ハッピーエンドを目指して   作:なか115

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 見慣れた半月を見上げ、私は歩く。

 ゆっくりと、しかし確実に目指す場所には近づいていた。

 

 

 時刻は21時をとうに過ぎている。が、気にしない。アイツは律儀に待っている。

 これは何回も繰り返したことだから。アイツが何を考えて待っているのか、少しは分かる気がするから。

 

 

 ゆっくりと、待ち合わせの場所に到達した。

 一方通行の待ち合わせ。本来約束などしていないはずの私との待ち合わせ。

 白の少年は壁にもたれかかり頭を垂れていた。

 

 

「待たせちゃったかしら? ゴメンね」

 

 

 その言葉に反応し、白の少年は顔を上げる。

 ニヤッと口を器用に片側だけ吊り上げると、

 

 

「なンだ、きやがったのか。今日は中止なのかと思ったぜ」

 

 

 壁からスッと離れつつそう言った。

 別に嬉しそうではない。狂気を抱えてそうなその笑み。前はこの笑みがたまらなく恐ろしかったが、今はそうでもない。

 白の少年――一方通行はポケットに手を突っ込んだまま話す。

 

 

「……てめえらが約束の時間に遅れたのは初めてだな。なンかあったのか?」

 

 

 心配して聞いたのではない。あくまで実験の進行に問題がでないかどうか気になる、そんな雰囲気を持って話す一方通行。

 そんな彼に私は、一言発するのであった。

 

 

「ここじゃ何だし、場所変えない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 狭い裏路地から離れ、レールがいくつも並ぶ工場跡へと場所を変えた私たち。

 ここはあの子が、9982号が一番初めに殺された場所でもある。コイツとの決着は、やはりここでつけたかった。まあ、入り組んだ場所では一方通行の方が有利ってのもあるけど。

 

 

「……テメェ、オリジナルだな?」

 

 

 いつものごとくあっさりと割れる正体。

 やはり口調やら何やら結構違うからだろうか? まあ、いちいち説明しなくて済むから楽でいいけど。

 

 

「そうよ。私がここへ何をしに来たかは分かるわよね?」

 

 

 一瞬の静寂。そして、その後に漏れるのは一方通行の含み笑い。

 アイツは「ククク」と小さく笑い、

 

 

「オイオイ、まさかこの一方通行を倒しに来た、とか言わねえよなァ? この学園都市が誇る頂点、一方通行をよォ!?」

「そのまさかよ。この馬鹿げた計画は今日で終わりにさせてもらうわ。……私がアンタを倒すことによってね!!」

 

 

 絶対能力者計画。この計画は学園都市最強の一方通行だからこそ辿り着けると樹形図の設計者は結論付けた。

 昔の私は、例え私が一方通行を倒しても同じレベル5だから誤差の範囲で収まると思っていた。

 しかし、今は違う。同じレベル5でも1位と2位。2位と3位では桁が違うほど力に差があるようなのだ。

 

 

 まあ、順位付けは純粋に強さとかそんなのがランキングにモロに反映されるのではなく、能力研究の産み出す利益が基準になっているので戦闘力だけを考えるのはおかしいのだが。 

 それでも実際レベル5はレベル4以下とは一線を画するほど力に差があるのだ。

 つまり、樹形図の設計者も、科学者達も、誰一人として私が一方通行を倒せるなんて思ってはいないのだ。

 そこに、私の狙いはある。

 

 

「アンタが私に負けるようなら、この計画は頓挫する。違う? アンタを過大評価してたからだってことに繋がるからね」

 

 

 強引な解釈になるが、もし一方通行が私に負けるようなことがあれば計画は必ず一時的にだろうがストップする。

 とにかく今は計画を遅らせることが肝心である。それをしなければ9982号が生きていられる未来なんて作れっこない。

 とにかく今は、この計画の進行うんぬんより、目の前の一方通行を何とかするのが先である。

 

 

「……ククク。まあ頓挫するかどうかはさて置き、オマエが俺を倒す? キハハハハッ!! 寝言は寝て言えってンだ!! 勝てるわけねえだろが!? この『最強』の一方通行によォッ!?」

「そうでもないわよ。確かに『無敵』なら勝てないかもしれないけど、『最強』になら勝てるわ。ねえ、学園都市『最強』の一方通行?」

 

 

 私のその言葉にピクリと眉を動かす一方通行。

 憎憎しげにチッ、と口を鳴らすと、

 

 

