【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第二四話:奮戦》

「ミケ!!」

 

 巨大化していたミケがリザードマン弓兵の狙い澄ました一射の餌食(えじき)となった。

 壁に()るされた、古の戦いを描いたタペストリーが燃えている。

 ミケの変身が解け、元の猫のサイズにまで戻ってしまう。焦燥にかられ、慌てて駆け寄るレオン。リザードマンは容赦(ようしゃ)なく、今度はレオンを標的にし、()った。

 

「ウインド!」

 

 矢は駆の魔法により辛くも軌道を()らされ、城の壁に突き刺さる。

 天井から垂れ下がるシャンデリアは突風の煽りを受けて、危うく落下しそうになるが、何とか()みとどまった。

 

「駆さん、ミケが……!」

 

 ミケは血を流し、苦痛に満ちた鳴き声を上げている。レオンの声は震え、その目には涙が浮かんでいる。

 駆け戻って来たレオンと抱かれたミケを見て、駆は心を決めた。

 

「ママに治療を頼もう」

 

 戦場は熾烈を極めている。

 信彦とジェイクは変わらずリザードマンと衛兵多数を相手取って大立ち回りを続けているも、疲労の色は隠せない。

 ルドマンは最前線からウォーリアーズの前衛部隊結集ラインまで後退し、他の団員たちと共にリザードマンと数多の衛兵相手に必死の攻防を繰り広げている。

 ヒーラーの美姫は、崩壊寸前の戦線を何とか維持するための回復魔法と補助魔法で精一杯。とてもミケの治療を頼める状況ではない。

 

「ママ、ミケの治療を――」

 

 もはやアルフレッド一人のために貴重な回復リソースを割いている場合ではない。そう思った駆は最後衛の美香子に駆け寄りながら、彼女にその旨を伝えようとした。

 

「……うっ……! 駆君か……」

 

 そして駆が美香子の傍までやって来た時、アルフレッドが息を吹き返した。意識を取り戻した。

 

「あ、アルフレッド様?!」

 

 駆は、自分が一瞬でもアルフレッドを見捨てようとしたことに深い恥じらいを感じる。彼は母の命の恩人。その恩をあろうことか(あだ)で返し、もう助からないと決め打ち、見捨てようとしてしまった。

 

「……どうか聞いて欲しい……君ならこれを使えるはずだ……」

 

 そんな駆を尻目に、アルフレッドが自らの懐に手を入れて、何かを取り出す。弱々しくも力強き声と共に。

 

転移の小水晶(モビル・ポーター)、ですか」

 

 伯爵軍が切り札を温存していたように、ウォーリアーズも切り札は用意していた。

 アルフレッドの魔物達。

 ネヴァースプリングの都から少し離れた場所で、待機しているという。見計らった頃合いでポーターでアルフレッドが呼び出す算段であった。

 

「王子……僕が魔物を指揮するなんて不可能です。王子もそれはご承知のはず」

 

「違う……そうじゃない、駆君。これを魔法で――」

 

 しかしそこまで言って、アルフレッドは再び意識を失ってしまう。言葉は空中へと、(かすみ)のように消えていく。

 聖魔の騎士(モンスターマスター)と魔物は特別な絆で結ばれている。そう、レオンとミケのように。

 もし駆とミケのようにそれなりに共に時を過ごしてきた仲であれば、

 

「(仮にレオンがいなくても、戦場で背中を預け合うことも出来るかもしれない)」

 

 駆は思う。もちろん楽観的な、彼の片思いに過ぎないかもしれないが……

 だがアルフレッドの魔物達、二匹の彼の精鋭たちと駆との絆はほぼゼロであった。というのも、ネヴァースプリングまでの道中、ウォーリアーズとアルフレッドの魔物たちは物理的に距離を取っていたから。

 数時間ほど遅れて、彼らはウォーリアーズの後を追う形で旅に同行していたから。伯爵の監視の目があるかもしれなかった。あくまで一行は王の勅使であって、戦争に行くわけではない。それが建前であった。

 モビル・ポーターで呼び出したとしても、信頼関係を築けていない駆の指示を聞いてくれるとは思えない。むしろ彼らのマスターであるアルフレッドが瀕死の重傷にあることで、かえって混乱し、最悪ウォーリアーズに襲い掛かってきたり、そうでなくとも縦横無尽に暴れまわり、城を破壊し、伯爵軍・ウォーリアーズもろとも生き埋めになってしまうかもしれない。

 リスクが高すぎて、とても召喚など出来るはずもない。

 

「アルフレッド様の容体は安定したわ。まだ予断は禁物だけど」

 

 思案する駆の横で、美香子は冷静な調子でそう話す。

 

「キュア!」

 

 そして駆と共に自身の側に来ていたレオンのその腕に抱かれたミケに回復の魔法をかけた。傷が癒されていく。出血が治まる。

 

「有難うございますずら! よかったずら、よかったずら」

 

 涙を流すレオン。

 ミケは傷は癒えたものの、おびえた様子。その小さな体は、震えている

 もう戦闘に参加することは難しいかもしれない。元々ミケは狩りのお供であって、戦士ではない。

 

「(むしろ、今までよく奮闘してくれた……魔物は僕たちが思うより繊細な生き物なんだ……やっぱり、召喚なんて……)」

 

 『違う……そうじゃない』。頭の中で唐突に先程のアルフレッドの言葉が反復した。

 

「わたしも戦闘に復帰するわ。駆、レオン、貴方たちはみんなの援護を! ミケはアルフレッド様をここで見守ってあげて」

 

「はいずら! ミケ、後はおら達に任せるずら!」

 

「……一体、どうすればいいの?」

 

 転移の小水晶は魔動機。すなわち、魔法の仕組みを利用した機械。

 ウォーリアーズの中で、魔動機を使える人間は限られていて、もっともうまく使えるのは、

 

「僕。だけど、呼び出したところで……」

 

 ということは分かっている。しかし……。思考は堂々巡り。

 アルフレッドは『賭けに出ろ』と伝えたかったのだろうか?

