ハッピーエンドを目指して   作:なか115

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「――――カァッ!!」

 

 

 一方通行が吼えると同時に積んであった大量のコンテナが宙を舞う。

 まるで豪雨のように降り注ぐコンテナの数々を私は磁力を利用しながらなんとか避ける。

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 コンテナの陰に隠れていたのは大量の石。いや、土砂の塊。

 コレばかりは磁力では操れないので電撃で迎撃したいところだが、そうすると今度は雨のように降り注ぐコンテナをかわしきれない。

 迷ったあげく、私が選択したのは超電磁砲による一斉掃討。フルパワーで放った超電磁砲は空に穴を開ける。

 その穴目掛けて私は滑り込むように飛び込む。そして、なんとか土砂とコンテナの雨から逃れることに成功した。

 

 

「……そうだ。簡単に死ぬンじゃねえぞ。てめェは後悔して後悔して死ねッ!!」

 

 

 初めてとも言えるほどの怒りを見せる一方通行の攻撃は熾烈さを増していく。

 一体何が彼をここまで怒らせてしまったのだろうか? 手加減されたとプライドを傷つけられたから? 私には分からない。

 分かるのはこのままではマズイということ。遠距離での打ち合いは私に不利になるばかり。このままではいつかつかまってしまうだろう。

 

 

「キハハハハッ!! どォしたッ!? チンケな覚悟で挑んできた偽者にヒーローさンよォッ!!」

 

 

 ゴオッ!

 

 

 風が彼を中心に巻き上がる。

 それは正に台風とも言える暴風で、側にあったコンテナから土砂から車まで、すべてを宙に巻き上げる。

 そして巻き上げられたコンテナは計算されたように私の進路に落下する。まるで生き物のように蠢くコンテナが私を押しつぶそうとしていた。

 

 

「…………!! コレもベクトルを操ってる結果だって言うの!?」

 

 

 いくらなんでも規模が違いすぎる。

 私は『超反応モード』を使用し、動きの底上げを試みる。

 とにかく、かわすことに専念する。宙から降り注ぐコンテナを避けるため、全神経を集中させ動き回る。

 が、それが裏目に出た。

 

 

 上に専念するあまり、真正面から迫る車にまで着が回らなかった。

 小さなダンプカーくらいのサイズの車は、私が避けられないエリアまで接近してしまっていた。

 

 

「――――!!」

 

 

 私は咄嗟に磁力を展開。

 反作用の力を利用して、そのまま車から弾き飛ばされるように私は空に撥ね飛ばされてしまった。

 

 

「あぐっ!!」

 

 

 30メートルほど吹き飛ばされて、地面に転がり込む私。

 身体がバラバラになりそうなほど痛み、目が霞む。

 それでも歯を食いしばり、立ち上がり駆けて行く。

 拳を握り締め。白の少年目掛けて。

 

 

 ――――しかし

 

 

「……無駄だァ、超電磁砲。もうおまえに勝つチャンスはねェンだよ。……手加減なンてせずに、さっさと勝負を決めておくべきだったなァ」

 

 

 ゴォ、と爆音響かせ一方通行の足元から飛礫が巻き上がる。

 電撃で迎撃しようにもカウンター気味に放たれた飛礫に間に合う訳もなく失敗。

 再び吹き飛ばされ私は右肩を抑えながら地面にうずくまった。

 

 

「あぐ……あぁ……」

 

 

 目が霞む。

 一方通行の放った飛礫の一つが右肩を深く捕らえ、私の右肩からは鮮血が沸きあがる。

 両膝からも血が滲み、私は首を起こし一方通行を睨み付けることしかできない。

 そんな私を、一方通行は冷めた目つきで見ていた。

 

 

「……どォして俺を殺さなかった? できてたハズだ」

 

 

 呟くような一方通行の声。

 私は歯を食いしばり、震える手足でなんとか立ち上がると正面見据えて、

 

 

「……まるで殺して欲しかった、みたいな言い草ね。冗談。死んだくらいで償える罪じゃないでしょ? アンタの罪は!!」

 

 

 そのまま殴りかかった。

 『オートモード』を使用したにも関わらず、やはり私の拳は右に左に逸れ一方通行を捉えきれない。

 それでも私は諦めず、鮮血撒き散らしながらも右手を一方通行の顔面目掛けて叩き込む。

 

 

「……アア、そうだな。俺はもう、後戻りなンてできねえクソッタレだ。でもな、そのおまえの甘さが妹達を更に死に追いやるンだ。キハハ、かかきくきくかけっ!!」

 

 

 ゴバッ!!

