【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第一二話:護衛任務》

 桐島 駆は、キャラバン隊の荷馬車(にばしゃ)の中で《魔動機》――スマホに似ているが、少し違うエルフの道具――に納められた《アルカナ大百科》をタップ操作で検索して、このファンタジー世界について調べていた。

 彼は、父の信彦、母の美香子と共にある日、異世界へと迷い込んでしまった。

 だが現実世界の記憶を持っているのは駆だけで、父や母は現実世界の記憶を持たず、ずっとこの異世界で生きて来たと言う。両親いわく、駆もずっとこの世界で生きて来たというのだ。

 

「(ファンタジー世界でも、親子だったのは不幸中の幸いかな?)」

 

 大学四年生の最期の夏休み初日にこの世界に迷い込んでから、季節も(めぐ)り、秋となった。

 父の信彦が夏休みにプレゼントしてくれたゲーム《ドラゴンアドベンチャー》。ゲームを起動しようとして失敗し、そして次の日には、このファンタジックな異世界に転移してしまった。

 《ドラゴンアドベンチャー》と《この世界》には、何らかの(つな)がりがある。駆はそう(にら)んでいる。

 しかし彼は、ドラゴンアドベンチャーについて、ほとんど何も知らなかった。知っているのは《プレイヤーは勇者となって大魔王を倒し、世界を平和にするゲーム》ということぐらい。

 

『現実世界に戻るためには、大魔王を討伐(とうばつ)する必要があるのかもしれない』

 

 駆はそう考えて、父が団長を務め、母も団員として所属しているウォーリアーズという傭兵団に身を置き、大魔王討伐に間接的には繋がるであろう、キャラバン隊護衛クエストの最中にある。

 

「坊ちゃん、もうすぐ森を抜けますよ」

 

 荷馬車の運転手であるサンチャゴが声をかけてきた。サンチャゴはウォーリアーズの物資調達や兵站を担う責任者だった。彼は常に微笑んでいるような容姿をした柔和(にゅうわ)な人で、この世界の駆を幼い時から可愛がってくれているとのことであった。

 

「ありがとう、サンチャゴさん」

 

 駆は魔動機をローブにしまい、荷馬車から外を見た。

 キャラバン隊は森林地帯を(つらぬ)く細い街道を進んでいた。十数台の荷馬車と数十人の護衛で構成されており、その護衛の一部としてウォーリアーズは雇われている。

 

「ママとレオンは?」

 

 駆は荷馬車から降りて、辺りを見回す。

 魔法使いは強力な魔法攻撃を使える反面、打撃攻撃に弱いことから、真っ先に敵に狙われる。奇襲(きしゅう)を受ければひとたまりもない。

 故に駆は荷馬車で大人しくしていたわけだが、少し息抜きしたくなった。

 

「美香子さんは、キャラバン隊の責任者達と前方にいますよ。レオン君はミケ君と一緒に隊後方で警備中ですね」

 

 サンチャゴが答えた。

 

「そうですか……」

 

 駆は少し気後れする。

 

「坊ちゃん、今日中には森を抜けて平原に出ます。久々に広い場所で野営が出来ます。みんなでバーベキューをしましょう」

 

 サンチャゴが話題を代えてくれた。

 

「それは楽しみだね」

 

 駆は笑顔を作って返した。

 辺りは美しい緑に(おお)われており、鳥や虫の声が聞こえる。

 この異世界は自然豊かであり、駆もかつてその美しさに感動した。初めて家族で野営した時のことだ。

 しかし、その美しさの裏には危険も(ひそ)んでいた。グリーンヒルズ村での一連の出来事だ。

 この世界には魔物などの脅威(きょうい)が存在しており、旅人は常に警戒(けいかい)しなければならない。

 先程まで馬車の中で魔動機と(にら)めっこをしていた駆。隠れる場所が多く、奇襲には打って付けの森林地帯をもうまもなく抜けるとのことで、危険は減ったと判断し、馬車の外に出たのであった。

 

「(いつまでこんな生活が続くんだろう……)」

 

 サンチャゴと会話しながらも、気は重かった。この世界に迷い込んでから、常に不安に(さいな)まれていた。

 元の現実世界に戻る方法はあるのだろうか?

 大魔王を倒せば元の世界に戻れると何となく思っているが、この直観は本当に正しいのだろうか?

 仮に戻る方法がなかったのだとしたら、この異世界でどのように生きていくべきなのだろうか?