「……チッ、舐められたもンだな俺も。ンで、早速やるか? 言っとくが、手加減してくれるなンて思うンじゃねェぞ。やめるなら今のうちだぜェ?」

「ここまで来て止めないっての。でもさ、何もなしに戦うのもつまんないし、賭けでもしない?」

「……賭けだァ?」

「うん、そう。私が負けたら命でも何でもいいわ。持っていきなさい。でも、私が勝てば……」

「勝てば……なンだ?」

「勝てば、言うことを何でも一つ聞いてもらうってのはどう? 拒否権は一切なし」

「……ククク。テメェは命を賭けて、俺には命令一つ? 舐められてンなァ、オイ? テメェももしかして、死んでも何にも感じないクチなのかァ? あのガラクタ共と同じでよォッ!?」

 

 

 その一言で、私の周りを電気が走る。

 ビリビリと電気が夜の闇に輝き、火花を散らす。

 

 

「あの子タチは、ガラクタなんかじゃない!! 私たちと同じ、人間よ!! それをアンタみたいな人間に殺されるいわれなんてない!!」

 

 

 その言葉に、一方通行はニヤリと口を歪ませて笑い、

 

 

「いいねいいねェッ!! ならやってみろよ、超電磁砲!!」

 

 

 私にとって数回目となる死闘は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 

 先手を取ったのは珍しく一方通行だった。

 牽制代わりなのか、足元の石を軽く蹴飛ばしてきた。

 しかし、その石は風を引き裂き、音速を軽く超える速度をたたき出す。

 

 

 運が悪ければ、その一撃で終わりだっただろう。何せ、当たれば恐らく即死である。

 だが、私には一応経験がある。恐らく妹達を除けば私は一番一方通行と戦っているのだから。

 私は反射的に電撃によるバリアを生み出す。その電磁バリアは飛び交う石を一瞬にして塵へと変えた。

 

 

「ハッハァッ!! やるじゃねえか、超電磁砲!! そうでねェとつまンねえよなァッ!!」

 

 

 言うと、お次はコレと言わんばかりに足元のレールと、手元にあったコンテナをそのまま投げつけてくる。

 さすがにコレほどの質量を一瞬で消し炭に変えるのは不可能。しかし、対象物が金属であるのならば、

 

 

「逆に私が支配できるッ!!」

 

 

 一方通行の能力の欠点その1。自身の手を離れるともうベクトルを操作できない点。

 それを利用し、磁力でレールとコンテナを操る。ちょっと重たかったけど、私ならコレくらいの芸当は可能。そして、私は離れたところにある物質も動かすことができる。

 私はそのままレールとコンテナを一方通行目掛けて投げ飛ばした。どれも、本人には当たらないようにコントロールして。

 

 

「…………アン?」

 

 

 レールとコンテナは一方通行の左右10メートル付近に突き刺さる。

 当然一方通行は無傷。しかし、私の狙いはコレで直接ダメージを与えることではない。砂埃を巻き上がるためのもの。

 私は視界が聞かなくても電磁波で対象の位置が分かる。対して一方通行は視界によるデータを元にするしかない。

 これにより私は一方通行に一気に接近した。狙いは恐らく一方通行も予想していないであろう、インファイト。

 

 

 拳を構え、肉薄する私に一方通行は眼を剥いた。しかし、動揺はしていない。

 届くはずなんてない、そんな瞳。『反射』による絶対的な防御が、彼を無防備にさせていた。

 私の拳は、そんな無防備な一方通行の顔面に突き刺さったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あ、当たった…………」

 

 

 私の拳は、確かに一方通行の顔面を捉えていた。手にアイツを殴り飛ばした感触が残る。

 一方通行は私の拳が当たった左の頬をさすりながら立ち上がると、

 

 

「へ、ヘヘへ。い、いいね! サイッコウだねおまえ!! やるじゃェかよ超電磁砲!! さすがはレベル5ってことかァ、エエッ!!」

 

 

 明らかに動揺していた。

 木原数多のレポートは真実だった。トンデモ理論かと思ったが、確かにこれで一方通行にダメージを与えることができる。

 私は拳を握り締め、再び一方通行の懐に潜り込んだ。

 

 

「調子にノンな、超電磁砲ッ!!」

 

 

 一方通行が手を振り上げようとする。

 その瞬間、再び私の拳が一方通行の顔面に突き刺さる。

 『超反応モード』。あのバカすら打ちのめした私の新たな必殺技。それを応用が一方通行を追い詰める。

 

 

 私は脳に指令を送っているだけなのだ。「反射の膜に触れたと感じた瞬間拳を逆方向に引け」と。

 触れたかどうかは拳が判断してくれる。あとはその通りに脳が作動してくれ、筋肉を電気の力を借りて強制的に動かすだけ。

 『超反応モード』の応用。『オートモード』と名づけることにした。

 

 

 ガッ、ガッ、ガッ

 

 