 

 

 一方通行が奇声を上げた瞬間、巻き上がる風が私を再度吹き飛ばす。

 受身を取ることすら許されず、私は地面を転がる。

 息をすることすらできない。痛んだ肩を押さえることすら許されない。

 

 

 白の少年に狂気に似た笑顔を見つめながら、私はそのままコンテナに激突してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

「……チッ、まだ生きてやがったか」

 

 

 気がつけば一方通行は私を見下ろしていた。

 ピクリと私の手が動く。まだ、生きている。

 そんな私に、一方通行は言う。

 

 

「約束通り、俺の勝ちだなァ。命、もらえるンだったなァ。くかかかかッ!!」

 

 

 笑う。見下した笑み。だけど、なぜか失望したようにも見えるその笑み。

 手を握り締める。ほとんど力は入らなかった。

 電撃も無理。ほぼガス欠に近い。この状態では『超反応モード』なんてとても無理だろう。

 

 

 もう、私では一方通行には勝てない。

 『反射』の逆利用も破られ、最早抗う力なんて残ってはいない。

 それでも私は立ち上がる。痛む身体を押さえつけ、立ち上がる。

 まだ、諦めてなんていないから。

 

 

「……どうして?」

 

 

 言葉が漏れる。

 震える唇から、自然に言葉が漏れる。

 そんな私を、一方通行は「アン?」と首を傾げながら見つめている。

 私は構わず叫んだ。

 

 

「どうして、やりたくもないこんなふざけた計画をするのよ!! アンタ、やっぱり凄く強い。私じゃあいくら頑張っても勝てない!! それなのになんでッ!!」

「――クカカ。俺はテメェが言うようにただの最強だァ。だからよ、俺は『無敵』に――」

「それじゃあアンタの心の隙間は埋まらない!!」

 

 

 一方通行の言葉を遮り、私は叫ぶ。

 気がつけば私は涙を流していた。そんなことも気にもせず、私は吐き出すように言う。

 

 

「……埋まらないよ、一方通行。気付いてる? アンタ、妹達との実験の前に、必ずあの子達に話しかけているのを。気付いてる? アナタが一番欲しいものが『無敵』なんてふざけたものなんかじゃないことを?」

「…………キハハッ。ふざけた妄想もここまでくると愉快だぜ、超電磁砲よォ」

「あなたが欲しかったものは、ただ普通の、普通の生活。人と触れ合って、誰も傷つけなくてもいいセカイ。こんな、ふざけたセカイなんかじゃない!!」

 

 

 叫ぶ。もう、自分で何を言っているのか分からない。ただ、心の内をぶつけるように叫ぶ。

 ギリッ、と歯を噛み締めるような音が聞こえる。

 一方通行の紅い瞳が再び怒りに染まる。そして、私の首を掴みそのままコンテナに叩きつけた。

 

 

「ざけてンじゃねェぞ、超電磁砲!! 知りもしねェクセに、分かったような口きいてるンじゃねェ!!」

「……分かるもん…………」

「アァ?」

「分かる……わよ。だって、アンタは私だもん」

 

 

 いつからだろうか? ただ、日々が虚しいものに変わっていったのは?

 レベル5になった時? 超電磁砲と名乗るようになったとき? それは分からない。

 

 

 別に私は一方通行と違い、誰からも腫れ物扱いされていたわけではなかった。

 しかし、たまに感じることがあった。レベル5ゆえの孤独。

 ありのままの自分を受け入れて欲しかった。自分を、見て欲しかった。レベル5も、常盤台の超電磁砲でもない、ただの御坂美琴として。

 

 

 色んな人が私を慕ってくれた。私の大切な友達。でも、それは私のすべてを受け入れてくれる人ではない。

 ずっと、孤独なんだと思ってた。私のすべてを見てくれる人なんていない、そう思っていた。

 

 

「でもね、いたんだ。無能力者のくせに、私をハッキリと見てくれる人。私を、超電磁砲ではなく御坂美琴として見てくれる人が」

「……クカカ。で、それがどォしたってンだ? 惚気はそれで仕舞いか、オイ?」

「だから、私があなたを見る。レベル5の、『最強』の一方通行ではなく、臆病で、寂しがり屋な一方通行を」

「―――――はァ?」

 

 

 ため息を吐き、一方通行は私を投げ飛ばした。

 地面を転がり、立ち上がることもできない私を、一方通行は見下ろしていた。

 

 

 やがて、フン、と鼻を鳴らすとそのまま背を向け歩き出す。

 そして少し離れた場所にある少し小さめのダンプカーに手をかけ、

 

 

「ま、約束は約束だァ、超電磁砲。おまえの命、もらうぜ」

 

 

 そのままダンプカーを持ち上げた。

 一方通行は笑わない。ただ、私を冷たい目で見下しながら、

 

 

「……ケッ、なあオイ、超電磁砲。もし俺がおまえともう少し早く会えていたら…………」

「…………早く会えていたら、きっと、アンタはこんな計画には関わらなかった」

「……バカじゃねェかァ、おまえ?」

 

 

 そう言うと、ダンプカーを投げとばした。

 ダンプカーは緩い弧を描いて宙を舞うと、そのまま私のすぐ隣へと突き刺さった。

 

 

「……この状況でも目に希望を失わねえ、か。チ、考えてみりゃあテメエを殺しても得になることなンざなンもねェ。殺すだけ無駄か」

 

 

