転生したけど隣のやつが何か大きなものを抱えている。(抱えてない) 作:得時
俺の前世の記憶はこの世界に来てから徐々に薄れつつある。いや、正確には思い出さないようにしていた。自分の罪から逃げ出したかったんだ。だからがむしゃらに剣を振った。剣を振っている時だけは思い出さずに済んだ。疲れ果てるまで剣を振れば悪夢を見ずに済んだ。
その甲斐あって何とか記憶にフタをすることができたんだ。
だけど、学園に入ってからそのフタは開いてしまった。
シド・カゲノー。
俺が前世で轢いてしまった少年にそっくりな奴。最初に顔を見たときは心臓を掴まれたみたいだった。
『お前は忘れても、僕は忘れていない』
そう言われたような気がした。俺はきっと無意識に赦しを求めていたのだろう。
シドに少年を重ねていたんだ。だからアイツが気になった。アイツに話しかけようとした。
アイツの友達になろうとした。アイツの為に声を上げた。
全て自己満足のためにアイツを利用していたんだ。
『で、君はまだ逃げる気なの?』
『僕の未来を潰して、君だけ平穏に生きていくつもり?』
『それでもいいんじゃない?そうして全てから逃げ続けるといいよ』
「俺は……」
『シド・カゲノーのことも利用し続けるといいよ』
『自分を慰めるためにさ』
シド。アイツはきっと俺なんかよりも大きなものを抱えている。二日前の忠告もそうだが、何も抱えていない奴があんな眼をするはずがない。
だけど、アイツは俺とは違う。
あの眼は戦い続けることを選んだ眼だ。すべてを捨てる覚悟がある瞳だ。
なあシド。俺もお前みたいになれるだろうか。
……まだお前の隣に居てもいいだろうか。
「悪いなシド。後で謝らせてくれ」
『?』
「お前にもだ。眼を背けてすまなかった」
『それで赦してもらえると思ってるの?』
「赦してもらおうなんて思っていない。赦されるとも」
『……』
「俺は罪を背負って生きていく。俺が消してしまった命の分も」
「そして俺の命を懸けてより多くの命を救って見せる」
だから、もう行かなきゃな。
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動け。動け。動け!俺は必至に震える脚を怪物に向けて動かした。
まずいことに怪物の近くには足を引きずっている騎士団員がいる。
そして怪物は今にもその腕を振り下ろさんとしている。
覚悟を決めろ俺!命を懸ける覚悟を。命を救う覚悟を。
そして……
『君は、踏み込みが浅いね』
『どこかに怯えがあるんだろう』
命を奪う覚悟を。
俺は大地を思い切り蹴った。
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王都は混乱に陥っていた。王女の誘拐事件は解決しておらず、建物が切れるように崩壊し、謎の怪物まで現れた。そんな事態を収拾するために一人奔走する赤髪の騎士がいた。
アイリス・ミドガル。この国の王女でありながら、王国最強とも称される魔剣士だ。
アイリスは怪物が現れたと報告があった地点へ疾走する。
そんな彼女の眼に巨大な体躯が見えた。怪物の体だ。次に目に入ったのは怪物の脚元にいる負傷した騎士団員の姿だ。今にも怪物の腕が振り下ろされようとしている。
(まずい!この距離では間に合わない!)
そして、怪物の腕が団員に振り下ろされた。
瞬間、アイリスは見た。
怪物の腕を切り飛ばした閃光を。全てを背負う覚悟を秘めた瞳を。