ハッピーエンドを目指して   作:なか115

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 画面を見ていた。

 目の前の画面では、女の子が今正に死を迎えようとしていた。

 私とは違う、たった一度限りの死。しかし、体感9981回目の死。

 

 

 ミサカネットワークに繋がれている彼女たちは何回の死を見てきたのだろうか?

 私よりもずっと多い回数の死を味わい、そしてまた死に向けて歩みを進める。

 

 

 画面が消える。

 9981番目の妹達は今、白の少年の手によって短すぎる一生を終えることになった。

 

 

 次のデータはまだない。

 今日が終われば9982番目のデータが更新されることであろう。しかし、それは私がさせはしない。

 私は機械のコンソールに手を当て、ありったけの電撃をぶち込んだ。

 

 

 ウー、ウー、ウー、ウー

 

 

 響く警報音。

 このデータを壊したことに特に意味はない。どうせまた死んで生き返ったら元通りになる機械。

 ただ、気晴らしのために壊しただけだった。

 

 

「な、何っ!? 何が起きたの!?」

 

 

 奥の扉から女の研究者が現れた。

 長い髪に眼鏡の研究者。別に、こんな計画に加担するような気が狂った人間には見えなかった。

 

 

「……な!? 機械が!? 誰がこんなことを!? ちょっと、あなた何号かしら? 誰がこれをやったか見てた!?」

 

 

 ……私を妹達と勘違いしているみたい。

 彼女に遅れて数人の研究者もバタバタとこの部屋の中に入ってくる。

 そこで私は部屋の扉をすべてシャットダウンし、研究者数人を閉じ込めた。

 

 

「な!? 開かない!? おい、急に閉まったぞ!! なんだこれは!?」

 

 

 男の研究者が叫ぶ。

 彼の叫び声に続けてパニックに陥る研究者達。

 そんな彼らに、私は問いかけるのだった。

 

 

「ねえ、何でこんな狂った計画を思いついたの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッピーエンドを目指して『08』~テンプテーション~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒ、ヒィッ!!」

 

 

 私の電撃により研究者達は一人、また一人と倒れ、今や立っているのは2人だけ。

 初めに現れた髪の長い女とショートカットの女の研究者だけ。

 二人は私に怯えるように腰を抜かし、そのまま地面を這いつくばりながら後ずさった。

 

 

「ヒ、ヒッ!! あ、早く警備……いえ、妹達の出動要請を!! 早く!!」

「で、でもセンパイ。まだあの子達は調整不足で、今いる子は使えば計画に支障が……」

「いいのよ!! 早くなさい!! 壊されたってまた作ればいいでしょ!? 少しくらいの計画の遅れならまだ誤差の範囲で――」

 

 

 長い髪の女が最後まで台詞を言い切ることはなかった。

 私の雷撃の槍が彼女を貫く。彼女はビクン、と少し痙攣し、そのまま気を失った。

 

 

「セ、センパ…………ヒィッ!! だ、誰か!! 妹達!! 聞こえる!? 誰でもいい!! 早く資料室に――」

「来れないわよ。残念だけど、一部のデットスペースを除いてこの建物は私が支配しているわ。私が誰か分かれば、このくらいのことができるなんてすぐ分かるわよね?」

 

 

 ショートカットの研究者は受話器を握り締めながら恐怖を顔に浮かべ、イヤイヤと首を振る。

 震えるその口からは小さな声が漏れた。

 

 

「こ、殺さないで……。私はまだ下っ端で、この計画には――キャッ!!」

 

 

 雷撃の槍が受話器を吹き飛ばし、研究者は右手を押さえながら地面に転がった。

 

 

「……関係ないなんて言わせないわよ。あんな光景を平気で見れて、黙って見過ごして、ふざけんな!! あの子達が何をしたって言うのよ!!」

「ヒ、ヒィッ!! ごめんなさいごめんなさい!! 許して!!」

 

 

 研究者は土下座までして私に許しを請う。

 チッ、と舌を打つ。殺せばいい。でも、私はそれができない。

 こんな事をする人間達も、私は誰一人として殺めるころができない。皆電撃で気絶しているだけ。

 今だってもう、この女の研究者を殺すことは私にはできない。腹が煮えくり返るほど怒りを覚えても、私の理性は壊れることはなかった。

 

 

 涙を目に溜めて、グシャグシャになった顔で私を見上げる研究者。

 その顔は、本当に許しを請う人間の顔で、極悪非道で死んでもいい、死ななければならないほどの人間にはとても見えなかった。

 

 

『壊されたってまた作ればいいでしょ!?』

 

 

 先ほどの髪の長い研究者の言った言葉だ。

 結局、彼女にしても目の前の女にしても、妹達を人として見ていないのだ。言うなれば、人の形をしたモルモット。ただの研究材料。

 だから彼女たちは罪悪感を抱かずに人として理性を保ったままあの惨状を平気で眺めていられる。

 妹達を人として見ていて、1万回に近い回数殺される姿を見て、正気を保っていられる人間なんて、その人間は最早神経がおかしくなっているとしか言いようがない。

 

 

『そりゃ俺はもう、1万近い妹達を殺した外道だからなァ!! だからよ…………もう何人殺しても変わらねえンだよッ!!』

 

 

 ねえ、一方通行。どうしてあなたはあの子達を人としてみているの?

