【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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本日(投稿日)は一月二日です。
明けましておめでとうございます!


《第二〇話:尋問》

 ミルトンの冒険者ギルドの地下牢へと続く石段。ギルド長のガレスの後を追う、信彦とヴァレンタイン。石畳の階段を下りる足音は、牢獄へと続く暗く湿った石壁に反響する。

 

「この先が件の盗賊頭目の独房です」

 

 ガレスが牢獄の入り口を指さし、静かに告げた。頑丈(がんじょう)な鉄扉だ。古びた歴史を感じさせる重厚な雰囲気を漂わせている。まるで何世紀もの間、無数の秘密を閉じ込めてきたかのよう。

 

「痛み入る、ガレス殿」

 

 信彦が礼を言い、ヴァレンタインも礼。そして懐より何かを取り出した。

 淡く水色に発光するそれ。

 

「魔動機ですか?」

 

「えぇ。転移の《小》水晶です」

 

 ヴァレンタインは《転移の小水晶(モビル・ポーター)》を取り出していた。

 魔動機とは、マナ、すなわち魔法の力で動く機械全般を指す。

 駆の持つスマホモドキも、この転移の小水晶も、そして転移の大水晶(グラン・ポーター)も、いずれも魔動機だ。

 

「尋問のため、仲間を呼びます」

 

 ヴァレンタインが水晶に力を込めると、宙に半透明の発光する操作盤(そうさばん)が現れる。

 

「……俺には難しくて訳が分からん。ガレス殿は魔動機には?」

 

 信彦の目に映る、複雑な光のパターン。まるで星座のように美しく、謎多き構造を成している。

 

(わし)もです」

 

 苦笑いを浮かべる、ガレス。

 魔動機は押並(おしな)べて高価であり、その使用には専門知識を必要とする。

 実際のところ、ヴァレンタインは他人に使用されないために設定した《複雑なパスワード入力》をしていただけであったが、見つめる二人の中年にはさっぱりの光景であった。全貌(ぜんぼう)を理解することはおろか、その端さえも掴むことができない。

 彼らにとって、ヴァレンタインの魔動機操作術は、さながら遠い昔話の中の魔法使いが振るう奇跡のよう。

 ……さすがにそれは、大袈裟(おおげさ)か?

 

「操作が終わりました。転移の魔法を発動します」

 

 小水晶の秘められた力を解き放つ。周囲は突如として眩い光に包まれた。

 空間が歪む。

 

「お呼びでしょうか?」

 

 そして気づけば、三人の前には《半人半蛇の魔物:ラミア》の姿があった。

 

「?!」

 

 信彦は、ラミアの存在に一瞬たじろぐ。も、すぐに落ち着きを取り戻した。

 

「彼女はセレスティア。私の信頼する仲間です」

 

「皆様、どうぞよろしくお願いいたします」

 

 セレスティアの上半身は、人間の女性のそれと変わらない。だが、下半身は(へび)のそれ。青色の(うろこ)で覆われている。

 

「よろしくお願いする」

 

「儂はミルトン冒険者ギルド長:ガレス。お初にお目にかかる」

 

 年の功か? 信彦よりも一回り上のガレスは(おく)することなく自己紹介を交わす。遅れて「俺は信彦だ。傭兵団の団長を務めている」と慌てて付け加えた。

 

「セレスティア殿、あなたは人魚(マーメイド)ですかな?」

 

 セレスティアの顔立ちは薄明りの中でさえ、人間と魔物の境界を曖昧(あいまい)にするほどの美しさを有している。

 完璧なまでに整っている。

 

「いえ、わたくしは蛇女(ラミア)です」

 

 彼女の長く流れる髪はエメラルド色で、水晶の光を受けて、宝石のような輝きを放っている。その瞳は、暗闇(くらやみ)でも光を集める(ねこ)の目のように、神秘的な輝きを秘めている。

 

「彼女の力で、頭目の口を割らせます。魅了(チャーム)の力で」

 

 そして薄い桃色の(くちびる)

 ラミアの話す言葉には、魔法のような魅力が備わっている。耳を傾ける者は、時の流れさえ忘れてしまう。

 

「なるほど……ラミア。話には聞いています」

 

 在りし日。黄昏(たそがれ)に照らされた野営地で、誰ともなく語る。

 信彦は出くわしたことはなかったが、冒険者、特に《男性の、パートナーのいない冒険者達》は警戒すべき、とされている魔物だ。

 

「冒険者を攫って、その者を魔物:蛇男(スネークマン)に変えてしまう……そう聞いています。その力を使うと?」

 

 歌声を使って獲物(えもの)を呼び出し、誘き出された男性に魅了の魔法をかけ、その者を自分と同じ半人半蛇の魔物とする怪物。

 それが信彦の知る魔物:ラミアである。

 

「いえ、そのようなことは致しません。わたくしは、盗賊の頭目にチャームの魔法をかけ、彼がひた隠しにしている秘密を自白させるために召喚(しょうかん)されたのです」

 

「彼女には事前に今回の目的については話しています。必要以上のことをさせるつもりはありませんので、ご安心を」

 

 セレスティアは理性的であり、またヴァレンタインも確固たる口調で言い切る。

 実際、今目の前にいる彼女は信彦が耳にしてきた妖怪奇譚(ようかいきたん)とは異なる、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

 