 

「我が身に守りの力を――岩の(ごと)く、鉄の如く、鋼の如く! プロテクト!」

 

 美香子が戦線に復帰したことで、戦況は改善される。多少は。

 

「怯むな! 押せ!! 我ら春遠軍の勝利に疑いないぞ!!」

 

 だが勢いは完全に伯爵軍の側にあった。

 序盤。不意を打たれ、信彦とジェイクというウォーリアーズ二強に圧倒され、戦う気力そのものを挫かれていた。

 

「幻影乱舞ッ!! (あなど)るなよ伯爵軍! ウォーリアーズの(やいば)はまだ鈍ってはいないぞ!」

 

 だがアルフレッドが打ち取られ、リザードマンが信彦とジェイクを完全に抑え込んで、壊滅的だった《伯爵軍の士気》が大幅に改善されたのだ。

 

「伯爵様のために! くらえッ、五月雨(さみだれ)突き!!」

 

 士気だけで、蛮勇(ばんゆう)だけで勝てる程戦争は甘いものではないかもしれない。

 だが、城に詰める衛兵たちは伯爵軍の中でもエリートの(つぶ)ぞろい達である。

 信彦とジェイクには及ばなくとも、彼らもまた一角の戦士たること疑いない。

 浮足立っていた戦列は立て直され、的確な連携でもってウォーリアーズと交戦すれば、数の優位。決して遅れを取る所以(ゆえん)はない。武具も、戦闘技術も、戦術も、彼らは必要十分なものを(あわ)せ持っているのだから。

 

「傭兵ども、覚悟はいいか! 我ら伯爵軍は決して貴様らなぞに屈しはしないぞ!」

 

 『これを魔法で』。幾度となく駆の頭の中でアルフレッドの言葉が反復する。

 魔法を唱えつつ、彼の言葉の意味を考える。

 

「皆、今が踏ん張りどころだ! 必ず勝機は訪れる! 耐え抜くんだ!!」

 

 伯爵の間へと繋がる四つの細い通路。今そこはウォーリアーズの団員がそれぞれ一人づつ配置され封鎖されている。いずれも信彦やジェイクには劣るものの、ルドマンと並び立つウォーリアーズの強力な冒険者達である。

 

「(もしアルフレッド様がやられた時と同じように、何処(どこ)かに伏兵が潜んでいたら……いや、それならとっくに参戦しているよね。伯爵軍にだってそんな余裕はないはずだし)」

 

 魔法使いは自身を透明化させる《クリアの魔法》を使っていたが、あれはとても難易度が高い。駆は思考する。

 そう長時間透明化を維持出来るとも思えない。その線は考えなくてもよいだろう、と。

 

「透明化……」

 

 そこに何かの引っ掛かりを覚える駆。何故だろうか?

 状況の打開を求めて、駆はアルフレッドより託された二つの転移の小水晶の、その内の一つをポケットから取り出した。

 

「いざとなれば、使わないといけないかもしれないし、使い方だけは確認しておかないと」

 

 戦闘は熾烈を極めており、予断は一切許されない状況だ。しかし打開策なくこのままジリ貧になるのも避けなくてはならない。

 駆は魔導書を片手持ち。もう一方の片手でポーターを操作する。

 

「(何度経験しても不思議な感覚……一体どういうことなんだろう?)」

 

 エルパッドを操作している時、あるいは魔法を使っている時、もっといえばサンチャゴやジェイクに初めて会ったときもそうだった。

 

「(初めてのはずなのに……《知っている》というこの感覚。そして、実際こうやって魔動機を動かしたり、団員の皆とも違和感なく会話できたりする。文字だって読めてしまう……一体、僕はどうなってしまったんだ……)」

 

 信彦や美香子。父や母との会話では何故かそうはならないが、現実世界で面識のなかった人物と話したりすると、自然と頭にその人物との思い出が、《駆が経験したはずのない想い出》が(よみがえ)ってくる。さながらそれが、心の奥深くに眠っていたかのように。

 今も触ったこともないはずのモビル・ポーター、未知の、魔動機という謎の装置を苦もなく操れてしまっている。

 

「駆さん! 危ない!!」

 

 前衛中衛を潜り抜けた高速の一射が、戦場を切り裂き駆に迫る。

 しかし彼のもとへ直進する鋭き一閃は、彼の面前数十センチに達すると、途端に軌道を逸らされ、斜め後方の壁へと突き刺さる。レオンがミケを救出しに行った際に襲われた矢と同じ結末を辿る。

 風の魔法。

 

『違う……そうじゃない、駆君。これを魔法で――』

 

 風の精霊と契約し、その加護をまとう駆にただの矢など――たとえそれがリザードマン弓兵の放った強力な一射であっても――意味をなさない。

 

「(そうか……もしかしたらアルフレッド様は……)」

 

 思索と模索の果てに、駆は一つの解に辿り着く。

 

「(間違っているかもしれない……だけど――)」

 

 抗いたい。

 

「駆さん、流石(さすが)ずら!」

 

 リザードマン弓兵の驚愕(きょうがく)する顔。

 そして、驚嘆(きょうたん)するレオンの声が聞こえた。




・あとがき

 お楽しみいただけていたら幸いです。

 高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
 それでは、またお会いしましょう。
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