【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~ 作:北条 ゆう(いすわーる)
アルフレッド=ヴァレンタインによる庭園での斬り付け事件から一時間ほどが経過した。
ヴァレンタインの
「父上、私が何故駆に斬りかかろうとしたかについて、ご説明させていただきます」
エドアルト王は、重厚な木製のデスクの後ろに座り、鋭い眼差しでヴァレンタイン王太子を見つめている。
「――そして母上は、あろうことか駆と口づけを交わそうとしておりました……気づけば、剣を抜いておりました」
緊張した面持ちでヴァレンタインは続ける。
「深酒による二日酔いで、自制心に欠けていた私の不徳の致すところです」
そして少し挑戦的な口調で。
「思えば宮廷の伝統、トゥルバドゥールの精神に
ヴァレンタインはわざとらしく頭を垂れる。
「この未熟な息子をどうかお許しください。父上のように何事にも、今まで長年に渡り自分を一途に愛してくれた女性に裏切られてさえなお、決して動じない強い心を持てぬこの愚息を」
エドアルトは、ヴァレンタインの言葉を聞き終えると、
「……お前は《とんでもない勘違い》をしているぞ、ヴァレンタイン」
一際深いため息をついた後、そう首を振りながら残念そうにごちた。
そして続けた。
「エレアノールは《駆が
「……は?」
全く話を呑み込めていないヴァレンタイン。エドアルトは、さらに落胆の色を深くする。
「ウォーリアーズは強力な戦力だ。今回の
そして先程のヴァレンタインの挑戦的な口調を真似て、
「そういうことだ」
と纏めた。
『ここまで言えば、いくらなんでも分かるな?』と。
「……私は何も知らずに、ただ自分の感情に流されて……ということか……」
気づけば、二日酔いの体調不良などどこかへと消し飛んでいた。
アルフレッドは青ざめた顔で沈痛の面持ち。
「王太子たるもの、もっと賢明に行動しなければならない」
エドアルト王は静かに頷き、呟くように。
「……」
アルフレッドは頭を垂れる。深く、
部屋の中は静寂に包まれる。
「本当はこんなことを問いたくは無かった……」
緊張感に包まれる室内。長い沈黙の支配の後、エドアルトは神妙な声色で言葉を発した。
「ヴァレンタイン、我が最愛なる息子よ。お前が駆に斬りかかった理由を……本当の理由を話せ」
エドアルト王は念を押すように、一際冷静な声で念押しする。
「偽りではない。お前の本当の気持ちを」
「……」
ヴァレンタインは顔をあげる。エドアルトの顔を見つめる。
厳しさと、だがどうしても隠せない愛情。
犯罪者への
ヴァレンタインは覚悟を決めた。
「父上、私は美香子に別れを告げられ、心が乱れていました……深酒や二日酔いなど、言い訳になりません……駆と母上が親密な様子を見て……」
言葉に詰まるヴァレンタイン。だが、
「自分と美香子の姿を重ね合わせて……嫉妬と怒りの抑えが効かなくなり……過ちをおかしてしまいました……」
何とか言い切ることが出来た。
自分の本当の気持ちを。
「申し訳ありませんでした、父上……!」
再びを頭を垂れ、自責の念に駆られながら、ヴァレンタインは何とか、言葉を紡ぎ出す。
「私は自分の軽率で浅はかな行動を深く反省し……これからはもっと冷静に……! 客観的に物事を見つめることを誓います。この国の未来を担う、王太子としての責務を全うするために……!」
永い静寂の後、
「それで良い」
エドアルトは息子の肩に手を差し伸べた。
「余は……父はお前が成長し、いずれはこの国を背負う良き王となることを期待している……精進せよ!」
顔をあげたヴァレンタインが見たのは、どこか満足げに微笑み、そして涙ぐむ父:エドアルト=ネルウァの姿であった。
王宮にあてがわれた駆の自室。
窓から差し込む柔らかな月光が、部屋の中を淡い銀色に染め上げている。豪華な家具に絨毯。幻想的な光も相まって、この部屋はまるで夢の中のような美しさを纏っていたが、駆の心は重く沈んでいた。
『
エドアルト王の
『アルフレッドには一月の
駆は驚き、困惑した。
エドアルトは詳しいことは話さなかったが、恐らくアルフレッドの見た幻覚は紛れもない現実。
駆とエレアノールがキスをしようとしていた、という。
『謹慎が解ければ
だがエドアルトの誠実な謝罪と、
『駆。そなたへの助力、それにレオン、そしてウォーリアーズへはこれまで以上に
支援の確約に、駆は少しだけ心が軽くなった。
「(エレアノール様との関係がバレなかったのは……不幸中の幸い、なのかな……)」
罪悪感を感じつつも。
『駆、どうかこの件は内密にしておいて欲しい。王家の……いやホノリア王国の名誉に関わることなのだ』
