転生したけど隣のやつが何か大きなものを抱えている。(抱えてない) 作:得時
食堂での一件から数日が経った。どうやらあれ以来、シド達は本格的に付き合い始めたようだ。
行きと帰りはもちろん昼に授業中だって一緒にいるラブラブっぷりだ。
嫌がっていたのはどうしたんだシドよ。
そんな二人の中に入って邪魔をするわけにも行かず、だからと言ってヒョロとジャガの相手をする気にもなれない。あいつらこのところシドに対しての呪詛しか吐かないからな。
そんなわけで二人に断りを入れた俺は授業後も教室に残って剣を振っているわけだ。お前いつも剣振ってるなって思ったか?前世のトラウマの件もあるが他にもちゃんとしたわけがあるんだ。
魔剣士を目指している俺だが戦闘狂なわけじゃない。むしろ逆、できれば戦いたくない。
そりゃあそうだろう?俺は前世の戦いと無縁の暮らしが染み付いているんだ。命を懸けるなんてしたくない。だから比較的平和な王都で騎士団に入り、門番でもするのが目標だ。
「おや?ドライ君また残っているのかい?」
「こんばんは、ゼノン先生」
声を掛けてきたのはゼノン・グリフィ。王都ブシン流という剣術の先生だ。
実技科目は実力ごとに教室が分かれるのだがゼノンは一番上の1部の教室を受け持っている。
俺が今いるのは4部の教室だ。なんとも面倒見がいいこの先生は授業後に他の教室まで赴き、残っている生徒の稽古までつけてくれるのだ。なので会うのは初めてではないのだが……。
「1部の生徒は全員帰ったんですか?」
「こんな時間まで残っているのなんて君くらいだよ」
腕が立ち、性格が良く、おまけに顔まで良い。生徒からの人気は計り知れないだろう。
一人でできない模擬戦闘ができるから助かるのだが、俺はこの先生が正直に言うと苦手だ。
「別に俺のことまで見てくれなくていいですよ」
「はは、君には才能があるからね。いつか資格を得る可能性があるほどに。だから見ておきたいのさ」
「何の話です?」
「時が来たらわかるさ。君が選ばれたらね」
これが苦手な理由だ。この先生、前々から意味深な言葉を呟くことがあるのだが最近は特に酷くなってきている。怪しい宗教にでも嵌まっているのだろう。あまり関わらない方がいいだろう。
「ドライ、君は踏み込みが浅いね。それさえ直せばもっと強くなれる」
「踏み込みですか?」
「ああ、どこかに怯えがあるんだろうね。何に対してなのかは分からないけど」
怪しい宗教に嵌まっている先生だが、実力は確かなようだ。
確かに俺はびびっている。もちろん前世の怪異にだ。あの恐ろしい光景が頭から離れない。
いや、そう思い込もうとしているだけなのかもな。
忘れようとしているだけで本当は分かっているんだ。
俺はあの時焦っていた。制限速度を遥かに超えていた。
前世の世界に怪異なんて存在しない。
アレは怪異じゃない。