剣丞の親友に戦闘狂がいたなら 作:まくろ
「あの、お頭?」
「ん?どうした?」
「2人きりってなんだか久しぶりですよね?」
「まぁ、お互いに出世したからだろ。お互いに領地持ちの武士になったんだからな。」
「そうですけど…。何か少しだけ寂しいような気が。」
「まぁな。最初は俺と剣丞とひよの3人だからな。」
井ノ口に行くためにゆっくりと歩きながら告げる。その言葉に苦笑してしまう。だからこそ婚姻を結んだのもあるしな。
「大きくなったなぁと感傷に浸ることもできないくらいには忙しいからなぁ。」
「殆どがお頭の手柄ですけどね。」
「ちゃんとひよ達も立てただろ。……俺もそうだけど、この隊の何が強みかと答えるなら一人一人がちゃんと武将として頑張っているからな。」
「お頭のおかげですね。」
「……何で俺につながるんだよ。」
「あの、実はですね、お頭に割り当てられた兵って殆ど農民出だったんですよ。」
「だろうな。……ってそういうことか。」
あそこにいた兵はひよと同じであり、余程の幸運がなければ出世することは難しいのだ。そしてあんまりいいたくないけど、その中でも特に弱い分類だろう。
「はい。私たちにとってはお頭のおかげでここまで出世できたわけなんですから。」
「まだ感謝されるには早いだろ。それに婚約するわけだしな。」
「あの、そのことでお頭。どうして私だったんですか?」
「ん?……色々あるけど、居心地がいいし、久遠や剣丞を除くとこれから人生で一番一緒にいるのはひよだろうしな。」
「あの、サラッと凄いこと言ってませんか?それに、私が南雲隊から離れるって思わなかったんですか?」
「思わなかったなぁ。というよりも絶対に捕まえておこうって思ってたしな。俺って手に入れた魚は二度と逃がすつもりなんかさらさらないからな。」
まぁ、このまま全員がこのまま南雲隊のままで居られるわけではないだろう。それも大半の兵は死ぬだろう。だからこそ今の時を大切にしたいのだ。命をかけてまでも。
「てか、離れるつもりだったのか?」
「そんなわけじゃないですけど……あの、お頭何か昨日から変わりましたか?」
「まぁ、頭の中で色々南雲隊を斎藤家みたいにならないようにするにはって考えてたけど、結局戦場で守るくらいしか俺にはできないって思っただけだ。」
「あの、お頭。お頭自身私たちの大将って分かってますか?」
「分かってるよ。ただまだ守られるくらいには兵が強くないのも事実だろ?」
「それはそうですけど…」
新隊であり、忍び衆がメイン戦力である南雲隊は正直今のところは弱いのだろう。
「それに今回は剣丞の戦だからな。」
「えっ?剣丞様のですか?」
「あぁ、正直剣丞もある程度手柄が欲しいんだよ。墨俣の件で俺と剣丞は周辺諸国には名が知れたけど、剣丞が俺以上に名が知れ渡らないと本来ならいけないんだよ。あいつは久遠の旦那なんだから。」
これから何をするのか分からないが、国を率いる将としての名声が今は足りていない。だからこそ、伯をつけることが先ず剣丞に必要なことなんだ。
「ひよやころはまだ経験が少ないし修羅場だって経験はないだろ?だからこそ今戦場に出るべきなんだよ。俺何度か修羅場をくぐり抜けてきたからな。」
「あぅ〜私そういうことは苦手なんですけど。」
少し渋っているひよに俺は少し考える。
「…まぁ、そういう意味ではひよもこれから大変なんだろうけど。」
「……?どういうことですか?」
ひよの言葉に俺は少し苦笑してしまう。ころと剣丞の働きについて知るいい機会だと思うし、少し見守ろうか。
山の麓であり、昔は栄えていたという井ノ口はどこか閑古鳥が鳴いているような人の賑わい方だった。
「……言っちゃ悪いが寂れてるな。」
「多分座の影響が強いんだと思います。久遠様が率先して座の制度を取り除いていることは知ってますよね。」
「あぁ、楽市楽座の制度だろ?」
「はい!誰でも商売が出来る楽市という制度を基本方針にしました。だから尾張の市は他国より何倍も賑わっているんです。」
分かりやすいんだよなぁ。それでいて的確だしな。
「先々代・利政様は誰にも商いが出来るようにと楽市と楽座の制度を取り入れていたのもあって、美濃はとても賑わってましたし、お金もたくさん持っていました。」
「まぁ、義興が元通りに戻したってわけか。……まぁ、それなら近くにある尾張の方に行けばいいだけだからなぁ。中継地として寄るくらいになるから人も減るだろうな。まぁ、適当に探ってみるか。」
そして適当に店に入る。そして変わったことを話していると、思った以上に竹中半兵衛の噂話が聞こえてくるものだった。
「思ったよりも簡単に裏取りもできましたね。」
「まぁな。……どこまで人望ないんだよ。義興。」
流石にここまで民にも人望ないとなぁ。救いようがないっていうか……可哀想になってくるんだが。
「そう考えるとお頭は慕われてますよね。」
「そうか?」
「お頭は厳しい時はあリますけど優しくて、義理堅くありながら、戦にも強くて、私みたいな身分でも分け隔てなく接してくれるどころか……」
話始めるひよに俺は苦笑してしまう。
