『もう一度言うけど、そこをどいて。怪我じゃすまないわよ?』
『どかねえって言ってるだろ。おまえが死に逃げる以上、俺はおまえを絶対に認めることができない。だから、絶対にここはとおさねえ』
「う~~~~ん」
テレビを見ていた。
少女と少年は向かい合い火花を散らす。
その姿を見ていたうんこマンと神様(幼女)はため息をついた。
「さすがうんこマン・レディーでち。あっさりと予想の斜め上をいく行動を起こしましゅね。……というか、この戦い意味があるんでちか?」
「ないだろ。誤解だし。というか、なんでアイツキオクを持ったままなんだ? おかしくねえ?」
「う~~~ん」
うんこマンに問われた神様(幼女)はしばし手をアゴに起き、
「あ!! そうだ!!」
「何か思いついたのか?」
「あのウニ頭の声、うんこマンに似てるでち!!」
「どうでもいいだろそんなこと!? なんとか俺たちで戦いを止めさせるっていうか誤解を解くことはできないのか?」
「それは無理でち」
元来自分達はただの傍観者。運命を変える助言なんてそれこそ未来を知らなければできはしない。しかし、
「うんこマン・レディーはやわらかうんこマンでもカチカチうんこマンでもなく、オンリーワンなうんこマンでち。この先の大まかなことは神しゃまでもわかりましぇん。余計な発言は混乱を招くだけでち」
生き返ることはできでも繰り返すことは彼女にはできまちぇん、と神様(幼女)は付け加えた。
御坂には厳密なスタート地点というものがない。そもそもなんで彼女が生き返ることができるようになったのかも分かってはいなかった。
「でも、最近こっちのセカイと向こうのセカイのつながりが強くなったように感じるでち。本来ならうんこマンの助言も、あれも、きっとうんこマン・レディーには伝えることができなかったはずでち」
「つながりが強くなった? どういうことなんだ?」
「よくは分からないでち。ただ、魔女のセカイ観がアチラのセカイにも届き始めているのは確かでち。……どうしてこうなったことやら」
「……よく分からないが、今は関係ないだろ? こっちのセカイ観が向こうに届くなら俺の目論見は成功するんじゃないか?」
「そうだといいんでちけど…………」
二人はテレビを眺める。
応援している少女は、不敵な笑みと共にコインを弾くのであった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
「そこをどかないって言うんなら、力ずくでも通らせてもらうんだから!!」
バリバリ、と私の全身を電気が覆う。
右手に構えたコインに光が灯る。『超電磁砲』。私の代名詞でもあり必殺技でもある。
パアン、と音と風を引き裂きコインが飛ぶ。目指す地点はアイツのわずかに左側。
アイツなら直撃しても普通にピンピンしてそうな気もするが、ここは一撃で気絶させるほうを選ぶ。
超電磁砲の凄さはその破壊力からくる風圧にある。直撃なんてしなくても構わない。音速の3倍で飛ぶコインは、周りにあるものを蹴散らしそれだけで十分な威力を生む。
前に戦った時は電撃も、砂鉄の剣も無効化された。つまり、アイツは電撃を無効化できる能力があるのかもしれない。
それを計算に入れた先制攻撃の超電磁砲。しかし、アイツはトン、とわずかに上に跳ぶとそのまま超電磁砲の風圧に吹き飛ばされるように横に弾けとんだ。
「――――なッ!?」
横に弾けとんだアイツは器用に身体を捻るとそのまま地面をゴロゴロ転がる。そしてその勢いを利用し三角とびのような形で地面を蹴ると私に飛び掛ってきた。
ただ吹き飛ばされたんじゃない。あえて踏ん張ることをせずに風圧に身を任せることで攻撃を受け流したっていうの!?
あんなの一瞬でもタイミングを間違えたら地面に突き刺さるっていうのにそれをアイツは瞬きすら許さぬ刹那の時間に成功させてきた。
――――やっぱりコイツ、強い!!
「それでもまだッ!!」
接近するアイツを突き放すような雷撃の檻。放射状に発射した雷はアイツの足を止めることに成功する。
アイツは右手を突き出したまま私を睨み付ける。その視線から逃れるように私は後ろへとバックステップをした。
「……へ、へ!! どうだ!! おまえの攻撃は俺には通用しないって分かっただろ!! もう止めろ!! 俺とおまえが戦う理由なんてないだろ!!」
「何言ってるのよ!? アンタが私についてくるっていうから戦うことになったんじゃないのよ!? それとも何? またあの時のみたいに手加減して私を倒す? 言っておくけど、あの時みたいに今度は引かないわよ!! 今の私には戦う理由がある!!」
雷撃を右手に溜め、それを放つ。
――――雷撃の槍。電撃使いもレベル4以上になるとこの攻撃を使うようになる。
汎用性の高い電撃使いが強いのは、この雷撃の槍にある。その攻撃は瞬きする間も与えず敵を貫く光速の一撃。
火炎使いも風力使いも電撃使いの持つそのスピードには適わない。そしてその頂点にいる私こそ、学園都市で最も速い攻撃を行うことができるレベル5なのだ。
しかし、そんな私の自慢の雷撃の槍も、アイツはいつものように右手をかざし防ぎきる。
「…………!!? どうして当たらないのよッ!?」
下がアスファルトである以上、簡単に砂鉄の力は利用できない。
街灯とかそこら辺の金属をアイツにぶつけてやってもいいんだけど、あんまり破壊し過ぎるのもどうかと思うし、何よりまたあの右手で防がれてしまうだろう。
………………右手?
