもんは挨拶もロクにできんのか?」
「いやアンタが言うのかそれを!?」
「あんたとはなんじゃい! このジケロの知らんと言うのか!」
「知ッるかよッ!!! 初対面だろうがッ!?」
「なんじゃいはよいわんかい、わしジケロ、よろしくな若いの。気安くジケロ爺と呼ぶとええぞ」
「うわ急に冷めるな……えぇと、よろしくね俺はユキムラです、ジケロ爺さん」
「うむ! ユキムラ、長いからユキ」
「十分短いやろがいッ……!」
ちょっとエキサイトするジケロ爺と仲良くなった、ような気もするユキムラであった。
しかしこのジケロ爺、なかなか博識で、やはり年の功なのか王都の事をよく知っていた。定番の店や最近の事件、昔からの由来や知り合いの息子の近況、最後のは余計だが異世界初心者のユキムラには全て新鮮でどことなく懐かしい気持ちになる話題だった。異世界でも人は人だったのがやはり面白く感じられた、知り合いの息子が彼女に振られて三日三晩寝込んだとかはちょっと異世界っぽいかもしれない。
「ふぃー若いの、中々聞き上手じゃな? この爺の話をよく聞く根気と優しさは褒められる長所じゃ」
「いやいや、俺もジケロ爺さんの話が面白くて普通に聞いてただけだって!」
「最近は色々窮屈での、話をする機会もなくてつまらんかったんで滅茶苦茶スッキリしたわい、ユキや、何か困ったことがあったら頼るとええぞ、あっそうじゃこのナイフをやろう、何かあったらこれで解決じゃ」
「急に物騒!?」
「誰が殺人鬼じゃ! 「そこまで言ってねぇよ!」このナイフはわしの代わりじゃ、わしの知り合いとか、話の通じるやつに見せたら大体なんとかなるもんじゃ」
「ジケロ爺って意外と凄い人だったりする? 大金持ち? 富豪? はっ! 貴族だったり!?」
「そんな大層なもんじゃないが……?」
「あっその視線俺を頭のおかしいやつだと思ってるな爺」
「まぁ持っとけ持っとけ、損はさせん」
と、押し付けられたナイフは至ってシンプルな革の鞘に収められ、ナイフの刀身に蛇と狼の印が彫り込まれた物だった。一応懐にあるポケットに閉まっておいた、この異世界自衛のために刃物の一本や二本持ち歩くのが常識であるためそれ用のポケットがどんな服にも仕込まれているのだ。
「それじゃまたのユキ、そろそろ帰らんと娘に叱られるんでの」
「俺もそろそろ戻らねぇとな、じゃあな〜」
「またの〜」
二人は別れ、ユキムラは馬車へ戻ってきた。そこには既にカルレアが腕を組んでつま先で地面を叩いて待ったいた。これはつまり、そういうことである。
「おっっっっっそいぞユキムラァァァ! どこほっつき歩いてんだボケェ!!! 結局お前待ちで時間食ったじゃねぇか!!!」
「すまんせんどこかのご老人に話しかけられてついつい」
「はぁ? 言い訳にしては下手クソな嘘だな? 壁の外に老人がいるわけ無いだろ、入口も出口も王都はここだけだがそんな老人見てないぞ」
「えっ……え? じゃあ俺が話してたのって…………」
背筋に冷たいナニカが走っていった……悪寒、寒気、そういった類いのナニカが……
その日、ユキムラは夜眠れなかった。