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夢を見ていた気がする。
夢の内容は思い出せない。
…………寝違えたのだろうか? なんか背中と腰が痛い。
なんとなく突っ張る感じがあるが、どうやら日常生活には支障はきたさないようだ。
私は特に気にせずに外出することにした。そして時は進む。
いつものように戻るキオク。いつもと違い軽く眩暈を覚えたが、それでも私はまた生き返ることができたようだ。
とりあえず心配そうに私を見つめる妹をビリビリ攻撃で気絶させる。そして、いつものようにホテルに預けてきた。
さて、今日は木原数多とかいう奴の研究所に行ってみるとしようか。名前さえ分かっていれば私の能力で場所を探すことなんてたやすい。ただでさえ、彼は有名人のようだから。
調べること数分。場所を発見した私はそのまま現場に急行しようとしたが…………その前に電話を手に取った。
『…………ハイもしもし。お姉さま? どうしましたのこんな時間に?』
聞こえてくるのは元気な黒子の声。当たり前だが、前回の時のような暗い感情はない。
「あ…………ううん。なんとなく電話しただけ。今日は遅くなるの?」
『ええ、ジャッジメントの仕事がもう少しかかりそうですの。でももう少ししたら帰れると思いますわ』
「…………そっか。あ、私ちょっと出かけてるけど気にしないでね。すぐに帰るからさ」
『んま!! ……お姉さま、さすがに夜の外出は控えて下さいまし。この間だって寮監様を説得するのにどれほど時間がかかったことか……』
「ゴメン。今度埋め合わせするからさ。じゃあ、そろそろ切るね。仕事頑張ってね」
『ちょっと、お姉さま!! お姉さ――』
黒子が小言を言い始める前に、私は通話を終了した。
胸の中の罪悪感が少し軽くなる。そんな現金な自分が嫌になるが、私はどこかホッとしていた。
「……良かった。黒子があのこと覚えてなくて……」
もしもあのままセカイが続いていれば、黒子は私の死を背負って生き続けることになる。
それだけはダメだ。私の死なんて、あの子が背負うものなんかじゃない。
「地獄落ちかな? 私? …………って、天国があんなだからなぁ……」
思わず苦笑する。
地獄に行ってもいい。でも、それは妹達を救ってからだ。
私はケータイを閉じると、駆け足で木原数多の研究所へと走っていったのだった。
* * * * * * * * * * * *
無事に研究所に忍び込んだ私は施設内のセキュリティを掻い潜りながら資料室へと迫る。
さすがに有名な科学者の施設だけあって警備はかなりのものだったが、私にとってはどうってことない。機械を騙しながらあっさりと目的の場所へとたどり着いた。
「…………さて、一方通行の能力は……と」
端末を打ちながら確認していく。
かなりのデータの数だったので大まかなものは省くが、どうやら彼はこの世のありとあらゆるベクトルを操作できるらしい。
可能な条件は自身がその対象物に触れるということ。一見かなり能力が制限されているようにも思えるが、つまり触れさえすれば地球の自転までも操れるというトンデモ能力のようだ。
いつか私に風の攻撃を仕掛けてきたのはつまり、「触れている風」を操って攻撃してきたのだろう。
理屈を言えば恐ろしい。彼の能力を知れば知るほど勝ち目が無くなっていくような気がする。どうりで私の攻撃が効かないハズね。
…………ん? 何やらおかしな資料がある。これは……『対一方通行について』?
なんで一方通行と戦うマニュアルなんてものが置いてあるのだろうか?
まあ、私にとっては有難いけど……なぜ開発をしている研究者が対一方通行マニュアルなんてつくるのかしら?
とりあえず、私はその資料を読んでみることにした。
………………。
……………………………………………。
「フンフン。一方通行は常時身体を薄い膜で覆っていて、その膜に触れたもののベクトルを自動、もしくは自律的にコントロールしている。デフォルトは『反射』。それを逆手にとり、膜に触れた瞬間ベクトルを逆に設定してやれば、自滅する…………か」
つまり、一方通行を殴る瞬間拳を逆に引けば、引いた拳は『反射』されてアイツにあたるってことかな?
「反射における演算時間はその日の体調により微妙に変化があるものの、大体はコンマ1秒前後であるので、そのタイムラグを利用すれば簡単に一方通行をしとめることができる……と」
フンフン。なるほどなるほど。つまり一方通行の『反射』の膜に触れてコンマ1秒以内に拳を正確に反対方向のベクトルに引けば、攻撃は通るってことか…………フフフ。
「ってそんなことできるかッ!! 何考えてるのよこのバカ科学者は!? そもそもその膜に当たったって判断してから拳引いたりしたら余裕でコンマ1秒なんて過ぎるじゃないのよ!! そんなんどんな反射神経持ってる奴だってできやしない…………って待てよ?」
……アレ? これ、もしかして……私ならできるんじゃない?