そういえばうんこマンも特別な右手を持っていたものだが、なんでアイツに右手ってイメージがあるのかしら?
そういえば、さっきから攻撃は最初の超電磁砲を除いて全部右手で受けているような気がする。なんでだろう? 癖か何かなのかな?
試しに私はアイツから見て左から回り込むように雷撃の槍を放つ。
刹那に等しい時間の攻撃も、アイツは器用に身を捻るとやはり右手をかざしてその攻撃をやり過ごす。
「お、オイ!! もう無意味だって分かっただろ!? もう攻撃を止めろ。じゃないと……」
アイツは右手をゆっくりと握り締め、そしてまた開き、
「…………ここからは本気で行くぜ?」
私を斜から睨み付けた。
……あれ? 何か、前ほど恐怖感を感じない。何でだろ?
もしかして、私本格的に死に慣れつつあるのだろうか? 前はあれほど恐ろしかったアイツの意味不明さも、今ではそれほどではない。むしろ、ちゃんとアイツを冷静に観察できている。
そもそもアイツは私をどうにかしようとする気がないような気がする。だって攻撃してこないし。
前も今回もいっつも防御ばっか。舐められてるのかと思ったけど、もしもそうじゃないとしたら? 防御に必死だったとしたら?
とりあえず私はアイツの言葉を無視し、雷撃の槍を四方八方からアイツ目掛けてぶちかます。
アイツは「でぇぇぇぇっ!?」なんていいつつもすべての雷を右手で迎撃。フム。
見れば確かに人間離れした反射神経。でも、何と言うか……私が攻撃する前にすでに手を動かしているような気がする。
単純に反射神経というよりも、ただ先を読んでいるという風にも見える。未来予知系の能力者か? 聞いたことないけど。
「…………もしかして、対一方通行用のアレが役に立つかも」
試してみる価値はある。それに、私はアレを実戦で試したことがない。
ぶっつけ本番になるつもりだったが、これはいいテストになるかもしれない。
私は電撃を止め、アイツに問いかけた。
「ねえ、分かったでしょ? 私、コレでも本気なの。これ以上はどっちかが大怪我する。だから、通してくれない?」
「ハァ……ハァ……。ダメだ。おまえが死ぬことを軽く見る限り、俺はここを通さねえ。なあ、御坂。どうして一人で抱え込むんだよ? どうして一人で解決しようとするんだよ? 俺がダメなら白井でもいい。おまえのことを慕う人間なんて山ほどいるだろ? どうして他の奴を頼らないんだよ?」
……いつかうんこマンにも同じこと言われたっけ? 本当、声だけじゃなく性格まで似てるんだから。
一人でやる理由……か。そうだね。きっと、私一人でやる理由なんて本当はない。
幻想御手事件の時みたく、いろんな人と協力して戦えばいいのかもしれない。私がもし、黒子やコイツに「助けて」と一言いえば事情も説明せずに助けてくれるかもしれない。
でも、
「……ゴメンね。本当は助けてって言いたいのかもしれない。一人でやるって言っても結局たくさんの人が私を応援してくれてるんだもんね。アンタの言うとおり、私が一人でやらなきゃいけない理由なんてない」
ただ、これはわがままだ。私の身勝手なわがままだ。
きっと、私は見たくないんだと思う。コイツや黒子、他にも初春さんに佐天さん。いろんな人が私のチカラになってくれるかもしれない。
でも、見たくないんだ。私のせいで傷ついていく姿を。あの子達のように、私のせいでこれ以上誰かが傷つくのなんてもう見たくないんだ。
「もしも本当にどうしようもなくってさ、私だけじゃどうにもならなかったら恥も外聞も捨てて『助けて!!』なんて言ってたかも。でも、そうじゃないから。どれだけ私が傷ついたとしても、きっとハッピーエンド、掴み取れるから」
だから、声には出さないけどお礼は言っておくね。ありがとう。
私は黙ってアイツ目掛けて歩き出す。言葉はない。ただ、無防備に歩き出す。
「御坂……?」
アイツはそんな私を見て戸惑いを隠せない。
私はアイツの目の前でピタリと立ち止まる。お互い手を伸ばせば触れられる位置。
そして、私は微笑んだ。
「何だかんだ言って、アンタが私を見つけてくれて本当に嬉しかった。だから、先に謝っておくね。ゴメン。これが終わったら、好きなだけぶん殴っていいから」
そう言って、私は能力を解放した。
* * * * * * * * * * * * * * * * *
電撃が私の身体すべてを覆う。
昔あったアホ毛がピンと空に立ち、火花が私の身体のあちこちから沸き起こる。
「――――なッ!?」
手を一回、二回、握りしめ感触を確認する。
――――うん、初めてにしては上出来。やっぱり私ならできた。