『分かりました』
駆はエドアルトの頼みを了承した。
「これからどうすればいいんだろ……」
駆は自室のベランダに出て、遠く星々を見上げた。
「エレアノール様と恋人になるのは……ううん、もうお茶デートすることも諦めなるしかないのかな……」
美しい夜空に輝く星々は、まるで彼の心の中の迷いなど関係ないかのごとくキラキラと輝いている。
「駆様、お手紙が届いております」
静寂を破るドアのノック音。駆付きのメイドの声が聞こえた。
【親愛なる駆様へ、
この度の件について、心からお
息子があなたに対して行ったことは決して許されるべきものではありません。多大なご迷惑をおかけしてしまったこと、重ねて深くお詫び申し上げます。
わたくしはあなたに対して誠実でありたいと思っています。あなたとの関係を大切にしたいのです。どうか、私の気持ちを受け取ってください。】
手紙はエレアノールからであった。
内容は謝罪に始まり、
【明日の夜、同封の魔動機を使ってください。それがあなたを導くでしょう。わたくし達の間にある絆を、決して断ち切らないために。
わたくしはあなたと手を取り合って、共に未来に向かって歩んでいきたいと願っています。
愛を込めて エレアノール】
そう締められていた。
駆の心の中に一筋の光が灯った。手紙に同封されていた円形の小さな魔動機を手に取り、心の中でエレアノールの言葉を
エレアノールからの手紙が届いた次の日の夜。
駆は静かに自室を出た。手に持った円形の魔動機が淡い光を放ち、宙に行き先を示す矢印が浮かび上がった。彼はその光に従い、王宮の廊下を静かに歩き始めた。
王宮の廊下は静寂に包まれていた。豪華な絨毯が足音を吸収し、壁に掛けられた絵画や装飾品が柔らかな月明かりに照らされていた。
駆は慎重に歩を進め、衛兵に出くわさないように注意を払っていたが、
駆は
彼の心は緊張と期待で高鳴っていた。
やがて駆は王家のプライベートスペースの、その中でも更にプライベートな区画へと辿り着いた。そこには王族の私室がある。
王家以外、決して立ち入ることは許されない聖域である。
駆は思わず深呼吸をし、心を落ち着けるために一瞬目を閉じた。
魔動機が彼を導く。
「(ここが目的地か……)」
目の前にはドアが一つ。矢印はそちらを指し示している。
駆は心の中で呟き、覚悟を決めてノックした。
しばらくして、ドアがゆっくりと開いた。
「信じていました……どうぞ、お入りになって」
現れたのはエレアノール。彼女はいつものように優雅な、しかし普段とは違い張り詰めた緊張がほどけたような、どこか安心したような微笑みを浮かべ、部屋へと駆を迎え入れた。
「駆……っ」
駆が部屋に入り扉を閉め、エレアノールへと向き直ったその瞬間。
強く抱きしめられた。
「わたくしがどれほどあなたを愛しているか、わかってほしいのです。迷惑をかけて、本当に申し訳ありません」
エレアノールの声は震えていた。
「でもどうか、わたくしを嫌いにならないで。お願い……」
駆はその言葉に、胸が締め付けられるような思いを感じた。
彼女の溢れ出す駆への気持ちが心に染み渡り、彼の胸の中でもまた抑えきれない感情が溢れ出す。
もう耐えられなかった。
「エレアノール様……! 僕があなたを嫌いになるなんて、ありえないことです」
駆もまた、涙声で訴えた。
「どれほど愛しているか、わかって欲しい……! もう会えないと思って、どれほど絶望したか」
二人は互いに涙を流しながら、言葉も交わさずに抱きしめ合っていた。
それでも気持ちは痛い程通い合っていたから。
エレアノールは駆の頬に優しくキスをした。
駆は一段と強く、エレアノールを抱きしめた。
「……エレアノール様」
そして彼女の愛を受けて、駆は遂に決意を、覚悟を固めた。
「僕を……僕を《あなたの愛人》にしてください」
人生を最愛の人に捧げる覚悟を。その決意を告げたのである。
エレアノールは駆を抱く腕を緩め、駆もそれに従った。
向き合う二人。
「……」
「……」
エレアノールは駆の唇にキスをした。
告白への返答。愛の証明。
通じ合う二人に、もはや言葉など不要であった。彼らの心は一つになり、未来への希望が胸に広がっていった。
「……」
「……」
青年は抱き合う人妻の温もりを全身で感じながら、《愛人》として彼女を支えていくと誓ったのであった。
・あとがき
という訳で、第三章完結です。
《第一章 プロローグ》がいよいよ回収されました。いかがでしたでしょうか?
さて、ここまで読んでいただき、本当に有難うございます。
高評価、お気に入り、感想など本当に励みになっております!
次回は《第二章 エピローグ》を投稿する予定です。
それでは、またお会いしましょう。