2
夢を見ていた気がする。
夢の内容は思い出せない。
黒子はジャッジメントの夏季公募に借り出されているため私は一人、立ち読みを敢行する。が、しかし、なんと今日は合併号だ!
一日中立ち読みで時間を潰そうと思っていた矢先に暇になる。
そんな時、いつかカバン探しの時の子供達とひょんなことから遊ぶことになり、時間を潰す。
缶蹴り。原始的な遊び。それは、科学の最先端たるこの学園都市でも廃れることのない魅力溢れる遊び。
ゲコ太。魅力的な生き物。それは、科学の最先端たるこの学園都市でこそ流行るのにふさわしい魅力的なフォルムを得た神秘的なマスコット。
子供たちがあまりに欲しがるものだから私はゲコ太のバッジを求めてガチャガチャをすること体感数分。
諭吉を数枚使うだけで手に入れたゲコ太に悦を抱きながらあっという間に時は過ぎ、下校時刻。
そこで私は出会う。運命の相手に。最も会いたくなかった相手に。
――――私と同じ顔をした、私のクローンに。
その存在に恐怖した。驚愕した。
凍結したと思っていた実験の最中、信じたくもなかった噂の中、確かに彼女は存在した。
「あんた何者?」
警戒心を露にした私が、必死になって繰り出した言葉。
そんな私に彼女が初めて発した言葉は「ミャー」。あのね、何それ?
あれほどまでに存在を否定したかったクローン。彼女は私のクローンであることをあっさりと認めた。
しかし、なぜ存在しているのか。また、目的は何なのか? それが分からない私は、彼女と行動を共にすることにした。
その結果、私がしたこと。
一緒に猫とじゃれて、アイス食べて、紅茶飲んで、ハンバーガー食べて。何か食べてばっかりね。
「……で、あんたいつになったら帰るのよ?」
疲れて肩を下ろす私に彼女は相変わらずの無表情で、
「言い忘れてましたが、ミサカはこれから実験に向かうので施設には戻りません。お姉さまが後を着けるのは自由ですが、ミサカの製造者には会えません」
シレッと言う彼女。何で言わなかったのか問いかけても「聞かれなかったので」ときた。
思わず力ずくて聞き出そうと思ったが、止めた。調べる方法なら他にあるから。
なんとなく、私は彼女にさっきガチャガチャで取ったゲコ太のバッジを着けてあげる。
「うん! 鏡で見るよりも分かりやすいし客観視できるわね。こうしてみると結構アリって気も……」
「いやいやねーだろ、とミサカはミサカの素体のお子様センスに愕然とします」
「なっ、何おう!! じょ、冗談よ。ちょっとためしにつけようと思っただけなんだから」
そう言って彼女に手を伸ばした瞬間――――
――――溢れ出る、記憶、きおく、キオク………………………………………………!!
――――『お姉様から頂いた初めてのプレゼントですから』
――――『さようなら、お姉さま』
――――『『超電磁砲』を128回殺害することでレベル6にシフトすることが判明した』
――――『理由? 理由ねェ、そりゃ…………』
――――『俺に挑もうと思うことすら許さねえ絶対的なチカラ『レベル6』が欲しーンだよ』
――――『キミは死んだ』
――――『生き返りたいでちか?』
「…………お姉さま? どうかしましたか?」
突然立ち止まってぼーっとしていた私を心配してか、彼女が声をかける。
って、何で今まで忘れてたんだろう!? バッと時計を見る。まだ日が暮れて間もない。まだ、あのクソふざけた実験まで時間がある。
「行くの止めなさい!!」
突然叫ぶ私を、キョトンと首をかしげて見つめる彼女。
しかし私は冷静になんかなれずに、そのまま彼女の腕を爪が食い込むほど強く握り、
「一方通行の実験に行くの、止めなさいっつってんのよ!!」
私のその言葉に、彼女は少しだけ驚いたような表情で目を見開いた。
「……ご存知でしたのですね、とミサカはお姉さまの情報網の広さに驚きを隠せずに答えます」
「そんな事はどうでもいいの!! 行くの止めなさい!! 死ぬわよ!?」
真に迫る私の言葉に、彼女はやはり人間味に欠ける無表情な顔で、
「ミサカは計画の為に作られた模造品です。作り物の身体に作り物の心。単価にして18万の実験動物です。その私が死んでも、特に問題などありませんとミサカは客観的な意見を述べます」
淡々とそう告げた。
顔には嘘はない。恐怖もない。ほんとうに自分がただのモルモットと思い込んでいる瞳。
そんな彼女の顔を見て、私は血液が沸騰しそうなほど頭にきて頭から火花がパチリと光る。
「ふざっけんじゃないわよ!! 模造品!? 模造品が猫助けるの!? ご飯食べるの!? あんたは人でしょっ!? 生きてるんでしょ!?」
握る手は強くなる。しかし、彼女は表情一つ変えずに、
「ミサカにはお姉さまの言っていることがよく分かりません。例えミサカが死んだとしてもあと1万のミサカが控えていて、そのミサカが死んだとしてもボタン一つで生み出せる命なのです。何をそんなに怒っているのですか、とミサカはお姉さまに疑問を打ち明けます」
当たり前のように、しかしどこか戸惑いを感じさせながら、彼女はそう言った。
……ダメだ。この子は自分に価値など抱いていない。自分が殺されるために生まれてくるのを常識として持ってしまっている。
言うなれば、人が当たり前のように服を着るように、彼女も当たり前のように殺されに行く。そんな『セカイ観』を持ってしまっているのだ。
私はギリッと血が滲むほど歯を噛み締めた。
「ねえ、どうしても行くつもりなの?」
「はい。今日の実験を行うのは9982号の役目です。スケジュールに支障をきたす訳にはいきません」
そう言うと、彼女はクルリと背を向けて歩き始めた。
1~2歩歩いたところでピタリと立ち止まり、そして振り返り一言。
「……お姉さま。今日はありがとうございました。お姉さまのプレゼント…………これが嬉しいという感情なのでしょう。礼を言います。と、ミサカは他のミサカに情報を流さずにこの感覚を独り占めにします」
そして初めて薄く微笑んだ。
…………あ~あ。バカじゃないの、アンタ。
そんな顔されたらさ…………。そんな顔なんてしたらさ…………。
バリバリバリバリバリッッ!!
「――――――ッ!!?」
青白い稲妻が彼女を貫く。
もちろん手加減はしてあるが、この子は恐らく私と同じく雷に耐性がある。なのでちょっと強めにビリビリ。
彼女はその場に倒れ、気を失った。
「よいしょっと。……軽く……はないわね。私と体重も一緒なのかしら?」
この子をこのままにするわけにはいかず、気を失った彼女を背負ってそのまま歩き出す。
……確か近くにホテルがあったはず。このままにしておいてはおけないので、そこにこの子を寝かせておくとしよう。
そして私は…………。
「…………借りるわね。後で返すから」
そう言って、彼女の頭からスコープを外した。
さて、相手は学園都市最強の一方通行。
前回は色々ありすぎて気がついたら負けていたが、しっかり準備をして挑めは決して勝てない相手ではない。
私だって、学園都市230万が誇る第3位なんだから。
色々と荷物の入った少し重たいバッグを肩にかけ、
私は前回の死地である戦場へと赴くのだった。