【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第三章 プロローグ:表裏》

 王都ルテティアは、その日も変わらぬ喧騒(けんそう)に包まれていた。富豪(ふごう)たちの豪華な馬車が石畳(いしだたみ)優雅(ゆうが)に走り、市民の笑い声が()んだ青空に響き渡る。

 街角には色とりどりの花が咲き乱れ、風に乗って甘い香りが漂う。陽光が石畳に反射し、宝石のように輝いている。

 

(にぎ)やかだな……いつもの平和な王都、そのものだ」

 

 しかし活況(かっきょう)の影に隠れて、王都の一角が静かなる危機に(ひん)していた。

 

「信彦。我が友よ、頼んだぞ」

 

 王党派貴族の邸宅(ていたく)が、愛欲のモンスター:サキュバスによって占拠(せんきょ)されてしまったのだ。

 この事実が敵対者に知られれば、王家の威信(いしん)に傷がつくのはもちろん、王都全体が混乱に(おちい)ることだろう。

 エドアルト国王は秘密裏に、プラチナランク傭兵団:ウォーリアーズにサキュバス討伐の命を下した。

 

「お任せください、陛下(へいか)。必ずや王都の平安を守り抜いてみせましょう」

 

 彼らが貴族邸宅に到着したとき、空はすでに紫がかった夕暮れに変わりつつあった。邸宅の影が長く伸びている。街の喧騒は遠く、周囲は静寂(せいじゃく)に包まれていた。

 ウォーリアーズの面々は各々の武具を身にまとい、邸宅の門をくぐると、庭を用心深く進んで行く。

 

「ようこそ、わっちの館へ」

 

 屋敷入口を飾る豪華な玄関(とびら)前まで来ると、突如(とつじょ)扉が開き、魅惑(みわく)的で煽情(せんじょう)的な女性が現れた。

 サキュバスだ。

 彼女の紅の瞳が、(あや)しく(きら)めく。

 

「見くびられたものね」

 

 魅了の術。

 しかし、美香子が仲間にかけていた加護の魔法が、その術を無力化した。サキュバスは驚きを隠せないようだった。その(すき)を突き、信彦を筆頭とするウォーリーアズ戦士団はサキュバス目掛(めが)けて、屋敷内部へと突進し、一気になだれ込んだ。

 だがさるもの。サキュバスは自らの失敗を瞬時(しゅんじ)(さと)ると、次の手を打った。

 

「な、何が起きているずら?!」

 

 空間が(ゆが)んでいく。

 屋敷の内部はゆっくりとその形を変え、暗く、迷宮のようなダンジョンへと変貌(へんぼう)していった。

 壁は動き、床は()け、天井は高くなり、窓が形を変えていく。彼らの周りは、薄暗い光と影が交錯(こうさく)する不気味な空間に包まれていた。破れたボロボロのタペストリー、ひび割れた床石、割れたステンドグラス。

 

「逃げるな、卑怯者(ひきょう)!」

 

 信彦が挑発(ちょうはつ)の言葉を(さけ)ぶ。

 だがサキュバスは嘲笑(あざわら)うように彼を見下すと、背中のコウモリを思わせる羽で飛翔(ひしょう)し、一瞬のうちにダンジョンの影へと消え去った。

 

「追うぞ! 彼女を逃がすな!」

 

 変貌した屋敷にしばし呆然(ぼうぜん)とする団員達。だが、いつまでもそうしている訳にもいかない。

 サキュバスの後を追うべく、面々はダンジョンの深淵(しんえん)へと足を()み入れていく。薄暗い通路。足音が響くたびに不気味な反響が返ってくる。

 

「気をつけて。サキュバスは魅了の力で私たちを(まど)わそうとするでしょう」

 

 サンチャゴが静かに警告した。彼の声は屋敷の静寂を穏やかに、だが切り裂く。

 ジェイクは拳を握りしめ、

 

「心配無用するこたぁねぇ。あの程度の女、そこらの娼館に五万といるぜ。駆、後でイクか? 色んな意味でよ」

 

 と(うそぶ)いた。

 駆は魔導書を開き、臨戦態勢だ。レオンも弓を構え、ミケは鋭い(つめ)()ぎ澄ませた。

 

「やだ、遠慮しとく」

 

 だが一方で、美香子はアルフレッド=ヴァレンタインとの甘美な記憶に心を奪われ、足取りが重くなるのを感じた。

 サキュバスの魔力が空気を歪めているのだろう。彼女を試すかのように、心に(ささや)き声が聞こえてくる。

 壁に()かるのは周囲とは不釣(ふつ)り合いな絵画の数々。構図が(なま)めかしい。描かれるは(そろ)って美女。

 

「気を抜くな、二人とも。サキュバスは狡猾(こうかつ)だ。いつどんな攻撃を仕掛けてくるか分から――」

 

 その時、一人の武装した男が(やみ)から現れ、突如美香子に襲いかかった。サキュバスの下僕戦士だ。

 彼女の心は、ヴァレンタインへの禁断の想いに捉われ、戦いへの集中力を欠いていた。

 

「――美香子さん!!」

 

 最初に動いたのはレオンだった。直ちに弓を引き(しぼ)り、矢を放つ。

 下僕戦士の(うで)に矢は命中し、勢いを殺されたその手から武器の斧がすっぽ抜け、あらぬ方向へと飛び去って行った。下僕戦士の動きを封じた。

 一拍遅れて、駆け付けた信彦は、妻を守るために盾を前に突き出した。下僕戦士が体勢を崩す。地に(しり)を突かせる。

 駆はローブを翻し、呪文を唱え火球を放った。下僕戦士は火に包まれ、息絶えた。

 

「ありがとう、皆」

 

 下僕戦士との戦いを終えても、ヴァレンタインの顔が思い浮かんでは消えていく、という状態から美香子は脱することが出来なかった。

 さながら心が(くさり)(しば)られているかのようだ。

 

「大丈夫、ママ?」

 

 だが美香子は歴戦の冒険者だ。

 彼女は押し寄せる複雑な感情に苦しみながらも『わたしの神聖な力がウォーリアーズを支えている』と自身に言い聞かせ、戦いに身を投じていく。

 杖の先端に輝く紫の宝石が輝きを増し、美香子は強力な(いや)しの魔法を味方にかけた。彼女の魔法は、ウォーリアーズの魅了の術に対する抵抗力を上昇させ、同時に士気も高めた。

 

「(守るわ!)」

 

 夜が深まり、王都を闇が包み込んでいく。ウォーリアーズは屋敷の中を進んでいく。

 サキュバスの討伐は、勇気と(きずな)を試す試練であった。

 美香子は信彦の、駆の、仲間たちの(となり)で戦いながら、ヴァレンタインへの想いを断ち切ることができるのか、自問自答していた。

 だが同時に彼女は理解していた。この戦いに勝利にするには、妻として、母として、強くあらねばならないと。

 

「(家族のために! ウォーリアーズのために!)」

 

 心を新たにした美香子は迷いを捨て、モンスターの魔の手から王都を守るため、仲間達と共に先程より足取り確かに進んで行くのであった。




・あとがき

 作者の北条 ゆうです。
 本日2025年7月13日より、連載を再開させて頂くことになりました。

 毎週日曜、昼12時40分ぐらいに最新話を投稿する予定です!
 よろしくお願いします。

 高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
 それでは、またお会いしましょう。
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