 音を立て、私の拳は確実に一方通行の顔面を捉える。

 『超反応モード』の使用により、先手は常に私。ずっと私のターンで攻撃は進む。

 問題は一方通行が『反射』の向きを変えるとき。『反射』でなく『進行方向』にベクトルを変化させられると自滅させられる恐れもある。

 ここからは読みあいなのだが、一方通行が私のしていることに気付くまでは殴りたい放題である。今こそ、恨みを晴らすタコ殴りタイム。

 

 

 ガッ、ゴッ、ゴッ

 

 

 タコ殴りタイムは続く。

 しかし、一方通行はまだ倒れない。確実に当たってはいるのだが、いかんせんダメージが低い。

 そりゃ当たる瞬間拳を引くのである。力が伝わらないのは当然である。しかも私は体重が軽すぎる。一発一発はそこまでの破壊力は望めない。

 

 

 常に先手を取ってられるとはいえ、殴り疲れや呼吸がそろそろ苦しくなる。

 私は『超反応モード』を解除し、一方通行から距離を取るのであった。

 

 

「どう? 一方通行? 分かったでしょ? 私でもアンタに勝てるってことが!! 分かったなら降参してくれないかしら?」

「……………………………………………」

 

 

 乱れた呼吸を隠しながら言う私に、一方通行は無言で返す。

 白の髪が顔を覆い隠し、その表情は伺えない。

 私は少しイラつきながら話す。

 

 

「……聞こえてないのかしらッ!? それとも、もう話すのもしんどいのかしら!?」

「……………………………………………」

 

 

 なおも一方通行は答えない。 

 私のイラつきがピークに達したその瞬間、一方通行は静かに口を開いた。

 

 

「…………ナァ、なンでおまえ、手加減なンてしてンだ?」

「なっ!?」

 

 

 一方通行の表情は、相変わらず髪で分からない。

 何も言えない私に一方通行は続けて言う。

 

 

「……格下のテメェが、この俺に手加減? オイオイ、オマエダレを助けに来てンだよ? 何勘違いしてンだ、テメェ?」

 

 

 誓って言う。私は手加減なんてしていない。いや、むしろ必死に戦っている。

 私は一方通行が何を言っているのかは分からなかった。

 

 

「オマエが俺の『反射』を利用してるのは分かった。なら、どうして攻撃の時、電撃を加えたり凶器を使ったりしねえ? これが手加減じゃなくて何だって言うンだァ? あァ?」

 

 

 ビクッと私の肩が震える。

 電撃は加えないのではない。加えられないのだ。

 そもそも私は今回初めて『オートモード』を使用している。慣れない操作に、電撃を付加するだけの余裕がないのだ。

 しかし、凶器は違う。例えばナイフを持ちながらでも『オートモード』は成立する。

 

 

 私の力でも、相手を傷つけることができる凶器はたくさん存在する。

 本当に、ナイフ一本でもあればもっと楽に一方通行を追い詰めることもできただろう。しかし、私はそれをしなかった。

 

 

「……ククク。カカカキキキキキクククククケケケッ!!!!」

 

 

 狂ったような一方通行の笑い声。

 髪の隙間から怒り染め上げられたような赤い瞳が映える。

 

 

「な、なんだって言うのよ!! 大体、そんな凶器なんて使わなくてもアンタにはもう勝てるんだから!!」

 

 

 再び『オートモード』を発動し、一方通行に肉薄する。

 一方通行は何の抵抗も見せない。ただ、ボンヤリと突っ立ているだけ。

 私はためらわずに拳を振るう。少しだけ腫れ上がった、一方通行の顔面目掛けて。

 ――――しかし、

 

 

「――――えっ!?」

 

 

 私の拳は地面に突き刺さっていた。

 一方通行は私を見下している。冷たい目。氷のような瞳。

 

 

「くっ!!」

 

 

 再び私は拳を振るう。

 しかし、私の拳は空へ、左へ、右へ逸れ、一方通行には当たらなかった。

 

 

「な、なんで!?」

「ククク。―――――勘違いすンなよ、超電磁砲。俺の能力は『反射』なンてケチなもンじゃねェ」

 

 

 一方通行は静かに笑う。 

 冷酷な笑みに、残忍さを滲ませて、

 

 

「俺の能力はベクトル操作だ。確かにテメェを自爆させることはできねえかもしれねェけどよ、攻撃を避けるくらいならどうってことはねえンだよ」

 

 

 後ずさる私を視線で殺す。

 真紅の瞳を輝かせて、彼は言った。

 

 

「――――後悔しろ、超電磁砲。テメェのその甘さが、オマエも妹達も殺す」

 

 

 明らかな選択ミスと作戦ミスを指摘され、

 

 

 それでも私はハッピーエンドを諦めない。

 

 

 

 

 

 

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