そして怒涛に褒め殺してくるひよに少し安心してしまう。
「…まぁ、話は戻るけど、今後の美濃は国主の交代になるかだろ。まぁ、ここまで民の支持を得てたら、流や評判にのることで国主の変更になるだろうな。まぁ、本人がそれに乗るかかどうかだろうけど。」
「その気はないでしょうね。きっと…」
「……そうだな」
急に話しかけてきた……いや、実際は最初から付いてきた少女に俺は気付いていたこともあり、あまり驚きはなかったがひよは驚いていたらしい。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「こんにちは。」
「…………」
「………」
「…とりあえず、君は?」
「詩乃、と申します。」
……なんとなく理解してしまう。恐らくここで仕掛けてきたってことは竹中半兵衛側の使いだろう。
「…俺は旭、こっちはひよ。……んで、どういうことだ?」
「どうもこうも。竹中さんに野心はありません。多分、馬鹿な人たちに馬鹿にされたことが、我慢できなくなったんだと思います。」
「……その意趣返しに難攻不落の稲葉山城を落としたんですか?」
「ひよ。難攻不落の城って実はないんだよ。どんな城にも抜け穴は存在しているし、……この世で落ちない城は一切存在しないんだ。」
「おっしゃる通りです。敵は外だけであらず。内にもあり。……ということを仰っていました。」
「戦法や人心掌握術においては基本のことだな。」
「その基本をやっただけです、と竹中さんならばそうお答えになるでしょう」
その基本を完璧にこなすことの方が難しいんだけどなと苦笑してしまう。
「ちなみにお二人のことも、私は良く存じておりますよ。」
「……そっか。俺だけではなくてひよもか?」
「はい。光が強ければ遠くても分かる。音が大きければ遠くからも聞こえる。ただそれだけのこと。」
「それが出来るのが一握りしかいない時点で竹中半兵衛さんは斎藤家では抜けているんだろ。」
思った以上に口が弾む。なんというか話しやすいんだよなぁ。
「そうでしょうか?竹中さんならば、そんなことはありませんと仰ることでしょう。彼女は、ただ美濃を愛するゆえに行動を起こしたそうです。盛者必衰の理とはいえ、あまりに酷すぎることが悲しいと…」
「……なんとなくですがお頭と似てますね。竹中さんは。」
ひよがポツリと話した言葉に俺は頷く。
「……あぁ。しかも俺よりもしっかりしてる。自分に誇りを持ってるし、こだわりを持っている。でもそれは竹中半兵衛の言葉ではないだろ。」
剣丞が好きそうなタイプだ。でも、本当によかった。
剣丞よりも早く出会えて。
「なら詩乃さんだったよな。」
「……はい。なんでしょうか。」
「うちの隊にこないか?」
「……!?私をですか?」
初めて動揺したその姿に俺は笑顔になる。お互いにその意味を理解しているとは思うが。
「ど、どうしてそのようなことを…」
そして義理も堅く愛国心があるならば、死なせておくにはもったいない。それに何よりも面白いしな。
「それに、詩乃自身を気に入ったからかな。」
「私をですか?」
「そう。話してみて分かることもあるんだよ。……竹中半兵衛でもそうするだろうけど、詩乃さんでも恐らく同じことを考えているんだろ?。」
「……」
その言葉に詩乃さんは少しばかりたじろぐ。その言葉の意味は伝わっているのだろう。
「忠義にも熱く教養があるのも分かるし、何よりも一緒に話してみないと分からないことがある。」
「……それは。」
「竹中半兵衛も欲しいのは事実だけど、それよりも話していて、詩乃さんが欲しいってことには変わりない。どちらか選ぶってことになれば、俺は詩乃さんを選ぶよ。」
その言葉に詩乃は呆気に取られる。それはひよも同じらしく呆然としていた。
「何故そんなに、私を。」
「大切な人たちを守るためかな。」
「大切な人。それは剣丞殿ですか?それとも、木下殿ですか?」
まっすぐに問われる詩乃さんの表情は真剣だ。
「全員だよ。ひよや剣丞は当然、ころや南雲隊そのものも、久遠や、家老衆に3若。言い出したらきりがないさ。俺にとっては、1人1人が大切な宝物なんだよ。」
「……人が宝ですか」
「そう。一人一人が才を持ちそしてそれを輝かせるのが俺の仕事だからな。だからこそ君をこんなところで眠らせるなんて勿体ないって思ってしまう」
「……」
「だから詩乃さんが欲しい。天下に名を轟かせることが出来る宝をこんなところで死なせるわけにはいかない。俺と一緒にこの隊を、俺の大切な人たちを守 るために、俺達に力を貸して欲しい。俺達に君を守らせてほしい。」
「……私を守っていただけるのですか?」
「それが隊って奴だろ。」
「……」
そのことばに言葉を詰まらせる詩乃さんおよび竹中半兵衛は本当に美濃の為に行動していたのだと分かる。
「……今はまだ斎藤家の家臣ゆえ。でも全てを終わらせた時には。」
「…おう。迎えにくるさ。」
「はい。お待ちしております。」
軽く頭を撫で小さく息を吐く。
ひよはなんだかよく分かっていない様子だったがそれでも俺たちと詩乃さんは別れるのであった。