神経回路を電気で回せば時間は短縮できるし、そもそも筋肉も電気を使えば…………試してみる価値はあるかもしれない。
でも、とりあえずは保留。だって、これやるとしたら接近戦。つまり、即死のあの手の目の前で戦うことになるのだ。
まったく触れられずに勝つなんていうのはさすがに難しすぎるので、私は他の情報を探ることにしたのだった。
………………
………………………………
「…………あんま情報ないなぁ……。こんなもんか。ま、しょうがないわね。対策方法が書かれてただけでも奇跡みたいなもんだし、よしとするか」
結局アレ以上に優れた情報はなかった。
……ちょっと長居しすぎたようだ。人に見つかったらやっかいなので、私はそのまま脱出することにした。
次は妹達と絶対能力者計画の全貌を調べておかないといけない。
特に妹達のことは調べるのは必須だろう。一方通行を突破したとしても必ずどこかから横槍が入る。
……私一人であの子達を護りきれるだろうか?
パパに相談…………ううん。ダメ。絶対いい顔しない。何より、巻き込めない。もちろんママも。
黒子や初春さんたちももちろんダメ。アンチスキルはもってのほか。……まいった。手詰まりである。
…………一瞬浮かんだのはあのバカの顔。なんでアイツの顔がこんなところで浮かぶのかは分からないが、さすがに1万の妹達を護るなんてやってくれるはずがない。
というか、どんな顔をされるだろう。同じ顔が1万あるのだ。それを生み出すことに協力した私。アイツはどんな顔で私を見るんだろうか?
「……って、何考えてんのよ、私は!! あんな奴関係ないじゃない!! そうじゃないにしても、アイツだけはこの件には絶対に巻き込めない」
この絶対能力者計画は学園都市そのものが支援している。つまり、学園都市そのものが敵になるのだ。
学園都市の闇。聞いてはいたが、ここまで深いものだとは思わなかった。あのクリスティーナのような人間が何人もいるのだ。
そんな奴らにアイツが目をつけられたらどうなる? 決まってる。殺されるか、モルモットにされるかだ。
「……ダメ。誰かを頼るなんてありえない。私が、私が何とかしないと」
誰かいないのだろうか? あの子達全員をまとめて護れるほどの、『最強』の人間は?
* * * * * * * * * * * * * *
「……………タイムアップね」
時計をチラリと見る。
時刻はゆうに24時を越え、次の日に差しかかろうとしていた。
本当なら無理をしてでも調べに行きたいところなのだが、疲れてミスしてうっかり気絶なんてしたらその場で終わり。そろそろ、死なないといけない。
「…………フゥ。これだけがやっぱり鬱だわ。こんな時、なぜか無駄に一方通行に会いたくなるわ」
さて、今回はどうやって死ねばいいのだろう?
もうさすがに前回のように死ぬのはイヤだ。かといって、意識を失って気がついたら死ぬ系もダメだ。失敗したらヤバイ。確実に、しかしなるべく痛くない方法でできたら死にたい。
「…………なんで私こんなこと考えてんだろ。なんかヤバイ人みたいね…………って誰か来る? 誰? こんな時間に?」
誰かが私の電磁波の網に引っかかり、その反応を私は捉えた。
今私がいる場所は深夜の工場街。人が通りかかるような場所ではない。
人数は一人。反応はやや速い速度……これは走っているのだろうか? コチラに向かってくる。
私は物陰に隠れ、とっさにやり過ごした。
「……ハッ……ハッ……!! クソッ、いない!! どこにいるんだよ!?」
…………ん? この声? つい最近聞いたことあるようなこの声は……まさか!!
「……アイツ、どこ行っちまったんだ? クソッ!!」
特徴的なウニ頭を揺らして、あのバカはそのまま夜の闇に消えていった。
……なんでこんなところにあのバカがいるんだろ? 前回はいなかったような……。まあ、あの時とは時間も違うししょうがないか。
何やら誰かを探していたような気がしたが、前回も誰か探していたんだろうか? まあいいや。私には関係ないだろうし。今回は見逃そう。
そんな事を思いながら私はアイツが走っていったほうとは逆方向に走り出した。
……ここは工場街。死ぬなら、あの方法を選ぼう。
憂鬱な足取りで歩を進めた私の目の前には、大型のダンプカーがあった。
とりあえずペタペタ触って確認する。
「……うん、問題ないわね。…………フゥ、嫌だなァ……………」
結局死ぬなんていうものは何度やったってなれることがないものだと気付いた。
しかし、やらねばならないこと。これは、私が決意したことなのだ。
私は能力を解放する。私の発する磁力に反応し、一トンはあろうダンプカーは宙高く浮かびあがる。
ダンプカーはフワフワと私の頭の上にピタリと止まり。
「……………………………………行くわよ、美琴」
そこで私は磁力を放棄。あとは重力に従ってダンプカーは頭から私目掛けて落ちてくる。
十分な高さ、十分な加速距離。なにもしなければまず即死。
私は目を閉じた。ギュッと唇を噛み締め、手を握る。
「―――――――――――――――――――待てッ!!」
誰かの声が聞こえたような気がしたが、
それを認識する前に、私の意識は闇へと落ちていったのだった。