 

「気持ち良いね、サンチャゴさん」

 

 キャラバン隊は森林を抜けて、無事平原に入った。広々とした草原に、風が心地よく吹いている。

 目的地の街までは後一日ほどだ。

 

「うむ、了解した……坊ちゃん、今日はあそこで野営するみたいです」

 

 伝令と言葉を交わした後、サンチャゴが駆に指さした先には、小さな丘があった。

 キャラバン隊は丘の上で野営することになった。丘の上からは周囲の景色が一望でき、守りに適している。

 キャラバン隊の人々は荷馬車を停め、馬を繋ぎ、テントを建て、焚火(たきび)を起こし、忙しく動き回った。駆も手伝う。

 

「大魔王ってここより(はる)か北方の地にいるんだよね?」

 

 設営を終えて、駆は美香子やレオンと一緒に夕食のバーベキューを食べながら話をしていた。サンチャゴはキャラバン隊の他のメンバーに向けてバーベキューを振舞っている。

 

「えぇ、そうよ。《ゲルマニア》……今では《暗黒帝国》と呼ばれる地の奥深くに居城を構えていると言うわ」

 

 魔動機で手に入れた知識について、確認の意味も込めて尋ねる駆。

 美香子が答えた。

 

「わたしたちが今いる王領地:ルグドゥネンシスに接する《ベルギガ辺境伯》の領土は、大魔王と戦う最前線。わたしもパパも、幾度(いくど)となく魔王軍と(ほこ)を交えて来たけれど、手強い強敵よ」

 

 美香子は真剣な声色で続ける。

 

「神々はわたしたちに試練を与えているの。大魔王軍と戦うことは、私たちの信仰の証よ」

 

「……でも、どうやってその大魔王の城まで行くの? 今、僕たち人間は魔王軍に押されて、防戦一方って聞くけど……」

 

 駆は困惑した。

 大魔王を倒さねば、現実世界にいつまで経っても帰れない。

 

「そうね……」

 

 美香子は考え込んだ。

 

「わたしは……導きに従うわ……神々がわたし達に示す道、大魔王の侵攻に抗うことが、わたし達の使命……きっとその先に大魔王打倒が、世界平和があると、そう信じているわ」

 

 少し迷った節もあったが、美香子は静かにそう言った。

 

「そうだね……」

 

 駆は少し残念そう。

 彼には自分の母親がいささか神への信仰に固執しているように思えた。現実世界の美香子はそこまで身心深い性格ではなかったが、この異世界では、彼女は往々にして聖職者然としている。

 現実世界の記憶を思い出して欲しかったが、それこそまさしく神頼みか。

 このままでは仮に現実世界に戻っても、駆は中年か、下手をすれば老人になっているかもしれない。

 

「おらは、自然の声に耳を傾けるべきだと思うずら」

 

 レオンが言った。

 

「自然の声?」

 

 駆は不思議そうに復唱する。

 

「そうずら。自然と共に生きることが大切ずら。自然はおらたちに教えてくれる。風や水や土や火や動物や植物……それに魔物。本当は、その全てがおらたちと話したがっているずら」

 

 レオンが熱く語った。

 

「真正面から行く必要はないずら。自然は偉大ずら。きっと魔王軍の防御が薄いところもあるずら。そこを見つけ出して、ひっそり進んで大魔王の元まで辿り着けばいいずら……それに……きっとエルミン様の仲間のオークさん達のように大魔王が好きじゃない魔物がいると思うずら。彼らの協力を借りるずら!」

 

 駆は感心した。

 

「それはいい考えだね。レオンは目の付け所がいい。シャープだよ!」

 

 心が少し明るくなる。

 夜闇(よやみ)と同じく不安が増していた駆の心に、レオンの言葉が星空の優しい光となって降り注ぐ。

 しばらくして、サンチャゴが三人に合流し、他のウォーリアーズメンバーも合流し、話に花を咲かせる。

 

「……さて、いつまでもこうしていたいけど、そろそろ寝ましょう。明日も早いわ」

 

 やがて美香子がそう切り出して、受けて皆寝床へと向かった。キャラバン隊の人々も同じ頃に眠りについていく。

 夜空には満天の星々が輝き、月が優しく大地を照らす。丘の上は穏やかで平和だった。

 

「なんだ!?」

 

 しかし、それは長くは続かなかった。

 深夜、駆は突然の叫び声に目を覚ました。飛び起きてテントの入り口を開け、外を見る。

 

「敵襲ぅぅぅ! 盗賊の夜襲だぁーーーッ!!」

 

 炎上する荷馬車にテント。降り注ぐ炎の矢。

 野営地は、燃えていた。




・あとがき

 お楽しみいただけていたら幸いです。

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 それでは、またお会いしましょう。
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