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おなしゃす。
誰も知らない、無数の結末の1つとして記憶に残るだけの偉業。
人理を救った藤丸立香は暗闇の中にいた。
彼は直前までその命がある限り、手が足が動く限り、懸命に愚直に傲慢に前へと進んでいた。
世界を救うため、明日を見つけるため、過去を照らすため、現在を証明するためにその小さくて今にも潰れそうな背中に数多の想いを背負いながらも地を這うように進んでいた。
悪ではない、善でもない。すり減ったのかそれとも元からそうなのか、ただ平穏を、日常を、過去が繋ぎ未来が証明する現在を取り戻す。
たったそれだけの当たり前を、恐ろしい程に欲深いソレを成し遂げたのだ。
英雄と賞賛しても過言では無い。小人と蔑んでも間違いでは無い。
彼は暗闇の中にいる。どこなのだろうか、今までの記憶が川の流れのように浮かんできては流されていく。
初めは事故だった。次は強いられた。旅を続けていくうちに仲間が増える、そして別れていく。
名前も知らない彼らの在り方に、思想に、感情に何度尊敬し、胸に刻み、気付かされ、または怒り、反発し、衝突したか。
そんな彼の胸の中に光る目を潰さんばかりの光。旅の記憶、彼の大部分を形成した大切な思い出。彼がこの旅で唯一得た史上の宝物。裏切りがあった、分かり合えなかった、別れが、諦めが、絶望が、死が鈍くどす黒く放たれている。それでも信じられる仲間が、理解り会えた喜びが、出会いが、目標が、希望が、生きたいと願う純粋な気持ちが溢れんばかりに満ちている。
決して綺麗なだけでは無い、混ざり物の宝。多くの人は見向きもしないだろう。だか、たとえ原始の宝物庫や世界に一つしかない宝と交換だと言われても渡す気にならない、藤丸立香という人間が成した旅路の記録。
そんな宝物を子供がお気に入りのオモチャを離さないように手のひらで握りしめる。
離さない、これだけは。たとえ僕が世界から消されたとしても、みんなの記憶からいなくなったとしても、藤丸立香が藤丸立香ではなくなったとしても。絶対に。
微睡みの中で無意識に、しかし確固たる意思で握りしめたその想いを抱いて彼は流れていく。
暗闇という川の流れの中を光で照らしながら流されていく。
何処へ向かうのか、自分の意思も無いままに流されていく。
ふと、誰かの手が触れた。酷く冷たい手だ、寂しくて、でもわがままで控えめで。いつも虚勢をはって威張っている。本当は優しいそんな手だ。
誰だろうか覚えのあるこの感触を心地よいと思いながら身を委ねようとするも直ぐに離れていってしまった。
また手が触れる、また触れる、触れる、触れる、触れる。
一つ一つが別の手だ、覚えがある。どうしたのだろうか、彼を引き上げるのだろうか。だが無理だ。誰も流れには逆らえない。
手は溢れんばかりの光を渡してくる。これ以上の光を何処に仕舞おう。宝物と一緒に仕舞っておこう。きっと大事なものだから。
最後の手が触れた。愛おしくて、大切で、守りたくて、守ってもらった誰かの手。彼女を悲しませてしまっただろうか、どうか前を向いて欲しい。僕がいなくても君は進めるから。君にはどうか健やかに生きて欲しい。僕の代わりに、今まで背負ってきた誰かの代わりに、そして何より君のために。僕はみんなと一緒に見守っているから。だから君の行先にありふれた平穏と夢があらんことを。あと少しばかりのハプニングも、人生には刺激が無いと退屈しちゃうから。
離れていく、流されていく、遠く遠く彼らが感じられなくなるほど遠くまで。でも大丈夫。僕の手の中にはほら、こんなに沢山の餞別がある。寂しくなんか無い、悲しくもない。これは新しい旅の始まりなんだ。
前を向こう、きっとみんなそうする。情けないところなんか見せられない。次に会う時に笑われちゃう。
流れの終着点が見えてくる。僕がいたあの場所とは違う場所。
さようなら、絶対に忘れない。忘れることが出来るわけない。
さようなら、どうか祈って欲しい。上手く行きますようにって。
さようなら、もう振り向かない。これ以上は寂しくなっちゃうから。
また、いつか会えた時に話すよ。僕のもう1つの物語を。
あざした。
感想くれると嬉しみ。
最初に手が触れたのは誰でしょう。