地下都市ヨミハラ。東京の地下300m地点に存在する闇の無法都市。縦横5km四方ほど、高層ビルがすっぽり入るほどの高さがある広大な地下空間で、日本の首都直下にありながら政府の力も対魔忍の力も及ばぬ魔の巣窟。
床はコンクリートで舗装され、天井には無数の換気口、電線、水道管、ガス管などが無秩序にぶら下がっており、それらのライフラインは全て地上から違法に盗み引かれている。
最深部には魔界の門があり、日本で最も魔界に近い町として“魔界都市ヨミハラ”とも呼ばれる。
そこはエドウィン・ブラック率いるノマド傘下の魔界の住人を中心にしたマフィア組織がヨミハラ一帯を支配しており、麻薬・魔薬の取引、売春、殺人、人身売買といったありとあらゆる非合法がまかり通る犯罪の温床となっている。
そんな場所に現在、1人で俺はいた。ただしその姿は普段の任務で着る戦闘服では無く将校の軍服にも見えるようなミリタリー風のデザインでありカブトムシが右肩から抱き着いているかのような意匠が目を引き、カブトムシの翅にあたる部分が肩から伸びる半透明の外套、歩脚にあたる部分は肩から胸に伸びる飾り糸がついている。
簡単に言えば仮面ライダーベイルへと変身をした状態だ。
なぜ普段の格好では無く仮面ライダーベイルに変身した状態でいるのかと言われれば身バレ防止と安全の為だ。
まず身バレ防止に関してだが普段任務に使っているあの姿は五車学園の方にはしっかりと知られている。そりゃあ一応は味方だからな。
んでだ今回の依頼は五車経由では無く雑賀衆としての独自の任務であり五車側には俺がここに居ることを知られると色々と不都合だ。雑賀衆は五車にこそ入っているが昔からの各所とのパイプや関わりスタンスは変わりなく井河とはあくまでも同盟相手という形だ。
故に井河には知られたくないものや知られると面倒なものが多い。それ故にこうして普段とは違う姿で来ている。
次に安全の為という点について。
ここヨミハラという都市は無法地帯であり危険はそこら中に転がっている。殺人や強盗なども茶飯事だしそれ以外の犯罪なども茶飯事。いつどんな危険が見に降かかるかわかりやしない。
その点仮面ライダーベイルに変身しておけば身は守れるし大抵の事には対処出来る。
「おい、おめぇいい格好してるじゃねえか」
まあ、あくまでよくない出来事を抑制する事は出来ないのでこういう風に絡まれたりもする。
だが珍しい。俺がベイルの姿でヨミハラに訪れるようになってから1年程が経過しており今まで全ての相手にほぼワンパンで勝利してきた事もありベイルの姿もそこそこ有名になりヨミハラにいるものの間では触れ無い方がいいタブーのうちの1人になった。故にヨミハラでは前より格段にからまれにくくなったのだが。
「おい、あいつ終わったな」
「あいつ新入りか?」
「いつも通りベイルに殺されて終わりだろーな」
「ちげーねぇや」
こちらを見ている住人の声に耳を澄ませれば相手側の終わりを確信しているほどだ。それもそのはず仮面ライダーベイルのスペックはパンチ力は72.1t、キック力は141.5tにも及ぶ。こんなスペックで殴らられば幾ら闇の住人や魔族でも基本はミンチより酷い事になる。
今までそれをしてきたわけだから絡むやつは減ったんだよな。
「聞いてるのかおめぇ!!」
だから今や俺に絡むやつは基本的に腕自慢やヨミハラに比較的最近入ってきた新入りという訳だ。
「この野郎!!」
無視を続けた結果か腕を振り上げ俺を殴ろうとするオーク。流石に殴られるのは嫌なので迎撃しようと拳を握っだがそれは無駄になった。
「ぐべらっ!?」
俺の拳がオークをミンチより酷い状況にするよりも早くオークの顔に別の拳が叩き込まれオークはその儚い命を散らした。合掌、南無三。
「あはっ、ベイルゥ!!」
「……はぁ、またお前か」
オークを吹き飛ばしたのはまだ子供と言って差し支えない年齢の少女。だが頭には小さいが角を生やしており魔族である事が分かる。