 そう言うと、一方通行は背を向け歩き始めた。

 私はそんな一方通行を目で追いかけることしかできない。

 そんな時、不意に横手から声が響いた。

 

 

「――――お姉様ッ!!」

 

 

 銃を両手に、制服の端にゲコ太のバッジを付けた妹達の一人。あれは、気絶させたはずの9982号の姿。

 9982号は両手の銃で一方通行目掛けて乱射する。しかし、当然一方通行にはそんな攻撃は届かない。

 

 

「――やめて!! 無駄よ!!」

 

 

 しかし、9982号は止めようとしない。

 そのまま私と一方通行を引き離すように誘導しようとしながら一方通行目掛けて銃を乱射する。

 

 

「……うざってェクソ虫だな。オイ、今日は実験なンてする気分じゃねェ。ジャマだどけ」

 

 

 そう言うと、そのまま、ガッと足元の石を蹴り飛ばした。

 

 

 きっと、一方通行にとって私との戦闘は自身の力をそれなりに使った結果だったのだろう。

 彼は言っていた。退屈な実験と。実際その通り、彼はほとんど自身の実力を出し切っていなかった。

 

 

 だから、力がある程度近い私との戦いは彼に手加減を忘れさせてしまっていた。

 

 

「―――――!?」

 

 

 ボン、と冗談のような音を残して。

 9982号の首から上が、一方通行の放った石によって吹き飛ばされていた。

 

 

「……………え?」

 

 

 声を上げた私に続くように、9982号はゆっくりと倒れそのまま動かなくなった。

 唖然とその光景を見る私と一方通行。やがて、声を先に上げたのは私だった。

 

 

「い、いやぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 溢れ出る血を見つめ、私は叫び声を上げた。

 そんな私と9982号を見つめ、一方通行はあの狂気じみた笑みを浮かべていた。

 

 

「かかききくくけけ。……なあオイ。これが俺だ。これが一方通行だ。俺に近づく人間は皆こうなるンだよ。クカカカカ、クカカカカカキキククケケッ!!!!」

 

 

 一方通行の狂気が深まる。

 狂気の笑みに深い悲しみが混ざり、絶望の色は彼の心を奥深くに追いやった。

 

 

「――――――――――――――――ッ!!」

 

 

 一方通行が声にならない叫び声を上げると、その背中から黒の翼が姿を現した。

 まるで死神のような黒い翼。絶望を表す黒い翼。漆黒の翼は風を巻き起こし、ここにあるすべてのものを無にへと帰した。

 

 

「…………ナニ、コレ?」

 

 

 呟いた瞬間、迫る黒い翼。

 私の意識は、翼が当たると同時に消失したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

『…………うんこマン・レディ』

 

 

 ―――――えっ?

気が付いたら

心配そうに見つめる神様(幼女)。白い部屋。

 あんなにカッコつけて見送られたにも関わらず、戻ってきてしまった。

 

 

『大丈夫でちか?』

 

 

 うん、大丈夫…。

正直、今回は失敗したけど…いい線行ってた。

思ったよりも攻撃は通用してたけど、コレと言って決め手がなかったのが敗因なのかな?

でも、殺すまではいかなくてもダメージを与える方法は思いついたから、今度は負けないと思う。

また初めからやり直すってのが面倒だけど…仕方ないよね。

 

 

『うんこマン・レディ…いいにくいんでちが…』

 

 

大丈夫だって!!今度はちゃんと勝つからさ!!

私は走り出す。今度こそ、ハッピーエンドを手に入れるために!

…もう、あの子をあんな風に殺させないために。

 

 

『あ、待つでち!! うんこマン・レディ!!』

 

 

 神様(幼女)の制止を振り切り、私は再び扉を潜りぬけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 夢を見ていた気がする。

 夢の内容は思い出せない。

 

 

「――――お姉様ッ!!」

 

 

 銃を両手に、制服の端にゲコ太のバッジを付けた妹達の一人。あれは、気絶させたはずの9982号の姿。

 9982号は両手の銃で一方通行目掛けて乱射する。しかし、当然一方通行にはそんな攻撃は届かない。

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 その瞬間、溢れ出す記憶きおくキオク…………………………………。

 

 

「ああああああああああああああああああああぁぁぁッ!!」

 

 

 背中が熱い。焼けるように熱い。

 地面を転がる私。そして痛みと同時に蘇るキオク。

 

 

 え? どうして? 目覚める時間と場所が違う!?

どうしてあの時間にキオクが戻らない……ってもしかして!!

 

 

 あの時、気がつけば一方通行が私を見下ろしていた。

 もしかして私は、あの一方通行の攻撃で気絶してしまっていたのか!?

 

 

 背中と腰が痛い。まるで破けてしまいそうに痛い。

 しかしそれどころではない。このままでは9982号が…………ってもしかして、私詰んだ?

 

 

 今の私は能力も、体力も残っていない。

 身体はボロボロ。動くことも満足にいかない。

 そして、最早やり直すこともできはしない。

 

 

 それでも私は、ハッピーエンドを諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

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