「じゃあ、いくわよ。今度こそ本気の本気。勝負!!」
私はそう言うと、そのまま拳を突き出した。
ただのパンチである。女子中学生の、威力の軽い私のただのパンチ。
雷撃の槍よりも単純なスピードで言えば数段劣るただのパンチ。しかし、その拳はアイツの鳩尾に突き刺さっていた。
「――――ゲホッ!!」
反応遅れてアイツが嗚咽を漏らす。
私はそのまま手を緩めずに蹴り、パンチ、更に蹴りと攻撃を叩き込んでいく。
バキッ、ドガッ、バキッ
攻撃は面白いくらいに命中した。
それにただの拳だったらアイツには効果はあるようで、フラフラと身体を揺らしながら後退していく。
「チェイサーーッ!!」
回し蹴りを後頭部に叩き込む。
さすがの効いたのか、ガクリと膝を地面につける。
「…………さすがにこれは効いたみたいね。ねえ、悪いことは言わないからもう通して。アンタじゃ私には勝てない」
見下ろす。今、アイツに会って以来、初めて私はアイツを見下ろしている。
しかし、嬉しくない。こんな光景を昔は何度想像しただろうか? でも、嬉しくない。心が痛い。締め付けられるように、心が切なくなる。
そんなことを表に出せるわけもなく、私はあえて冷徹な目でアイツを見下す。もう、諦めて私には構わないで欲しいから。
しかしアイツは立ち上がって、
「ふざけんなよ。言っておくけど、全然効いちゃいないぜ!!」
アイツは右手を伸ばす。
そう、この右手。どんな能力があるか知らないが、この右手だけは注意しなければならないのだ。
しかし、私の今のモードなら右手から逃れつつ接近戦でコイツ相手でも完封できる。
私が今行っているのは、ただ神経回路を通常の物とは違い電気を使って繋いでいるだけなのだ。
時間にすればわずかなモノであろう。しかし、そのわずかなモノが絶対的な初動の差を生み出す。
アイツが右手を振り上げようとしたときにはもう私は目の前にはいない。
同時に行動を起こそうとしても、その初動の差により常に私が先手を取れる。
つまり、アイツが攻撃をしようとしても防御をしようとしても、私の行動は常に先を行き結果、相手に何もさせないことができるのだ。
加えて電気のチカラにより筋肉を強制的に動かす。そのチカラは、非力な私でも大の男を悶絶させるくらいのチカラ。
圧倒的なスピードに男に負けないチカラ。懐に入ってしまえば相手がどんな能力者であろうとも、その能力を使わせる前に完封できる。それが今の私の状態であった。
なぜ今まで私はこのチカラを使わなかったのか。答えは簡単。地味だからである。
超電磁砲のように派手でないし、一見能力強化系にも見えるし疲れる割にたいした成果も生まない。そもそも雷撃の槍だけで大体の敵はやっつけることできるし。
しかし、実力が拮抗する相手の時、これほどまでのチカラを生み出すとは予想もしていなかった。
私はこの状態を『超反応モード』と名づけることにした。うん、なんかカッコイイ。
結局、アイツがこの『超反応モード』についてこれることはなく、ただ一方的に殴り続ける展開が続いていくのであった。
* * * * * * * * * * * * * * * * * *
私の目の前には地に伏して倒れる一人の男がいた。
身体はボロボロで、殴られた口からは血が出ていた。
「……………………ふう。試運転は上々ね。これなら一方通行にも通じるはず……よね?」
この能力を応用し、木原数多のレポード通りの結果がでれば必ず一方通行の『反射』は打ち破れる。
そんなことを考えながら私は『超反応モード』を解除した。
「……痛っ! 無理に筋肉動かしたからかなりきてるわね。使いどころは考えなくちゃって話よね」
軽口を叩きながらも私はアイツの側に行き、腰を下ろした。
ボロボロの顔だった。
結局アイツは気絶するまで私の攻撃を受けつづけた。それも、私に攻撃することは一切なく。
ポケットからハンカチを取り出し血を拭う。そしてそのまま頭に手を当てた。
「……まったく、さっさと気絶すればこんなに酷いことにならなかったのに………………ゴメンね」
そう言って頭を撫でたとき、アイツの口が動いた。
「……御坂……行くな……」
意識はあるのだろうか? 目を閉じたままアイツは言う。
こんな時まで、やった張本人である私の名前を口にする。
私はアイツの顔を胸に運ぶとギュッと抱きしめた。
「ゴメンね。私……行ってくる。帰ってさ、全部終わったら全部話すから。だから……ありがとう」
振り向かないでいこう。
私の選択が正しくなかったとしても。
私が目指す、ハッピーエンドのために。