名前はレピタ・リッチスター。ヨミハラにたまに現れる、魔界貴族リッチスター家の令嬢。常に従者を引き連れて歩き回り、行く先々でトラブルを起こすトラブルメーカー(物理)。小柄な可愛らしい容姿だが、肉体を魔力によって強化することに特化しており、血気盛んなヨミハラ住人達を相手に大立回りをする程の剛力の持ち主。
そして現在は俺の粘着質ストーカーと化している。
事の経緯は俺がヨミハラに来た際にレピタが襲来し何が彼女の琴線に触れたのかはわからないが俺に従者になるように要求。もちろん俺は拒否しそうなったら力づくで従者にしてやると襲いかかって来たのを撃退。
それ以降こうしてヨミハラに来ると100%襲いかかって来るようになった。
「レピタ・リッチスターだ!!」
「またベイルに挑みに来たのかよ」
「レピタが何分耐えられるか賭けようぜ!」
「俺は3分!」
「いや、1分だね!」
「大穴の10分だ!」
「「それは大穴すぎる」」
まあ、ここはヨミハラ周りの住民ももはや恒例行事として楽しんでいる。
「今日こそ私のモノにするんだから!」
そう言いながらレピタは俺に向かって右拳を突き出す。俺はそれを受け止める軽く投げ飛ばす。
「あっぶな!一撃で終わっちまうかと思ったぜ」
「よっぽどじゃない限りそりゃないだろ」
「なんだかんだレピタの事は殺さねえしな」
「「そりゃそうだ!」」
まったく野次馬どもは好き勝手言ってくれるな。
「せいっ!」
俺に投げ飛ばされたレピタは空中で身をひねると上手く着地して再び俺に向かって今度はドロップキックを放ってくる。
人を容易く殺せるその蹴りは綺麗に俺の腹に決まった。
しかし、俺にとってそれは許容範囲であり問題の無い攻撃だ。
それを向こうもわかってるのかすぐさまに立ち上がり今度はアッパーカットを放ってくる。身長差があるから若干、昇竜拳ぽくなってるけど。
それを俺は軽く止め、手加減してレピタに腹パンする。
「ケハッ!?」
レピタは肺から空気を吐き出しながらその場に膝を着く。
レピタは魔界貴族の令嬢。流石に殺すのは不味いので毎回こうして手加減した攻撃を加えて戦闘不能にする。
「……痛い」
「耐えやがったぞ!」
「おっと俺の財布がまずいな」
「よし!そのまま耐えろ!お前なら出来るぞレピタ!」
しかし、今回は耐えたようでまだ意識を保っている。だがエドウィン・ブラックに会いに行かなければならないので次で終わらせよう。
そう思った時、突然野次馬から人が飛び出してきた。
「何事ですか!」
今度現れたのは魔剣サクラブロッサムを携えた魔界騎士のリーナだった。リーナはヨミハラにおいて毎日のように治安維持のパトロールをしておりこうやって何かあるとすぐに駆け付けてくる。しかし、ここまで早いとなると偶然近くにいたのだろう。
「ってまたですか!?」
俺とレピタを見たリーナはそう叫ぶ。
まあ、俺が来る度に毎回こうなるからいつもの事だな。
「もう!面倒は起こさないでくださいっていつも言ってますよね!」
「…………俺は被害者なんだが」
「それでもです!」
俺は被害者なんだがなぁ。出禁とか言われてないだけまだマシだけど確かに来るだけで毎回戦闘起こす奴いたら迷惑だよなぁ。
「さあ、皆さん解散です解散!!」
「なんだよリーナの乱入かよ」
「ふう、俺の財布は守られた」
「ああ、せっかくの賭けが」
リーナの声で渋々野次馬たちは解散して行く。
「まったくもう……」
「とりあえず俺はブラックに呼ばれている。失礼するぞ」
「あ、そうですか。くれぐれも問題は起こさないでくださいよ」
「ま、待ちなさい……」
「レピタちゃんも帰りなさい。そんな状態で戦えないでしょ。あ、執事さんお願いしますね!」
「うぅ、ベイルゥ」
「今日は帰りましょうお嬢様」
レピタは未練がましく俺に手を伸ばしていたが近くにいた執事の魔族に連れられ颯爽とこの場から姿を消した。
しかし、ヨミハラにはまだまだ面倒な連中が多く存在するので多分リーナにはさらに迷惑をかけると思う。すまんなリーナ。
というか基本ここは面倒を起こすやつの巣窟なのだ。
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