「……すみません。疑うような言葉をかけてしまい」

 

 信彦は途端に自分が恥ずかしくなってきた。

 

「冒険者という職業(がら)、つい魔物には警戒感を抱いてしまうのです。セレスティア殿、ヴァレンタイン殿、どうかお許しを」

 

 頭を下げる信彦。

 

「大丈夫ですわ、慣れていますので」

 

「ええ、彼女の言う通りです信彦殿。どうか顔をお上げください。元はと言えば、《この国の制度》に問題があるのですから」

 

 ホノリア王国。

 ミルトンやウィンターウッド、グリーンヒルズ村のあるベルギガ辺境伯領も含めて、この地を統治する政府である。

 

「私のような王侯貴族でなくとも、《聖魔の騎士(モンスターマスター)》になることが出来れば、国民の意識も変わっていくと思うのですが……」

 

 魔物と共に戦いに臨む者のことを、モンスターマスターと呼ぶ。

 しかし(いにしえ)より続く慣習により、ホノリア王国では《庶民(しょみん)は魔物を仲間にすることを禁じられている》のである。

 

「(もちろん例外はある。レオンのミケのように)」

 

 ミケは猫の魔物:ケットシー。厳密に解釈すれば、ミケを()っているレオンは王国の法に反することになる。

 ただ、あくまでレオンは猟師の息子であり、ミケは《戦いではなく、狩りのお供》。それがこれまでの建前であった。

 

「……俺は古い人間です。あくまで魔物を討伐対象としか見れない。ですが、若い者たちの中には異なった考えを持つものもいます」

 

 とはいえ今やレオンは傭兵団:ウォーリアーズの一員であり、冒険者である。

 今のところお目こぼしに預かっているが、いずれ何か問題が起きるとも限らない。

 

「そしてヴァレンタイン殿、貴方のような考えを持った貴族もいらっしゃる。いずれ、王国が変わることもあるかもしれませんね」

 

 希望の気持ちも込めて、信彦はそんな言葉を投げかけた。「ええ、いつの日か」ヴァレンタインが返す。

 

「コホンッ……さて、そろそろ本題に戻りましょう。扉を開けてもよろしいかな?」

 

 脱線した話を引き戻すガレス。面々に問いかける。

 頷く一同。ガレスの手が鉄扉に触れ、力が込められる。重音と共に、扉はゆっくりと開かれた。

 そこには冷たく、更に薄暗い独房エリア。信彦たちはガレスに導かれ、その陰鬱(いんうつ)な内へと歩を進める。

 

「……とうとう来たね」

 

 独房の一つまでやって来ると、中にいた囚人がおもむろに呟いた。

 

「この男が、例の盗賊の頭目です」

 

 金髪五分刈り。顔は日焼けし、目つき悪く、人相いかにもチンピラのそれ。年齢はおよそ還暦。筋肉質な男であった。

 男の視線は、獲物を狙う(けもの)のように鋭い。

 

「では皆さん、こちらを耳に」

 

 美香子達が捕縛(ほばく)した山賊のボスだ。

 ヴァレンタインは、手に持った耳栓(みみせん)を信彦とガレスに手渡す。

 全員が耳にそれを装着すると、一同の後ろから付いて来たラミアのセレスティアが静かに歩み寄り、盗賊ボスの独房の前に姿を現した。

 

「へぇ~マーメイドかいな。別嬪(べっぴん)なねーちゃんやな。なあ? 俺の女にならへんか?」

 

 ヘラヘラ笑いながら軽口を叩く頭目。鉄格子(てつごうし)までやってくると下卑た笑みを浮かべて、()め回すような視線をセレスティアに向ける。

 彼女はニッコリと微笑むと、ゆったりとした動作で胸に手を当て、歌い始めた。

 

「♪~♪~♪~~」

 

「へぇ~、歌い手さんかいな。上手いな~。ますます欲しなるわ~」

 

 思わず感嘆(かんたん)の声を上げる頭目。彼女の歌は、盗賊の頭目をも(とりこ)にした。

 次第に彼の目が(うつ)ろになっていく。意思を失い、ただ彼女の歌に耳を傾けることしか出来なくなった。

 頭目の粗野な眼差しは、更に虚ろに。

 そして気づけば、その目から生気がすっかり失われていた。

 

「終わりました」

 

 セレスティアは頭目のその様子を確認すると、歌唱を止めて、ヴァレンタイン達に振り返った。

 ヴァレンタインは頷くと、耳栓を外し、信彦とガレスにもジェスチャーで外すよう伝える。外す二人。

 

「彼はチャームの魔法にかかり、魅了状態にあります。いまなら如何(いか)なる隠し事でも自白させることが出来るでしょう」

 

「ありがとう、セレスティア。それでは彼に問いかけてください」

 

 ヴァレンタインはセレスティアに感謝の意を示すと、続ける。

 

「《貴方の背後にいる有力者(  黒幕)》は《何者()》なのか?、と」

 

「承知いたしました」

 

 セレスティアは静かに応じ、頭目に問う。

 

「頭目、(しゃべ)ります」

 

 盗賊のボスは虚ろな目で、抑揚(よくよう)のない声で言うと、質問にとうとうと答え始めたのであった。




・あとがき

 お楽しみいただけていたら幸いです。

 高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
 それでは、またお会いしましょう。
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