 あの言葉は不意に漏れた本音だったのだろうか? 彼は妹達を人として見て、1万近い数の妹達を殺すことによってゆっくりと壊れていったのだろうか?

 

 

「……どんなに後悔しても消えはしないわ。あなたの罪も、そして私の罪も」

 

 

 だから、償わせてあげるわ。死ぬよりも辛い、でも暖かいこの機械と科学のセカイで。

 私は未だにガクガクと震える研究者を電撃で気絶させると、そのまま研究所を後にし、そのまま死を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

『決着をつけるつもりなのかい?』

 

 

 いつも通りの白のセカイ。画面に映った犬神様は静かにそう言った。

 

 

「……うん。もう情報も集まったし、一方通行を倒す当てもできたから。後はやるだけ」

『そうか。うんこマン・レディ。キミの健闘を祈るよ』

「……何も聞かないの?」

『ああ。我々は言うなれば傍観者。本来なら物語に関わることもできない存在だ。だから、何もできないがせめて応援はさせてもらうよ。頑張れ、うんこマン・レディ。キミの願う、ハッピーエンドを目指して』

 

 

 犬神様は『ワンッ!!』と吠えると尻尾をフリフリして画面から姿を消した。

 そして変わるチャンネル。犬神様とはまた別の犬が映る。

 

 

『頑張れ!!』

 

 

 そしてチャンネルは変わる。

 

 

『頑張れ!!』

『頑張れ!!』

『頑張れ!!』

『頑張れ!!』

『頑張れ!?』

『乳張れ!!』

 

 

 ……うん。最後の二人以外、みんなありがと。最後の奴は今度ぶっ飛ばす!!

 おまえだよ!! 手をムニムニ動かしてる男子高生!! あんた胸の話バッカじゃない!!

 私が怒鳴りつけると同時にチャンネルが変わる。現れたのは、幼女の神様だった。

 

 

『……とうとう行くでちか、うんこマン・レディ?』

 

 

 うん。アンタには色々心配かけたわね。

 だから見てて。絶対に勝つからさ。みんな幸せなんて夢に決まってる。でも、その夢をきっと叶えてみせるから。

 

 

『……やっぱりうんこマンはうんこマンでち。たとえレディーでもうんこマンでち!!』

 

 

 ……ゴメン。意味わかんない。

 

 

『頑張るでち、うんこマン・レディー。神しゃまも応援してるでち。あ、あとうんこマンから伝言でち。えっと、『頑張れ』だって!!』

 

 

 まったくみんなして頑張れ頑張れ…………。

 

 

「ありがと!! 頑張る!! だから、見てて!! 私やってみせるから!!」

 

 

 私は走り出す。もう後ろは振り返らない。

 まだ迷いはある。謎もある。でも、それでも振り返らない。

 自分が何をしたいか。どうしたいのか、はっきりと分かったから。

 

 

 扉が迫る。何回も潜り抜けたこの扉。

 今度こそ、今度こそ私は一方通行を止めてみせる。そして、妹達にもっとたくさんのセカイを見せてやる。

 私は光溢れる扉を潜り抜けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * *

 

 

 

 

 

 夢を見ていた気がする。

 夢の内容は思い出せない。

 

 

 背中と腰が痛む。寝違えたのだろうか? 酷く痛むが、私はそのまま出かけることにした。

 そして子供たちと遊び、夕暮れの街。私はあの子と出会う。

 

 

 私のクローン。私の妹。

 アイスを食べたり、遊んだり。そんな時間が過ぎていった。

 

 

 時が流れ、日は沈む。

 私が妹に付けたバッジに手を伸ばすと同時に戻るキオク。

 

 

「――――――ッ!!」

 

 

 背中と腰が痛い。しかし、それよりも頭が痛い。

 …………キオクが戻るのはどうにも慣れないもんだと考えるのであった。

 

 

「――――お姉様? どうかしましたか、とミサカは首を傾げます」

「ううん。何でもない。先に言っとく。ゴメンね。後で文句聞くから許してね」

「……? ミサカはお姉様が何を言っているのかわからないと――」

 

 

 その言葉を言い終える前に、いつものように電撃ビリビリ攻撃が9982号を気絶させる。

 いやいや、最早手馴れたものとなってしまったこの作業。さて、この子を例のホテルに運ぶとしますか。

 

 

「――――何やってるんだよ、おまえ?」

 

 

 聞きなれた声に私はビクッと背中を伸ばしゆっくりと振り返る。

 私の目の先には、息を切らせたあのバカの姿。彼は呼吸を乱しながらも近づいてきて、

 

 

「何してるんだって聞いてるんだよ、御坂!!」

 

 

 そう叫んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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